2017-10

「女だらけの戦艦大和」・実体のある幽霊 - 2010.06.09 Wed

「女だらけの戦艦大和」は小笠原をあとにした――

 

『大和』は簡単な補給を済ますと一路、トレーラー島を目指す。駆逐艦無花果も大和にくっついて走る。

既に気温は二十五度を越し始め皆、防暑服に着替えている。

日差しはもう、南方に近い。

海はどこまでも青く、波がしらがキラキラと光る。

防空指揮所の麻生兵曹はそれを目を細めて見る。視線を手近に戻せばそこには見張兵曹がいて一心に双眼鏡をのぞいている。

反対側には、小泉兵曹。後ろ側には亀井一水や石川水兵長がいて見張りをしている。今日は梨賀艦長もここにいて双眼鏡を見ている。

と、後方を見張っていた石川兵曹長が、

「後方より友軍機八機、近付く!」

と叫んだ。麻生分隊士が胸に下げた双眼鏡で見ればそれはこの近海の基地から来た海軍航空隊の零戦隊である。

零戦の指揮官機は翼をバンクさせて四機づつ、『大和』の左右に展開した。

艦長は、「しばらく上空哨戒をしてくれるらしい、さっき通信参謀から連絡があったあれだよ」と分隊士に言った。

分隊士はうなずいて、

「ありがたいことであります。心強いであります」

と言った。更にその時見張兵曹が、

「左前方海上にわが方の潜水艦であります」

と叫ぶ。確かに海面には「日本海軍潜水艦」の『潜望鏡』が突き出ている。これはいつぞや見張兵曹が発明した敵味方識別のための潜望鏡で、制式採用されている。しかし、当初は潜水艦乗員には「ネッシ―の頭じゃあるまいし」と不評ではあったがこれのおかげで「不幸な同士討ち」が避けられるようになったのは有意義なことである。

ともあれ、そのほうを見れば、これも近くの基地から来てくれたらしい「特殊潜航艇」である。見張兵曹は(もしかしたら松尾大尉と都竹兵曹のペアかも)と思った。

確かにその特潜の乗員は松尾大尉と都竹兵曹のペアである。

潜水隊基地から、「『大和』が航行中、しばらく護衛せよ」との命令を受けて発進したのである。

松尾大尉は(いつだったか呉で出会ったあの変な二人が乗ってるのだな)と懐かしかったし、都竹兵曹も(あのおかしな二人が連れていた犬は元気だろうか)と感慨深い。

 

零戦隊と特殊潜航艇はやがて離れて行った。

防空指揮所の面々はそれをちょっと名残惜しそうに見送った。

これから、マリアナ諸島の島伝いにトレーラーまで戻ることになる。このあたりは帝国海軍の制圧下ではあるが、万一の事を考えて用心して進むのである。

それにしても素晴らしい海である。

 

