2017-09

横須賀の花嫁Ⅱ 加東副長の場合〈1〉 - 2016.12.12 Mon

仮谷航海長の結婚式が終わり休暇に入ったあとから加東副長は忙しくなり始めたーー

 

猪田艦長は「副長の代理を立てなければと思ってね、これから加東さんは忙しくなる。その間の代理を岸本砲術長に頼もうと思うんだが、どうかな」と艦長室で加東副長に尋ねた。副長としては全く異存がないので

「岸本さんには急な話で申し訳ないのです。私は賛成ですのでよろしくお願いします」

と言い、猪田艦長は機嫌よく微笑んでうなずくと従兵嬢を呼んで「岸本砲術長を呼んできてほしい」と伝えた。ややして岸本三奈子砲術長は艦長室にやってきて副長を見ると微笑みを浮かべて

「加東副長、このたびはおめでとうございます」

とあいさつした。ありがとう岸本さん、と言った副長を見つめた後岸本砲術長に椅子を勧めた。砲術長が椅子に落ち着くと猪田艦長は

「岸本中佐。話があるんだが」

と副長代理の話を切り出した。岸本砲術長は

「私が副長の代わりを務めるなんて僭越ではないでしょうか」

とためらったが猪田艦長に

「あなたしかいないと思うんだが。それにこの話は加東さんも大賛成しているよ?」

と背中を押すがごとく言われて「それではわたくし、代理を務めさせていただきます」と言って笑みを浮かべた。

加東副長は岸本中佐の両手を取って

「どうか私の留守中よろしく願います。あなたには突然の話で驚かれたことでしょうがどうかよろしく。では早速ですが今晩にも甲板士官の金子少尉を呼んで話をしましょう」

と言った。岸本砲術長も副長の両手をしっかり握り返して「わかりました。この岸本、副長のご不在中はしっかりその任を務めさせていただきます。では今夜おうかがいします」と言って艦長室を辞して行った。

「では、艦長。私も失礼いたします」

と加東副長は言って艦長室を出ようとしたその時、猪田艦長の右手が加東副長の右手に重なった。

「?」

加東副長がやや小首をかしげて艦長を見ると艦長は椅子から立ち上がり、副長をやさしく抱きしめた。そして

「よかったね副長…幸せになりなさいね」

とささやいた。抱きしめられている副長の瞳が潤み、「…艦長」とだけ言うと副長は猪田艦長の胸にすがって静かに泣き始めた。

しばらく泣いていた副長はやがて「艦長、ありがとうございます。今までも、そしてこれからもどうかよろしくお願いいたします…」と顔を上げると微笑み、艦長も微笑み返した。そして副長は、部屋を出たーー

 

その晩、岸本砲術長と甲板士官の金子少尉との三人で副長の仕事のあれこれを話し合い、加東副長は「岸本さんは覚えが早いから何も心配ないですね、金子少尉、よく岸本中佐を助けてあげてくださいね」と言ってその晩の集まりは終わった。そして

「私は明後日しあさってと上陸で艦に居りません、早速ですがどうかよろしく願います」

と言い、岸本中佐と金子少尉は「わかりました、ご心配なく」としっかり応えた。

 

二日後。

加東副長は横須賀の街にいた。許嫁の瀬戸口大佐と会うためである。

加東副長はどうしても瀬戸口大佐に聞きたいことがあった、(それを聞いたからと言って、どうということもないのだろうけれど、でも)。

そんな思いがあった。

瀬戸口大佐とは横須賀の街の一軒の料亭で逢うことになって居る、その場所へ副長は速足で急いだ。そしてハアハアと息を切らしながら料亭の玄関に入り、出てきた女将に案内を乞うた。

瀬戸口大佐はつい先ほど来たばかりで、部屋に案内されてきた加東副長をやさしく迎えてくれた。そして店の女将に「適当に料理を願います」というと女将はうなずいた後ごゆっくりどうぞ、とほほ笑んでふすまを閉めた。

瀬戸口大佐と加東中佐は、その場に座るとまず加東中佐が三つ指ついて

「このたびはお忙しいところお時間をいただきありがとうございます」

とあいさつし、ついで瀬戸口大佐が

「あなたこそ大変にお忙しいところをありがとうございます。…いよいよ結婚の準備ですね、艦内のことや結婚準備に追われて疲れてはいませんか?」

というと加東副長はそっとかぶりを振って

「平気です。私毎日楽しくて…、艦内の様々も今までないほど楽しいんです。これはきっと」

と言ってそこで言葉を切った。瀬戸口大佐がほほ笑みながら「きっと?」と先を促す。すると加東副長はにっこりとほほ笑んで

「瀬戸口大佐と、出会えて結婚できる幸せからだと思うんです」

と言って二人は頬を赤らめた。

 

