2017-10

逢いたいあなた 1 - 2017.01.22 Sun

ある日オトメチャンにこの上ない嬉しい知らせが来たーー

松岡修子海軍中尉の公務に同行して上陸していた小泉純子海軍一等兵曹は、その帰り道弟の進次郎に出会い、一通の手紙をそっと手渡されていた。「小泉商店」トレーラー支店長になって間もない純子の弟進次郎は
「姉さんお元気そうで何より。あ、これ、うちの紅林さんから桜本さんへです。ほかの人に見つからんように願いますよ」
と言ってそっと姉に手渡したのが、桜本兵曹の許嫁・紅林次郎からの手紙である。桜本兵曹と紅林次郎はとある事件がきっかけで出会い、恋に落ち許嫁の中になったのである。
小泉兵曹は手紙をさっと懐に隠すとうんとうなずき
「大丈夫、しっかり渡すけえの。そろそろ紅林さんはここに来んさるんじゃね?」
と小声で訪ねた。少し離れたところにいる松岡中尉に聞かれるのを少しためらったからである。進次郎も声をやや落として
「はい。なんでも途中で時化にあってグアムに寄ったけえ予定よりちいと遅れたそうですが、あさってにはここに来ますけえ、どうかよしなに」
と言った。小泉兵曹は弟の顔を見つめると
「ありがとう進次郎。――あんた、ずいぶん立派になったねえ。あの泣き虫進ちゃんがうそのようじゃわ」
と言って笑い、進次郎は恥ずかし気に微笑んだ。そして小泉兵曹は腕時計をちらと見ると
「ほいじゃあもう時間なけえ、残念ながこれで。また会おうな。元気で!」
というと弟に敬礼した。進次郎も「姉さんもお元気で。またそのうち会いましょう」と言って頭を下げた。小泉兵曹が松岡中尉のそばに走っていき
「分隊長お待たせしてしもうてすみません」
と謝ると松岡中尉はいつも担いでいるテニスラケットをブン!と一振りした。小泉はびっくりして「ごめんなさい分隊長、もっとはように話を終わらしたらえかったんですが!」と言ったが松岡中尉は
「なに言ってるんです?久しぶりに弟さんとあったのに、あれだけでよかったんですか?それより、特年兵君への手紙、なくさないようにしなさいよ」
と言って小泉兵曹は「み、見とったんですか!」と大声を出した。すると松岡中尉は小泉兵曹の唇に右手の人差し指をそっと当てて
「しっ!あなたそんな大声出したらほかの士官に聞かれますよ?聴かれたらその手紙、没収されて特年兵君の手に届かないじゃないですか。壁に耳あり障子に目あり、というでしょう?気をつけなさい」
と言った。小泉兵曹は、分隊長が自分の唇に人差し指を当てる手をそっとつかんでどかしながら
「はあそりゃご心配をありがとうございます…いうて松岡分隊長も士官なけえ、この手紙を没収できるんじゃありませんか?まさか、そんとな物わかりのええこと言うて突然手のひら返しなさるんと違いますか?」
と警戒した。すると松岡分隊長はさらにラケットを振りながら
「あなた!小泉さん、私と一体何年関係を持ってるんですか?私はあなたが思うような卑劣な人間と違いますよ?私をほかのくそパッキンな士官と一緒くたにしちゃいけません、私はあなたたたたち、下士官や兵隊さんの味方ですから」
と〈あなたたち〉の〈た〉の数がやや多くなったがそういって今度は小泉兵曹の肩をラケットでトントン叩いた。
小泉兵曹は
「か、関係を持ってる…?分隊長その言い方は誤解を招きますけえやめてつかあさい。―はあそうですか、それはすみませんでした。さすがうちらの分隊長はほかの士官とは違う思うてましたがやっぱし。さすがですね。…でも分隊長、桜本兵曹は〈特年兵〉ではありません。立派な海軍一等兵曹ですけえの」
とやんわり注意した。すると松岡分隊長ははあ~とため息を吐くとその場にがっくりとしゃがみ込んで
「あなたのその言い方、麻生さんにそっくり!私は親しみを込めて〈特年兵君〉と言ってるのにまだわかってくれないんですねえ、あなたもっと熱くなりなさい!」
と言って、突然ぶわっと立ち上がるとラケットをぶんぶん振り回して
「熱くなれよ!あきらめんなよ!」
と叫び出すのであった。それを少し離れて見つめる小泉兵曹、「はあ難儀じゃなあ。どうしてこの人とはまともに話ができんのじゃろう」と辟易している……

それから小一時間ほどのち、進次郎から託された紅林次郎の手紙は桜本オトメチャンの手に渡された。小泉兵曹は嬉しそうにほほ笑みながら
「えかったの。進次郎が言うにはなんでも途中で時化におうてグアムに立ち寄ったけえ予定より遅れたんじゃと。でも無事なけえ安心せえ」
と海兵団同期の幸せを喜んだ。オトメチャンは頬を染めて「ありがとう小泉兵曹。弟さんにもよろしゅう言うてな」と言って小泉兵曹の手を握って感謝を表した。
そしてオトメチャンはこれから当直にたつ小泉兵曹と別れて居住区に戻った。そして部屋の隅の壁に背中をつけるようにしてしゃがみ込むと、彼からの手紙をそっと開封した。
便箋をそっと引き出し広げた。懐かしい彼の文字が並んでいてオトメチャンは胸のときめきを感じている。
便箋の文字に目を走らせる…すると、紅林次郎はもう明後日にはここトレーラーに到着のようである。
(明後日…紅林さんがここに来なさる。ああ、うちはもう早う逢いとうてたまらん)
そう思うオトメチャンである。
そこに、ハシビロコウの<ハッシー・デ・ラ・マツコ〉、小犬の〈トメキチ〉それに仔猫の〈ニャマト〉が入ってきてオトメチャンの隣に座り込んだ。
マツコがその大きなくちばしをガタガタさせて
「ねえなに見てんの?」
と言いトメキチが便箋のにおいをクンクン嗅ぐと
「マツコサン、これ、トメさんの大事な人からよ」
と言いニャマトもトメキチの肩から掛けられた袋の中から
「ニャマート!ニャマト」
と言ってマツコへ声をかけている。オトメチャンははっと我に返ったようになってマツコたちを見て嬉しそうに手紙を三匹に見せて
「ほうよ、これは紅林さんからの手紙。小泉兵曹の弟さんが受けとって小泉からうちへ渡してくれんさったんじゃ。ほいでの、紅林さんは明後日にもトレーラに来なさるんよ。お仕事でじゃけど、うちに会えるいうて…。ああ、早う逢いたいわあ」
と言って手紙を胸に抱いた。
マツコたちはその様子を見つめていたが笑みを浮かべて
「よかったわね。好きな人が居るっていいわねえ」
と言った。

が。
その翌日オトメチャンにとっては無情の〈命令〉が下るとはだれも思いもよらなかったーー
  (次回に続きます)

           ・・・・・・・・・・・・・・・
オトメチャンの許嫁から待望の手紙が来たようです!トレーラーに来るという知らせにオトメチャンの胸はときめきますが…無情の命令とは??
緊迫の次回をお楽しみに。
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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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