2017-09

翻弄される愛 - 2017.03.20 Mon

<小泉商店>トレーラー支社長の小泉進次郎は社員の一人から聞き捨てならないことを聞かされたーー

 

「支社長、」と社員の柴本幸三から声をかけられた小泉支社長はにこやかに振り返って「はい、柴本さん。どうなさいました?」と応えた。その爽やかな微笑みに柴本もほほ笑み返したが、表情を引き締めると

「ちいとええでしょうか。お話したいことがありますけえ」

というとその表情を見た小泉支社長は「ではこちらへ」と宿舎の私室へと彼を招き入れた。進次郎の私室はきれいに片付いていて彼の性格を物語る、その部屋に落ち着くと柴本は声をやや潜めて

「支社長はあの噂をご存知でしたか?」

と言った。あの噂、と小さな声で言った進次郎は柴本の顔を見つめると

「例の、宿舎で聞こえるという<うめき声>の話ですね?もしかしたら南方妖怪ではないかと皆が気味悪がっていたあれですね?」

と言い柴本はうなずいた。そして柴本はごくっと喉を鳴らすと

「支社長、私気が付いてしまったんです。あの<うめき声>は妖怪の仕業ではありません。あれは…あれは、生身の人の声です」

と言い切った。「生身の人の声ですか?」と進次郎の声はかすかに震えた。生身の人間の声なら、もしかしたら妖怪の声より厄介で気味が悪いのではないか。進次郎は緊張を帯びた瞳の色で柴本を見つめる。柴本は年若き支社長をひたと見つめると

「そうです。生身の人間です。実はあの時その話をしたあとすぐに声が聞こえなくなりました、どうもおかしい…と思って丘田に内々に調べさせましたら」

「そしたら?」

「なんと、<小泉()商店()>の紅林と<南洋新興>の合弁推進室長の香椎さんが」

「えっ…」

「男女の仲になっていたらしいんです。彼ら「声」の話をされてびっくりして河岸を替えたらしいんですよ。水島(ここ)の繁華街のはずれの<待合>に入って行ったと<小泉()商店()>の現地人従業員のハミラ君が言っていましたよ。彼はしっかりしてるから間違いないです」

柴本のその話を聞いて進次郎は考え込んでしまった。紅林次郎と言えば、姉の小泉純子と海兵団同期の友人の『大和』に勤務の桜本トメ海軍一等兵曹と許婚の仲ではないのか。しかもその桜本との交際は紅林の方から社長の小泉孝太郎に頼み込んで話をつけてもらったと聞いている。なのに。

「紅林さんは…桜本さんをどうするつもりなのだろう」

進次郎は遠い目をしてぽつりとつぶやいた。柴本も、そんな支社長から目を離さないでうなずいた。数瞬ぼんやりとしていた支社長だったが我に返ると柴本に

「よくわかりました。この件はほかの社員には言っていませんね?ならいいんですが、口外無用に願います。きちんと調査したうえで判断します。ともあれ情報をありがとうございます。また何か気が付いたことがあったら知らせてください」

と言って柴本は「わかりました。私の胸に秘めておきます。…ハミラ君にもほかの人に言わないよういってありますので」と言って支社長の部屋を出た。

ドアが閉まると進次郎は椅子に座り込み「ああ…なんてことだ。困ったことが起きた」と独り言ちしばらくの間頭を抱えていた――

 

元気のない桜本兵曹ではあったが勤務に差し支えるようなことがないのが、小泉兵曹たちには一層不憫に思えて仕方がない。そんなけなげなオトメチャンに紅林に女の影があるという話をするのは気が引けてならない。

小泉兵曹はそんなある晩、第一砲塔前に集まった高田兵曹・岳野水兵長・長妻兵曹に言い放った。

「うちがじかに紅林に談判する!オトメチャンをどうするんか、はっきり聞いてくる。そのうえでオトメチャンに話をしよう思うんじゃ」

おおっ、と皆はどよめいた。石川兵曹が

「ほんまになさるおつもりですか小泉兵曹」

と恐る恐るといった態で訪ねた。その石川兵曹にうんとうなずいた小泉は

「もう直談判しかあるまい?いつまでこうしとっても埒が明かんで。その上オトメチャンは紅林に大きな不信を持っとる、その不信感を払しょくするも確信させるも紅林自身なけえね。はっきりさせて、そのうえでオトメチャンに合わせて決着つけんと、もうありゃいけんで。こういうことは不審ができたらはっきりさせるんが筋じゃけえね」

と言って皆を見回した。長妻兵曹が腕を組みながら

「ほうじゃね。いつまでだらだらしとってもええことない。こうなったら小泉さん、奴にはっきり話を聞いたうえでオトメチャンと合わせて白黒はっきりつけたらええよね、そう思いますじゃろ高田兵曹?」

と高田に水を向ける。高田兵曹も腕を組み、

「ほうじゃわ、そのほうがええ。小泉さんには面倒かも知らんが大事な戦友のためじゃ。どうかよろしゅう願います。ほいでオトメチャンと会わす…オトメチャンには残酷な現実じゃがほいでもいつまで宙ぶらりんではいけんけえの。まあ、オトメチャンにとっては<大人>になるための試練じゃ思うてもらうしかないのう。つらいことじゃがね」

