2017-10

「女だらけの戦艦大和」・艦上の銀輪 - 2010.06.06 Sun

「女だらけの戦艦大和」は出航前のあわただしさの中にいる――

 

新しく増設された兵器群、そして今までの装備にこれまた新しくオプションを付けて「新生・軍艦大和」はその姿もたくましく感じられる。

そろそろ呉とも、お別れである。

今回最後の上陸が始まった。

長妻兵曹だの、小泉兵曹は例によって朝日町に繰り出してまた乱れるし、麻生分隊士と見張兵曹そしてトメキチは分隊士の下宿に行って今度は下宿のおばさんと親しく語り合うことが出来た。

おばさんは相変わらずトメキチを「赤ちゃん」と思っているようである。

トメキチを膝に入れて頬ずりして「可愛い、かわいい」とまるで孫でも抱いているようで、思わず微笑んでしまう分隊士と見張兵曹である。

トメキチもその心がわかるのか、人の子供のようなふりをしておとなしくしている。

和やかなひと時である。

 

そして「さっぱり」して朝日町から出てきた長妻兵曹と小泉兵曹の前に、「純子ねえさん!」と言って飛び出して来たのはだれあろう、小泉兵曹の弟、進次郎である。

「進次郎!」

小泉兵曹は駆けよってその手を握った。そして、「進次郎、こんなところにいるなんてまさか・・・?」と言ったが進次郎は笑って首を横に振って、まず長妻兵曹に頭をきちんと下げてから

「姉さんを待っていたんですよ、『大和』は間もなく外地に戻るのでしょう。その噂を聞いていたのでここで待っていました。よかった、姉さんに会えて。姉さん、向こうに行っても元気でね、こっちの事は心配かもしれないけど僕が一所懸命しますから。ちょっと力は足りませんが。

・・・あ、それでこれを姉さんに」

進次郎は服のポケットから羽二重の布に包んだ物を純子に渡した。小泉兵曹はその包みをそっと開いた。

「あ、守り袋」

「はい。亀山神社のお守り、武運長久です。これを僕と思ってくださいね」

進次郎はさわやかな目で姉の兵曹を見つめている。そのそばで長妻兵曹は(いいなあ、姉弟って)とうらやましげに見ている。

姉弟の再会は今回も少しで終わった。

「ではこれで、進次郎。また戻ってくるときは連絡するよ」

「はい。姉さんくれぐれも御無事で。・・・長妻さん、姉さんを宜しくお願いいたします」

進次郎は二人に深々とお辞儀をしてそして帰って行った。この先にきっと小泉商店の自動車が進次郎を待っているのであろう。

 

さて。もう一人呉の町を名残惜しそうに歩いている女兵士がいる。彼女は谷垣兵曹。艦長伝令として石場兵曹とともになくてはならない存在である。

その彼女、ある店の前でふと立ち止まった――

 

その翌日。前日の上陸員が帰艦した。その中にやたらでかい荷物を持った谷垣兵曹の姿がある。麻生分隊士はトメキチを抱きながら、

「谷垣兵曹のその大荷物は、なにか?」

と尋ねた。布で覆われてちょっと見にはなんだかわかりかねる。谷垣兵曹はいたずらっぽく笑いながら、

「あとでゆっくりお見せしますよ」と言った。見張兵曹も興味津津で、「絶対ですよ、谷垣兵曹!」と念を押した。そして、ランチは『大和』に接舷し、皆は荷物を担いで登舷して行ったのである。

 

翌朝四時。

「女だらけの大和」は呉を出航して行った。主砲・副砲が射撃指揮所の指示で砲塔を上下左右に動かし、まるで呉に対してしばしの別れを惜しむかのようである。

見張兵曹は、防空指揮所に立って少しずつ遠ざかる呉の町を見つめた。

(西田さん、本当にありがとうございました。父と母との写真大事にいたします)

出航前には会えなくて心残りの西田教官の妻に、心の中であいさつした。(この次帰ってきたら、絶対お礼をいたします)

その兵曹の心が通じているのか、西田教官の妻も今日はなぜか朝早くから目覚めて、高台にある家の庭から海の方を眺めていた。

(ああ!『大和』が出てゆく・・・)

教官の妻は思わず「見張 トメ」の武運を祈って両手を合わせていた。

 

