2017-10

男の価値 1 - 2017.01.27 Fri

呉海軍工廠に勤務の益川敏也技術中佐は今日も元気に勤務に励んでいるーー

 

江崎少将を中心とする<松岡式防御装置>開発チーム「呉」は先だって極秘のうちに行われた機動部隊による対イギリス軍残敵掃討戦で『飛龍』があの防御装置を使用し、被弾を回避し大成功であった旨を知らされて喜びに浸っていた。そして

「さらにこれを多くの海軍艦艇に装備しなければなりません。各艦艇の特徴に合わせた防御装置を開発しないといけません。そして飛行機に対しても。がんばりどころです」

と山中大佐は言って皆も大きくうなずいたのだった。

そんな中、益川中佐も仕事に励んでいたが仕事がひけて一人、呉の本通りの食堂で夕飯を取るとき思うのは

「ああ。私も早く嫁さんがほしい。一人で食堂で飯食うのも今年で終わりにしたいもんだなあ」

ということでもう何回思っていることか。

食事を済ませ通りを歩けば海軍軍人を妻にした工廠の関係者や、一般民間人の夫婦が仲良く歩き益川中佐の嘆息は深くなる一方である。

私もああして大好きな人と歩きたい。山中大佐の奥様のような天女を妻にしてこの道を歩きたい。

益川中佐は、軍帽を目深に下してそれらの風景が目に入らないようにして自宅へ向かう。自宅の玄関を入るころにはすっかりしなだれている益川中佐である。

が、

(山中大佐の奥様もおっしゃっておられた、必ずいい縁があると。天女のおっしゃることだ絶対だ。その日を待って今は耐えるしかない)

と思い返し、部屋の机の上に鞄を投げ出すと風呂を焚きつけに湯殿へ向かうのが日課である。

 

そんな、ある晩のこと。

いつものように益川中佐は自宅へ戻り、持ち帰った書類に目を通していた。そろそろ風呂も沸くころだろうと湯加減を見るとちょうど良いようだ。早速疲れた体を湯に浸す。

そして風呂から上がった彼は手ぬぐいでごしごしと頭を拭き、洗面台の鏡の自分を見た。

「?」

益川中佐は妙な違和感を感じて鏡の中の自分を凝視した。なにか、どこかが変だ。益川中佐はさらに自分を凝視した。

と!

「まっ、まさかああ!」

益川中佐の口から時ならぬ叫び声が噴出した。この家に他に誰かいたならきっと「どうしました!なにがあったんです?」とおっとり刀ですっ飛んでくるレベルである。

益川中佐は、鏡の中の自分をふるえる指で指しながら

「まさか、まさか。そんなことあるはずがない…絶対だ絶対」

と熱に浮かされたようにつぶやいているーー

 

翌日は益川中佐の非番の日であった。このところ休みなく働いていたので今日明日の非番がうれしかった。

が、昨晩のことが気になってどこかすっきりしない彼ではある。

(思い違いということもある、うす暗い中で見たから見間違いだろう。気にしない気にしない。それより早いうちに残りの仕事を片付けて今日はのんびりしたい)

考えを一転させて、彼は朝飯の支度を始めた。(こんな時嫁さんがいたらなあ)と彼は支度をしながら妄想を始める。

……山中大佐の奥様みたいな人が嫁さんだったらいいなあ、きれいで聡明でかわいくって。その人が私に言うんだ、『あなた、ご飯ができました』って。温かいみそ汁にご飯、そして漬物。朝はこれくらいでいい、私は箸をとってそれらを食べて、嫁さんに『うん、君の作るめしはいつも美味いなあ』って言って嫁さん恥ずかしそうにうつむいて。うひゃー、たまらんなあ…。それで私は工廠に出かける、その私を嫁さんは玄関先まで見送ってくれるんだ、『あなた行ってらっしゃい』って言って。う~~ん、本当にたまらん。それでやっと仕事が引けて帰ってくると家には電灯がともって、夕餉のにおいがしてる。今日は何だろう、魚の焼いた匂いだ、焼いた魚は私の好物だ。嫁さんはきれいにほほ笑みながら『あなたお帰りなさい、お疲れさまでした』って言って差し出したかばんを受け取ってくれる。

『御風呂湧いていますわ、どうなさいます?』という嫁さんに私は『飯が先がいいな、腹が減ったよ』って笑いかけて私はめしを食う。そしてそのあと風呂に入る。嫁さんも風呂を使ったあとやっと布団に入るんだ…恥ずかしげな嫁さんを私は抱きしめてその寝間着をーー…

そんなことを一人考えながらふうっと笑いを浮かべる益川中佐は傍目には気味が悪い。が、本人はいたって真面目である。

が、そこまで思った彼はふーっと長いため息を吐くと

「そんな日が来るのかねえ。私に」

と言って悲しそうな顔になってしまった。そして昨晩からの気がかりがまた、頭をもたげてくるのを感じ、慌てて味噌汁に入れる菜っ葉を刻んだ。

 

