2017-10

悲しみを抱きしめて - 2017.04.17 Mon

オトメチャンの号泣が、廊下へと漏れ出したとき高田兵曹はたまらずに部屋の前に立ってしまっていた――

 

「オトメチャン、」と声をかけようとしたとき、向こうから二人の士官がやってきた。高田兵曹は敬礼の姿勢を取り、二人の士官も返礼した。そしてそのうちの一人の士官―どちらも中尉だったがーが、閉まった襖をそっと指さして

「どうしたんです?すごい泣き方だが?」

と高田に訪ねた。高田兵曹は「申し訳ありません騒がしくって」と簡単にいきさつを話した。するともう一人の中尉嬢が

「あなたはどこの艦の人かな?」

と尋ねるので兵曹は「大和です」と答えた。ほう、大和!と言って顔を見合わせた中尉嬢たちだったがふと思い当たったような顔になると高田兵曹の顔を見つめ

「あなたの話からさっするにこの中にいるのは、見張の達人の<桜本兵曹>ではないのかな?彼女には許婚がいると聞いていたけれど?」

と聞いてきた。高田兵曹は驚きの目を瞠って「その通りであります。あの、桜本兵曹をご存じなのですか?」というと中尉嬢の一人、寺尾は

「おお、申し遅れましたが私たち『飛龍』の飛行隊のものでね、桜本兵曹が『飛龍』に手伝いに来てくれた時ちょっと話をした間柄なんだ」

とほほ笑みもう一人の中尉嬢・中井も「そうなの。――で、彼女ずいぶん悲しんでるようだがこのままでいいのかな」と心配げに襖を見つめる。

その間にも襖の向こうからは桜本の泣き声が響いてくる。

高田兵曹は「うちも心配なんです…許婚にこっぴどく振られて、ほいでここでヴァーを落とすなんぞ言うけえうちはどうしたらええかわからんまま連れてきてしまいました…そんとなことしてえかったんか、うちははあ、ようわからんくなってしもうて」と言って悲しげにうつむいた。

そうでしたか、と寺尾が言うと次の瞬間中井中尉は「邪魔しますよ」というなり襖をそっと開いた。中では<潮風>にしがみつくようにして泣き続ける桜本兵曹がいて、寺尾中尉ははっと息をのみ「――やはりあの時の」と小さく叫んだ。

二人の中尉は<潮風>くんにしがみついて泣く桜本兵曹のそばに膝をつくとその肩に手をかけた、桜本兵曹が顔を上げ、その目が大きく見ひらかれ

「か、艦攻のねえさん…?」

と小さく声が上がると、二人はうなずいた。すると桜本兵曹はさらに声を上げて泣き出した。二人はそっとオトメチャンを<潮風>くんから離すと詳しいわけを聞き出した。

 

「そうだったのか、痛ましいことだ」

寺尾中尉がオトメチャンの話を聞き終えるとそういって下を向いた。中井中尉も「こんなひどい話があっていいものだろうか。それにしてもひどすぎるではないか!」と憤る。

高田兵曹は部屋の外に立ってこの様子を見つめている、とそこに「高田兵曹じゃない?どうしたんじゃね」と声がかかり高田兵曹が顔を向けるとそこには『大和』の主計特務大尉の棗佐和子が立っていた。高田兵曹は思いもよらない人物の登場に驚きながら敬礼し

「棗大尉。なんで棗大尉がこげえなところに居りんさるんですか?」と尋ねてしまった棗大尉は「あら~。たまにはアタシだってにぎやかにお酒を飲んだりしたいわよ!でもアタシ、夫のある身ですから男遊びはしませんことよ」

と言ってから泣き声の漏れ出てくる部屋を覗き込むなり

「オトメチャン…!あれはオトメチャンじゃないね、どうしたんじゃね。――まさか高田さん、あんた嫌がるオトメチャンをここに連れてきてヴァーを捨てさせようとしたんと違うかね!」

と兵曹を振り返って厳しい口調で問い詰めた。「そんとなことしてええと思うとるんかね?」

高田兵曹は慌てて片手を顔の前で横に振ると

「違います、違いますそんとな悪いことうちはようしません。ほうでのうて、…そのうちの話をしばらく聞いてつかあさい」

と言ってここに至るまでの話を始めた。棗大尉はその場に立って腕組みをして厳しい顔のまま聞いている。やがて高田兵曹が話し終わると棗大尉は

「ほうね、ようわかった」

と言って腕を解いた。ほっとした高田兵曹、その兵曹に棗大尉は

「あの様子じゃしばらくは泣き止まんで。まあ、あとはあの男性に任せとったらええわ。きっと…ええがいにしてくれるとうちは思うで?じゃけえアンタはあんたで遊んだらええよ」

と言って笑いかけた。高田兵曹は

「いえ、うちは許嫁の居る身ですけえ遊びません。今夜は隣の部屋で一人寝をします」

と至極真面目な顔で言い棗大尉は「ほうかね、ほんなら一人でゆっくり眠りんさい」というとその場を去って行った。

その間にも<艦攻のねえさん>たちがオトメチャンをなだめている。高田兵曹は廊下からその様子をじっと見つめている…

 

