益川中佐見合いする 1

まもなく新しい年が来る内地、広島・呉の街をハアハアと息を切らし、しかし嬉しそうに笑い顔で走る男が一人――

 

彼こそだれあろう、『女だらけの帝国海軍』にあって呉海軍工廠に勤務する数少ない男性士官の益川敏也海軍技術中佐である。彼は自宅から工廠までずっと走り続けてきた。工廠の入り口で守衛に身分証を見せるときもその笑い顔が消えることはなく、守衛は

「益川中佐、何かええことでもあったのでありますかのう?」

と尋ねると益川中佐は守衛の肩を思いっきりひっぱたいて

「ええことコトコト金平糖、ですよ!ああ、私に春が一足早く来そうなんですよウフフ~。ま、その日が来たらいの一番に教えてあげますから、待ってて頂戴なっと!」

というと足取りも軽く、研究棟へと走り去っていった。

守衛は叩かれた肩の痛みにもだえつつも「…なんじゃありゃ。中佐いったいどうしんさったんじゃろ」と不審げである。

益川中佐は跳ねるような足取りで工廠のいくつもの建物間を走りぬけ、やっと研究棟にたどり着いた。彼は二階へ駆け上がると朗らかに「おはようございますー」と声を上げて部屋のドアを開けた。

まだ早かったせいか室内には江崎少将と山中大佐しかいなかった。が、益川中佐は満面の笑みでもう一度

「おはようございます!」

と敬礼し、少将と大佐の返礼を受けた。江崎少将が

「どうしたね益川君、ずいぶん嬉しそうじゃないか?何かいいことあったのかね」

と尋ね山中大佐も「本当に。我が世の春、って感じだよ?何があったのかね」

とこもごも尋ねた。益川中佐は二―ッと口を思い切り横に広げて笑うと

「来たんです」

と言った。江崎少将と山中大佐は「来た??」とぽかんとしている。その二人にうなずいて益川中佐は

「縁談ですよ縁談。私にいよいよ縁談が来たんです」

と言い放ち、少将と大佐は「おお!ついに来たか!」と大声を出してしまっていた。益川中佐は嬉しそうにうなずいて

「そうなんですよ。急な話なんですが、私の兄の知り合いの娘さんなんだそうです。まあ、年齢は決して若くはないんですが私もいい歳なんでぜいたくは言えません、いや、言いません。年齢よりもその人がいい人ならそんなの関係ないですよ。で、あさって日曜日見合いなんです。いやあ久しぶりの見合いですねえウハハハハ」

と最後は大きな声を出して笑った。江崎少将は

「そりゃあよかったねえ、上手くいくように祈りますよ」

と言い山中大佐も「その人が益川君の天女であるよう祈ってるよ」と言って、益川中佐は二人に「ありがとうございます!この益川、今度は絶対結婚できるよう全力で見合いに臨みますっ」と宣言したのだった。

それから益川中佐は張り切って仕事をこなし、周囲の男性士官たちも唖然とするほどである。

「益川中佐、どうしたんですかねえ。いつもよりずっと気分が高揚してるみたいですが」

そういってひそひそささやきあうが、江崎少将と山中大佐は(黙っていてあげたほうがいいかもしれないから)と見合いの話を漏らさなかったので誰も真実を知らない。ただ、妙に高揚して気分のよさそうな益川中佐に気味悪がっている。

その日も仕事がひけると益川中佐は、跳ねるような足取りで帰って行った。山中大佐は一時間ほど残業した後、いつものように妻の次子の入院中の海軍病院に見舞いに行き

「実はここだけの話、益川君がー」

と彼の見合いがあさって日曜日に行われることをそっと話した。次子は「まあ、それは良かったこと。きっとその方が中佐の<天女>なんでしょうね、上手くいくといいですねえ」とほほ笑んだ。山中新矢大佐は、次子のベッドの端っこにそっと腰掛けると次子の肩をそっと抱き