と言って下を向いた。岳野水兵長も

「ほうですねえ。どんとなつらい現実でも受け入れんといけん言うことはあの子自身がようわかっとる思いますし、あの子はそんとなことでどうにかなるような弱い子ではない思いますけえの。どうか小泉さんよろしゅうに願います」

と言って頭を下げる。小泉兵曹は年上でオトメチャンの従姉から頭を下げられ慌てて

「岳野さんそんとなことせんでつかあさい、うちはしっかりやってきますけえね。安心しとってつかあさい。紅林のやつを締めあげてきます…まったくええ加減な奴じゃわ、うちそんとなオトコただじゃおけんわ」

と言って息巻いた。まあまあ、と長妻兵曹が小泉をなだめたあと

「ほいじゃあ、今度の小泉の上陸日をその日に当てるいうことでええんね。ほいでそのあとにオトメチャンと会わせてしっかり話をさせると。そんときにはこの中の誰かが同席するかどこかで見とるほうがええね。まあその辺もしっかり考えとかんといけんの」

と言い皆はうなずいた。

 

小泉兵曹は上陸日の三日前、上陸する友人に頼んで弟・進次郎への手紙を渡してもらった。それには紅林を尋ねるから三日後のこの時間にこの場所に来てほしいと書いてあり、それを受け取り呼んだ進次郎は紅林を呼び、

「姉があなたを尋ねてきます。この日に逢ってください。場所は…」

と話した。果たして紅林は顔色を青くしている。動悸が胸を激しく打っているようだ。その様子を静かに観察しながら進次郎は

(やはり噂は本物ですね、でもはっきりさせないと桜本さんが気の毒ですからね。紅林さんあなた男らしくはっきりなさい)

と心の中で叱咤している。父親の孝太郎から以前に、紅林の人柄を聴かされ「紅林君がなあ、純子の海兵団からの友人を気に入っての、交際したいいうんじゃ。ええ話じゃ思うんじゃ。その友人いう人は苦労人での、ほいでもとても気持ちのええ人じゃ。じゃけえ紅林君となら、と思うんじゃ」と嬉しそうに言っていたのを思い出し、(私の父親まで裏切る気か、そんとなことさせん)と決意している。

 

三日後。

小泉兵曹は紅林を待って繁華街のはずれの小さな茶店にいた。現地の人の経営する店で小泉達とは顔なじみの店である。小泉はヤシの実のジュースを飲みながら彼を待った。やがて「――お嬢様」と声がしてそちらを見やれば紅林が立っていた。

「こっちへ来てつかあさい」

という小泉の声に素直に従った紅林は、彼女の正面の椅子に座った。店主にヤシの実のジュースをもう一つ頼んだ後小泉兵曹はまっすぐに彼を見つめると切り出した。

「紅林さん、はっきり言いますがあんた…桜本兵曹のほかにええ人ができましたね?」

すると紅林の瞳が不自然に揺らぎ、小泉兵曹は思わず

「図星じゃな!あんた、――あんたオトメチャンという人がおってのに他に女ができたんじゃな?ほんまのこと言えや!」

と怒鳴っていた。

海からの風がどうっと吹き付けてきたーー

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ対決の時が。

その前哨戦ともいえる小泉兵曹との話し合いが始まりましたが、すでに波乱含み。さあどうなる??次回以降をお楽しみに。

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● COMMENT ●

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
さあ、第一ラウンドの幕が切って降ろされました!しかし敵もさるもの引っ掻くもの。そう簡単には非も認めなきゃオトメチャンに謝罪もないでしょう。
オトメチャンが彼に対しどう出るか、その辺が味噌なんですがちょっと一波乱あるかもしれません(-_-;)…
そしてこんな男に惚れた英恵さん、なんだか危険な感じもしますが…(;'∀')。
今後をご期待くださいませ!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
なんて寒い雨の一日だったことでしょう、どうぞ暖かくしてお休みくださいね。

本当なら悲しみにうち伏して大泣きしたいことなのにオトメチャンはけなげに軍務をこなしています。紅林、こいつこんなに嫌な奴だったとは、人ってわからないものです。
今はどん底のオトメチャンですがきっといいことが待っています^^。その日まで見守ってやってくださいませ!

No title

さて、浮気男糾弾の第1ラウンド。支社長命令では出頭しないわけにもいきませんな。

ただ、この男そう簡単に事実を認めるとは思えません。認めたところでおそらくオトメちゃんの出自の問題やらで、自らを正当化させるでしょう。性根が腐ってますから、未練なくさっさと別れちまうのが最良の選択だと考えますが、オトメちゃんの心情を考えるとね。

英恵さんもご自身の幸せを考えるならば、こんなやつとは縁を切ったほうがいいはずですが?

おはようございます。昨日は春だった盧に、今日はまた冬に逆戻りですね。こちらも春の女神に翻弄されている気がします~!
しかし、オトメちゃんのけなげさが痛ましいです。紅林に怒りの鉄拳を!と読むたびに思ってしまいます。何事も経験で、オトメちゃんはこの試練を乗り越えられると信じてはいますが、やっばり見まもるだけはツラいですわ。よりより良い解決を期待しております!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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