2017-09

逢いたいあなた 8 解決編 - 2017.01.26 Thu

機動部隊の空母四隻それに随伴の巡洋艦駆逐艦他はトレーラー水島に帰投したーー

 

『飛龍』艦内では入港に際しての点検などが行われ、安田兵曹は

「上陸は明後日以降だな。桜本さんも『大和』に帰るのはそのあとになるけど、『大和』にはちゃんと連絡行くから安心してね。それよりみんなで上陸して遊ぶのが楽しみだなあ~」

と言ってうきうきしている。

桜本兵曹もうれしそうにそれをみていたが急に(これでみんなともお別れなんじゃなあ。なんだか寂しいていけんわい)と思って視野が涙でかすんだ。でも、とオトメチャンは思い返した、(これで水島に帰ったら、紅林さんに会うことができる。紅林さん、うちはあなたに逢いたい。早う逢いたい)と。しかし『飛龍』で優しくしてくれた皆との別れは、つらい。

安田兵曹はそんなオトメチャンを見て

「いいねえ、許嫁の居る人は。喜んだ顔も憂いを含んだ顔もきれいだねえ…ああ私も早くそうなりたいなあ」

と小さな声で言った。そして安田兵曹もまたオトメチャンと別れなければならない寂しさに耐えているのであった。

 

そんなころ、トレーラー水島の目抜き通りはたくさんの海軍将兵嬢や現地の人々、在トレーラーの日本の会社の社員などでにぎわっていた。

そろそろ夕暮れ時、店店の軒下にはランタンが灯され、あるいは電灯が光り華やいだ雰囲気になりつつある。その雑踏の中を歩く一組の男女はひときわ目立っていた。海軍将兵嬢たちは

「ええねえあのお二人、お似合いじゃわあ」

「あの女性なかなかきれいね、男性も素敵。いいねえ似合いの二人」

「私もあんな素敵な人と歩いてみたい」

と目をそばだててささやき交わして通り過ぎる。それほど目立つ二人こそーー紅林次郎と香椎英恵である。二人は、すっかり意気投合して仕事が終わると待ち合わせてこうして歩いているのだ。もう四日、いや五日めになろうか。英恵は幸せそうに紅林の横について歩く。紅林も優しく英恵を見つめて歩く。

紅林は

「あなたがこんな素敵な女性になって居たなんて思わなかった。なんだ、もっと前からあなたとお付き合いしてたらよかったなあ」

と半ば冗談ぽくいってほほ笑んだ。英恵は周囲の男女がしているように、紅林の片方の腕に自分の腕を絡めると

「あら、今からだって遅くはありませんわよ。私独りですから」

と言ってこれもほほ笑んだ。すると紅林はかすかに悲しそうな表情になり、香椎英恵はいぶかし気に紅林の顔を見上げた。

「どうなさったの紅林さん…楽しくないの?」

英恵の声音さえ悲し気になって紅林は慌てた。紅林は急いで彼女を路地に引き込んだ。路地を入ると表通りの喧騒が少し遠くなった。

そこで彼は路地を先に進んだ。数分歩くともう、海辺に出た。夕日は水平線に沈み、残照だけがはるかな水平線を名残惜し気に浮き立たせている。二人は砂浜に立って残照の消えるのを見ていた。すっかり日が落ち空に星が瞬きだしたころ、紅林はやっと口を開いた。彼は英恵の両肩に手を置くとその瞳をまっすぐに見つめ

「私には、実は将来を約束した人が居るんです。その人は、海軍の下士官で…ここに停泊の大きな艦に勤務しています。でもその人は大きな作戦に出て行ったとかで、まだ帰ってきていないんです。無事かどうかさえ今の私にはわかりかねる。そんな状態なんです」