どのくらいたったか<潮風>くんは口を開いた。

「あの…。私トメさんの気持ちを大事にしたいと思います。皆様にはいろいろな思いがあるとは思いますがどうかここは私に任せてはくれませんか?決して悪いようには致しませんから今夜は私に任せてくださいませんか?」

誠実そうな<潮風>くんの穏やかな物言いに、<艦攻のねえさん>の中井中尉・寺尾中尉達そして廊下に立って事の推移を見守っていた高田兵曹はふと顔を上げ、彼の顔を見つめた。

<潮風>くんはまだしゃくりあげているオトメチャンの背中を優しくなでると

「お願いします。ここは任せてください」

と言い、<艦攻のねえさん>たちは

「そうか…。わかりましたそれなら今夜、あなたに彼女をおまかせしよう。どうか、彼女の心が安らぐように願いますよ」

と言ってほほ笑むとその場を立ち、廊下に立ったままの高田兵曹の肩をポンと叩くと

「気にはなるだろうが彼に任せようじゃないか。あなたも大変だったね、今日はここに泊まるのかな?――そうか、ならゆっくり休みなさい。私たちも今夜はこの見世で過ごすから。…ではごきげんよう」

というと廊下を去って行った。

高田兵曹はその後姿に敬礼すると、オトメチャンたちの部屋のふすまをそっと閉めた。

 

<潮風>くんは襖が閉まると部屋の押し入れのふすまを開け、中の布団を出し手早くその場に延べた。ひくひくしゃくりあげながらも表情のない瞳でそれを見つめていたオトメチャンに手を差し伸べ<潮風>くんは

「さあ、来てください…」

とささやいた。オトメチャンは彼を見上げ、そしてその右手が彼に伸びた。延ばした右手を<潮風>くんは優しくつかむとオトメチャンをそっと立たせそして、抱きすくめると次の瞬間布団の上にそっと倒していた――

  (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・・・

『飛龍』の<艦攻のねえさん>たちや棗主計大尉まで顔を出しての大騒ぎにはなりましたが、いよいよオトメチャンにその時が来るのでしょうか?次回をドキドキしながらお待ちくださいませ!

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
お返事大変遅くなってごめんなさい!

棗大尉の出現には皆様驚きをもって読んでくださいましたねw。彼女の「男女を見る眼」はきっと確か、オトメチャンを<潮風>くんはきっと悪いようにはしないはず…です^^。
でもオトメチャンが自分からヴァーを捨てる!というなどまさに青天のへきれきですね。まさに人生一寸先は霧の中です。

あっという間に桜が終わってしまいました。今年はなんだかいろんなことがあって桜を愛でる暇もなくて。でもそういう年もあるんだなと思っています、まさにそれこそ人生ですね。きっと…来年の桜は美しい、と思っていますw。
にいさまもどうぞご自愛のほどを。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
お返事大変遅くなってごめんなさい!

棗大尉の驚きはきっと並ではなかったことでしょう、性教育講座も完結しないうちに経験?!と思ったのかそれとも高田にそそのかされたと思ったか。
さてさてこの後件の<潮風>くんはいかなる行動に出るのでしょう。やはり…オトメチャンを『女』にさせるのでしょう…

棗さん、あのままだったら確実に高田さんを絞殺してましたねw。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
お返事大変遅くなってごめんなさい!

オトメチャンの悲しみはまさに春の嵐並み…しかし棗大尉どこにでも出没しますね(;´Д`)。この後オトメチャン、<潮風>くんと経験しちゃうのでしょうか?気になりますねえ(-_-;)。
でも自分を大事にしてほしいというのは老婆心でしょうか。

こないだまで熱いほどだったのに急にストンと涼しくなりましたね、どうぞお体大切にお過ごしくださいませ。

No title

神出鬼没の棗さん。
人生の酸いも甘いも裏も表もよくご存じのようで、彼女の潮風くんを使う采配がオトメチャンの心をほぐしてくれればよいですね。心ある助け舟に救われるように祈っています。
しかしあのオトメチャンが!! 人生って分からないものです。思わぬ人から泣かされることの多くなった……、僕の人生も彼女と同じありますが(笑)

桜も終わり、時ならぬ嵐のような荒天に愕きの数日です。お元気にお過ごしでしょうか。
どうかご自愛ください。

生きた性活事典、棗姐さんの登場には驚きましたが、冷静沈着な彼女ですら高田さんを首謀者として、問い詰めてしまう。
それぐらいオトメちゃんの行動には、意外性があったということ。飛龍で知り合ったお姉さま方からも、期待を寄せられた潮風くん、果たしてどのような魔術を見せるのか?
棗姐さんに誤解されたままだったら、高田さん命なかったねw

おはようございます。
春の嵐ですが、オトメちゃんの心もかなしみの嵐・・・棗さんの登場に焦ってしまいましたが(笑) オトメちゃん、どうなるのか、ドキドキします!
へんなお天気になっています。お身体に気をつけて下さい。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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