さて、『大和』は随伴の駆逐艦『無花果』とともに瀬戸内海を出て、太平洋上に出た。遅い春の日差しと、まさにひねもすのたりのたり、といった感じの波の様相である。しかし対潜警備と上空哨戒は欠かせるものではない。

今回はまず小笠原で補給をしてそれからトレーラーに向かう予定である。

二日ほどで小笠原に近くなり今までとは違って熱くなり始めた。適宜、防暑服に着替え始める。

そんな勤務の合間に、谷垣兵曹が例の大きな包みを持って最上甲板に上がってきた。

それを目ざとく見張兵曹が見つけこれも最上甲板に来た。

どれどれと、麻生分隊士や小泉兵曹たちも来て、結構な人数が集まった。

「谷垣兵曹早く見せんか?」と、麻生分隊士などうずうずしている。

谷垣兵曹はちょっともったいぶった感じで以てその包みを開いた。

「うわあ、これなに!すごいじゃん」

皆の間から歓声がもれた。

なんと、二つ折りになった自転車である。谷垣兵曹はそれを丁寧に開いて普通の自転車の形にした。見張兵曹などポカンと口を開いたままでそれを見つめている。麻生分隊士が、そばによって自転車をなでて、

「しかしこんないいものどこで見つけたんじゃ?谷垣兵曹」と聞いた。谷垣兵曹は、得意気な顔つきになって、

「はい、呉の自転車屋の店先に隠れるように置いてあったんです。店主に聞いたらなんでも陸軍に納入しようと売り込んだけど生産が間に合わなかったとかで一台だけ置いてあったんです」

と言った。麻生分隊士はへえ、と感心して「そういや陸軍は銀輪部隊で進撃して行ったところがあったっけな。折り畳みなら場所もとらないでいいのにな。でもいいもの見つけたなあ」

とうらやましそうである。

見張兵曹が横からそっと、

「谷垣兵曹は、乗れるでありますか」と聞いてきた。小泉兵曹がプッと吹きだして「馬鹿だなオトメチャン、乗れるからこそ買ってきたんだろうが」とその背中をどやした。

谷垣兵曹は、「乗れるとも。私はこれでも里にいた頃は「銀輪倶楽部」の顧問だったんだぞ。自転車にかけては右に出るもんはおらんかった」

そう言って颯爽と自転車にまたがりそのあたりをツイツイと走り始めた。

おお・・・と皆がどよめいた。谷垣兵曹は皆の前に自転車を止めた。見張兵曹が

「私も乗ってみたいであります。谷垣兵曹、私に自転車を教えてほしいであります」とせっついた。その可愛い顔に谷垣兵曹も流石に嫌とは言えなくなってしばらくオトメチャンに自転車の乗り方を伝授した。

オトメチャンは覚えが良くあっという間に乗れるようになっていた。見張兵曹が「小泉兵曹もやってみない?楽しいよ」と声をかけたが小泉兵曹はなんだか血相変えて、

「いいよいいよ、私は国で散々店の自転車に乗っていたから」と断ったが実はあまりバランス感覚のない小泉兵曹、昔から自転車は苦手なのである。

「ふーん、大店のお嬢様は違うんだね」と見張兵曹はひとりごちた。

谷垣兵曹は、もう一度自転車にまたがると

「ではこの大和の上を一周しますよ」というなり走り出した。一周、と言っても右舷側は,立ち入ってはいけないと言うことになっているので左舷側を一周してくると言うことだろう。

谷垣兵曹の自転車は『大和坂』を越えて艦首のほうまで行き、そこからさーっと走り降りてきてあと言う間に艦尾方向に走り去る。

「いいなあ。俺も次乗せてもらおう」

麻生分隊士が自転車の後をずっと目で追っている。昔、子供のころ自転車に三角乗りしていて、植えたばかりの田んぼに突っ込んだ思い出が去来している。

谷垣兵曹の自転車は艦尾から戻ってきつつある。

艦上の単装機銃とか露天機銃のプルワークを器用によけてゆく。

その様子を防空指揮所から梨賀艦長と森上参謀長が見ている。

「あれ谷垣兵曹じゃない、自転車乗ってるよ。・・・いいなあ」艦長が言うと参謀長が「梨賀は自転車乗れるのかね」とまぜっかえした。

艦長はふくれて「乗れますよ!あとであの自転車借りて乗って見せるからね!吠えずらかくなよ!」と脅した。

参謀長は笑った、が次の瞬間大声をあげていた。

「谷垣兵曹、あぶないっ!」

 

