給糧艦間宮の別の顔!?〈1〉

海軍将兵嬢のあこがれの「給糧艦・間宮」だが意外な一面をいくつか持っているーー

 

その一つ…トレーラー諸島にて。

「間宮入港―っ」

と叫んだのは海軍一の大型艦、『大和』の防空指揮所で見張をする桜本トメ一等兵曹。彼女のその叫びで主計長は自らランチを繰り出して羊羹ほかの食料を買い付けに行く。そして「今日は上手くいった」とホクホクしながら帰ってくるのだ。

他の艦艇からも同じように主計科長や主計科嬢たちが買い付けにランチをこぎ出だして行く。皆口々に「間宮、ええねえ」「間宮が来てくれると艦の士気が上がっていいな、うん!」と言っては間宮をほめたたえる。

「間宮」…すばらしい給糧艦という面ばかりがクローズアップされる艦であるが実は優れた医療装備を持った艦でもあるのだーー

 

「間宮」トレーラー入港から三日目。

在トレーラー艦艇の一つ、重巡洋艦「鳥海」でちょっとした騒動が起きた。「鳥海」乗組員嬢の一人の水兵長が前々から腹痛を訴えていたが今朝になってとうとう脂汗を流し、顔色は真っ青になって「痛い…お腹が痛い」とひどく苦しみ始めたのだった。その苦しみかたは尋常ではない。

慌てた仲間が急いで医務科に担ぎ込んだが折悪しく軍医長は昨日から軍医大尉たちと上陸中で不在、「私が診よう」と言った軍医中尉だったが「いかんこりゃ私の手に負えないよ…水島の海軍診療所に連絡して運ぼう」と言ったがその診療所からは「現在手術が立て込んでいてすぐには診ることができない、『間宮』に運びなさい」との返事が来た。

「鳥海」の軍医中尉は

「『間宮』に?…ああそうか!わかった。誰か『間宮』に連絡をしてくれないか、緊急の患者がいると!」

と言って通信科に連絡、通信科から『間宮』に連絡が行き向こうの軍医長から

「急いで来い」

と返信があり、軍医中尉は患者を毛布でぐるぐる巻きにしたのをランチに乗せ、二名の看護兵曹嬢とともに『間宮』へ。

「間宮」ではもう甲板上に医務科の兵曹嬢数名が待ち構えていて、患者を背負った軍医中尉の稲本ミネを「さあこちらへ!」

と艦内にいざなった。二名の看護兵曹嬢も手術道具の入ったカバンや白衣の入ったカバンをもって後を追う。

艦内には甘い香りが漂い、看護兵曹嬢は鼻をひくつかせたが患者の痛みに耐えるうなりに我に返る。『間宮』の兵曹嬢が「こちらです」と小走りに行き、大きな扉を開いた。その奥こそ、『間宮』の別の顔<病院船>としての顔である…

「軍医長、〈鳥海〉からの急患です!」

と兵曹嬢が叫ぶと、もう一つの扉が開き手術着を着た軍医長ー中門知永子中佐―が蟹股で歩いてきて傍らのキャスター付きの寝台を指さし「ここに寝かせて」と言った。稲本ミネ軍医中尉が患者を寝かせてから

「初めまして、私は〈鳥海〉の稲本」軍医中尉ですと自己紹介を仕掛けたが中門軍医長は青息吐息の患者の腹を探っている、そして次の瞬間

「ばっかやろう、こんなんなってから持ってきやがって!虫垂炎がこじれて腹膜炎起こしてるじゃないか、こりゃ大手術になるぞ、どうすんだ貴様あ!」

と悪鬼の形相で稲本軍医中尉をにらみつけた。びっくりしている稲本中尉であったが「あの…助かりますか?」とおずおず尋ねると中門軍医長は患者を寝かせた寝台を『間宮』の看護兵曹嬢たちに奥へと押して行かせた後、稲本中尉をじっと見つめた後

「俺はな、失敗したことがないんだよ」

と言って手術室へと消えて行った。ポカーンとしている〈鳥海〉の軍医中尉、兵曹嬢たちに『間宮』の看護兵嬢が寄ってきて

「中門軍医長、オトコっぽいし口が悪いから誤解されやすいんですけど腕は確かですよ。前に、高いところから落ちてその艦の軍医たちがさじを投げた患者を中門軍医長は助けたんですから。その患者今はすっかり元気で艦隊勤務してます。なんでも中門軍医長、海軍に軍医として入ってからとある人にうんとしごかれて、それで今の技術を習得するに至ったんだそうです。なんて言ったかな…ああ、たしか『日野原』さんという方です」

と教えてくれた。

稲本軍医中尉は

「日野原さんと言えば、〈聖蘆花病院〉の経営者で今、『大和』で軍医長なさってるあの日野原さんですね!あの方の腕は確かも確か。ほう~、日野原さんに私もしごかれてみたいなあ」

と感心した。が、急に表情を引き締めると

「では、あの患者は絶対助かると思っていいんですね」

というと「間宮」の看護兵嬢は胸をそびやかすようにして

「もちろんです!中門軍医長は失敗しないので」

と言い切った。

 

それから一時間半ほどで中門軍医長が手術室から出てきて、心配顔の稲本軍医中尉達に

「危ないとこだったよ、でももう大丈夫。今度からもっと早く診察に来るよう言っとけ!」

というとさっさと歩み去って行った。

その後姿に敬礼した稲本中尉達。患者は一週間ほど『間宮』で治療を受けた後、すっかり元気になって〈鳥海〉に戻って行った。

稲本軍医中尉はそのあと中門軍医長に

「ぜひ弟子にしてください。いろいろ教えてください、私にもその素晴らしい技術の満分の一でも教えてくださいませんか」

と頼み込んだが中門軍医長、

「いたしません」

とにべもなく断ったとか。

 

そして「間宮」にはまだ別の顔があるーー

  (次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・

具合が悪い時は早く医師の診察を!というのは鉄則みたいなものですがいかんせん、兵隊さんは無理をしがち。命にかかわっては元も子もありません。

「間宮」には医療施設もあったということで、そうした設備を持てない小型艦の患者などの手術を請け負ったりしていたそうです。

さてもう一つの顔は何でしょう、ご期待ください。
(この記事よりGOOブログにも掲載しております。もしコメントを入れにくい時はGOOブログへどうぞ。タイトルは同じ『女だらけの戦艦大和・総員配置良し!』です)


「間宮」 ウィキペディアより
間宮
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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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