給糧艦間宮の別の顔 2

給糧艦『間宮』にはさらにもう一つの顔があったーー

〈鳥海〉の腹膜炎患者が回復して『間宮』を降りて行ったその日、この艦内のある部署では
「まただ!どこの艦だこれは」
「ああ…これは駆逐艦だな、『無花果』のようだね」
「全くあの艦は公私混同もいいところだ!今度という今度は徹底的に!」
などと姦しい。
そして彼女たちはさらにーー。

駆逐艦『無花果』ではあることで自分たちが名指しの指摘を受けているとはつゆしらず、ある行為が行われている。
そこは通信室。
一人の士官がやおら無線機をいじっている。隣の通信機についていた兵曹嬢が
「軽部中尉、無線をやたら私信に使ってはいかんと通信長に言われたばかりでしょう」
と言った。が、軽部と呼ばれた中尉は
「いいのいいの。誰もこんなこと監視してやしないって。それよっか私はね、大事なことがあるのよ」
と言って兵曹嬢は興味津々で「大事なこと…大事なことっていったい何です?」と聞き出そうとした。軽部中尉はにたーっと笑って
「いやさ、あさって「間宮」でクラス会をするんだけどトレーラー在泊艦艇のコレス(同期のこと)が何人来れるか聞きたくってね。それでちょいと無線をお借りしましたというわけだよ」
と言った。兵曹嬢はレシーバーを外して通信機の前に置くと
「ほう、「間宮」でクラス会ですかあ。いいですねえ。私たちなんてそんないいことできませんもん、ああうらやましい~」
都さもうらやましげな顔になった。その兵曹嬢に軽部中尉はそっと
「料理をちょっと持って帰ってくるよ、そしたらいの一番にあなたにあげるからさ」
と言って兵曹嬢―中田―は「本当にですか!絶対ですよ」と喜んだ。

「間宮」の通信室では他艦の通信を傍受して、不必要な私信などが発信されていないか監視しているのであった。
冒頭の「艦内のとある部署」とは間宮の通信室のことであり、あれこれ姦しい連中は通信科の下士官嬢、准士官嬢である。
彼女たちは通信長の「他艦からの私信などを監視して報告すべし」という特命を受け、日夜こうして他艦の通信を傍受してその内容を精査しているのだ。
あまりにそうした<不届きな>通信が多い艦には、「間宮」通信長から直々にお叱りを受けることになる。しかしその事実を知らない艦がたまにいて…悲劇のもととなることがあるのであった。

今回の悲劇の主人公が駆逐艦『無花果』である。
『無花果』からの不審?な電文を受信した『間宮』通信特命係はその内容を精査した。そのうえで准士官の土屋祥子兵曹長は
「これは立派な私信だ。こんなものわざわざ無線を使わなくてもほかの方法で伝えられるだろうに!我々がトレーラーに来てから二週間たつが『無花果』はその間、三〇回以上もこうしたどうでもいいものを発信している。たるんでいる!」
と激怒。すると土屋兵曹長の部下の一人の烏丸(からすま)瑛子一等兵曹がにやにやしながら
「土屋兵曹長、この発信の主明後日『間宮(ここ)』に来ますよ。クラス会だそうですから。その時一発ガツンと行きましょうよ」
と言ってほかの兵曹嬢たちも賛成。土屋兵曹長もうなずいて
「そうだね。こいつがどうも肝いりらしいからいの一番で艦に上がってくるだろうね。その時ガツンとやるか」
と言った。この話は通信長にも伝えられ通信長は「やってやれ。いい薬だ」と許可が下り特命係の一同は大笑いしたのだった。