「そうだねこんどこそ上手く行ってほしいよ。そして見合いの相手が次子のような天女ならいいね」

というと次子の顔をそっと上向かせてくちづけた。そして彼の手は次子の大きなおなかをそっと撫でまわし

「もうすぐ新年、そしたらいよいよ我が子に会える時が来ますね」

と言った。次子も嬉しそうにほほ笑むと夫の手に自分の手を重ね「はい、私待ちきれませんわ。どっちが生まれるのか…男の子か女の子か?それにどっちによく似ているのか?早く赤ちゃんの顔を見たいですわ」と言った。新矢も「ほんとだね。私も早く赤ちゃんたちに逢いたいよ。でもかといってまだあとひと月はお腹にいないとだめなんでしょう?慌てて出てこないように言っておかないとね」と言って二人は額をくっつけあうと笑った。

 

翌日の土曜日、益川中佐の気分は最高に盛り上がっていた。繁木少佐はその盛り上がりのすさまじさに

「山中大佐、いったい益川中佐はどうなさったんです?何か、変なものでも召し上がったとか?」

とびっくり仰天してすっ飛んできたほどである。

山中大佐は苦笑しながら「実は彼は明日、」見合いなんだよと教えてやると繁木少佐はほっとした表情になり

「そうでしたか、それならよかったほっとしました。そうですかあ、それならあんなにはしゃいでも仕方がないってものですね」

と言ったので山中大佐は思わず大笑いしてしまった。そして「このことはほかの皆には内緒だよ。きちんと決まってから皆には話したほうがいいと思ってね」と言い繁木少佐は深くうなずいた。

 

そして翌日の呉は日本晴れーー。

年末も近い町は、正月準備でにぎわっている。その町の大きな通りを益川中佐はとても緊張しながら見合いの場所に歩いている。見合いの場所は駅の近くの料亭で、益川中佐も何度か工廠の仲間たちと行ったことのある場所である。

慣れ親しんだ店ではあるが今回は目的が全く違うので緊張の度合いも高まるというものである。益川中佐は何度も深呼吸をしながら歩き、写真も見ていない相手を想像し胸躍らせていた。

どんな女性だろうか…山中大佐の奥様のような天女ならいいな。どんな女性でも私についてきてくれる人ならどんな女性でも私は受け入れよう。ああ、早く会いたいな。

益川中佐は、とうとう駆け足になると見合いの場所を目指した。

 

料亭に着くと女将が出てきて顔なじみの益川中佐に挨拶し「こちらですよ、まだお見えではないですからごゆっくりなさいませ」と一室に案内してくれた。

相手の女性は、兄と兄の友人とともに来ると聞かされていたから益川中佐はまず、出された茶を喫し歌詞を一つつまんで食べながら待った。

(兄さん、私のことを良く言っておいてほしいもんだな。写真も無しだから向こうさんも不安かもしれないから、話をして置いてくれると安心だろう)

お互いに写真のやり取りも間に合わぬほど見合いを急いでいたのだ。互いにそれなりの年齢だから仕方がないといえば仕方がないのだが。

 

それからに十分もしたころ、部屋の襖があいて中佐の兄が入ってきた。おお、敏!と声をかけて入ってくると中佐の隣に座り

「もう来るぞ。準備はいいか」

といい中佐がうなずいたとき、閉まった襖の向こうから仲居が「失礼いたします」と声をかけ襖を開けた。思わず姿勢をピンと伸ばした中佐、そこに兄の知り合いの男性がまず「遅くなりました」と小腰をかがめて入ってきた。

そしてそのあと、見合い相手の女性が入ってきた。

その様子を見た益川中佐は、思わず目を瞠っていた――

  (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・

益川中佐、いよいよ<天女>との出会いでしょうか。いきなりな話ではありましたが出会いを求める益川さんにはそんなの関係ない!って感じでしょうか。

そして…益川さん思わず目を瞠るほど素敵な女性だったのでしょうか、次回をお楽しみに!

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河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
女日照りの益川さん、いよいよ見合いです^^。目を瞠ったお相手は…実は…!おっとここまでねw。
彼の理想の高さは「山中次子」さんを目標にしていることでもお分かりですがただものではないですねw。さあこの見合いどうなるか…ドキドキしながらお待ちくださいませね~!

益川さん、かなり浮き足立ってますが、目をみはったお相手とは?まさかオトメちゃんなんてことはないですよね?
しかし、益川さんは理想が高いから、今後の展開やいかに?
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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