緊急入院 2 解決編

「どなたか具合の悪い方がいらしたみたいですね…大丈夫なのかしら」とその人物は心配そうに言ったーー

 

そういった女性は今日の夕方、山中次子の病室の二つ先の部屋に入院したばかり、まだ荷物も解いてはいないようだ。その夫が

「どなただろうね…この病棟は婦人科だからお産のかただろうか?知り合いになれるといいね」

と言って女性ー妻をベッドに寝かせた。

妻はうなずいた後

「あなた、お疲れでしょうにごめんなさい。迎えに来てくださってありがとうございます。やっと内地に帰って来られてほっといたしました」

と言い夫は

「もっと早く迎えに来るつもりだったんですが横須賀への出張が長引いてしまって、あなたには余計な日にちを艦の中で過ごさせてしまいましたね。ごめんね」

と言って妻のひたいをそっと撫でた。ううん、本当にありがとうございますと妻は言って、夫は「ゆっくり眠りなさい、私は今夜ここに泊まるから」というと付き添い用のベッドに座ってほほ笑みながら妻を見つめるーー

 

翌朝早く、山中大佐は目を覚ました。起き上がると次子も目を覚まして起き上がろうとした。それを

「起きてはいけない…ここにいる以上はきちんと産科軍医のいうことを聞いて赤ちゃんたちのため、そして何より次ちゃんの体のために良いようにしなければ」

と制した後、大佐は次子を抱きしめその耳元に

「私は次ちゃんが本当に大事なんです。…次ちゃんに何かがあったら私が生きてはいない」

と言い次子は新矢の背にしっかりと両手を回し

「駄目、駄目新矢さん。わたしに何かがあったくらいでそんな事おっしゃっては、いやです」

と言った。だから、と新矢は次子の瞳を覗き込むと「きちんと養生してくださいね」と念を押すように言うと微笑んで次子をもう一度しっかり抱きしめた。

そして「では行ってまいります。仕事が終わったら寄りますから、待っていてね」というと次子はベッドの中から手を振り、新矢はそれにこたえて病室を出た。

 

同じころ、二つ先の部屋でも

「あまり動き回らないようにね。君に何かあったら私は生きていられないよ…だから産科軍医の言いつけを良く守って居なさいね?」

「はい。あと少しで悪阻も終わりましょうからその時まで頑張ります」

という会話が交わされ「では、行ってきます」と言ったあと二人は抱擁しあいやがて体を離し夫は部屋を出た。

そして二つ先の部屋から出てきた人の顔を見て彼は

「山中大佐、山中大佐ではないですか!」

と叫び、大佐もその彼の顔を見て「おお!繁木君!!いつ横須賀から戻ったのかね!」と声を上げていた。そう、山中次子の二つ隣の部屋に入室したのは繁木航海長である。彼女は妊娠四カ月に入る直前、トレーラーから内地・呉に帰ってきた。が、夫の繁木技術少佐が横須賀に出張中であったため乗艦してきた艦の艦長は「おかえりになるまで大尉は艦内でお預かりいたします」ということで、繁木少佐は急ぎ仕事を終わらせて呉に帰ってきたのだった。そして昨日、繁木大尉はトレーラー海軍診療所の杉田少佐の紹介状を手に、呉海軍病院に入室したのだった。

山中大佐は

「繁木くん、おめでとう。奥さんも悪阻がひどいんだね、ここに入ればもう安心だ。ゆっくり休ませてあげてください」

と言って繁木少佐と握手を交わす。繁木少佐は嬉しそうに

「当初、秋前に出産と聞いていましたがキチンと計算したら6月の終わりには生まれるそうです。大佐の奥様は、もうすぐでしたね?」

と言い大佐は

「来月、二月には生まれるんだが双子ということで負担も大きいんだろうね。このところ早産の気配があると言われていたんだが昨日の晩、ちょっと具合が悪くなってここに」

と言って繁木少佐は目を見開き驚いて

「それは大変ですね。で、もう落ち着かれましたか?」」と言って山中大佐はうなずいた。繁木少佐は

「いずれにしても心強いことです。どうぞこちらでもよろしくお願いします」

と言って大佐も「こちらこそ!…おお、そろそろ行かないとね」と二人は病院を出て行く。

 

その二人の会話が耳に入った繁木航海長は「副長?副長がいらっしゃるんだわ」とうれしくなってそっとベッドから足を下ろし、スリッパをはくと部屋を出た。そして二つ先の病室の名札を見ると<山中次子中佐>と書かれていて、航海長は(やはり!副長だわ)とうれしくなり、ドアをそっとノックした。中から「はい?どうぞ」と副長の懐かしい声がして航海長はたまらずドアを開けていた。