さて二日後。
駆逐艦『無花果』の軽部中尉はその日の午前中に「間宮」にランチを乗り付けてきた。颯爽と舷梯を上がり舷門を通ったとたん、数名の士官・准士官・下士官に取り囲まれた。
「こんにちは…私は本日こちらでクラス会を行うため来ました。駆逐艦『無花果』の軽部美奈代海軍中尉であります」
と言って敬礼した。するとその中の背の高い士官―彼女は通信長の花園カヨ少佐であるがーがいきなり軽部中尉の首根っこをひっつかむと
「貴様か―!勝手に私信を垂れ流してるのは!『無花果』では無線を勝手に私用に使っていいと言われているのか?それとも貴様が自由にできるほど偉いんか?」
と大声でどなった。びっくりする軽部中尉に土屋兵曹長が
「これがあなたの艦からの公務以外の通信の一覧です…よく見るとこれみんなあなたが発信元ですねえ。こんなにたくさん私信を送っていいんですかね?これ、『無花果』の通信長と艦長宛てにお送りしますからね、いいですね」
と言って数枚の紙を軽部中尉の顔に押し付けた。
「まさか、まさか何でそんなこと」
驚きを隠せない軽部中尉に、彼女たちは言った…
「『間宮』をただの給糧艦だと思てもらっちゃ困るんだよ。我々はあなたのようなふとどきものを監視する役目も担っているんですよ。ウフフフ、人呼んで〈無線監査艦〉。覚えといてね」
軽部中尉の顔が絶望の色に染まったーー

結局軽部中尉はその日のクラス会を心から楽しむことができなかった。肝いりだから開会のあいさつなどすべきところを心ここにあらずの状態になってコレスの皆から
「軽部、貴様なにぼーとしとる!」とか「貴様が計画して招待したんだろうが、もっと面白いことしろ」などと罵声を浴びせられ、半泣きになりながら裸踊りをする羽目に。
そのうえ(あの通信内容の紙を通信長たちがみたら絶対怒る、どうしよう)と気が気でなかったため料理も喉を通らない。
結局料理は折に詰めてもらうことになり、クラス会はやっとお開きとはなったがコレスから
「呼びつけといてぼんやりしてるとは何事だ、失礼な奴。する気がないなら呼ぶんじゃねえよ」
と怒鳴られ挙句に蹴とばされる。半泣きが本泣きとなった軽部中尉、『無花果』に戻るなり待ち構えていた中田兵曹に
「あ!料理の折詰だー、これ私がいただいていいんですよね約束ですもんね~、軽部中尉ありがとうございます」
と持っていかれてしまうしさらにそのあとにやってきた通信長には
「軽部中尉、貴様またやったな!『間宮』から監査結果と言ってこれが来たぞっ!あれほど不要な私信はするなと言っておいたのに。『無花果』の名折れだ、まったくどこの馬鹿が三十回も私信を送るんだよ、この阿呆!」
と怒鳴られ往復びんたを張られた。
さらにそのあとやってきた管直子無花果艦長には苦虫を噛み潰したような顔で
「『間宮』から『無花果』の私用通信がひどいと苦情を貰った…しかもそのほとんどがあなたの発信と聞いて私はもう卒倒寸前です。ほんといい加減にしてくれない?で、悪いけどその罰としてあなた、向こう三週間上陸無しね。よろしく」
といわれてしまったのだった。軽部中尉は、自分がひどくみっともない人間に思えて穴があったら入りたいと切に思ったのであった。

恐るべし『間宮』。
決してなめてかかってはいけない艦であり、ソフトイメージだけで語ってはいけない艦なのであった…!

              ・・・・・・・・・・・・・・・・
「間宮」のもう一つの側面が通信監査。他艦の無線を傍受してその内容を監査する役目もあったそうです。うっかり変な無線を流したら大ごとですね。ああこわ…。

次回のお話はだれが主人公になりますやら、お楽しみに!
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森須もりんさんへ

森須もりんさんこんにちは
お返事が大変遅くなってごめんなさい。

ソフトイメージ、「美味しい」艦というイメージだけでは語れないという「間宮」です。私もこの話を聞いたときはまさかと思いましたがw、そうなんだそうですよww。
この間宮には大きな部屋もあって、「同期会」を開くことも可能だったといいますから驚きですねw。
コレスを調べてくださったんですね、うれしいですね!
もともとイギリス海軍をお手本に作られた日本海軍、適性言語という言葉はあってなきが如しだったと思います。結構いろんな英語?を基にした隠語が多いですから。
ご興味あったら調べてみても面白いですよ♪

給糧艦間宮の別の顔シリーズ、読ませていただきました。

給糧艦というイメージがありましたが
通信監査の役割もあったのですね。

さっそく、調べました。
同窓会のことも出ていました。
またまた勉強になりました。

さらにコレスという海軍の隠語も調べましたー
ありがとうございます。
面白いです。
correspondから来ている用語なのですか。
敵性用語から作られているというのが
笑えますね。

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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