2017-09

男の価値 2 解決編 - 2017.01.30 Mon

益川中佐は床にうち伏して大泣きしてしまったーー

 

翌日益川中佐は何もなかったかのような顔で出勤したが、山中大佐に「どうした益川君」と声をかけられた。益川中佐ははっとしたが

「いやなんでもありません、なにもありませんよ山中大佐。私に何かあるように見えましたか?」

と言ってその場は平然とやり過ごした。山中大佐はその後姿をしばらく見つめていたがやがて江崎少将の呼ぶ声に席を立った。

 

その日も暮れたが益川中佐と山中大佐は残業しなければならない状態にあった。二人は帰宅する同僚、それに江崎少将を見送ったあと「では急いで片付けよう」と二人は集中して仕事に当たった。

それから二時間半ほどして山中大佐は大きく伸びをして席を立った、そして益川中佐を見て

「どうだね今日はもう終わろうじゃないか。どうだねどこかで飯でも食ってゆこうか」

と言った、彼はどうも今朝の益川中佐の様子が気になって仕方がなかったのだ。出来たら聞き出したいという気持ちがあった。

益川中佐は

「しかし、奥様がおひとりではご心配ではないですか?私は一人で食いますから大佐はご自宅へ…」

と言った。本当は切ない胸の内を聞いてほしいという思いもあったが<天女のような>次子中佐が心配であった。(あの人に何かあったら、私は困る)

すると山中大佐は「そうか」というと

「ならうちに来ればいい。…益川君なにか悩みがあるんだろう?話を聞かせてほしい」

と唐突に言い、益川中佐は慌てた。

「そんな、突然おうかがいなんかしたら奥様にご迷惑でしょう。奥様今は大事なおからだですから私なんぞがお邪魔したら…」

そういって断った中佐に山中大佐は

「大丈夫だよ、次子に負担はかけない。だからぜひ来てほしい」

と言って引きずるようにして益川中佐を丘の上の家に連れて行ったのだった。玄関の戸を叩くとすぐになかから「はい!」と返事があり戸が開いた。

「おかえりなさい」

と次子の微笑みが迎えてくれた。そして次子は夫の後ろにいる益川を見ると

「まあ、いらっしゃいませ!さあさあ、どうぞ」

と言って中に招じ入れてくれた。山中大佐は益川中佐の背中を軽く押すと「さ、入って」と言って皆は家の奥へ。

 

益川中佐は「突然お邪魔して申し訳ありません、本当に申し訳ありません…。すぐに帰りますので」と小さくなって謝る、その益川に次子は大きなおなかを撫でながらほほ笑んで

「いいんですのよ。ごゆっくりなさってくださいませね。今日は残業だったのでしょう、お腹がすいたでしょう、今すぐ食事をお持ちしますからね」

と言って台所に立った。

益川中佐は「どうか奥様、お構いなく!」と叫ぶように言って、山中大佐は「次子がいいというんだからいいんです。あの調子では体調は平気のようだよ」というと益川中佐はほっとしたような表情になった。

 

山中大佐が次子の代わりに茶を淹れ、二人はしばらく黙って茶を喫した。やがて次子が料理を運んでくると大佐は「私がしよう、次ちゃんは座りなさい」と代わりに皿や料理を持った皿を運ぶ。それをみて

(いいなあ。私も嫁さんを貰ったらこうして手伝ってやりたい。ああうらやましい)

と益川中佐はいよいよ羨望の度を強める。次子は

「ごめんなさいあなた、…さあ益川さんどうぞ召し上がってください、何もなくて申し訳ないんですが」

とほほ笑みながら箸に飯茶碗と汁椀を彼の前に並べる。

「そんなとんでもないことです。奥様には申し訳ないです」

益川中佐はもう一度言ったが次子は微笑みながら「さ、どうぞ」と勧める。山中大佐も箸をとり「さあ、冷めないうちに」というので益川中佐は「ではいただきます」と箸をとる。益川中佐の好きな焼き魚もあり彼はうれしかった。

 

