2017-09

愛は乾いた砂のごとく - 2017.03.16 Thu

オトメチャンが振り向くとそこには逢いたくてたまらなかった紅林がいたーー

 

「紅林さん…」

と言ったままオトメチャンは立ち尽くしていた。二種軍装のオトメチャンの姿はだれが見ても息をのむほど美しい。がしかし、紅林の心は以前のようにときめくことはない。傍目にはどこか、オトメチャンを冷めた目で見ているような感じさえ受ける。

だが紅林に逢えたよろこびに身を浸すオトメチャンはそんなことには気が付かない。ただ、再会の喜びに身を震わせている。

「紅林さん、お久しぶりです」

やっと我に返ったオトメチャンはそういって敬礼した。常夏のトレーラーの日差しのもと、オトメチャンは敬礼の手を下ろすとやっと、微笑みを浮かべた。紅林さん、と言って一歩彼のほうに歩み寄ったオトメチャンであったが紅林は逆に一歩、あとじさった。

が、紅林は思い直してオトメチャンのほうに二歩ほど近寄った。どうやらオトメチャンはそんな彼の行動に不信を抱いてはいないようだ、紅林は内心ほっとした。(気取られてはならん)と気を引き締めた。

オトメチャンは彼の前にたつと

「あれからどのくらいたったか、うちはもう逢いとうて逢いとうて…。でもこうしてやっと逢えてうちはうれしい。ほいであの、紅林さん」

樋って恥ずかしげにうつむいた。紅林は笑顔を作りながら

「どうしたんじゃね、桜本さん」

というとオトメチャンは顔を上げて「祝言。祝言のことです。その…いつがええか思うてずっと考えとりました」と言ったのに紅林は衝撃を受けた。乾いた声で

「祝言…かね」

と言い、桜本兵曹はうなずいて「はい、今度逢うたら祝言の日取りを決めんといけんねえいうて手紙にも書いてくださったじゃないですか」と言った。

しまったことをしたと紅林は内心舌打ちした。彼の心は慌てまくって

「ああほうじゃね…いやその、つまりだね…うん、あの」

としどろもどろになっている。それをオトメチャンは男性の恥じらいではないかと思い、フフッとほほ笑むと

「そんとにあわてんでもええです。うちらもまだ内地にいつ帰れるかわからんのじゃけえ。それともここで式を挙げますか?」

と言って紅林の心はさらにびっくりして動悸が激しい。

でもその驚きやらなんやらをけっしてオトメチャンに気取られてはならない紅林は、彼女に歩み寄るといきなりのように抱きしめた。

「紅林さん…いけん」

と恥じらうオトメチャンに紅林は

「私もまだここに来たばかりじゃし、合弁の仕事がいよいよ本格的になってきたけえ式はまだ挙げられんのじゃ。桜本さんもいろいろと忙しかろう?じゃけえもうちいと先へ延ばしてもええんじゃないかね。そんとに急がんでもええと私は思うがの」

と言って抱きしめた腕を解いた。オトメチャンは自分から体を離した紅林をしばし見つめた、そして

「なんで?なんでそんとにあっさりしとりんさるんですか?前は『早う一緒になりたい』『早う式を挙げたい』いうておられたのに?なんじゃ、紅林さん変じゃわ」

と不審げな表情を浮かべて言った。紅林はそんとなことがあるわけないわい、と慌てたがオトメチャンは不審のまなざしを紅林に向けたままである。

紅林は慌てまくって

「そんとなことない、なにいうとんじゃ。忙しいいうとるじゃろ?じゃけえ式は当分なしじゃ。ええな、ならワシは忙しいけえ行くで!」

というと一散に走り去ってしまった。紅林さん!と叫んだオトメチャンを振り返ることもしないで、紅林はずっと遠くへと去ってゆく…

 

「なんで?なんでそんとに逃げるように行ってしもうたんね?紅林さん」

オトメチャンは紅林の去った方向を見つめたまま涙を流していた。二種軍装の胸に、涙がいくつもいくつも走っては足元の砂の上に落ちる。

足元の砂の色がだんだん濃い色に変わって、オトメチャンの嗚咽が高まる。どうしてどうして、というつぶやきが、なんでねなんでじゃと叫びに代わって、やがて彼女は砂の上に座り込んで号泣し始めた。

 

そのオトメチャンを発見したのは、仲間と散策していた長妻兵曹である。

長妻兵曹はヤシの樹の陰にうずくまる人影を見つけ、仲間に「あれ、誰じゃろう?海軍の制服を着とってじゃ」と言って走り出した、だんだん近づくにつれ仲間の一人が「ありゃオトメチャンじゃわ、どうしたんじゃろう」というに及び長妻兵曹は全速力で走りだした。そしてうずくまる彼女の背に手をかけ

「どうしたんね」

と抱き起すと果たしてそれはオトメチャン。長妻兵曹は「オトメチャン、どうしたんじゃね!」と大声を出し、仲間も彼女を取り囲み心配そうに見つめた。オトメチャンは軍帽もどこかに転がったまま、顔には白い砂がつき、泣きじゃくっている。

「どうしたんじゃね、オトメチャン!」

長妻兵曹は強い語調で言って両肩をつかむと激しく揺さぶった。仲間の兵曹の一人が転がったままだった桜本兵曹の軍帽を拾いそれをもってそばにしゃがんだ。それを合図のようにオトメチャンは

「く、紅林さんが。紅林さんが…」

と言って泣く。紅林がどうしたんじゃ、と問う長妻兵曹にオトメチャンは振り絞るような声で

「紅林さんはうちとの祝言をとうぶん無しじゃと言ったんじゃ。変じゃわ、今まではように祝言を挙げよういうとったんに、なんで急にそうなるん?なんでうちの顔を見たとたんそんとなことになるん?変じゃわ…」