非番の二日間が終わり益川中佐は工廠の研究室に戻った。山中大佐がほほ笑みながら

「おはよう益川中佐、少しは休めたかな?」

と言ったのへ中佐は

「おはようございます、はいありがとうございます。おかげさまでのんびりできました、持ち帰った仕事も初日のうちに片づけましたから」

と言って笑って見せた。そして

「奥様はお元気ですか?もう何か月目になりますか?」

と尋ねた。山中大佐の妻で元『大和』副長の山中次子中佐は今、妊娠八カ月半ばである。双子を懐妊中で、

「八カ月に入ってるよ。最近ちょっと早産の傾向が出て心配してるんだ」

と大佐は心配そうな声音になった。益川中佐は

「なんと。ではご入院をしないといけないのではないですか?」

とこれも心配げに言った。彼にとってあこがれの女性であるからすべてにおいて気になる存在である。山中大佐もそれを解っているから

「ありがとう。そうなんだ、海軍病院の産科からは次の検診でまだその傾向があるなら入院しないといけないと言われていてね…でも次子は『あなたを置いて入院できない』っていうんだよ。私のことより自分と子供たちを心配しないといけないんだが、あれが彼女の性分なんだろうね」

と言って窓の外を見た。

その表情が益川中佐にはうらやましかった。

益川中佐は

「奥様はまず、大佐のことを一番にお考えです。それは私にもよくわかります。それだけ奥様は大佐に惚れていらっしゃるという何よりの証拠です」

と至極真面目に言ったが大佐は「なに言ってるんだか」と笑い飛ばした。その表情の裏に「照れ」が隠れているのを益川中佐は見逃さない。

 

その日も仕事が引け、山中大佐はそそくさと愛妻の待つ自宅へ帰り益川中佐はいつもの通り街中で飯を食い、自宅へ帰った。今日も昨日のようにまるで判を押した如くに風呂を沸かし服を脱ぎ、持ち帰った書類に目を通す。風呂に入って洗面所の鏡をふっと見た彼は

「やっぱり――ッ!」

と大声を放ち、そして今夜はその場にうち伏して大泣きし始めたのだった。

「まさかまさか、まさかー!なんでこんなことに、そんなひどいよう」

益川中佐はまるで幼子のようにその場で大泣きしているーー

  (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・・・・

久々、益川中佐や山中大佐のお話です。次ちゃんも妊娠八カ月に入って大変なようです。が何だか益川さん異変が起きたようです。いったい何が!!!

次回をお楽しみに。

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは
うーむ…やはり男性にとって髪の毛の有無って大きなものなんですね。そうか貫禄とか風格ではないんですね、勉強になりました!そいう点においては女性よりもずっと繊細な気がしてきました。

言葉の意味、私も時々全く違う意味で覚えていて「ええっ!」と驚くことがあります。時に血の気が引くときも…(◎_◎;)。

男もやっぱり見映えを気にするものです。特に髪の毛の有無には敏感です。有ったものが無くなっていくなぞ悲劇です。貫禄とか風格とかじゃないんですよねえ。

おっとり刀本当の意味を知ったのはつい先日のことでした。全く真逆の意味を信じ込んでいました。おっとりが押っ取りだったとは驚きでした。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
私もここ数年鏡を見るのが怖いような、それでいてまじまじと見つめることが多くなりました(◎_◎;)。だんだん重力に忠実になるわが顔。悲しいかな。しかしこればかりはどうしようもないんですよね、順送りというやつでしょうか。女優さんみたくお金を書ければなんとかなるんでしょうが、…まあいいやw。

益川中佐、結婚願望急上昇中です。右肩上がりです。しかしこればっかりは縁ですからね~…まあ頑張ってというしかないですねw。

そろそろ赤ちゃんズの誕生も近くなります。双子。どんな双子になるかお楽しみに^^。

今日は妙にあったかかったですね。でも夜になったら寒いこと!犬の散歩、「寒い~寒い~」と連呼しながら歩いてました。ご体調崩されませんように!

こんにちは。
鏡を見て驚愕・・・私もまぢまぢ見ているようなはぁ~となるくらい白髪が増え、顔がくたびれた感じに・・・最近は女優さんのスゴさを実感しています。益川さんの結婚願望はとどまることなく上昇中ですね。どうなるのかしら💦 また赤ちゃん誕生も楽しみです。名前をつけさせて下さい!とか言いそう(笑)

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんにちは
益川さんに起きたこと…彼にとっては大変なことです(◎_◎;)…河内山さんの推理当たってるかも!

そして次ちゃん、早産してしまうのでしょうか。赤ちゃんたちは…??ハラハラドキドキの次回をお楽しみに!

今日は温かいですね、頭がぼーっとしちゃいそうです(っていつもぼーっとしてる私ですがw)。

益川さんはお若いでしょうけど、生え際の後退か、若白髪でしょうか?真面目すぎる人なので、そういうこともありえますな。

次ちゃんに早産の危機が?何事もなければいいですな。早産の為にしなくていい苦労をしてきてますので、気になります。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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