食後に、大佐が「軽くどうだね」というので益川中佐は酒をいただいた。

次子もほほ笑みながら二人を見守るように漬物を出して「こんなものしかありませんが」と言った。その次子に「ありがとうございます」と言って益川中佐は酒をいただいた。

そのうち彼は、酔ったわけではないが次子に話を聞いてもらいたいという気持ちが湧いてきて

「実は、」

と話し始めた。

 

……つい先ごろのことなんです。

私は風呂からあがって洗面台の鏡を見ました、いつものように。すると、なんとあろうことか、私の頭の毛、そう髪の毛が薄くなっているではないですか!こう、なんというのか生え際が前より後退してしかも、しかもですよ、頭のてっぺんまで薄いんですよこれが!そんなこんなひどいことがあっていいんでしょうか、まだ嫁さんももらっていないうちに禿げてしまったら、もう絶対嫁さんの来手なんかないですよ。もう絶対…絶対ダメだ。私なんて何の価値もない男なんだ…

 

そういうと彼は顔を覆って泣き始めた。

山中大佐はなんだか気の毒そうな顔で益川中佐を見つめていたがはっとした。それは(生え際の後退だと?それなら私はもうずっと前からだ。そしたら私の男としての価値はもうないってことか?そんな…だとしたらそんな男と結婚した次ちゃんはこの上ない不幸な女ということになるじゃないか…ああなんてこった!)というわが身に十分覚えのある事である。

次ちゃん…、と我が妻の顔をそっと見やると次ちゃんはたいへん難しい顔で益川中佐を見つめている。次ちゃんはしばらくのあいだ泣いている益川を見つめていたが、なかなか泣き止まない彼についに

「益川中佐」

と声をかけた。益川中佐は憧れの天女に慰めてもらえるものだと思って顔を上げた。すると、

「なにを泣いておられますか、大の男の海軍士官が!」

と大喝が飛んだ。益川中佐はもちろんのこと、夫である山中大佐もその場から三〇センチほど飛び上がった(ような気がした)。びっくりした二人が次子の顔を見ると、彼女はまっすぐに益川中佐を見つめ

「益川中佐…なんてことをあなたはおっしゃるんです?本気であなたはご自分には男としての価値がない、とお思いなんですか?しかもその原因が髪の毛だとは。確かに髪の毛がそうなってしまうこと、悲しくもあり寂しくもあると私は私の父親から聞いたことがあります。でも私の父親はそんなことは人生のうちにおいては大したことではない。人がどう思おうと自分に自信があればそんなものはどうでもよくなる、と言っていました。そして私もそう思います。私は男性のーー言葉がよくないですがご勘弁ーーいわゆる<禿げるということ>は貫禄だと思いますよ。だから益川中佐もどうか自信を持ってほしいのです。中佐のお嫁さんにはそういうことを気にしない、ありのままのあなたを好きになってくれる人を選べばいいのですよ。きっといますそういう人は。そして人が思うほどあなたの御髪を気にしている人はいないと私は思いますよ。ご自分でそう思い込むなんて、悲しいですよ。私は益川中佐の仕事をきっちりなさる所やお優しいところが好きです。

ーーこの先絶対、私が思うように中佐のまじめなところ優しいところを好きになる人ができますとも。だからどうか、自信をもって毅然となさってくださいませ。

私もう一度だけ申し上げます…男の価値は、髪の毛ではないと」

と一気に語った。その瞳はかすかに濡れているようにも見える。

益川中佐は

「奥様…」

と言って感激に身を浸した。そのそばで山中大佐もうなずいている。益川中佐は涙を手の甲でグイッとぬぐうと

「奥様よくわかりました。私は間違っていました…そんなことでくよくよ悩んでしまってお恥ずかしい。そして私をそれほどまでに評価してくださった事、益川大感激です!これからはもうそんなことに悩まないで職務に邁進いたします!」

