2017-10

逢いたいあなた 3 - 2017.01.22 Sun

オトメチャンこと桜本トメ海軍一等兵曹は空母・飛龍からの迎えのランチに乗って『大和』を後にしていった――

身の回りの品を詰めたカバンを足元に置いて前を見つめるオトメチャンに案内の下士官嬢は微笑みながら
「そんなに緊張しなさんな。あんたは海軍期待の弩級艦・大和の人でしょう?ならもっと堂々としてなさいよ」
と言ってくれた。その微笑みにオトメチャンの緊張もいくらか和らぎ、胸の奥にしこっていた気分の悪さが薄らいだ。飛龍の下士官嬢・安田八重乃一等兵曹は
「空母は初めて?…そう、でもきっとすぐ慣れる。だって大和よりずっと小さいもの。艦に上がったら私かほかのものが簡単に艦内を案内するからね」
と言って「ほらもうあそこに」と言って指さした先にーー空母飛龍の姿はあった。
ランチから舷梯を上がり舷門を通った二種軍装で身を固めたオトメチャンは、出迎えの航海長桐橋少佐、それに見張長の河原田少尉に挨拶した。そのあとを安田兵曹が上がってきた。
やや緊張気味の挨拶に桐橋航海長と河原田少尉は微笑み、「まあそんなに緊張しないでいいよ…今回は急な話で申し訳なかったがどうにもしようがなくてね。どうかよろしく願います」と言ってオトメチャンは
「精一杯務めさせていただきます、よろしく願います!」
と大きな声で返事をして敬礼した。二人の士官は満足そうにうなずくとオトメチャンのそばに立っていた安田八重乃兵曹を手招くと
「安田兵曹は航海科の見張担当だ。何かわからないことがあったら安田兵曹に聞きなさい。では安田兵曹、まず居住区に行って持ち物を置かせてそのあと艦内をさっと回ってやりなさい」
と命じ、安田兵曹は「はい。では早速」というとオトメチャンを手招き居住区へと降りて行った。その後姿を見ながら航海長と見張長は
「さすが『大和』の、いや海軍ぴか一の見張り員だけのことはありますね。眼の配り方がもう違う」
と言ってうなずきあい見張長は「出来たら欲しいものですね」と小声で言った。桐橋航海長はふっ、とため息をつき
「ま。だめだろうがね。向こうも虎の子の見張り員をそう簡単には寄越すまい」
と言って二人はウフフと笑った。

さてオトメチャンは安田兵曹の後について居住区へ向かっていたがその途中、加来艦長に出くわした。安田兵曹とオトメチャンが敬礼するのへ返礼した艦長は
「はて、こちらは初めて見るお顔ですね」
とかすかに小首を傾けた。安田兵曹が実は、と話すと艦長は「ああ!」と声を上げ
「ようこそ飛龍へ。大和とは比較にならないだろうがどうかよろしく。急なことで迷惑をかけてしまいましたね、許してください。ともあれ、よろしく!」
と言い、オトメチャンは感激してほほを紅潮させてもう一度敬礼し
「しっかり相務めます。よろしくお願いいたします」
と大きな声で言い、加来艦長はこれも満足げにほほ笑みながら去って行った。

居住区に着くとほかに人はおらず、安田兵曹は空いているチェストを探し出してその扉を開けて
「ここ空いてるから入れなさい。済んだら上に行くよ」
と言った。オトメチャンは荷物を押し込みながら「もう皆、配置についとってですか?ほいで…うちは飛龍がどんとな作戦に出るんかまだきいとらんのですが?」というと安田兵曹は
「ええ?聴いてなかった?それはすまない、あのねえ実はね」
と話し出したのは
〈残敵掃討〉
「…なんだよ、知ってるでしょう?ラシガエ島。あの先の島にイギリス軍が残っていて、それを討つ」
安田兵曹はそういってオトメチャンの瞳をじっと見た。オトメチャンは遠くを見つめる目をして「ほうでしたか。…あの島の先に、ね」と言いそのあとすぐ安田兵曹を見るなり
「ほいでも何でそんな残敵掃討戦なら『大和』も行かんのですかね」
と不思議そうに言った。安田兵曹はきまり悪げにほほを右手の人差し指でひっかきながら
「戦艦は足が遅くて役に立たんから、今回は『金剛』『榛名』を後ろにおいて機動部隊中心に叩くんですって聞きましたよ。しかも今回大事な作戦だから隠密行動。ほかの艦艇は途中から合流します」
と言った。オトメチャンの顔が情けなさげな表情となり
「はあ…そんとに戦艦は役に立たんですかねえ。まあ、巡洋艦や駆逐艦みとうに素早いことはないが、しかしひどい言われようですなあ」
と言ったあとなぜだか笑いだしてしまった。安田兵曹は「ごめんなさい」とまるで自分のせいのように言って
「あ、早く配置に行きましょう。皆に紹介します」
というとオトメチャンの背中を軽く叩いて走り出した。

