2017-10

逢いたいあなた 7 - 2017.01.24 Tue

香椎英恵は紅林次郎の前にたつと「お久しぶりです」とあいさつしたーー

 

紅林次郎は「ああ、香椎さん!本当に久しぶりですね」とほほ笑んだ。昔、紅林の伯父と一緒にいた時逢ったことのある英恵。あの時よりずいぶんと大人の女性になった、と彼は思った。そして

「あなたのお父様はお元気ですか?伯父はまだ〈南洋新興〉に勤めてるようですが」

というと英恵ははい、とうなずいてから紅林をじっと見つめて

「あなたの伯父さまは昨年参与になられました。定年をお迎えになられましたので…、それで私の父は社長になりました。あなたの伯父様には昔からとてもよくしていただいています。私も学校を終えた後〈南洋新興〉に入りました。ひとからは『親の伝手だろう』などと陰口を言われましたが、私は自分の力で入りました。今はやっと認めていただけるようになって今回は〈小泉商店〉との合弁の推進室室長としてここに来ました…紅林さんがこちらにいらっしゃると風のうわさに伺って、お会いできるのを楽しみに参りましたの。どうぞよろしくお願いします、紅林さん」

と言って頭を下げた。

その所作に、紅林は思わず胸がときめくのを感じていた。かつて会ったときには何とも思わなかった英恵、そしてその後自分には「桜本トメ」という許婚もできている。がしかし、今夜ここで香椎英恵に会ってその『大人の女性』、しかもしとやかな女性に触れた紅林の心のうちにある変化が生じ始めているのを本人は感じ始めている。

確かに桜本トメは英恵より美しいかもしれない。美しさだけなら彼女の右に出るものは他にはいないかもしれないというほどの美しさである。

がしかし。

美しさだけでは満たされない何かが、彼にはあった。それが何なのか、よくはわからないが満たされていないのは確かだった。もしかしたらそれは、なかなか会えずにいることなのかもしれない。あるいは、トメに大人の女を感じにくいからかもしれない。

ともあれ、紅林はまた明日英恵と会う約束を取り付けその晩は小泉商店の宿舎へと帰って行った。

 

そのころオトメチャンは見張の当直を終え居住区に帰ろうとしていた。

ふと(格納庫、いうんを見てみたい)と思い立ち零戦や艦攻などの格納されている場所に行ってみた。今まで彼女が見たことがないたくさんの飛行機が並んでいて、オトメチャンは「ほう、すごいもんじゃのう」と声を上げていた。と、「誰かな、そこにいるのは」と声がして一機の九七艦攻の陰から二人の搭乗員嬢が出てきた。飛行服姿の中尉嬢。

その袖章はどちらも中尉で、オトメチャンは慌てて敬礼した。すると搭乗員嬢たちは笑いながら

「そんな堅苦しいことしなくていいよ、もう消灯時間を過ぎている。誰が見てるわけじゃないから気楽にいこうよ…あなたは手伝いに来たという下士官かな?」

と言ってオトメチャンを九七艦攻の前に手招いた。ええんでしょうか、というオトメチャンに艦攻搭乗員の二人は微笑んで

「いいに決まってるでしょ。〈艦攻のねえさん〉がいいというんだ、さ、おいでなさい」

と言ってくれてオトメチャンは喜んで二人のほうへ走り寄って行った。艦攻の搭乗員の中尉嬢はそれぞれ「中井」に「寺尾」だと名乗った、オトメチャンも自己紹介すると二人は驚いたような顔になり

「あなたが、あなたがあの『大和』で有名な見張の達人なんですね!いやあ、なんて光栄なんだろう」

と言って顔を見かわしてうれしそうに笑っている。オトメチャンは恥ずかしくてたまらない。その様子を見て二人の中尉嬢は

「いいねえ、初々しい。鼻にかけないところがこれまた素晴らしい」

と言ってオトメチャンを挟むように座るとあれこれ菓子などだして話に花を咲かせた。オトメチャンはすっかり二人のとりこになり

「艦攻のねえさま。これからもどこかでお会いしたらお話してええでしょうか」

と言って中尉嬢たちは「もちろん!その日を楽しみにしていますよ」と喜んでその晩はそれぞれに分かれて行った。

 

