サクラサク!

桜咲く…それは喜び

桜咲く…それは新しい第一歩へのささやきー

 

あの夜桜見物から一週間後、日野原桐乃は医大を受験した。

受験先は日野原昭雄とその子息昭吾の出身大学の帝都医大である。桐乃は「そんな難しいところ、私自身がありません」と言ったが昭雄も昭吾も「当たって砕けろの精神でやってごらん。桐乃ちゃんならきっとできる」と言って励まし、桐乃はそれこそ清水の舞台から飛び降りるような気持で願書を提出したのだった。

願書提出から数日ののち、土曜日の昼下がり聖蘆花病院に昭雄を訪ねてきた男性が一人。

院長の日野原昭雄は一階受付からの「院長先生にお客さまです」の内線電話を受け、その日の診察を終えていたので降りて行った。

そこにいたのは大学時代の同級生であり何十年来の友人の三宅で、今帝都医大の教授である。昭雄は

「おお、三宅かあ、久しぶりだなあ」

と大きな声を以て友人を抱きかかえるようにして迎えた。三宅も「相変わらず、日野原は若いなあ!」と笑いながら友の手を握った。

「今日はもう外来診察は終わったから住まいのほうへ上がってくれないか」

昭雄はそういって友人を自宅へと案内した。

自宅へ上がると昭雄は手ずから茶と菓子を出して友人をもてなした。ソファに腰かけた三宅は

「奥さんはお元気かい?今は外地かな」

と言って昭雄の妻の日野原重子大佐のことを言った。昭雄はうなずいて

「ああ、元気でやってるよ。今は南方にいる…軍艦勤務だから大変は大変らしいがね」

と言って菓子を勧めた。「いただきます」と菓子をつまんだ三宅、ふと昭雄の顔を見つめて

「そうだ、君んところに娘さんがいたとはね!願書が来てたぞ、医学部受験の。いやはや日野原一家は優秀だなあ」

と言って笑んだ。昭雄は

「娘…娘ではあるが実のではないんだ」

といい説明をしようとしたとき玄関のドアが開き、桐乃が「遅くなってごめんなさい、今お昼を用意いたします」と入ってきた。その後ろには千代医師がいるようだ。二人は何やら楽しげに笑いさざめきながら入ってきたが居間に昭雄とお客がいるのに気が付いて姿勢を正すと挨拶をし、桐乃は初めて会う人なのできちんと自己紹介をした。

三宅は立ち上がって桐乃と握手を交わして

「初めまして。私はこの日野原昭雄と帝都医大で同級だった三宅と言います。今日は突然お邪魔して申し訳ありません、どうか、お構いなく」

と言ってほほ笑み、その優しい微笑みに桐乃はほっとして人懐こい笑みを浮かべた。

そこで昭雄が今回帝都医大を受験するのが「彼女だよ、私の娘の日野原桐乃だよ」と言って三宅は「ほう、なかなか賢い目の色をしている」と感心した。

千代医師も交えて皆はソファに座りなおすと桐乃の受験について話をする。

三宅は、昭雄から桐乃のこれまでを聞いて「これは素晴らしい」とうなった。そして桐乃の素晴らしいよどみない日本語を聞き、手近の紙に文字を書かせてそれを見てさらに驚きを隠せなかった。

「日野原、この子は逸材だぞ。きっと受かる、きっと受かるぞ」

とやや興奮して言った。桐乃は恥ずかしげにうつむいて居る。

その桐乃を見つめながら三宅は

「しかし試験に臨んでほかの受験生より不都合があってはいけないな…大学に掛け合って特別枠を設けてもらったらどうだろう?例えば通訳を置くとか、辞書を携帯してよいとか」

と言ったがそれには桐乃がはっきりと

「三宅様。お心ありがとうございます、でも、桐乃はほかの皆さんと同じように試験を受けたいと思います。もし、試験の問題がわからない読めないとしたらそれは私の普段の勉強の不足です。私の責任です。ですからどうか、ほかの人たちと同じに受けさせてください…三宅様のありがたいお心は桐乃、しっかり受け止めました」

と言って三宅は一層感動した。桐乃の両手をしっかり握って

「あなたのお気持ち、この三宅よくわかりました…では当日は体調を整えてしっかり頑張ってください。私も応援しています、そして春四月、帝都医大の学生としてお会いしましょうね」

と言って二人は微笑みあった。桐乃は「はい、がんばります」と決意を瞳ににじませた。

 

そのあと遅れて自宅へ戻ってきた昭吾、三宅には学生時代教えを受けた仲であるので当時のことなど懐かしく話に花が咲く。

その間に桐乃と千代が食事を用意し、できたものから千代が食卓に運びながら「三宅先生、これはほとんどを桐乃さんが作りました」と言って三宅はまたもや驚いた。

「これは…日本人の家庭料理ではないですか!外国から来た少女がこれを作るとは…いや、参りました」

そういって三宅は驚きをあらわにした。そばで昭吾が満足そうな笑みを浮かべ、その笑みを見た三宅は(昭吾君、桐乃さんをもしかして?)と思うのだった。

 

