2017-09

逢いたいあなた 5 - 2017.01.22 Sun

その戦いは決して楽なものではなかったーー

残敵掃討戦はなかなか困難を極めた。イギリス軍は残った武器を総動員して抵抗し、『飛龍』ほかの空母の飛行隊は苦戦を強いられる羽目になった。
山口司令官は第一次攻撃から帰艦した攻撃隊長・安達中佐は
「第二次攻撃の要ありと認めます。敵は高角砲多数所持しています。たたきつぶすのは今しかありません。幸いにも敵飛行機は一機も見当たりません」
と緊張気味の声音で言いそれを聞いた山口司令官は即座に第二次攻撃隊を出した。戦闘服に身を固め、艦橋上部の防空指揮所にいるオトメチャンの目の前の飛行甲板を次々に艦攻・艦爆・そして零戦が飛び立ってゆく。オトメチャンは上空哨戒を怠りなく双眼鏡をのぞき続ける。
(残敵掃討…しかし本当に敵は飛行機の一機も持っとらんのじゃろうか)オトメチャンは、第二次攻撃隊が編隊を組んで飛んで行った空を見続けている。

それから三十分もしたころ、オトメチャンは何か…違和感のようなものを感じていた。しきりに周囲を見回し双眼鏡を回すオトメチャンに河原田少尉は
「どうした桜本兵曹?」
と問いかけた。オトメチャンは双眼鏡から目を離さないでいたがふっと双眼鏡を離し、鉄兜のふちに手をかけ、
「気配がします…敵の」
と言いそのあとすぐはっと上空を見上げると
「敵機直上!!急降下―ッ」
と叫んだ。なにっ、とその場の皆が見上げ見張長は伝声管へ「面舵一杯!」と叫ぶ。まぶしい太陽の光の中から湧き出でたのは四機のスピットファイア。『飛龍』ほかの対空砲火が火を噴いたが、次々に爆弾を投下。『飛龍』たち空母は回避の面舵を切っている。
「避けられない…」
オトメチャンは呆然とつぶやいたーー