オトメチャンが居住区に帰ると、仲間たちが「おおー!どこ行ってた桜本兵曹―」と怒鳴るように言ってまとわりついてきた。隠し持っていた酒を少し飲んだようだ。安田兵曹がオトメチャンの肩に手を回し

「もうちょっとでトレーラーだ。なあ、水島に戻ったら私たちと最後に遊ばない?だって帰ったらあなたは『大和』に戻ってしまうでしょう、私…悲しい寂しい」

というと泣き始めた。泣き上戸のようだ。

そばにいた下士官嬢たちが笑って

「やっさんはすぐ泣くなあ。…で、どうかなあ桜本さん。『大和』に帰る前にちょっと水島で遊ぼうよ」

と誘う。オトメチャンは誘われてうれしかった、だから

「うちなんかでええんですか?うれしい、ほんなら一緒に遊びましょうや」

と答えて皆は「うおー!『大和』のぴかイチ見張嬢と遊べるぞー」と大騒ぎ。挙句にオトメチャンを担ぎ上げて部屋中を「わっしょいわっしょい」と練り歩く始末である。

担ぎ上げられながらオトメチャンは(こんなにうちを思うてくれるなんて…うちは果報者じゃな)と思うのであった。

 

それにしてもあの激しい戦いを終えた彼女たちは心がささくれていたのは確かである。オトメチャンをダシにして、というとよくない言い方ではあるが手伝いに来てくれて大きな成果を上げてくれたオトメチャンを中心に据え騒ぎたいというのも『飛龍』の航海科の皆の本音である。

安田兵曹はまだ涙を流しながら

「トレーラーに帰ったら、いい男に抱かれたい。うん、抱かれたいぞ。この服のボタンをこう、やさ~しく外してくれてさ…『お疲れさまでした、さあどうぞ』かなんか言ってくれたらもう、最高だよねえ」

と言って周囲の航海科員は大笑いをしている。航海科の一人、相原兵曹が

「いいねえ、私もそうしたい。ねえ、桜本兵曹はどんな男が好き?今までどんな男と遊んだ?」

と聞いてきてオトメチャンはちょっと慌てた。そしてほほを紅く染めながら

「うち、その、あの…。まだうちは男の人を知らんのです」

と告白した。ええーっ、うそおーっ、と悲鳴のような叫びが上がり皆は一斉にオトメチャンのもとに殺到し

「なんでなんで?どうしてどうして?」

と姦しい。オトメチャンはびっくりしながらも「うちなんだか男の人が恐ろしゅうて。ほいでもこんなうちでも許婚がおるん」というに及んで皆の叫びは一層大きくなりついにほかの居住区から「なになに、いったい何事!」と駆けつける始末。

話を詳しく聞いた皆ははあ~っと桃色のと息を吐きながら

「いいなあ~…許婚がいらっしゃるなんて。うらやましい。私もほしい許婚―」

と言ってオトメチャンをうらやましげに見つめる。安田兵曹が

「やっぱり桜本さんみたいにきれいで勇ましくて楚々とした人でないとだめなのかも…。そしたら私たちみんなだめじゃんね」

と言ってその場の皆は大笑いになったのだった。

 

さてトレーラー水島停泊中の『大和』防空指揮所ではその日も小泉兵曹たちが見張業務に励んでいる。小泉兵曹の横に、ハッシー・デ・ラ・マツコにトメキチ、そしてニャマトが立って

「トメさんまだ帰ってこない、どうしたんだろう」

と話し合っている。小泉兵曹が双眼鏡をのぞいたままで

「ほうじゃのう。もう二週間になるがなあも言うてこんなあ機動部隊。オトメチャンを借りたまま内地に帰ってしもうたんじゃろうか?」

とつぶやいてマツコたちは軽い恐慌に陥った。小泉兵曹は足元の軽い騒ぎに

「まあそんとなこともないじゃろうが…心配じゃなあ」

と言ってマツコは「そうよ、あの人はここにいるべき人なんだからさっさと返してほしいわよね」と言いトメキチは「トメさんがいない『大和』なんて」と悲しげにつぶやきニャマトさえ「ギャマド!」と言って怒っているようだ。

