2017-09

魅せられて二兎を追う 2 - 2016.05.25 Wed

桜本兵曹の頭に小泉兵曹の言葉が稲妻のように閃いたーー

 

小泉兵曹は言ったのだ、「ええなあ、一人をずっと愛せるおなごは」と。すると、(またか。小泉の不機嫌のもとはまた男の問題じゃな)とオトメチャンは気が付いた。そして苦々しい気持ちになって(それにしても今までにないことじゃな、あいつが人にあがいに八つ当たりするんは。これは普通じゃない、なんぞあるに違いない)と思った。

桜本兵曹は、別に小泉兵曹は一人勝手に不機嫌になるなら別にどうでもいいのであった、しかし今回は石川兵曹、しかも桜本兵曹のお気に入りの部下を愚弄されたという思いがあるからただでは置けないという気が強かった。

「どうしたらええかのう」

桜本兵曹は独り言ちた。そしてさすがにこれはだれかに相談しないとならんと思い当たり、(そっちの話ならやはり、あん人じゃろうなあ)とその日の自由時間に機銃分隊の長妻兵曹を訪ねた。長妻兵曹は一所懸命に手紙を書いていたがオトメチャンの訪いに嬉しそうに笑顔を見せて

「おお、オトメチャンじゃないね。うちを訪ねてくれるなん、珍しいねえ。さあこっち来いや」

と便箋を仕舞って手招きした。オトメチャンは「ほいじゃあお邪魔します」と言って機銃分隊の居住区に入った。その場にいた機銃員たちが「オトメチャンじゃ」「オトメチャンを間近で見るんはうち初めてじゃ」「綺麗なねえ」と口々に言うのがオトメチャンには恥ずかしかった。それらの将兵嬢の間をそっと歩いてオトメチャンは長妻兵曹のそばに座ると、きょうの小泉兵曹の話を言って聞かせた。

「うち、小泉が一人で勝手に怒ったり不機嫌になるんはちいとも構わんのじゃが、石川兵曹を悪者にして虐めるんは許せんけえ」

そういってその頬を膨らまして怒るオトメチャンをまぶしげに見つめながら長妻兵曹は

「そんとなことがあったんか…ほりゃあ穏やかでないのう。しかしうちも最近あいつと一緒に遊びに行かんけえ、ようわからんところもあるんじゃが、うーむ」

と言って腕を組んで考え込んだ。そして「ほうじゃ」と顔を上げてオトメチャンを見ると

「小泉が上陸したらな、あいつのあとをついて見世に入るんじゃ。言うて別に遊ばんでもええ。飯食うておりゃええ。ほいでな、小泉が男と寝るところを観察したらええんじゃ」

とオトメチャンにとってはとんでもなく恥ずかしい提案をした。長妻兵曹は

「そん時はうちも一緒に行くけえ、言えや?一人でないほうがええじゃろ?」

とこともなげに言い、オトメチャンは「ほいじゃあお願いします」と言ったのだった。

機銃の部屋を出ようとするオトメチャンに数人の下士官嬢たちがまとわりつき、「ねえなんの話したん?」「もうちいとここに居ってよ、ええじゃろ?」「うちらとお話しせん?暇じゃろ?」などと話しかけオトメチャンは「ほいじゃもうちいとだけ」とその場に腰を下ろす…

 

その数日後。

オトメチャンは長妻兵曹とともに上陸することになった。小泉兵曹もその日上陸組であったが乗り込むランチは別のものに「してください」と願い出て果たされた。オトメチャンは事前に松岡中尉と麻生分隊士に「小泉兵曹の不機嫌のわけを解き明かしに行かせてください。うちは石川兵曹が気の毒なけえ、どうかして知りたいんです」と説得し松岡中尉は

「特年兵君はなんて情に厚いんでしょうね。麻生さーんあなたもっと見習いなさい…というわけでわかりました。特年兵君の上陸を許しますからしっかり小泉兵曹の悪行を暴いてきなさい」

と快諾し麻生分隊士も

「それはええが…くれぐれも気ぃ付けてのう?男とその…あの…」

と言い淀み、松岡中尉は

「男と寝てはいけない、と言いたいんでしょう麻生さーん。あなたもっと熱くなってきちんと言わなきゃ特年兵君にわかんないじゃないですか」

と言い放ち、麻生分隊士は「そんとにはっきり言わんでもええじゃないですか、分隊長には恥じらい言うもんがないんですかのう!」と言い返し二人で言い合いになる場面もあった。

オトメチャンはそんな二人を押さえて

「分隊士、うちはそんとなことをしに行くんと違いますけえ安心してつかあさい。長妻兵曹とその見世とやらで飯を食うて小泉の様子を探るだけですけえ」

と言って麻生分隊士を安心させた。

そんな小さなすったもんだがあったが、桜本兵曹と長妻兵曹は上陸桟橋から街中へと歩き出していた。

二人はしばらく、街中を見て歩いてそして「そろそろころ合いの時間じゃ」という長妻兵曹の言葉で小泉兵曹の行ったと思われる見世に向かった。

 

「ここじゃ。小泉のよく使う見世」

そういって長妻兵曹が立ち止まり指さした見世は大きな造りの見世で〈なんで屋〉と看板には書かれていた。「ふーん、〈なんで屋〉さんね」

長妻兵曹は「ここは下士官がよう使う見世じゃ。料金が安いけえの」と笑った。

「ふーん、ほうなん…」

オトメチャンはそういって見世を見上げていたが長妻兵曹に「いくで」とつつかれて我に返った。長妻兵曹と桜本兵曹が見世に入ると女将が出てきて「まあ長妻さんお久しぶりです」と頭を下げた。長妻兵曹も敬礼したあと女将に何やらささやいて、女将もそっとささやき返す。長妻兵曹はうなずいて「さ、上がるで」と言ってオトメチャンに促して靴を脱いだ。その靴を下足番の男性が引き取り、二人は女将の先導に従って見世の中を行く。