飛行甲板上の「防空指揮所」にあがったオトメチャンは(なんじゃえらい低いのう)と思ったが気を引き締めた。
何人もの航海科員嬢や信号員嬢たちが安田兵曹に紹介されて敬礼するオトメチャンに返礼の後
「急な話で申し訳ない、しかし助かった。うちのぴかイチが急病になってしまって…。でも『大和』の、いや、全海軍一の見張りのぴかイチが来てくれてこの戦、勝ったも同然だね」
と言って喜んだ。オトメチャンもそこまで言われると悪い気がするはずもなく、「いやあ、そんとなことは」と謙遜しながらもまんざらではないようだ。
早速オトメチャンは担当の双眼鏡に付くとそれを回し始め、周囲で見ていた『飛龍』の見張り員嬢たちは「わあ、できる人の扱いはどことなく違うねえ。さすが。さあ私たちも負けないようにしないと!」
と言ってそれぞれの配置についた。

その晩オトメチャンは、居住区のハンモックの中でかすかなため息をついていた。明日明後日にも紅林がここ、トレーラーに来るというのに(なんという不運なんじゃろう)と悲しく、自然に涙が湧いてきた。そしてその晩は泣きながら眠った。

翌朝、『飛龍』はその身をトレーラー水島から外へと動かし始めた。オトメチャンはもう、防空指揮所の双眼鏡についてあたりを睥睨している。
その双眼鏡が水平線をなめたとき、オトメチャンは一隻の民間の輸送船が、駆逐艦の護衛を従えて水島の港に入ってくるのを見た。
(『小泉商店』のフネじゃ!あああれに紅林さんが乗っとるんに)
オトメチャンの胸中に激しい疼きが走ったがそれをかろうじて抑え、彼女の双眼鏡は空を向いた。

オトメチャンが見た民間船は果たして『小泉商店』のもので紅林次郎は甲板に出て南方の風に吹かれていた。予定より一日早い到着である。
なんて熱いんだ、と思いつつ見つめる先にはトレーラー水島が横たわり、彼の胸は(逢える。桜本さんと逢える。ここに滞在中何回逢えるだろうか)とときめいている。

さらに。
『大和』防空指揮所では小泉兵曹が遠ざかる『飛龍』に向かいそっと手を合わせて
「オトメチャン、早う、一日も早う帰れるよう祈っとるけえね。ほいで紅林さんと逢えるように祈っとるけえ…。心配せんでええ、一所懸命に任務を果たしてこいや…」
とつぶやいている。

そのオトメチャンも紅林次郎も、そして小泉純子兵曹もーーそのあとに厄介者を積んだ民間船が来ることをまだ知らないのである――
 (次回に続きます)
   
                ・・・・・・・・・・・・・・・
オトメチャン『飛龍』に移乗完了です。飛龍の皆とは仲良くできているようですがやはり心は…。そして予定より一日早い到着の紅林次郎さん、オトメチャンとの再会を心待ちにしていますが。
小泉兵曹も気をもんでいます。
そしてー厄介者を積んだ民間船とは??
緊迫の次回をお楽しみに!

飛龍(画像WIKIより)<img src="http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/84/e0be5b478eda87293706de315081d2d8.jpg" border="0">
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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