というとその場に突っ伏し大声で泣き出した。長妻兵曹たちは、掛ける言葉すら失って泣き続けるオトメチャンをただ、見つめるだけであったーー

 

泣きそぼって『大和』に帰艦したオトメチャンを見、その詳しい話を長妻兵曹たちから聞いて烈火のごとく怒ったのは小泉兵曹と高田兵曹それにオトメチャンの従姉の岳野水兵長である。岳野水兵長は

「あれだけオトメチャンにご執心だったくせになんで今更躊躇するんか?おかしい。やはりあの時の女の人となんかあるんじゃろう」

と怒りをぶちまけ、小泉兵曹も

「そんとな男とは思わんかった。なんでここに来手連絡が途絶えたんか思うたら岳野さんの見た通りじゃな、とんでもないやつじゃ、進次郎にうちはご注進するで!黙っとれん」

と怒りまくる。高田兵曹は

「なんと気の毒なんはオトメチャンじゃ。信じて待って、ほいで結婚の日も近い思うたんにこげえなひどい仕打ちがあってええもんかい!おい、小泉兵曹。そん男引きずり出してこいや」

と吠える。

しかしこの話は三人だけの話であって、まだオトメチャンには「女性の影」の話はしていない。あまり次々にショックを与えてはならないとの配慮からである。

「ほいでもなあ」

と高田兵曹が言った、「いつまで隠しとってええもんでもあるまい?」。

岳野水兵長もうなずいたが

「ほうじゃね。しかしどういうて話したらええか、うちははあようわからん」

と頭を抱えてしまった。

小泉兵曹ははあーっと大きな吐息をつくと

「ほんまにほかに女ができたんじゃろうか。自分からオトメチャンに交際を申し込みながら、ほかに簡単に女を作れるものなんじゃろうか」

とまだ頭を抱えている。

皆の大きな吐息が、トレーラーの空に広がってゆく。

 

そんな折、「小泉商店」トレーラー支社長の小泉進次郎は気になる話を小耳に挟んでいた――

  (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・

そんなばかな!

せっかく会えた二人なのに、紅林はやはり英恵に心をすっかり移し、オトメチャンを邪険にしました。その上ずたずたに傷つけてしまって…。

仲間たちも心悩ましているこの事態、どうなるのでしょうか。今後をご期待ください。

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● COMMENT ●

おっちゃんさんへ

おっちゃんさんこんにちは

オトメチャンにとって最大の試練、いやそれ以上のことかもしれない…。信じて愛していた紅林の心変わりを彼女はどう受け止めそして乗り越えてゆくのでしょう…。
初めての経験がこんな形で壊れていってしまうなんてオトメチャンは不幸な女性としか言いようがありませんがきっと彼女はこえてゆくでしょう。
どうか見守ってやってくださいね!

ponchさんへ

ponchさんこんにちは
お返事が大変遅くなってごめんなさい。

大好きな人との再会は心ときめくもの。それなのに紅林ったら!腹の立つ男ですが何を考えているんだか…。
こういう輩は一発ガツンと痛い目にあうのがいいんですが。
でも絶対天罰が下ることでしょう!でないとオトメチャンが浮かばれない~~!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんにちは
お返事が大変遅くなってごめんなさい。

けじめをしっかりつけんかい!とどやしたくなるオトコ紅林…ああこんな男だとは思わなかったのにな~。オトメチャン不覚をとりました。
そうして進次郎支社長にもこの話が伝わるようなので、また一波乱ありそうです。彼、若い割に刃物の分かった人のようですのでどういうご聖断が下るか??気になるところですね、ご期待ください!

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは
お返事が大変遅くなってごめんなさい。

このところの気温の変化にはついて行けませんね(-_-;)、どうも体調がよくありません。

さて紅林。こりゃあもうどうしようもない男でしたね、はっきりせえや!と怒鳴りたくなります。オトメチャンの心をもてあそび、英恵さんといい関係を作るなんざ男の風上にも置けませんや!絶対…天罰が下るでしょう。エガチャンアタックでもくらえww。

オスカーさんもどうぞお体に気を付けてお過ごしくださいませね^^、いつもありがとう!

No title

このままじゃ、オトメチャンが気の毒すぎますね。
結局、男と女のことだから心変わりとか仕方がないですが・・・。こういう問題は正直難しいですね。
でも、オトメチャンのことを思うと、紅林は許せん、という気持ちになります。
見張り員さんには、これ以上オトメチャンを悲しませないで、と切にお願いしたいです。

オトメチャンとうとう紅林と再会しましたか。しかし紅林も心変わりしてるなら
ハッキリそういえばいいのに煮え切らない男ですねぇ。
よもやこの期に及んで両手に花でも目論んでるんでしょうか。
このまま行くと両手に花どころか、二兎追うもの一兎をも得ずになりそうですが。

どうせ振るならはっきりとせんとな。まあ彼の性格からすれば、こういう事を平気で為すだろうけど。

人の口に戸は立てられんので、進次郎さんにも噂が届いた様子。純子さんからのご注進がなくとも、どでかい決断をしてくれると信じたい。進次郎さんには合弁を反古にする事までの権限はないでしょうが、ぜひとも男を見せてほしいですな。小泉さんちの跡取り息子として。

こんばんは。
体調はいかがですか? 昨日は寒かったですね。今日も夜は冷えます。
さてさてお話の紅林、はっきり他に好きな人が出来たと言うと思ったら、これまたいい加減な! 全くどうしようもない男ですね。早く懲らしめてやりたいです! エガちゃんにお仕置きしてもらいたい!
まだまだ波乱の予感、ドキドキしながら待っていますね!


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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