2017-10

いなりずし 1 - 2017.05.15 Mon

皆川やちよ海軍中尉は艦が横須賀に着くととある場所に連絡を入れたーー

 

連絡を入れたのは妹の皆川みちよ海軍上等兵曹が教員を務める海軍通信学校で、みちよは姉からの電話に

「姉さんお久しぶりです。…はい、ねえさん休暇はどのくらいいつから取れますか?…ああそうですかではそのころまた連絡ください。はい。…お母さんのお見舞い行きましょう。ええあと少しで退院できるとは聞いていますよ、だいぶいいようですから。はいではまた」

そう話して電話を切った。

二人の母親は千葉県の病院に入院中であったが病も癒え、近々退院の運びとなっていた。やちよは北方からの任務を終え母の顔を見るべく妹を誘って病院に見舞いに行こうというものであった。

やちよは母の入院する病院の場所を知らなかったためみちよに手紙を出し、みちよは「それならねえさんが帰還したら連絡ください、私と一緒に行けばよいから」と相成ったのである。

やちよ中尉は久しぶりに妹や母に逢える喜びに浸りながら、艦内での任務を一所懸命こなしてその日に備えるーー

 

休暇の前日に、やちよ中尉は妹に連絡を入れた通り省線横須賀駅で待ち合わせした。

「姉さん!」との声のしたほうに向くと妹のみちよ兵曹がこちらに向かって走ってくるところだった。その妹のもとに駆け寄って姉妹は敬礼を交わした。そして互いに

「久しぶりだねえ」「お久しぶりです」

と言い合って肩をたたきあう。二人はやってきた汽車に乗り込むとまずやちよ中尉が

「千葉までか。長いねえ」

とぼやいた。二人の実家は千葉である。実家には今、二人の姉のはたよが婿を取って住まっている。「はたよ姉さんに逢うのは結婚式の時以来だから二年ぶりか。家のあたりは変わっていないだろうかなあ」

二人はそんなたわいもないことを話しながら汽車に揺られていく。

 

汽車は千葉駅に到着し、二人の海軍嬢はホームに降り立つと深呼吸した。懐かしいふるさとの空気が二人の肺を満たし、姉妹は顔を見合わせてほほ笑みあった。そしてやちよ中尉は

「さあ、まずは家に行こうじゃないか。はたよねえさんに逢いたいし。義兄さんは今夜じゃないと会えないかな」

と言って改札にと歩き出す。そのあとをみちよ兵曹が慌てて付いてゆく。

 

実家への道は楽しいもので、二人は思い出を語り合いながら歩いた。懐かしい駄菓子屋の女主人に会ったり、小学校時代の同級生に出くわしたりうれしいハプニングの連続であった。

そんなわけで普通に歩けば駅から家まで450分もあれば十分な道のりを二人は一時間半、いやに時間ほどかけて歩いてきた。

やがて数件の家の立ち並ぶ中に彼女たちの実家が見え、みちよ兵曹はもうたまらずに「ねえさーん、はたよ姉さんー」と声を上げると懐かしい実家目指して走り出し、やちよ中尉は