「副長!」

と呼んでそのベッドの横にたつと次子は「まあ、繁木航海長!」と言って半身を起こそうとした。が繁木航海長はそれを押さえて

「起きてはなりません。副長、お久しぶりです。わたし昨夕、こちらに入室いたしました。まだ悪阻があって、トレーラーの杉山少佐が収まるまでこちらに入室しているようにと紹介状を書いてくださいました。…それにしても副長、大丈夫なのですか?」

と言った。その懐かしげな瞳に次子もうれしさを隠せず、航海長の手をやさしくとると

「本当にお久しぶり、悪阻がきつそうですね。もう少し辛抱したら収まりますよ。私早産しそうだと言われていたんですが昨日の晩ちょっときつい張りが来ましたの。前からそういうときは連絡するようにと言われていたし、新矢さんが慌ててこちらに連絡してくださったんです。ちょうど益川中佐もいらしたので助かりました」

と言った。繁木航海長は「そうでしたか、それは大変でした。どうかここではゆっくりなさってご無理なきように。元気な赤ちゃんを待っています」とほほ笑み、

「そろそろ朝の検温時間のようですからいったん部屋に戻ります、また後程来ます」

と敬礼するとそっとドアを閉め戻って行った。

山中次子は(繁木さんがいたなんてなんてうれしいこと!心強いわ)とうれし気に布団をかけ直し、一人ほほ笑んだ。

 

山中大佐と繁木少佐は、工廠の研究棟に着き、江崎少将にあとすぐに少将から気遣いの言葉を受けた。益川中佐が早く来て少将に「山中大佐の奥様が」と話をしてくれたからで、少将は

「くれぐれも大事にしてほしい、何もないとは思うが万が一病院から報せがあったらすぐに行くように」

と言ってくれ、繁木少佐には

「横須賀出張お疲れさま。奥さんも昨日上陸なさったらしいね、今がつらい時期だが頑張って乗り切ってほしい。奥さんについては山中大佐同様に」

と言ってくれた。二人は

「あれこれご心配とご迷惑をおかけして申し訳ありません、このうえはしっかり任務をやり遂げます」

と言って江崎少将は満足そうにうなずいた。

 

そんなころ次子と繁木航海長は、次子の部屋で語り合っていた。次子が内地へ帰ってからのあれこれ。新しい航海長佐奈田ヨウ少佐の話を次子は興味を持って聴き入り

「皆と仲良くしているようですね、よかった。それはそうと」

と言って声を潜めるような風をして繁木航海長は「なにか?」とこれも身を屈めるようにして次子に言うと次子は

「オトメチャン、あれからどうなりました?何か聞いていませんか」

と桜本兵曹の恋の話をして繁木航海長は思わず笑った。副長意外に情報通なんだなと思いつつ

「私がトレーラーにいたころにはあまり進展はなかったようです。が、私が診療所にいる間にオトメチャン『飛龍』の欠員補充で作戦に出ていました。あのラシガエ島の先の島のイギリス軍残敵掃討作戦、なかなか彼女いい働きをしたそうです。そして我々の夫の苦心の作、例の<松岡式防御装置>も素晴らしい働きをしたと聞いています」

と話して次子はすっかり副長の顔に戻って

「それは良かった。桜本兵曹これでさらに名を上げるね。あちこちから彼女を欲しがるだろうが、絶対他にやってはなりませんよ。その点をよく艦長にもお話しておきましょう」

と言ってうなずいた。

繁木航海長もうなずいて

「全くです。彼女は<大和>の見張の秘蔵っこですからね。『貸してくれ』と言われたとき、返してもらえなかったらどうしようと思ったと佐奈田少佐が言っていましたよ」

と笑った。次子は

「そんなことがあったんですね。でもよいように済んで本当に良かった。ほっとしますね。あとは、オトメチャンは幸せになってくれるのを願うばかりでしょうね。あ、それから…」

と次々に繁木航海長が知る話を聞きたがった。航海長も知るだけの話を副長に話し、二人はしばし、懐かしい『大和』艦内の気分を味わったのだった。

 

安静のおかげで次子のお腹の張りも徐々に収まってはきたが、産科軍医は「安心はできません。もう少し、あるいはご出産まで入室していただく必要があります」と言い、寂しい次子であった。が新矢の

「同じ呉の街の中じゃないですか。前みたいにずっと遠くに離れているわけじゃない。だからそんなに寂しがらないで?私は仕事がひけたら毎日来ますから」

という言葉に喜び感謝した次子である。

 

年の瀬も間近なこの街に、新しい二つの命の誕生を待ちわびる夫婦。その夫婦を祝いいたわるかのように、ちらちらと雪が舞い始めていた――

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

誰かと思えば繁木さんが内地に帰ってきたようです。しばらくは退屈しなくて済みそうな次ちゃんと繁木さん。お互い大事にして出産に備えてほしいものです。そして…次ちゃんもご心配の桜本オトメチャンの恋は??