食事が運ばれてきて、二人は楽しくそれをいただいた。

食事が終わり、仲居が茶を運んできてそれを喫しながら二人はまた話し始める。ふと、加東副長は今まで気になって仕方がなかったことを切り出した。

「あの、瀬戸口大佐。私この機会に伺いたいことがございますの」

そう、何か切羽詰まったような表情で語る加東副長に瀬戸口大佐は優しく微笑みながら

「なんでしょう、何でも聞いてください」

と言って副長を見つめた。

副長は見つめられて胸がどきどきと高鳴るのを覚えつつ、すうっと息を吸うと「では申し上げます…。変なことを言う女だと思われるかもしれませんが、私の正直な思いです」と前置いてから、どうして大佐は私と結婚をしようと思われたのでしょうか、と尋ねた。そして

「私は正直、きれいでもなければ器用でもないと思っています。―いえ、そういうことを思ってはいけない、そんなことはないよと猪田艦長には言われているのですがでも、私は今まで人から綺麗だと言われたこともないし、自分を器用な人間だと思ったこともないものですから」

と言ってなんだか苦しそうな表情になってうつむいた。

するとーー

じっと加東副長を見つめていた瀬戸口大佐が、席を立つと副長の隣にそっと座った。そして彼女の片腕をつかんで言った言葉に、加東副長は大きな声を上げて泣き出したのだったーー

 (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・

復帰第一作(笑)は横須賀の花嫁・加東副長編です!お待たせしましたが仮谷航海長に続いて軍艦『武蔵』のおめでたごとのお話です。

自分にあまり自信のない加東さん、婚約者の瀬戸口大佐にくすぶっていた思いをぶつけました。さてどうなりますか、次回をお楽しみに!
DSCN1601_201612182236092b1.jpg


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● COMMENT ●

すっとこさんへ

すっとこさんこんにちは
「無理はいかん!」と人には言っておきながら(;'∀')…こんな体たらくでございまするw。
しかしおかげさまにてだいぶ良くなってきました、忙しい休みなしの年末が目の前ですので気を張って行きたいと思います。軽い肺炎も、インフルエンザもなしに残り少ない今年を乗り切りたいと思う次第です。
ありがとうございます!

ponchさんへ

ponchさんこんにちは
またもお返事遅くなって本当にごめんなさい!
仮谷航海長、これから子作りですw。
奥ゆかしい女性のほうが男性はやぱり好みますよね。一歩下がって男性を立てる、というのが日本人のDNAの中には息づいているような気がしてます。
そう。『女だらけの海軍』さんも三つ指ついてご挨拶します。そこはやはり女性ですから^^。
最近では三つ指つく、ということもわからない人も多いかも…(-_-;)。

あらあら 病み上がりなのに早速の更新!
どうぞ御身お大切に。
「無理はいけませんよ」と言いながら
前記事で誰かさんを海に飛び込ませた
のはどなたでしょうやら。
ほんと「無理はいけませんよ。」
でも映画を観に行って涙腺崩壊ならもう
回復でしょうね!若いから❣️
寒くて忙しい年末に向かいます。
見張員さん、
もう【軽い肺炎】は禁止ですよ。

仮谷航海長、懐妊したと思ってたのですが、結婚式の方が後だったんですねー。
加東副長の奥ゆかしさには胸を打たれますが、男は自信満々な女より奥ゆかしい女を好みますよね。
男は自信満々な方が女には好まれるようですが。
女だらけの世界でも女は三つ指ついて男を迎えるんですね。
最近三つ指つく女って見ないなーと思います。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
ホント、時々考えてしまいます。この年になってもまだ考えてしまうんですから人間てしょうもないもんだなと思います。でもまだ若い加東さんですから悩んでも仕方がない!ここで優しい言葉をかけてくれたら最高なんですが。
果たしてどうなりますか??
私ももし、旦那にやさしい言葉をかけられたら「今夜か明日、大地震が来るぞ」と準備を始めることでしょうw。

誰しもふとこんな自分で良いのかと考えてしまうものです。もちろんそんな彼女に優しい言葉をかけてあげられるのが、いい男なのでしょうが、おいらは根性が悪いので、果たしてそんな優しい言葉なんてwwwそれこそ天変地異の前触れと言われかねませんw


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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