2017-10

魅せられて二兎を追う 1 - 2016.05.22 Sun

佐藤副長が着任して十日以上が経ったーー

 

ようやく「女だらけの大和」乗り組みの将兵嬢も佐藤副長に慣れ、佐藤副長も皆に慣れ、落ち着いた艦内が戻ってきたようだ。

そんなある日、桜本兵曹は第一艦橋で勤務を終えるとき交代の小泉兵曹とちょっとした言い争いをした。

事の発端は、防空指揮所での小泉兵曹の班の亀井上水の勤務態度がよろしくないと桜本兵曹オトメチャンが意見をしたところから始まった。

「なあ小泉兵曹、亀井上水はちいとだらしないんと違うか?交代の時間にちょくちょく遅れてきよるし交代のもんが来んうちに戻ろうとしよるらしいで?そんとなことで何ぞあったとき対応できんじゃろうが、小泉からきちっと言わんといけんで?右舷の見張りの評判落としたら困るじゃろうが?右舷の不評は総じて『大和』の不評じゃ。小泉は班長なんじゃけえ、ちいと班の人間の様子を見たほうがええよ」

そういった桜本兵曹に小泉兵曹はなんだか面倒くさげに

「なんじゃねオトメチャン。うちに意見する気か!?右舷のことにくちばしを突っ込まんでほしいのう!いったいだれじゃ、そんとなことご注進するやつは」

と言って桜本兵曹をにらみつけた。

オトメチャンは

「誰でもよかろうが」

というと小泉兵曹はいきなりオトメチャンの防暑服の襟をつかんで左右に振り回し

「言わんか!誰じゃそんとなつまらんこといちいち告げ口するんは。どういうつもりなんじゃ!誰だか言わんか」

と怒鳴った。オトメチャンは小泉兵曹の手を襟から払いのけ

「言ったらどうするんね?貴様、『余計なこといいおって』いうてこうやって暴力ふるうんじゃろ?うちは大事な班員に手えだされとうないけえ、言わんで。そもそも貴様の部下が悪いんじゃけえの!貴様の部下ならきちんと教育するんが班長の役目じゃろうが!」

と言って上着をびっと引っ張ってしわを伸ばした。

小泉兵曹は桜本兵曹の顔をじっと見つめていたが「――じゃな」と言った。桜本兵曹は聞き取りかね「は?なんね?」と問うと小泉兵曹は大きな声で

「石川兵曹じゃな。貴様に告げ口したんは、あの野郎下士官になってからえらそうな態度とりおって、前々からなんやええ子ぶりおっていやなやろうじゃ思うとったがこのところどうも…。おい、桜本。貴様こそきちんと教育せえや、人のことなんぞあれこれ嗅ぎまわったり告げ口するよりてめえの頭のハエを追えってのう!」

というなりオトメチャンの肩をドンとばかりに突いて、オトメチャンはよろけた。がすぐに体勢を立て直すと

「小泉兵曹貴様ちいと変じゃで?前にはそんとなことこれっぽっちも言わんかったんに、なんで今になってそげえにいうんじゃね?石川兵曹が問題なんとは違うな、さては。何があったか言うてみんか」

と小泉の瞳の奥を見つめて言った。

しかし小泉兵曹はそっぽを向くと

「なんもないわい。ーいうかオトメチャン、貴様最近ずいぶん大人になったのう。さては許嫁の男と、大人になるようなことしたんじゃろ。ええなあ、一人をずっと愛せるおなごは」

と言って「ほんなら交代じゃ。異常なしじゃな」というとオトメチャンを押しのけて双眼鏡についた。オトメチャンはため息を一つつくとその背中をちらと見た後、艦橋を出て行った。そして(このことは石川兵曹に言うといたほうがええな、小泉のやつ何をしでかすかわかったもんやない。ほうじゃ分隊士のお耳も入れといたほうがええな)と思った。

小泉兵曹は去り際のオトメチャンの背中をきつい目つきでにらんだ。

 

騒動はその晩の巡検後、航海科の居住区で起こった。

小泉兵曹がいきなり石川兵曹をぶん殴ったのだった。「貴様いらんこと言うなあ!」と怒鳴って。桜本兵曹、酒井水兵長、そしてちょうど居住区前を通りかかった樽美酒少尉が駆けつけ

「なにをする小泉兵曹、艦内での喧嘩はご法度だ」

と叫んで取り押さえた。小泉兵曹は「放せ、放してつかあさい」と叫びながらも樽美酒少尉に組み敷かれておとなしくなった。

桜本兵曹は口元から血を流している石川兵曹のそばによって腰から手ぬぐいを外し「血がでとる…大丈夫か?」と口元の血をぬぐってやった。石川兵曹は「はい、平気です。ありがとうございます」というと頭がふらつくのか両手でひたいを押さえた。

酒井水兵長がケンパスを出してきて「ここに横になってつかあさい」と気を利かせた。桜本兵曹は、石川兵曹をそこに寝かせ

「話をしたばかりで、いきなりじゃったな。守ってやれんでごめんな」

と謝ると石川兵曹は「そげえなことないです、班長から話を聞いとってからこそこの程度で済んだと思うてます」と言って目を閉じた。めまいがするのかもしれない。

その向こうかわでは樽美酒少尉が小泉兵曹を詰問している。少尉は今まで見せたことがないような厳しい表情で小泉兵曹を問い詰めている。

そこに騒動を聞きつけた麻生分隊士、松岡中尉が走りこんできた。樽美酒少尉は二人に敬礼して自分が見た限りのことを話し、桜本兵曹も立ち上がって二人のもとへ行き今日昼間の小泉兵曹とのいざこざを語った。

