逢いたいあなた 4|女だらけの戦艦大和・総員配置良し!

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逢いたいあなた 4

2017.01.22(21:24) 2204

オトメチャンこと桜本兵曹の乗った空母『飛龍』は、トレーラー水島を粛々と出て行った――

その『飛龍』を水島港に入ってきたばかりの〈小泉商店〉の船上の紅林次郎が見ていた。隣に立っていた紅林の同僚が目を細めてそれを見つめながら
「大きなフネじゃのう。ありゃなんじゃろう」
と言ったのへ紅林も首をひねって「私もようわからん、しかし甲板がまっ平らじゃけえあれが空母、言うもんじゃろうね。ここに来るといろんな海軍のフネが見られる言うて聞いてきたがほんまじゃの」と言った。
同僚の丘田は
「ありゃ、紅林には海軍さんの許嫁がおる言うて聞いておるが、いろいろ教えてくれんのか?」
と言って紅林の顔を見た。紅林は首筋を伝う汗をハンカチでぬぐいながら
「ほりゃあ丘田さん、〈軍機〉いうもんがあろうが。いくら許婚でもペラペラしゃべれんことがあろうが」
と言い丘田も「ほりゃほうじゃの、つまらんこと言うたわい」と言って二人は笑った。
遠ざかってゆく『飛龍』、その艦上に桜本トメがいるとは夢にも思わない紅林次郎である……

『飛龍』はトレーラー出撃後、偽装進路を取りつつ進んだ。見張長は胸に下げた双眼鏡をのぞきながら
「今度の残敵掃討作戦は、帝国にとって大事な戦いだからね。敵に気取られるわけにはいかないんだ。ラシガエ島の先の島には時間をかけて進むからね」
と教えてくれた。艦内の緊張感がいやがうえにもオトメチャンにも伝わり、オトメチャンは双眼鏡に目を当てたまま
「わかりました。うちも今以上に気ぃ張ってやらんといけませんな。がんばります」
と言って見張長はうなずいた。
その言葉に周囲の見張り員嬢や信号員嬢たちもほほを紅潮させてうなずいている。

その日から五日ののちには「蒼龍」、「瑞鶴」「翔鶴」が合流。それぞれに随伴の駆逐艦や巡洋艦を合わせてもに二十隻ほどの堂々たる機動部隊である。オトメチャンは安田兵曹に
「交代だ。はい、昼飯だよ」
と差し出された握り飯を貰って、それを食べながら艦隊を見回した。初めて乗って、初めて目の当たりにする〈機動部隊〉の艨艟に彼女の胸は躍った。
「飛龍」を先頭に単縦陣形を組み発光信号を放ちながら進む艦隊はこの上なく頼もしく、しかしそれを見つめるオトメチャン・桜本兵曹の胸には一抹の寂しさがよぎった。それは
(ああ、この艦隊の中にどうして『大和』は居らんのじゃろうか…)
という思いである。(『大和』がおったら、そんとな残敵なんぞ一瞬で吹っ飛ばしてしまうんになあ。ああ残念じゃなあ)
オトメチャンは二つ目の握り飯を手に取って食いつきながら
(ほいでもうちはここで『大和』のみんなの期待に応えんならん。うちの頑張りは『大和』の頑張りじゃ。うん、しっかりせんといけんな)
と決意を固めた。

ラシガエ島周辺には敵の姿はないと先発の潜水艦部隊からの入電があり、加来艦長以下『飛龍』幹部は、山口たも司令官に
「これはいい兆しですよ、今回の作戦大成功で終わるでしょう」
と言ったが山口司令官は顔を引き締めて「その慢心がいけないよ。慢心ほど怖いものはないからね、気を引き締めてゆこう」と言い艦長以下は
「わかりました。兜の緒もふんどしも締めなおしてゆきましょう」
と言ってそれぞれの持ち場に走ってゆくーー