次回をお楽しみに。

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ponchさんへ

ponchさんこんばんは
妊娠って病気じゃないとは言われますがでも普通の状態でもないですから「そんなことで騒ぐんじゃない」とか言われると腹が立つものです。
次ちゃん、双子の妊娠ですから余計に負担もかかりますから出産まで気が抜けません…どうか無事にと思うばかりです!

私も悪阻がすごいひどくって「世の中にこんなに匂いってあるものなんだ」って改めて驚きました。起き抜けがひどくってご飯の支度なんか全然できなくって姑や小姑にいやな顔されて悲しかったです。結局一人目も二人目も起きられない・食べられないだったので一週間入院で点滴。そのあと実家に安定期まで帰っていました。
難産。
これはまたつらいですよね…お産に時間がかかるのも本当につらかったことでしょう。昔は命がけだった出産をいくら医療技術が上がった今でも気楽に考えないでほしいですよね!

No title

次ちゃん、大事に到らなくてよかったですが、子供が無事に産まれるまでは油断大敵ですね。
やっぱり双子がお腹にいると大変ですよね。次ちゃんが無事に元気な双子を産むことを祈ってます。

見張り員さんも悪阻が酷くて大変な思いをされてるんですね。
自分の家系も三代続けて難産の家系で父方の祖母は出産直前まで悪阻があって、母は3人の子供を全員帝王切開で産んでいて、姉は初産で30時間もかかりました。
姉の子供はふたりとも男の子なので難産の家系も自分の代で終わりそうですが、男どもが妊娠出産なんて病気じゃないんだからたいしたことじゃないとか抜かしてるの聞くと、○○引っこ抜いてやりたくなります。
自分で産んだこともないクセに妊娠出産はたいしたことじゃないとか抜かす男には、だったらお前が産んでみろよといいたいです。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
私もひどい悪阻で入院しました…一週間点滴につながれて過ごしましたっけ。二回とも(◎_◎;)。河内山さんの奥様も大変だったのですね、ご主人としても大変な時がありましたね。

山中・繁木。そして横須賀の三浦さんももう出産ですね。こちらの話も書かねば^^。

お産に関しては男性は「役に立たない」とは申しませんが周囲であたふたされると女としてはうっとうしいかな(;'∀')…という感じがしないでもないですねw。
そういう点、やはり女は強いですね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
この二人と言わず『女だらけの大和』のそれぞれには切れない縁があるのかもしれません。

私も二回妊娠出産を経験しましたが悪阻で二度とも入院するほどひどく、特に夜は寂しかったですね。出産してからも何か物寂しさを感じていましたがあれがマタニティーブルーの始まりだったのかなと思います。
二度とも家族は来なかったのですが(実家の母が連絡を受けて産後数時間で来ました)、それなりにできるもんだなとw。

さあ間もなく次ちゃんたちの赤ちゃん出産です、お楽しみに!

昼間はあったかかったのですが夕方から急速に寒くなりました。そちらはいかがでしょうか?お風邪など召しませぬように。

おいらの女房殿も悪阻がきつく、入院経験がありますんで、当時を思い出す気持ちです。とにかく口から食べ物が取れなくて、強力な輸液で母子の命をつなぐという荒技でございました。

どちらのご夫婦にも元気な赤ちゃんの誕生が待ち望まれますね。そういえば三浦さん夫妻にももうすぐだったという記憶がありますが。

何につけても、こういう時に男はこれっぽっちも役に立たないという具合ですから、女性陣には気をしっかり持っていただきたいところですね。

縁のある人とは切っても切れない繋がりや絆があるのですね。
妊娠、出産はことのほか心細いと聞きます。男はただオロオロしオタオタするばかり。そんな中での再会はお互い心強くて本当に良かった。
もうまもなく新しい命の誕生ですね。きっと美しいシーンが随所に織り込まれるでしょう。見張り員さんの腕の見せどころです。

寒かったり、急に気温が上がったりと、不安定極まりない天気が続いていますが、どうか風邪を引かないようくれぐれもご自愛ください。

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます
入院って心細いですよね。私も経験がありますが誰か知ってる人が居たらな~なんて思ったことありました。次ちゃん、繁木さんがいてよかった。話し相手にもなるし不安を払しょくできることも多いでしょうから。
男性陣は、この場合しょうがないですねw。解れと言ってもわかるものではないので心配だけはしっかりしておいて頂戴というところですねw。

「おんなだらけの~」の皆はきっと幸せになることでしょう。今後をどうぞご期待くださいませ。

こんばんは。入院中に気心の知れた相手が近くにいてくれる、安心しますね。辛いことも多くの言葉を使わなくてもわかってくれるだろうし。女性陣に比べて殿方たちは・・・まぁ生理痛のひどさとかわからないでしょうし、せめて心配だけはさせてくれ!みたいな感じでしょうか?
物語に出てくる人たちにはみんな幸せになってほしいです~見張り員さま、よろしくお願いいたしますね(о´∀`о)ノ
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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