 

こちらへどうぞ、と言われて入った部屋は八帖ほどの部屋で、こういう見世には縁のないオトメチャンは珍し気に見まわした。長妻兵曹は「ここで飯を食うたり酒飲んだりしての。そのあとそれぞれ男と別の部屋に行くんじゃ。あるいはここで…する」と言ってオトメチャンは「…する、ですか…」と言って複雑な表情になった。

そして表情を引き締めると

「そんとなことより長妻兵曹、ほんまに小泉兵曹はここに来るんでしょうねえ」

と尋ねた。長妻兵曹はうなずいて「ああ、もう来とってよ。今は別の部屋に居ってん、が、事を始めるときはここの隣の部屋に来るよう、頼んどいてあるけえ」と言ってにやり、笑った。

「ほうですか」とやや困ったような表情でオトメチャンは言って所在なさげにその場に座った。長妻兵曹も座りながら

「まあ楽にしんさいや。そのうち女将があれこれ持ってきてくれるじゃろ」

と言って二種軍装を上着を脱いで洋服掛けにかけた。オトメチャンは初めての場に緊張したか、身じろぎもしないで正座している。長妻兵曹はそれを見て苦笑して

「そんとに四角く座らんでええよ。楽にしんさいや、見合いの場じゃないんじゃけえ」

といい、オトメチャンは「そうじゃね」とぎこちなく笑って胡坐に座りなおした。

 

そうこうするうち、仲居たちが料理を運んできた。その豪華さにオトメチャンは目を瞠って「こげえに豪勢なお料理、うちがいただいてええんかのう?」と長妻兵曹を見て言った。長妻はまた苦笑しながら小さな声で

「こげえな料理、普通じゃわここでは。そんとに驚きなさんな。さ、早いとこ食ってしまわんと、この後仕事が待っとるで」

といい、オトメチャンはまじめな顔でうなずくと汁椀のふたを取った。

 

二人が料理を食べ終え、膨らんだ腹を撫でていると外廊下を聞いたことのある声が男性の声とともに通ってゆく。そして隣の部屋に入ったようだ。

「小泉じゃ、来たで~」

長妻兵曹が妙にうきうきした、それでいて声のトーンを押さえてオトメチャンの肩をたたくとふすまを指さし「ここ、開けえ」と言ってオトメチャンはふすまを開けた。長妻は座卓を部屋の隅に押しやった。ふすまを開けたらそこは押し入れで布団が二組ほど入っていた。長妻兵曹は「その布団、ここに出せや」と言ってオトメチャンは二組の布団を出すと布団をそれぞれ延べて枕を置き、掛け布団を広げた。「布団敷けたで」というオトメチャンに「なにしよんね?」という長妻兵曹、その兵曹にオトメチャンは「布団敷くんじゃろ?じゃけえここに出したんじゃろ?」と言って長妻兵曹はあちゃ~、と片手を額に当てて天を仰ぐ。

「ほうじゃないわい!何が悲しゅうてここで二人で寝ないけんのじゃ。ええか布団を出したらうちらが押し入れに入るんじゃ。ええか、ほら入れ」

長妻兵曹はオトメチャンの背中をつかんで押し入れに押し込み、自分も入った。そして押し入れの壁の一か所を指して

「ほい。ここに目ぇ当ててみい」

と言ってオトメチャンはそこにそっと片目を押し当てた。

「ひえっ」

オトメチャンの喉が鳴ったーー

  (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・

不機嫌な、そして八つ当たり小泉兵曹の謎を解くべく桜本オトメチャンは長妻兵曹とともに潜入捜査?を開始しました。さてどうなりますか、次回をご期待ください!


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● COMMENT ●

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは
小泉は基本スケベですからw、顔だけでなくもしかしたら…ww!
オトメチャンはこういうことにほとんど免疫がない子ですからひょっとしたら衝撃強すぎで熱出しちゃったら困りますね。
ほんと、小泉兵曹もそろそろ落ち着いていい頃なんですが、周囲を見習ってほしいですよね(;´Д`)。
次回をお楽しみに!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
そうです、さすが鋭いですね^^。
その辺がどうも小泉のイライラの原因みたいですね。
で、長妻さん。オトメチャンの他の身に応えてくれたんですがいきなりその手の見世で潜入捜査は刺激強すぎるかも(-_-;)。でも常連の強みがここで出たようでw。
さあこの先どうなりますか!

こんにちは。
どちらもイイ男で捨てがたい!なのかしら? こっそり覗いた光景があまりにも刺激の強いものでないといいのですが……いろいろ心配になります(笑) 人の気持ちはあっちこっち揺れ動くものですが、フラフラした心の航跡図を描くのはほどほどにして、ずっしり錨をおろしたい相手を見つけてほしいです。でないと周りが大変

二股かけとる訳じゃな?小泉さんは。
小泉さんの悪友?長妻さん協力のもと、初めて色街に潜入調査のオトメちゃん。奥手の彼女には刺激が強過ぎるかも?
長妻さんも恋文を書いている最中の依頼にもかかわらず、オトメちゃんの頼みならばと一肌脱いでくれたのはいいのですが、さすがは突撃隊員、女将さんを巻き込んで策をねるあたりただ者ではないw


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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