たくさん話をし、笑いあったあと三宅は日野原家を辞するとき桐乃にもう一度

「まもなく試験日ですから、どうか健康に気を付けて。試験の時は落ち着いてやればあなたなら大丈夫ですからね。自信をもってあたってください」

と言って勇気付けた。桐乃は喜びを全身に表して「ありがとうございます三宅様。私全力で頑張ります」と決意を述べた。

昭雄が三宅を病院玄関まで送っていったが三宅はその時

「昭吾君は桐乃さんを好いているんだね」

と言った。昭雄はうれし気に微笑みながら「ああ。あの子がここに初めて来た時から通じ合うものがあったようでね。あの子の家はトレーラーでは裕福ではないがきちんとした家の子だから何も心配ない。いや、昭吾にはもったいない子だよ」といい三宅は

「うらやましいなあ、日野原。―ともあれ桐乃さんに落ち着いて試験を受けるように重ねて言っておいてくれよ」

と言って二人は別れたのだった。

 

そして試験当日は日曜日。

花冷えのする日であったが桐乃は元気よく「では行ってまいります。お父様、昭吾さん、桐乃は一所懸命全力で試験を受けてまいります」と言って試験場に出かけて行った。

却って昭吾のほうが緊張してしまい、腹具合が悪くなる始末である。昭雄が「昭吾は情けないなあ。桐乃ちゃんの度胸の半分でも分けてもらえ」と笑った。

桐乃は試験場につくと受験票を取り出し教室を確認し、席についた。周囲の受験生たち―男性が多かったーが外国人の桐乃に興味を持って見つめてきたが桐乃は息を整え、これから始まる試験に備えている。

そして始まった試験。桐乃は必死で問題文を読み、解いた。途中、試験官も驚くほど桐乃はよどみなく鉛筆を動かしていた。

そして面接試験では桐乃は大学の教授たちを前に物おじせず己の経歴や夢を語った。面接官の教授たちは試験後、「あれが聖蘆花病院の院長の養女という人か。すばらしい人材だな」とうなずきあいそれを伝え聞いた三宅は「そうだろう、そうなんだよ」と何度も繰り返してはうなずいていた。

 

そして。

聖蘆花病院受付に壱通の電報が届けられた。受付嬢が「桐乃さんあてです、電報です」と慌てて内科の内線電話で伝えてきて、ちょうど桐乃は患者に注射をしていたところだったので昭吾が代わりに受け取りに行った。

「電報だって?どれどれ」

と本文を見た昭吾は「やった」と大声を上げていた。周囲の患者たちが思わず昭吾を見た、昭吾は慌てて内科の外来に取って返すと患者の処置を終えてカルテを昭吾の診察デスクに戻していた桐乃の手に電報をつかませた。

「?」

ぽかんとしている桐乃に昭吾は「読んでご覧」と言って、桐乃はそっと電報を開いた。そこには―

 

サクラサク テヒトイダイゴウカク オメデタウ

 

次の瞬間桐乃は大粒の涙を流し、駆けつけた看護婦仲間や医師たちに祝福されたのだった。

 

桐乃は電報を握って喜びをかみしめた。トレーラーで料亭のアルバイトをしていた時出会った日野原軍医長と村上軍医長がもたらしてくれたこの幸せ。なんとしてもこの恩を返したい。そしてトレーラーの両親にも。それから日本に来てから何から何まで世話になりっぱなしの日野原昭雄、昭吾、そして千代。病院の仲間たちにも恩を返したい。

そのためには「私が頑張ってよい医師になって聖蘆花病院をもっともっと盛り立ててゆくことが」大事なのだと桐乃は悟った。

そしてそれが昭吾の愛に報いる道であることも。

 

日野原桐乃の医師への道は、今始まったばかり

             ・・・・・・・・・・・・・・・

 

日野原桐乃さん、医大合格しました。これからがまた大変ではありますがきっと彼女ならできる!

夢をあきらめなかった結果が出ました。誰しも、いくつになっても夢はありますよね、決してあきらめないで夢を追いましょう。私も、追います!

