逢いたいあなた 2

許婚の紅林次郎の訪いを待つオトメチャンに非情な命令が来たーー

小泉兵曹から手紙を受け取って喜びに浸るオトメチャンだったがその翌朝、当直明けに佐奈田航海長直々に呼び出された。オトメチャンが(何事じゃろうか、航海長からお呼びが来るとは)とかすかにいぶかりながら第一艦橋へと走った。
「桜本兵曹参りました」
そういって第一艦橋に飛び込むとそこには佐奈田航海長のほかに松岡分隊長そして麻生分隊士がいる。佐奈田航海長がオトメチャンを手招いた、その前にオトメチャンは立った。佐奈田航海長は、麻生分隊士を見てうなずき分隊士はオトメチャンに向かうと
「桜本トメ海軍一等兵曹。明日から当分の間「空母・飛龍」に移乗し見張業務に付くことを命ず」
と言い、松岡分隊長が
「トレーラー艦隊司令からの命令だよ。『飛龍』をはじめとする機動部隊が先週からここにきているのは知っているね?その『飛龍』の見張り員が一人急病で水島の診療所に入院してね、…実は『飛龍』は明日から作戦行動に出るのだが見張が欠けてはは困る。というわけで桜本さんあなたに白羽の矢が立ったってわけですよ。艦隊司令からのご命令ですからね、しっかりやったんさい?というわけであなた、今日中に『飛龍』に行ってくださいね、これ修子のお願い」
と丁寧に補足した。
「明後日から作戦行動…ほいで今日のうちに『飛龍』に行かんならんのですか?いつここに帰れるかわからんのですか?」
オトメチャンは唇を震わせるようにして言った。ややその顔色が青ざめてきて、麻生分隊士は首をかしげて
「桜本兵曹どうした。何か不都合でもあるのか」
と問いただした。が、オトメチャンは何事もなかったかのように顔を上げると
「なんでもありません。なんでもないんです…わかりました、ではうちは何時に行ったらええですか」
と分隊士に尋ね、分隊士は航海長とともにオトメチャンに話を始める。
そのオトメチャンを松岡分隊長は静かな視線で見つめているーー

航海長と分隊士からの話を聞き終わったオトメチャンは悄然として第一艦橋を後にして居住区に向かった。その彼女を追ってきたのは松岡分隊長、「おーい桜本兵曹」と呼んでオトメチャンは振り返った。振り返ったその顔はなんだか泣きそうで松岡分隊長はその肩をそっと抱き寄せると
「こっちへ」
とラッタルの陰に引き込んだ。そして
「あなた、もしかして『行きたくない』『行けない』と思っていますね」
と言った。オトメチャンは「いいえ…」と言ったがその瞳は暗く、下を向いたままである。(やはりね)と松岡分隊長は思って
「あなたの許嫁って人…近々ここに来るんじゃないのかな?違うかな」
と言い切った。果たしてオトメチャンの顔が悲痛に歪みその瞳にあふれんばかりの涙が湛えられた。そして
「ほうです分隊長。許嫁が明後日こちらに来んさるんです。ようやっと会える思うたんに…」
とそこまで言うと彼女の目からは涙がぼたぼたと落ちて防暑服の胸を濡らした。が、次の瞬間オトメチャンは頬を伝う涙をぐいっと片腕でぬぐうと
「ほいでも分隊長。うちは海軍軍人です。そんとなことで行きたくないの行けないの言いません。うちは『飛龍』に行きます、ほいで作戦行動に出ます。精一杯、足手まといにならんようにやってまいります。『大和』の名誉を汚さんようしっかり務めてまいります」
と言って分隊長を見つめた。
「桜本兵曹。あなたは…」
松岡分隊長は心なしか痛ましげな表情になったが決然
「わかった。しっかりやってきなさい。あなたの気がかりは誰かに頼んでゆくと良い。では桜本兵曹、一緒に行こう。皆に話をしないといけないからね」
と言ってオトメチャンを従えて歩き始めた。そのあとを硬い表情で着いて行く桜本兵曹…

「ええっ」
その話を聞いた航海科見張員たちはそう叫ぶように言って絶句した。石川兵曹は
「そんな、どのくらいになるかわからんなんて無責任じゃわ。桜本兵曹はうちらの班長で『大和』の人間じゃわ。それなのに『飛龍』が勝手に寄越せいうなん変じゃわ、おかしいわい」
と怒り出すし、亀井上水さえ
「『飛龍』にねじ込んでやろうかいね、勝手ばっかしいいよってからに!」
と怒ってキーキー叫び出す。その皆をまあまあ、と抑えて分隊長は
「ですから左舷の班長は当座不在です。が、まあ『大和』は作戦行動もないですから…。しかしその埋め合わせはみんなでしっかりやりましょうね、いいですね。ではまたごきげんよう」
と言ってラケットを担いだあとオトメチャンに
「迎えのランチが一〇〇〇(ひとまるまるまる。午前十時のこと)に来る。それまでに準備を整えておきなさい」
と言いおいて出て行った。
分隊長の姿が消えるとすぐに小泉兵曹がオトメチャンに寄ってきた、その顔は心配と不安で満ちている。そして
「オトメチャン…えらいことになったのう。せっかく紅林さんがここに来るいうんに」
と言ってオトメチャンを見た。オトメチャンは小泉兵曹に微笑み
「残念じゃが仕方がないわい。うちが戻るまでに紅林さんがここに居ってくれたらええんじゃがなあ…ほうじゃ、小泉兵曹に頼みがある。どうか頼まれてくれんか?」
と言った。小泉はなんね、何でもするで?と言って顔を寄せたのへオトメチャンは
「紅林さんにこのことを知らせてほしいんじゃ。うちが空母に一時的に移動になって作戦行動に出たこと、ほいでいつ戻れるかわからんいうことを、どうか、どうか伝えてつかあさい。小泉兵曹どうか…願います」
とどこか必死な声音で言った。その瞳にさえ必死な色があらわれ、小泉兵曹は慌ててオトメチャンの両肩をつかみ
「大丈夫じゃ、安心せえ。うちがきちんと紅林さんにこのことを伝えるけえな。安心せえ、安心して任務を果たせよ?ええな、なあも心配せんでええからな。オトメチャン、な…?」
というと小泉兵曹のほうが泣き出してしまった。その小泉を支えてオトメチャンは
「ありがとう小泉兵曹、どうかよろしゅうにね。面倒かけてすまんが…あん人に…紅林さんに…」
というと瞳を潤ませてしまった。オトメチャン、と言って小泉兵曹は絶句した。

それから一時間半ほどのち、オトメチャンはややうつむき加減で『大和』を降り、『飛龍』へと向かうランチに乗って去って行った。
「オトメチャン、心配せんでええからの。しっかりやってこいや。しっかりな。ほいで早う帰ってくるんを待っとるよ」
小泉兵曹は防空指揮所の囲いから身を乗り出すようにして、オトメチャンの乗ったランチに叫んでいた――
 (次回に続きます)
          ・・・・・・・・・・・・
オトメチャン、『飛龍』にお手伝いに行きます。が、ただのお手伝いではなく作戦行動に連れていかれる羽目に。しかももうすぐ許嫁の紅林さんがトレーラーに来るというのに。
さあこの後どうなる?ご期待ください!

『飛龍』<img src="http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/d8/1684e2219f42203d971cadbd7bd726b4.jpg" border="0">
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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