と告白した。

英恵の瞳が潤んだ。そして

「あなたにそんな人が居たなんて。許嫁がいらしたんですね。そしてその人があなたはご心配なのね」

というと切なそうに泣き始めた。すると紅林は

「でも、正式に許婚になったわけじゃないんです。まだきちんと私の親に紹介しているわけでもないんです。だから、…」

とそこまで言うと言葉を切った。英恵は彼の瞳をじっと見つめて「…だから?」と先を促した。紅林は一息大きく息を吸うと

「白紙に戻しても、かまわない」

と言った。その一言で、彼の心は一気に英恵に傾いた。英恵は彼の胸に体を寄せ、紅林はその細い体をしっかり抱きしめた。

 

『大和』では、オトメチャンの分隊もほかの分隊も

「機動部隊、投錨じゃ。いよいよオトメチャンが帰って来んさるで!話をはように聞きたいもんじゃ」

と喜び合っている。

そんな中で小泉兵曹と石川兵曹はどことなく浮かない顔つきである。石川兵曹は

「まだ桜本兵曹の許嫁いうおひとからなあも連絡がないんですか…いったいどうしてしもうたんでしょうねえ」

と言って小泉兵曹を見た。小泉兵曹も困ったような顔つきで

「もうオトメチャンが帰ってくるいうんになあ。帰ってきたらいの一番に会わせてやりたいんじゃが、本当にどうしたんじゃろうねえ?」

と言って腕を組む。石川兵曹は

「まあほいでもお相手さんも忙しいお人らしいですけえ、気にはなっとりんさるじゃろうが連絡もままならん、いうことかもしらんですよ。桜本兵曹がお戻りになるまで待ってみましょうよ」

と務めて明るく言った。そうでもないと不安に押しつぶされそうだった。その兵曹の心を解って小泉も

「ほうじゃな。忙しすぎて連絡できんいうこともあるな。まあちいと待ってみようか」

と言って笑って見せたのだった。

 

紅林はあっという間に英恵におぼれた。

英恵のすべてに。

桜本トメにはなかった大人の色香、可愛らしさ育ちの良さ。それに話術の巧みさ…それらは英恵の年齢と社会経験の年数からきているものであるが、トメにはないものばかりであった。「小泉商店」にも女性社員はいることはいたが会社経営に深く参画しているものではなく単に事務を執るだけの社員であり、英恵とは全く違う。てきぱきと部下に指令を出して現場で働く英恵は輝くばかりに美しかった。

会社こそ違っているがこんどは合弁会社で一緒に働けると思うと紅林の心は今までにないほど弾んだ。そして彼は桜本トメとの、あのささやかであったが幸せな時間を忘れ去っていた。

英恵は星明りの下、彼に抱きしめられていた。軽く身じろぎをすると彼は、英恵の頤にそっと指先を当て上向かせた。そして紅林は英恵の唇に自分のそれをそっと重ねていた。

二人のシルエットは離れることがなかったーー

 

それから三日ののち。

オトメチャンは『飛龍』に別れを告げるときが来た。見張長・河原田少尉は泣きそうになりながら

「ありがとうね。あなたのおかげで機動部隊は助かりましたし大いに面目を施しました。本当にありがとう。いつか、『飛龍』に勤務になってほしいです…またどこかで会いましょうね」

と言ってオトメチャンを抱きしめてくれた。航海長の桐橋少佐も名残惜しそうにオトメチャンを見つめ

「ね、『大和』に帰るのやめない?ここに残れるようにしてあげようか?」

と冗談とも本気とも取れるような言い方をして周囲の皆は泣き笑いになった。安田兵曹が「今夜は航海科のみんなでオトメチャンの送別会をします。歓迎会をできなくって申し訳なかったですが。航海長に上陸の許可をいただいておりますので、みんな!オトメチャンが今夜は主役だよ」と言って航海科の皆はわっと歓声を上げ「オトメチャン万歳、帝国海軍万歳!軍艦大和万歳、空母飛龍バンザーイ」と大声をあげ万歳三唱した。

 