そして小泉兵曹はそのままの姿勢で

「ほいでな、うちにはもう一つ気がかりがあってじゃ」

と言いマツコたちは小泉兵曹に飛びついて「なになに?気がかりって何よ教えて」とせっつく。小泉兵曹は双眼鏡を二度、右に寄せてから

「それがなあ。オトメチャンの許嫁の紅林さん、あの日から全くなあも言うて来ん。どうしたんじゃろうか…忙しいんじゃろうか」

とまたつぶやいた。

マツコたちはその小さなつぶやきを聞き取りかねたが「まあトメさんなら何でも上手くやるわよ。案ずるより産むがやすし」と言って、マツコはトメキチとニャマトを背中に乗せてトップに舞い上がって行った。

小泉兵曹はまだ、

「ほいでもなあ…、あれほどオトメチャンに逢いたがっとってなけえ、もうちいと頻繁に連絡があってもええとうちは思うがの」

とぶつぶつ言っている。

 

その日の日暮れごろ、石川兵曹が「小泉兵曹小泉兵曹!」と叫んで走ってきた。おお、どうしたんねとその体を抱きとめた小泉兵曹に石川兵曹は喜びをあらわにして

「通信科から聞いてきました!機動部隊が明後日にもトレーラーに帰ってくるらしいです。どの艦も飛行隊も皆無事。じゃけえ桜本兵曹も無事ですよ!なんでも戦勝を敵に悟られんように無線封鎖をしとってなけえ今までなあもわからんかったんだそうです」

と大声で言って笑った。「本当かそれ!ああ…えかったわあ、うち心配したんじゃけえ」と小泉兵曹は言うなり石川兵曹を抱きしめて泣き始めた。そして

「これで、これでオトメチャンは紅林さんと逢える。ああ、えかった、ほんとうにえかった」

と言ってさらに泣いた。

 

しかしそんなころ肝心の彼は、香椎英恵と一緒にトレーラー水島の繁華街を歩いていたのだった――

 (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

紅林さんどうしたんですか!!と言いたくなる展開です。香椎英恵とどうにかなっちゃうんでしょうか。そしてオトメチャン『飛龍』航海科の皆に囲まれて楽しそうです。青春の一ページと言った感じでしょうか。

 

ちょっと気になる「海軍グッズ」ご紹介です。

ギガントさん謹製「帝国海軍トートバッグ」です。艦体をイメージした紺と赤のツートンカラーの本体に、ボタン止めのついた開口部。そして中のポケットには「敵艦隊見ユ」のモールス信号がプリントされています。手提げ・肩掛け両方のひも付きです!
ギガントトートバッグ1 ギガントトートバッグ2 ギガントトートバッグ3 ギガントトートバッグ4

(画像ギガント様よりお借りしました。ギガントさまのHPはこちら)

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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます!
コメントをありがとうございます、今までご迷惑をおかけしてごめんなさい。またたくさんコメントくださいませ♡

紅林。どうしたんだオトメチャンをその気にさせておいて~~~と女性陣から苦情がたくさん来そうですがどうしたんだホントに。英恵の色香に惑ってしまったんでしょうか…
こんなことをオトメチャンが知ったら、大変なことになりそうですが(;´Д`)、この先をお楽しみに^^。

今朝も氷点下の寒さ、なんだか心臓が痛むような気がしますね(-_-;)。オスカーさんもどうぞ暖かくしてお風邪など召しませんように!

こんばんは。
紅林~なにしとんじゃ~(*`Д´)ノ!!!
ああ、なんてことでしょう・・・オトメちゃんには知られたくない、見せたくない~男女のことはいろいろありますが、でもでも・・・! とても続きが気になります! 明日も寒さが厳しそうです。あたたかくしてお過ごし下さいませ。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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