 

岡村孝子さん「夢をあきらめないで」


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森須もりんさんへ

森須もりんさんおはようございます
「合格」の言葉の心地よさ。
人生最高の時ではないかとさえ思いますね。
かくいう私も大学は第一志望からすべて落ちまくり…(;´Д`)現在の人生が待っていました。でもそれも含めて人生なんだなあって最近やっと思えるようになりましたw。
今後の桐乃の頑張りを見てやってくださいませ♪

サクラサクのタイトルできっと上手くいくと思っていました。
合格するって素晴らしいことですよねえ。
私は第一志望に落ちました。
その日の夜だけ食欲がなかった 笑
ま、翌日から食欲ばっちりでしたが。
桐乃さん、がんばれ!

ponchさんへ

ponchさんこんばんは
桐乃の夢一つ叶いました!そしてこれから桐乃はさらに自分の人生を切り開いてゆくことでしょう。
あの日あの時軍医長たちに逢わなければ、ただのトレーラーの女の子だった桐乃、縁は不思議で味なものです。
ご祖母様の人生…どんなにつらかったかと思うと今現在の自分の不平不満が恥ずかしくなります。桐乃をご祖母様に重ねて読んでください、きっとご祖母様はponchさんの中で大きく羽ばたかれることでしょう!!

桐乃さんは自分の夢を叶えたんですね。
自分も桐乃さんの前途が揚々としたものであることを願ってやみません。
まろゆーろさんのおっしゃる通り、縁とは不思議なものだと思いました。
私事になってしまいますが、明治生まれの祖母も実母の虐待で金持ちの家に養女に出されたのですが、こちらはその金持ちの家のドラ息子の嫁にするために養女にもらわれたんですよね。
祖母は自分の人生を生きられませんでしたが、桐乃さんには自分の人生を生きてほしいと思います。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは
桐乃と出会い、診療所に行かせたあの出会いがなければどうなっていたでしょう。それを想うとき縁とは誠に味なものだと思わざるを得ません。そしてそもそもの桐乃の賢さ、素直さ。そしてにいさまもおっしゃる様に汚れのなさが今日の強運を引き寄せたのでしょう。
ひととはこうありたい、否、あらねばと思う昨今です。
妙に涼しい日が続きましたら今日は久々暑かったです。と言っても湿度が低く、17時までは冷房入れませんでした。夏風邪なのかなんなのか体調不調です(◎_◎;)、この先…いろいろと大変なことが起きるが必定、気を引き締めてかからねばと思うております…。
にいさまもどうぞ御身大切になさってくださいませね^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんにちは
私もそんな提案受けたら、一も二もなく受けちゃうなあw。それを受けないところが桐乃のいいところなのかもしれませんね。もしかしたら一番先を見越しているのが彼女かも。
昭吾との愛、きっとこちらも行くところまで行くんだろうな~とw。こちらもお楽しみに。
男性って割りとお腹が弱い?そんな感じを受けますが緊張に弱いのでしょうか…?女は子供を産む性ですからやはり度胸の面では男性より座っているかもしれないですね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは
桐乃、医大合格しました^^。この先苦労もあるでしょうけど桐乃はきっと乗り越えることでしょう。見守ってやってくださいませ。
オスカーさんのご主人さまは看護師さんなんですね!すごいなあ、看護学校も大変だったことだと思います。私の叔母が看護婦(当時)で、その後病棟婦長や看護学校の先生などしていました。私はとても度胸がなくできないことなので憧れがあります。
桐乃と昭吾の愛も見守ってね♡

縁というものは大層不思議なものですね。
もしあの時に日野原軍医長と出会うことがなければ南の島の娘でしかなかったのかもしれない。
桐乃さんの聡明さを見出した軍医長の慧眼との出会いこそ彼女の強運であったのかもしれませんね。
汚れない人というのは人を魅了する何ものにも代え難い絶大なパワーがあるということでしょうか。
そして聡明な人ほど勉学に勤しむ。見習わなければなりません。
大暑の真っ盛りに立っているような暑さ。ひと月は頑張らねばなりません。
夏バテなどなさらぬようご自愛ください。

おいらならば、せっかくのご厚意は喜んでお受けしますw
ある意味これも公平なのかと考えますし、惜しい才能を
言葉の壁で失うのはもったいない。
あえて不利を承知で、同じ試験に臨んで合格する。
臨床では通訳者なんていないし、それこそ一瞬の判断が
試されるときもあるわけですから、こちらの方が
正しい選択ですね。
さて、試験に合格がゴールではなく、むしろこれからが新たなスタート。
ちょっと頼りない感じがしますが、昭吾さんもついていることですし、
桐乃さんの将来は光に満ちておりますね。
案外男は試験前に腹こわすとかやらかすのです。
女性は最初から度胸がすわってますから、これぐらいは平気の平左。
でないと子どもなんて産めないよね。

こんばんは。
桐乃ちゃんの合格、嬉しいですね!これからますます頑張ることでしょう。今は合格発表もネットで…とかみたいで味気ないですが(--;)
話を読みながら、旦那が看護師(当時は看護士)の国家試験の合格発表を家族揃って霞が関の厚生省に行ったのを思い出しました。准看の資格はありましたが、子どもが生まれてからやはり正看にということで、看護学校に入って若いおねーさんたちと数人のおばさまたちと学生生活を送っていました。桐乃ちゃんも実習とか大変だと思いますが(まだ先だろうけど)身体に気をつけて頑張ってほしいです~!
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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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