もう少しでサイパン島、という時になって天気がおかしくなってきた。南から黒い雲がわきだすとあっという間に『大和』『無花果』をのみ込むように広がってきた。

そして、最初はポチポチという感じで降ってきた雨も、すぐにしのつくような大雨となった。見張り員の交代要員は、雨着を着こんでいるがちょっと前すら見えない。

海もあれ始め、甲板に波ががぶりだした。

「なんだあ、こりゃあ!」

麻生分隊士は第一艦橋にいてつぶやいた。指揮所から交代で降りてきた小泉兵曹と見張兵曹が帽子の庇から雨のしずくを滴らせて麻生分隊士に報告に来た。

麻生分隊士は、二人に「風邪をひかないようすぐに着替えるよう」言った。本当は分隊士、見張兵曹の着替えを手伝いたいのだが今は荒天のため艦橋を離れられない。

ちょっと悔しそうである。

小泉兵曹が見張兵曹に、

「機関室に行けばあったかいし、服も乾くぞ。行ってみようぜ」

と言って、二人はしずくを滴らせながら機関室へ降りて行った。缶室は運航中は立ち入りは当然できないが、その近所にいれば暖かい。

「この辺にいればいいよ、ほらなんかあったかいだろ」

小泉兵曹が言ってぬれた服を脱ぎ始めた。「ほらオトメチャンも脱げよ」

見張兵曹は躊躇していたがぬれたままでは気持ち悪いので、そろそろと脱ぎ始めた、その時。

後ろから雷のようにでかい声が轟いて二人は飛び上がった。

「何してやがんでえ!貴様ら缶室に入ったら死んじまうぞ!」

振り返ればそこには、機関科の浜口大尉がいた。このヒトはけんかっ早く上陸すると必ずと言っていいほど憲兵さんに喧嘩を売って彼女らを殴り倒すのが趣味という変わった人。憲兵さんの間では「狂犬浜口」と言って恐れられている。

小泉兵曹が不動の姿勢で、

「と、とんでもありません。私たちは外が雨で服がぬれたのでちょっとこちらの熱で乾かしたいと思っただけであります」

と言った。見張兵曹も、浜口大尉を見上げて「同じであります」という。浜口大尉は見張兵曹を見ると、

「お?貴様は航海科のトメチャンとかいう奴だな。うちの松本兵曹長がよく話してるぜ。麻生少尉の嫁さんって貴様かあ、ワハハ、ワハハ!」

と笑いだした。呆然とする小泉兵曹。浜口大尉は、「こっちに来い」と言って二人を大尉の個室に連れて行ってくれた。

「そんなにすげえ雨なのか。・・・おお、よく濡れてらあ」

大尉は二人の服から下帯から脱がして従兵にどこかに持って行かせた。二人は素っ裸である。「心配すんな、すぐ乾く・・で。今どの辺なんだ」という大尉に、見張兵曹が間もなくサイパンに着くと言うことを話すと浜口大尉の顔がちょっとだけひきつった。

「マジかい?そしたらもう『出る』海域ってことか」

「『出る』、でありますか?何が出るんでありますか」二人は興味津津で聞いた。小泉兵曹は自分が丸裸というのも忘れて大尉のほうに乗りだす。

「あのな、この辺には帝国海軍の通称・幽霊艦隊が出るんだよ」

大尉は声をひそめて話し出す。見張兵曹が両腕で胸を隠しながらそれでも先を聞きたくてうずうずしている様子が分かった。

見張兵曹が、「幽霊艦隊ッて、そんな実態のない怖いものがいるんでありますか。いつの時代かに戦死なすった艦隊の霊なんでしょうか」と言うと大尉はもっとおぞましいものを見たような顔で、

「実態があるから怖いんだぜ。幽霊なら実態がねえからそんなに怖かねえがあの艦隊は『実態』があるんだよ。てことはつまり」

「つまり?」

「生きてる人間が動かしてるってことよ」

大尉が言うと、小泉兵曹と見張兵曹はさ―っと顔色を青くした。二人の肌が鳥肌立った。見張兵曹がその場の薄気味悪さを取り払うかのように、

「で、でもですね。生きてる人たちが動かす艦隊なら怖くないと思うんでありますが」と言った。声がちょっと震えているのは寒さのせいばかりではなさそうだ。

大尉はそんな見張兵曹を見ると、

「トメチャンは見たことがないんだろう、あいつらを。怖えぞ、あいつらは。生きてる癖しやがって顔色は蒼いし、目つきなんざつめてえのなんの。しかも口をききやしねえ。だま―ってこっちを見て通り過ぎてくんだぜ?しかもだな、あいつらが出没する時って必ず天気が大荒れの時なんだぜ。その大荒れの天気をものともしねえで艦を進めてくんだからなあ。・・・うっかり見たら一週間はうなされるぜ?」

と脅かした。小泉兵曹も、見張兵曹も恐ろしくなってきた。その時やっと服が乾いたと、大尉の従兵が二人の服を持ってきてくれた。二人はそれを身につけ浜口大尉に礼を言ってそこを出た。