トレーラー水島の港に〈小泉商店〉の大きな船が接岸して二三日ほどが経った。その間しばらく船上は人の行き交いが激しかったがやがて落ち着いたようである。
舷梯を伝って大きな荷物を下げた二人の男性が下りてきた。その一人、やや年配の男性はトレーラーの土を踏むなり荷物をドンと地面に置き、大きく伸びをすると
「やっぱし南方じゃなあ。熱い暑い。ほいでもわしは暑い方が好きじゃなあ」
と言いもう一人の若いほうはやたら周囲をきょろきょろしている。そして若いほうの男性―彼こそ紅林次郎であるがーは
「柴本さん。わたし、支社長へのご挨拶が終わったらちいと行きたい場所があってですが、ええでしょうか。長い時間は取りません、ちいとのあいだですけえどうか」
とどこか切羽詰まったような声で柴本と呼んだ男性に頼み込んだ。柴本はなんじゃいったい、と笑いながら
「ええよ。なんじゃそんとに切羽詰まったような顔して…。あ!もしかして遊郭にでも行きたいんじゃろ?図星じゃな」
と言ったが紅林は至極真面目な顔で首を横に振り、
「ちがいます。私はその、あの…。言います、私の許嫁がここトレーラーに停泊中の艦にいるんです。もう長い間逢っていないのでやっと会える思うてうれしいてならんのです」
と言った。柴本は「あ、紅林君の許嫁さんか、ここに居るいうんは」とやっとわかったといった顔になった。柴本は
「ほんなら早う逢いたかろう。そうとわかれば急いで支社長にご挨拶しようや。さ、善は急げ急げ」
といってほっほっと笑いながら紅林の背中を軽く叩くとトレーラー支社の建物目指して歩き始める。
トレーラー支社では支社長の小泉進次郎が待っていて二人の姿を見ると両手を広げて迎え、
「柴本さん、紅林さん!トレーラーにようこそ。疲れたでしょう?」
と言って長旅をねぎらってくれた。二人は小泉支社長に挨拶し
「ほかの社員も今日中には船を下りてここに来ます。私たちは急ぎ、到着をお知らせしたくて一足先に参りました」
と言って支社長の進次郎は「わかりました、では宿舎に案内しましょう」と二人を自ら宿舎にと案内してくれた。柴本を一室に案内し、進次郎は「では紅林さんはこちら…」とその隣の部屋に連れて行ったがドアを開けると
「ちょっといいですか紅林さん」
と紅林をそっと部屋に押し込んで
「海軍の姉から連絡がありましたか?あなたの許嫁さんのことなど」
と言った。紅林ははい、と言ってから「しかしやたらと連絡をしていいものかどうか、わからんのです」と正直な心情を吐露した。進次郎はうなずいて
「姉から『紅林さんがいらしたら、上陸桟橋に来てそこの衛兵詰所から発光信号を打ってもらってほしい、メンカイシャアリ、と打ってもらえば行けるから』と聞いています。今から上陸桟橋に行って、姉と会ってきてください」
と言った。紅林は感激して、この年若い支社長の顔を見つめ「ありがとうございます支社長」と言って頭を深く下げた。
そして彼は上陸桟橋を目指して歩いた。だんだんとその表情に不安が満ちてきた。
(桜本さんは、特別な任務でここにはいないと聞いたが…)
防諜の意味もあって許嫁の桜本兵曹が特別任務を負って出ていることは柴本には言わなかった。言えないがゆえに余計不安が増した。果たして彼女は無事で任務につけたのか、そして無事にここに帰って来られるのだろうか。
不安なまま彼は上陸桟橋に到着しそこで「『大和』の小泉純子一等兵曹を」呼び出してほしい旨を伝えた。〈小泉商店〉の社員の願いとあって衛兵長はすぐに発光信号を打ってくれた。
しばらく待って『大和』からランチがやってきた。
降り立った小泉兵曹に駆け寄った紅林次郎は
「お嬢様、お久しぶりです」
とあいさつし、小泉兵曹は「ああ、あの時の」とすぐに応えた。以前、梨賀艦長が大地震に巻き込まれた際に出会った女性と、「小泉商店」の社員の一人とのちょっとした事件の際、実家の「小泉商店」でちらとあったことを思い出した。
(はあえかった。紅林さん言う人はうちの好みとは違うたわ。もしうちの好みだったらどうしよう思うたが…一安心じゃ)
小泉兵曹はそんなことを想ってほっとしていたが、不意に顔を引き締めると紅林をそっと物陰に引き込むと
「これから話すことは絶対誰にも言わんでつかあさい。〈軍極秘〉にも等しい事案なけえ、これだけはどうか願います」
と前置きしてから、桜本兵曹は空母の見張りに欠員が出て手伝いに行ったこと。そしてそれは単なる手伝いではなく作戦行動のためのものであること、そして
「なんでも残敵掃討戦という話じゃったがむつかしい戦らしいんです。…で、…うちが今日通信科の兵曹に聞いたところでは…」
というと顔をうつむけた。紅林は小泉兵曹の肩をつかんで
「どうしたんです、なにがあったがです?言うてつかあさい」
と言った。小泉兵曹はつらそうな瞳で紅林を見つめると、ごくりと喉を鳴らして言った、
「昨日昼前から…桜本兵曹のおる機動部隊からの通信が絶えてるんじゃそうです」。

紅林次郎の目の前が、真っ暗になった。

そしてその同じころ、「小泉商店」の船のそばにもう一隻の大型民間船が接岸した。柴本は支社長の進次郎とそれを見て
「ほう、<南方新興>も来んさったんですね。これで一層合弁事業に弾みがつきますな」
と声を弾ませた。
だが、この船にこそ…厄介なものが乗り込んできていたのだーー
  (次回に続きます)

           ・・・・・・・・・・・・・・・・
なんとオトメチャン、いのちの危機です。今まで戦死者の無かった『女だらけの帝国海軍』ですがとうとう戦死者を出してしまうのでしょうか。
そして紅林さん、小泉兵曹から衝撃の事実を聞いてしまい…、さあこの後どうなりますかご期待ください!
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● COMMENT ●

ponch さんへ

ponchさんこんにちは
久々の戦闘シーンなんですがちょっと迫力不足だったかな?
オトメチャンたちの無事が心配ですね…

別ブログの件、ponchさんのブログコメント欄に書きこませていただきました、記事と関係ないこと書きこんでごめんなさいね。そんなわけです(-_-;)。それから申し訳ないのですがあのコメントをお読みになられましたら削除していただけると幸いです。あれこれごめんなさい!

No title

久し振りの戦闘場面ですね。帝国海軍がどうなるのか、オトメチャンは無事に生還できるのかドキドキハラハラしますねー。
ところでgooブログの方が見れなかったんですけど、何かあったんですか。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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