夕刻。

オトメチャンは飛龍の皆と水島の繁華街を歩いていた。小柄なオトメチャンは皆の輪の真ん中になって歩いている。皆の背が高いので輪の外が見えないが次々に話しかけられ周囲の様子を見る余裕もない。しかし楽しいオトメチャンである。今まで知らなかった人たちとのうれしい出会い、オトメチャンは心の中で今度の<お手伝い>に感謝した。

「そこそこ、そこの見世に入ろう。オトメチャンはここ、知ってる?ここは私たちがトレーラーに来るとよく使う見世だよ」

安田兵曹の声に皆が「さあオトメチャン行くよ!ここはめしが美味いんだよ」と背中を押してオトメチャンは「ほうですか!ほんならうちたくさんいただこうかいねえ」と喜んで一行はぞろぞろ店の中に入って行った。

 

その直後。

紅林と英恵が見世の前を通って行ったのをオトメチャンは知る由もなかったーー

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

オトメチャンやっと水島に帰ってきたというのに。

紅林さん心変わりですか?あんまりですね。そして香椎英恵さんは本当に彼をオトメチャンから奪うつもりなのでしょうか。

この三角関係のお話はまたそのうち…。

松田聖子 ブルーエンジェル


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● COMMENT ●

河内山宗俊さんへ

すべての男性がこんなだとは言いませんがたまに入るんでしょうね、いい人が居ながら心変わりする人。女もたいがいではないでしょうが…(◎_◎;)。
しかしオトメチャンは男性不信に陥ること必定ですね。
今後の二人、いや三人を注視してやってください!!

ponch さんへ

もしかしたら…破局になってしまうかもしれないオトメチャンと紅林。紅林さんあんなにオトメチャンを気に入っていたはずなのに。
早く美しい白無垢姿を見たいですよね~。

オトメチャンの身長、155にちょっと欠けるくらいです。海兵団入団の際、身長が足りないのを審査官嬢に「「背伸びしてごらん」と言われその身長で入団したのですw。

先日のあの綺麗な素晴らしいイラスト、壁紙にさせていただきました!とっても素敵です、ありがとう!!

ちょっと気になっていたところですが、やはりといえばやはり。
自分も含めて男はバカばっかりですから、いつでもそばにいる女性にうつっちまうんですよね。まさかの寝取られという展開なんで、オトメちゃん男性不信になってしまいそうですが。

えーオトメチャンこのまま紅林さんと破局ですかぁー。
自分のまぶたに浮かんでたオトメチャンの白無垢姿が、また遠のいてしまいましたねー。
それにしても紅林も移り気な男ですねッッこんな移り気な男と結婚するくらいなら結婚前に別れた方がいいかも。

それはそうとオトメチャン結構小さいんですね。自分は身長155センチ前後を想定して描いたのですが、実寸はそれより小さいのでしょうか。

鍵コメMさんへ

鍵コメMさんこんばんは
そんなことになりました(;´Д`)。またよろそくお願いいたします。

鍵コメ様もいろいろお大変ですね、断り切れないことって人生においていくつかありますが…もうやるしかないですね。
お体にはお気をつけてくださいますように^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
まったくしょーもない紅林です(# ゚Д゚)!あんなにオトメチャンにご執心のようだったのに大人の女の色香に惑うなぞ男の風上に置けん!あまりにオトメチャンがかわいそう…
春の風に乗ってオトメチャンにも幸せが来ますようにと願わずにはいられませんね。

気温差が大きくなりそうです、どうぞご体調にはお気をつけてくださいませ^^。

紅林~(*`Д´)ノ!!! お前なんか極寒からお断りだぁ!!! しばし( ; ゜Д゜)とした後、怒り爆発😡💣⚡ですわ。長い人生いろいろあるけれど、心の揺れもわかるけど、時期が悪すぎますわ。
明日は南風であたたかくなるとか。オトメちゃんにもあたたかい、しあわせな時が早くきますように!

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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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