同じ時、甲板上の皆も「あぶないっ!」と叫んでいたのだ。

谷垣兵曹はあまりの気持ちのよさから思わず目を閉じて自転車をこいでいた。油断があった。

目の前に露天機銃が迫っていたのだ。

ハッと気ついた時は遅かった・・・谷垣兵曹は自転車ごとプルワークに激突し、兵曹自身は投げ出され機銃座の中に飛び込んでしまっていた。

「谷垣さん」「谷垣兵曹!」

麻生分隊士や見張兵曹たちがあわてて飛んで行った。それを見ていた艦長と参謀長も甲板に降りて行った。

 

谷垣兵曹は、血まみれになって機銃座の中に倒れていた。眉の上あたりが割れて血が流れている。

麻生分隊士が「しっかりしろ、兵曹!」と抱き起した。皆が心配そうに集まってきた。艦長が「どうしたあ!」と叫んで参謀長とともにやってきてその惨状に息をのむ。

谷垣兵曹は、麻生分隊士の腕の中で息を吹き返したが、第一声が「自転車は、無事ですか」だったのに皆は驚いた。

小泉兵曹が自転車を調べて、

「前輪がちょっと歪んでますがこれくらいなら工作科が修理してくれますよ、大丈夫ですよ谷垣兵曹」

と言ったので血だらけの谷垣兵曹はほっとした。が、谷垣兵曹の修理はそう簡単ではなさそうである。

 

結局谷垣兵曹は眉の上を八針も縫うことになりしばらくの間は顔が腫れていた。しかし自転車が工作科の手によって修理されてくると性懲りもなくまた乗りまわしている。

時には他の兵たちが乗っていることもある。

艦長は兵員のけがを心配して艦長命令を出した。それは、

「どんなに気分が良くても目を閉じての自転車走行は厳禁とする」――

 

「女だらけの大和」艦上では今日も銀輪を軽やかに転がす誰かがいる。

 

            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

全くくだらないことでけがをして、こんなことでは困るじゃないですか、谷垣兵曹。

これは「名誉の負傷」ではないです。不名誉な負傷であります。

 

さあ、「女だらけの大和」新展開もありそうです。今後の『大和』にご期待ください。


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● COMMENT ●

荒野鷹虎さんへ

こんばんは~。

まったく政界は「ブログネタ」の宝庫と化しています(爆)。こんなことでいいのでしょうかねえ??

>文体の巧妙さが上手いと思いますねー
いや何ともお恥ずかしい限りです、これからもっと文章も勉強してがんばりたいと思います!!
ありがとうございます。

多少ゲンダイの比ゆもあるように思いますが、文体の巧妙さが上手いと思いますねー。!
☆☆

としぼーんさんへ

こんばんは!!

いつも応援いただきありがとうございます!
これからも「大和」の航海は続きます、私も後悔しないように頑張ります!!
ーーって何を言いたいんだか?単なる語呂合わせか・・・。

matsuyamaさんへ

こんばんは!

たいがい自転車は一等景品なんですよね。
うちのあたりの変なお祭り?でも一等景品ですが(ただし、折り畳みにあらず)、私も一回も当たりません(泣)。
当たるのは罰ばっかりですww。

サイクリングロードなら走りたいです、気分いいでしょうねえ~。
谷垣兵曹はまさにはしゃぎすぎ。舷側から海に落ちなかっただけよしとしないとww。

ジスさんへ

こんばんは!

私も自転車で派手にひっくり返り(自損事故)、怪我しましたかつて。本当に守るものがない怖さを痛感しましたね、20年前。

ポンちゃんのことでは本当に驚きましたがご本人は無事で本当によかった!
便利ではありますが、怖いですね。

チハタンさんへ

こんばんは!

私もバランス感覚がチョー悪いので一回転んでしまい、車道側に転んでいたら死ぬところでした。
やはり4輪に、勝るものはないですね。

陸戦隊さんへ

こんばんは!

本当に一部を除けば随分と安価になりましたね。
私は小学二年の時初めて自転車を買ってもらい、5年生までのっていました。
中学に入ってのらなくなって以来いったい何年、久しぶりに乗ったら自損事故でww。
今は慎重に乗っています。

としぼーんさんへ

こんばんは!

戦菅(艦)直人。
なんだか厄介な相手のような気がしますねww。
ともあれ頑張らなきゃいけませんね。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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