「・・・小泉。私は指揮所に戻るのが、コワイ」

見張兵曹が言うと、小泉兵曹もうなずいた。「まあ、当直まで時間があるからそれまでには天気も良くなるよ。大丈夫だよ」小泉兵曹は言ったものの心なしか元気がない。

第一艦橋に行くとまだ天気は荒れまくっている。艦橋の窓に雨が吹きつけ、ろくに何も見えない。見張兵曹が艦長の席のそばの双眼鏡に着いた、艦長が「服を乾かして来た?風邪ひかないようにね」と言ってくれた。麻生少尉がそっと兵曹の背中に手をやって、乾いていることを確認したようだ。

「はい、ありがとうございます」と言って、見張兵曹が双眼鏡をのぞいた。

「!!」

見張兵曹の口から声にならない叫びが出た。それと同時に防空指揮所の伝声管から酒井上水の悲鳴が届いた。

「ぜ、前方に不審な艦隊!」

見張兵曹が「幽霊艦隊だあっ!」と叫んでその場からすっ飛んで、麻生分隊士にしがみついた。小泉兵曹も、悲鳴を上げて艦長にしがみつく。

確かに。

『大和』のはるか前方を航行して行く不審で幽霊のような艦隊がいる。雨のしぶきや波しぶきをまとい、ぼうっとした印象が気味悪い。

その艦隊は『大和』のほうに転舵したようで、『大和』とすれ違いのような形になった。

更に指揮所から「ギャー―!」という叫びが。

見張兵曹が双眼鏡でその艦隊の中心にいる戦艦を見たが、その戦艦の露天艦橋に荒天にもかかわらず居並ぶ兵たち――士官や艦長もいるのだろう――の顔は蒼くって幽霊そのものである。その彼女らがじろり、と『大和』を一瞥した。

『大和』の指揮所や艦橋に冷たいものが流れたような気がする。

指揮所では大雨の中、酒井上水らが気を失って倒れ、第一艦橋では見張兵曹と小泉兵曹も倒れてしまった。

 

彼女らが通り過ぎて天気が元通りによくなった。

梨賀艦長は大笑いして見張兵曹・小泉兵曹・酒井上水たちに言った。

「あれは幽霊じゃないよ、ちゃんとした海軍の艦隊で敵が出そうな時ああやって出てくる専門なんだよ。ただみんなちょっとだけ変わってるから誤解されるんだけどね。敵の撃退を一発も砲弾を打たないで出来る艦隊って言って有名なんだけど・・・知らなかったぁ?」

・・・知りませんでした。

 

同じころ駆逐艦・無花果でも艦長の菅 直子艦長がこの「幽霊艦隊」に腰を抜かし、その真相を古い下士官から聞いて「野郎!脅かしやがってただじゃおかねえ!」とキレまくっていた。

『イチジク浣腸』のあだ名の艦長は、「キレ菅」とのあだ名ももらってしまったそうである。御愁傷様。

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

海は広うございますから、こういう話があっても良いでございますね。

しかし黒い雨雲の向こうから気味の悪い艦隊がやってきたら・・・敵ならずとも逃げたくなりますね。


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● COMMENT ●

としぼーんさんへ

こんばんは!!

動画拝見しました!
「大和」が出てきてうれしかったですし、203高地や日本海海戦、知覧の特攻隊も出てきて色々と考えさせられます。
英霊来世さんの曲もいいですね、歌詞がとてもいいです!!

ジスさんへ

こんばんは!!

デスラー総統!あの方も見事に「青い」ですよね。なんかある時から突然「青く」なったという話がありますが、マジ?

さて「女だらけの大和」、これから大変!--になりそうな予感です。

チハタンさんへ

こんばんは!!

海尼僧。
なんかすごいものを想像してしまったww。
これにだけは遭遇したくないというような・・・。

としぼーんさんへ

こんばんは!

本当に最近、ろくなニュースがないですね、私もTV見ては腹立てていますよ。としぼーんさんのブログではいろいろと考えさせていただいています。私はまだまだ勉強不足ですので大変いい勉強になります。

「女だらけの大和」が、ちょっとでも癒しになってくれればうれしく思います。

松ちゃんさんへ

こんばんは!!

いやあ(爆)でしたよ。ルーズベルトの藁人形ww。
掲げるだけで敵は戦意喪失、かな?

こちらは極力血を流さずに勝つのがいいですね。向こうさんはともかく、ねww。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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