「なんだそんなにあわてなくったって」

と笑いながらもこれもまた「ねえさーん!」と声を上げると走り出していた。

<皆川>と、亡き父の達筆で書かれた表札のかかった門をくぐると玄関の扉が開いて中から長姉の傍よが笑顔で出てきた。

やちよとみちよはその場に直立不動の姿勢をとると海軍式の敬礼をし

「皆川やちよ海軍中尉、および皆川みちよ海軍上等兵曹ただいま実家に帰還いたしました!三日ほどお世話になります」

というと三人は声を立てて笑った。はたよも海軍式敬礼をまねて

「おかえりなさい。お疲れさまでした、さあ上がってちょうだい」

と言ってうれしくてたまらないように微笑んだ。

靴をきちんと三和土にそろえ、居間に入る海軍嬢の妹二人を感心したように見たはたよは

「あなたたち立派になって。二年前よりずっと立派よ、それにお行儀も尚更良くなりましたね。子供のころよく靴をそろえろ!ってお父さんに怒鳴られてたの、覚えてる?」

と言って笑い、台所へ茶の用意に行く。

みちよ兵曹は

「いやだなあねえさん。もうそんな昔のこと忘れてくださいよ」

と恥ずかしげに言い、やちよ中尉は仏壇に線香をあげる。亡き父の写真の飾られた仏壇に、やちよは手を合わせそれが済むと「みちよも拝みなさい」と促した。

はたよが

「さあ、手は洗って?お茶をどうぞ」

と声をかけ、二人は居間の座卓の前に正座する。はたよが

「楽にしなさいよ、自分の家なんだから」

と気遣い海軍嬢たちはでは失礼して、と胡坐をかいた。

「で、母さんの具合は」

とやちよ中尉は改めて姉に尋ねた。みちよから聞いてはいたが一番母のそばにいる姉から聞きたかった。姉は

「診ていただくのが遅かったけど運がよかったのよ、母さん我慢強すぎるでしょう?お腹が痛いっていうのをずっと隠していたのよ。でもあんまり顔色が悪いから私も診ていただくついでに母さんを病院に連れて行ったの、そしたら盲腸だっていうじゃない。母さんはそんなの病気のうちに入らないとか言ってたけどお医者様に叱られて、すぐ入院して翌日手術。ちょっと年が年だから起きられるまでに四日かかったけどでももう元気元気。入院中はじっとしていてって言ってもちょこちょこ動き回ってるわよ」

というとおかしそうに笑った。

みちよ兵曹は

「ちょっと待って?『私も診ていただくついでに』ってねえさんもどこか悪いの?」

と片手を上げて姉を制するようにして尋ねる。やちよ中尉も

「そうだよ、ねえさんもどこか悪いんじゃないの?だとしたら起きてていいのかしら?我慢しないで寝ていてよ」

と心配そうに姉を見つめる。

するとはたよ姉はウフフっと小さく微笑むと妹二人の顔を順番に見つめると言った、

「私はほんとに病気じゃないのよ。あのね…あなたたち来年の夏までに<おばさん>になるのよ」。

「ひえええ~」

「うわー、ねえさんやったねえ」

やちよとみちよはのけぞって叫びそしてうれしそうに笑った。はたよ姉は妊娠のごく初期、悪阻も軽そうで妹たちは安どして祝福した。

 

はたよの心つくしの昼食を食べた後

「ではねえさん。私たち母さんを見舞ってきます」

とやちよ中尉が言うとはたよ姉は「あ、じゃあこれを持って行ってくれるかしら」と台所に立ち、なにやら風呂敷包みを持って戻ってきた。そして

「母さんの大好物。お稲荷さん。食べたいって聞かないのよ、お願いね。気を付けていってらっしゃい」

とそれを手渡した。

その包みをもって二人の海軍嬢たちは実家の玄関を出て「では行ってまいります」と病院に向かって歩き出したのだった――

  (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・・・

母の見舞い。いくつになっても母親は気になりますね。まして遠く離れて暮らしていれば尚更です。二人の海軍嬢姉妹、ねえさんから母親の好物を手土産を言付かってさあお出かけです!

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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは
>エロい考え
ウフフーッ。わかりますよ~~~~!!オスカーさんも私も考えること同じなようですぞw!
いくつになってもやっぱり母親って大事ですね。そばにいてもいなくても想ってしまいます。
私の母を案じてくださりありがとうございます、腰がだいぶ良くないようです。でも本人は「仕方がないよ」とは言っておりますが心配です。

今日のまあ暑いこと!絶対外に出たくないレベルですね、しかもまだ五月だし…。オスカーさんも御身大切になさってくださいませね^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんにちは
なんとレトルトでお稲荷さんの外側を売っているんですか!ホント確かにお稲荷さんは油揚げの味付けなど手間がかかりますからね(;´Д`)。
でもあの味わい、やはり手作りでほしいですね^^。

おはようございます。
いなり寿司、エロい考えが浮かんだ私をぶって下さい!(笑)
母親の存在って大きいですよね。見張ります員様の母上様のおかげんはいかがでしょうか? 昨日も暑かったですし、皆さま、お身体に気をつけて下さい。

No title

今はレトルトでおいなりさんの外側売ってますけど、当時は油揚げさいて味付けしての手間がかかるし、何より酢飯の具合ってのが難しいですよね。ちょっと前はわが家でもおいなりさん頻繁に出てたんですけどね。

sukunahikona さんへ

sukunahikona さんこんばんは
おかえりなさい、お待ちしておりました!!
こちらこそまたどうぞよろしくお願いいたします^^!

No title

こんばんは
永らくドッグで大修繕工事を行っておりました。
晴れて艦隊復帰いたします。
これからも変わらぬお付き合いよろしくお願いたします

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんにちは
私は姉妹とか兄弟の居ない身なのでとてもうらやましいです^^。
お稲荷さん私も大好き!さすがに作るのはしませんがスーパーのお寿司コーナーにあると手に取ってしまいますねw。

本当に日本人とお稲荷さんの関係って絶妙ですよね。ずっと続いて行ってほしい食文化の一つです!

No title

姉妹のあたたかな再会、ほんわかとしますね。

お稲荷さん。
私も大好き。
ときどき、無性に食べたくなります。
といっても私は、作らないで店で調達です。

日本人とお稲荷さん、これは絶妙な関係ですよね。
今も昔も。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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