麻生分隊士が松岡中尉を見て、中尉は小泉兵曹の背中をつかむと部屋から引き出した。麻生分隊士が慌てて後を追う。その場の皆も部屋の入口まで小走りにその様子を見に行く。

松岡分隊長は、麻生分隊士から昼間桜本兵曹と小泉兵曹の小さな争いを聞いていたので

「小泉さん、あなた石川兵曹をそんなに目の敵にする本当の理由は何ですかねえ?私が考えるに、あなたの言った理由、本物じゃない気がするんですよねえ。これは私の当て推量ですがあなた、ほかに大きな悩みがあってそれを石川さんにすり替えただけじゃないですか?だとしたらあなた、石川さんは被害者でしょう?本当のことをいったんさい?」

と言葉は優しげだが見つめる視線は大変に厳しい。背中をつかまれたままの小泉兵曹、ずっとうつむいていたが突如として顔を上げると

「申し訳ございません、こげえな騒ぎを起こしてしもうて。うちは自分の班のものを桜本兵曹に指摘されてちいと腹が立っただけです。うちの監督不行き届きを桜本兵曹に言われ単に腹が立ってしもうて。石川兵曹にはすまんことしてしまいました、謝ります」

と言って松岡分隊長、そして麻生分隊士樽美酒少尉を見た。

松岡中尉が小泉兵曹をつかんでいた手を緩めると、兵曹は一礼しあっという間に走り去ってしまった。

桜本兵曹はその様子を見て(なんだかへんじゃのう、今まで小泉はあがいなことで腹を立てたり人に暴力ふるったりせんかったのに。ほかになんぞ理由があるんと違うかのう?どうも妙じゃ)と感じている。

その時、オトメチャンの頭の中を稲妻のように走った小泉兵曹の言葉があった。

(まさか、小泉のやつ…)

オトメチャンはまさかの思いに立ち尽くしていた――

   (次回に続きます)

 

                ・・・・・・・・・・・・・

今までなかった桜本オトメチャンと小泉兵曹のいざこざ、そしてそれは小泉から石川兵曹への暴力となりました。いったいなにが彼女をそうさせたのでしょう、そしてオトメチャンの頭にひらめいた言葉とは?次回をお楽しみに。


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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
ドキドキしますね~w、どうなりますか。相手はなかなか一筋縄ではいかない小泉さんですからオトメチャン苦戦するかもしれません。
今回、タイトルすっごい悩みました。で、結局こんなわけ解らんことになりました…〈解決編〉までお読みになったら、わかる!--と思います(-_-;)…

こんばんは

さて、どうなるのでしょう。
いつの時代も人間関係はむつかしい。
うまく、まとまって欲しい。
魅せられて二兎を追う・・・とはどういうことでしょうか。

ponchさんへ

ponchさんこんばんは
小泉さん確かにオトメチャンに大きく水をあけられているかもしれません。その辺の焦りがあるのかないのか?この後オトメチャンが暴き出す!?―お楽しみに!
女の多い職場は結構いろんな軋轢が多いですね、しかし八つ当たりはいかん!石川兵曹が気の毒です。しかも彼女はオトメチャンが目をかけている一人ですから…(-_-;)。

No title

小泉さん荒れてますねー。皆さんのおっしゃる通りオトメチャンに水をあけられたように感じているんでしょうか。
男は仕事だけやってれば評価されますけど、女は働いていても家庭に入っても叩かれますよね。
職場の問題の大半は人間関係とも聞きますが、女だらけだと何かと衝突は多いだろうなーと思いますけど、だからといって八つ当たりされた方はたまったもんじゃありなせんよね。

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます
わけがある、わけがあるのだろうと思いつつも石川さんはたまったものではありませんね(;´Д`)。
小泉さん何をそんなにカリカリしているのでしょう…オトメチャンきっとその辺を探ってくるのではないかと!?
この頃オトメチャン精神的に成長しましたからきっと小泉さんの悩み?を解決できることでしょう。
次回をお楽しみに^^!

こんばんは。
なんだろう、揺れる乙女心、きっと何かわけがあると思いつつ、八つ当たり(?)された方はたまったもんじゃないですね。
自分ではわからないモヤモヤした気持ちも他人にはクリアに見えることがありますし……。オトメちゃんがなんだか探偵に思えてきました(笑)今後が気になります~ワクワク!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
小泉兵曹の大荒れの原因は??
オトメチャンは以前ちょいとワルでしたがいつしか路線変更し純情乙女路線に移行してしまいしかも婚約の身、小泉兵曹としては面白くはないですね(;´Д`)。さてなんだかかんだかありそうですが、あまり唖然とする理由でなきゃいいのですが。次回をお楽しみに♡

小泉さん、荒れてますな。オトメちゃんも昔は半グレ仲間でしたが、最近はなんとなく水をあけられている。同じような経歴の同期が先を行っているというのは、面白くないものです。
ひとやまふたやまありそうですが、昔から知ったものどうし、最後は上手くまとまるでしょうか?


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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