と大きな声で宣言し、次子は嬉しそうにほほ笑んでうなずいた。山中大佐もほほ笑んでいたが、益川中佐の

「そうですよ!大佐だってそんなに生え際が後退していてもこんなに素晴らしい奥様を娶れたんですから私にだって絶対!」

というとんでもない発言にがっくりこうべを垂れてしまった。ありゃ~、と次ちゃんは思わず額に手を当ててしまったが突然大佐が笑いだしたので顔を上げると山中大佐は愉快そうに笑いながら

「そうそう、そうだね!ほんとにそうだ。実は私も君の話を聞きながらひょとして自分には男の価値がないんじゃないかと心配だったんだよ。そしたら次子はなんて不幸な女性なんだろうと思ってしまったが、次子の気持ちを聞いてほっとしたよ。ありがとう次子。やはり君は物事や人の本質を見る才能にたけているね。これからもどうか、よろしく…」

というと突然のように彼女を抱きしめて益川中佐は頬を赤らめてしまった。

 

その晩、またも山中家に泊まった益川中佐であった。気持ちの良い布団の中で

(山中大佐の家はなんて心地よいんだろう。これはきっとお二人のご人徳のなせるわざなんだろうな、素晴らしいことだ。私もいつか妻を娶ったら大佐のような家庭を作るんだ!)

と一人決意を固めるのであった。

 

夫婦の部屋では山中大佐が「今日はありがとう次ちゃん。これで益川君はもう大丈夫、いつもの彼に戻れるよ」と言って次ちゃんをそっと抱きしめていた。

次ちゃんはうれしげにそして恥ずかし気に抱かれていたが、突然「あ…っ」と小さく叫ぶと大きなおなかに手を当てて眉間に軽くしわを寄せ新矢のほうに体を寄せるようにした。

「次ちゃんどうした!」

新矢は叫び、次ちゃんの体をしっかり支えたーー

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・

どうしたのかと思えば益川さん、髪の毛が心配だったのですね。男の人にとっては重大なことかもしれませんね。でも人は見かけではありません。大事なのはその中身。それは女性でもおんなじです。

次ちゃんの激しくも優しい言葉に心癒されて、益川さん明日からまた張り切って仕事ができそうですね。

しかし…次ちゃんどうしたんでしょうか。

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● COMMENT ●

ponchさんへ

ponchさんこんばんは
男性には深刻な悩みですね薄毛。かつて私の友人の友人が湧か禿げで大変や悩んでいました。エスカレーターに乗るとき「前に乗って」と言われました。どうしてかというと「頭を見られたくない!」ということでした…(-_-;)。
でも薄毛が男の価値を下げるのかというと全くそんなことはないですよね。最近は見てくれだけでイケメンだのなんだの言いますが私にとってのイケメンは髪の毛がなくても太っていてもいい、誠実さ・やさしさ・思いやりがあれば立派なイケメンです。

>髪の毛が減っても男の度量を増やしてほしい

そこですよね!
益川さんもきっとこの先いいご縁を得ることでしょう。応援してやってくださいね^^。

No title

人知れず薄毛で悩む男性は結構多いみたいですね。
ここで自分は、男の価値は髪の毛や身体や♂がデカけりゃいいってもんじゃなだろといいたいです。
世の中には何でも適正サイズとか適正量があるということで。

つまり何がいいたいかというと、髪の毛が減っても男の度量を増やしてほしいということです。

頑張れけっぱれ益川さん!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
髪は長ーい友達。そんなCMありましたね。
でも益川さん、次ちゃんにびしっと言われてよかった。新矢さんも同じ悩みをひそかに抱えていたので良かったです。でも本当に男性のそれは貫禄だと思います。

そして次ちゃんのお腹の赤ちゃんたちどうなるんでしょうか…ハラハラしますがどうぞこの後をご期待くださいませ!

No title

やはり長い友達の悩みでしたか。

次ちゃんにばっさりと切っていただいてすっきりした益川さん。
というより新さんも同じ悩みを抱えていたとはね、貫禄と言ってのけられる心境になるにはまだ10年ぐらいおいらはかかりそうですね。気になるのはおなかの赤ちゃんたち、双子なので早産傾向なのはいたしかたないのですが、大きな問題がないことを祈ります。男手は益川さんもいますし、どうにかなるはずですが。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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