その二日前の晩。
航海科の居住区に「桜本兵曹いらっしゃいますか」と訪う声がして、石川兵曹が戸口に行くと内務科の岳野カメ水兵長が立っている。岳野水兵長は石川兵曹に敬礼すると
「内務科の岳野カメ水兵長です。桜本兵曹はおいでですか」
と丁寧な物言いをした。すると奥から「ああ!岳野さん」と小泉兵曹が走り出てきた。そして石川兵曹に
「オトメチャンの従姉さんだ、岳野水兵長。覚えて置きんさい」
というと石川兵曹は自分より年上の水兵長に慌てて敬礼すると
「すみません、うちあなたを桜本兵曹の従姉さんと知らんで…許してつかあさい!」
と言って岳野水長は笑って「ええんですよそんとなこと」と言った。小泉兵曹は岳野水長を廊下に連れ出すと
「ご存じなかったんですね、オトメチャンは三日ほど前『飛龍』の見張に欠員が出たいいうて手伝いに行きました。それがただの手つだいでのうて、作戦行動に連れていかれました。しばらくは戻れんみとうです」
と小声でささやいた。岳野水長はその目を見開くと
「作戦行動の、空母に…。ほりゃあトメちゃんおおごとなったですねえ」
と言って遠くを見る目をした。小泉はさらに小声で
「ほいでですね、岳野さん。オトメチャンに許婚の居るんはご存知でしょう?」
とささやくと岳野水兵はうんとうなずいた。小泉兵曹は
「その許婚が、今トレーラーに来とってんです。そん人は〈小泉商店〉の社員で、今度ここに〈小泉商店〉と〈南洋新興〉が合弁会社を作るいうんで、その視察なんぞを兼ねて来とりんさるんです。ほんとなら二人はもうとっくに逢えとるんですが、そんとなわけでまだ逢うとらんのです。じつは、うちの弟が〈小泉商店〉トレーラー支社の支社長でして、その辺を考慮して報せを持ってきてくれたんですが…」
とそこまで言うと目を伏せてしまった。
岳野水長は
「ふむ…。ほいでも兵曹はトメちゃんの件を向こうさんに伝えたんじゃろ?」
というと兵曹ははいと返事をして
「上陸した友人に頼んでうちがその辺の事情を書いたものを渡してもろうたんです」
と言った。ふん、それでどうなったん?と言った岳野水長に小泉兵曹は
「返事が来んのです。相手の許嫁いう人から。うちはそれをどう考えたらええんかようわからんくて」
と言ってつらそうな顔になった。岳野水長はウーン、と言って艦内帽を取って頭を撫でつけると
「そんとに心配せんでもええんじゃないか?きっとそのお相手さん、会える思うたんがそんとな事情ができたことにびっくりしとりんさるだけじゃろう。ほいで、気にはなるがその辺を聞くんは軍機に触れることもある思うて返事を出すんを遠慮しとりんさるだけじゃとうちは思うがの。まあ、あとニ三日待っとったらどうね?それでもなあも返事も来んかったらまた動けばええ。こういうことは周りが焦らんことよ」
と言って小泉兵曹を見た。
兵曹は何かほっとしたような顔になると
「岳野さん、ありがとうございます。うちゃもう、どうしたらええかわからんくなってしもうて。正直言うてうちはまじめな付き合いいうんをしたことがないもんで。――ありがとうございます」
と言って頭を下げた。すると岳野カメ水兵長は慌てて
「やめてつかあさい、下士官が水兵に頭を下げたらいけません。どこで誰が見とってかわからんのじゃけえ、誤解されるようなことはせんほうがええですよ」
と注意した。小泉兵曹はそれもそうだと思い、
「では…完全に二人の時以外は失礼とは思いますが下士官と水兵、という関係でゆかせてもらいます。どうかご勘弁」
と言い岳野水兵長は「それでええんですよ」というと急に真顔になってさっと敬礼すると走り去っていった。すぐそのあと、小泉兵曹の後ろから数名の准士官嬢たちがやってきて、ラッタルを上がって行った…

さらに同じころ、〈小泉商店〉トレーラー支社では紅林次郎は星が降るような夜空を見上げながら桜本トメを想っていた。小泉純子から「桜本トメ海軍一等兵曹は突然の任務により当分の間トレーラを離れることになりました。詳細は言うことができませんが必ず無事帰還することと思います。紅林さんにはどうかその日までお待ちいただきたいのです。帰還の日などわかり次第お知らせいたします。以上はなはだ簡単ではありますがご了承願います」という手紙をもらっていた彼は
(どんな任務なんだろうか。危険な任務でなければええが)
と気をもんでいた。本当は小泉純子にじかに会ってでも、あるいは詳細をもっと求める手紙を誰かに託してもよかったのだが
(そんなことをしてはいけない。きっと重大な任務なんじゃけえ詳しいことが純子さんも言えんのじゃろう。ここは男らしくトメさんの無事を待とう)
そう思ってじっと耐える紅林であった。

それからさらに数日ののち、『飛龍』ほかの機動部隊は〈残敵掃討戦〉にいよいよ突入していた――
 (次回に続きます)

         ・・・・・・・・・・・・・
様々な思いが交錯するトレーラー島、そして機動部隊にいるオトメチャン。
無事に彼女は帰って来られるのでしょうか、残敵掃討とは言いますがその程度の残敵なのか。あまり相手をなめてはいけないと山口たも司令官も言っておられます。
皆の想いが星に届きますように。そして次回をお楽しみに。

「星に願いを」
When You Wish Upon A Star 【ピノキオ】
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