2017-10

「女だらけの戦艦大和」・快挙! - 2010.05.14 Fri

「女だらけの戦艦大和」は、呉海軍工廠で修理および兵器の増強をも行っている――

 

乗組員は兵器の増強中ということもあり、大きな訓練はできないでいたが各分隊ごとに小さな訓練などをして日々怠りなく過ごしている。

そんなある日。

航海科見張り員たちは最上甲板の主砲塔前で、敵機や敵艦船と味方艦船の識別を学んでいるところである。

麻生分隊士兼分隊長が、敵空母と味方空母、戦艦・駆逐艦などのシルエットを描いた板を見張り員に見せる。

「これは何だ!」

すかさず見張兵曹が手を挙げて「わが方の空母、瑞鶴であります!」

麻生分隊士が満足げに笑って、「よし!」という。次の板を掲げる。「これは何だ!」

見張兵曹はあえて手を上げない。皆を見まわす。

酒井上水が、はっとしたように手をあげた、「敵のオバマ級戦艦であります」

麻生分隊士は「よし!」と言ってまた次を掲げる。亀井一水が「ハイハイハイ!」とけたたましく叫んで麻生分隊士はちょっと顔をしかめ、口をひん曲げてから亀井一水を指した。

亀井一水は胸をそらすようにして、「敵の空母、ヒラリー・クリントンであります!」と自信満々で言ったが、麻生分隊士に、「よく見んか、『飛龍』じゃないか!」としかられて皆がどっと笑った。

見張兵曹が、

「飛龍、と言えば艦橋が左側にあるんでしたね。『赤城』 もそうでしたね」

と補足した。麻生分隊士は、もっと満足げにうなずいて、

「そうだ。みんなももっと見張兵曹のように細かいところまで勉強しなきゃいかんぞ。それからもっと早う敵と味方を見分けられないといかん。今からそれぞれ、識別の訓練を始めよ。五十分後にもう一度試験をする」

と言って皆緊張の面持ちでそれぞれの苦手を克服すべく、麻生分隊士の作った識別の教科書を開いている。

 

そんな訓練も1630(午後四時三十分)で終了した。

食事の時間も近いので、食卓番はその仕事のために準備を始める。

「麻生少尉、艦長と副長がお呼びです」

「艦長従兵」の、見張兵曹が麻生分隊士を呼びに来た。兵曹は訓練終了後すぐに艦長室に飛んで行って艦長の食事の支度をしてきたのだった。

「艦長と副長?なんだいやな組み合わせだなあ、何の用なんだろう」

ブツブツ言いながら、しかしおとなしく「艦長従兵」の見張兵曹の後について艦長室に行く麻生分隊士。

艦長室の前で見張兵曹は「麻生分隊士です」と言って中から「どうぞ」と艦長の声がした。兵曹はドアを開けて麻生分隊士を通した。

兵曹は中の艦長・副長に一礼するとドアを閉めて行こうとした、その時艦長が

「あ、オトメチャンもちょっとこっちに来てほしいの」

と言って兵曹を留めた。兵曹は小首をかしげて「は。私も、でありますか?」と言って「失礼いたします」と艦長室に入った。

艦長は、応接セットのソファを示して二人に「そこに掛けて」と言った。四人はソファに腰を沈めた。艦長が、一冊の雑誌を手にしてしおりを挟んであるページを開き、麻生分隊士と見張兵曹に差し出した。

「これがなにか・・」と麻生分隊士は言いかけてそのページを見て小さく、「あ・・・」と声をあげた。兵曹が麻生分隊士の顔を見てからそのページを見た、そこには

「海きゃん特別企画 ~私の思い~ 一通の手紙に込めて」

と大きな見出しがあって、「特選  『宛名のない手紙』 海軍弐等兵曹 見張トメ」の文字が躍っているではないか。

「オトメチャン、すごい。すごいよオトメチャン」

麻生分隊士は興奮して叫んだ。兵曹はなんだかよくわからないようである、分隊士は「ほら、あの時オトメチャンが書いてた手紙、俺が投稿しようって言って海きゃんに投稿したんだよ。・・・そうかあ、あれいい文章だったもんなあ、特選なんてすごいや!」と言って兵曹はやっと思い出した。

副長が笑って、「これは『大和』にとっても名誉だよ。なんたって『大和』乗組員の名誉だぜ。オトメチャンでかした!」

艦長も嬉しそうに、

「賞金が出るって、オトメチャン。楽しみだね~」

と言って笑う。

兵曹もやっと笑った。

 

この話はその日のうちに『大和』の全艦を駆け巡った。

誰かが持ち込んだ何冊かの『海きゃん』は回し読みされてすっかりクタクタになっていた。皆は興奮気味で、「すごいなあ、なんてきれいな文章なんだろう。私もオトメチャンみたくいい文章書きたい」と口ぐちに言った。

そんな騒ぎが見張兵曹は恥ずかしかった。

だからその騒ぎから逃れるように当直が終わると下甲板に行った。ここで何があると言う訳ではないが、機械の唸りに身を任せたい気分であった。

誰もいない缶室近くの壁に背を預けると、機械の唸りが細かい振動となって背に伝わってくる。目を閉じてそれを感じる。

ふいに、「お?トメじゃないか」と声を掛けられ目を開けた。

そこには防暑服の胸を大きくはだけた松本兵曹長が立っていた。見張兵曹は敬礼した。礼を返しながら兵曹長は、

「聞いたよ『海きゃん』の特選の話。で、読ませてもらった。お前なかなかいいセンスしてるなあ。きれいでまるで風景が見えるようだったぜ・・・お前戦争終わったら作家になったらどうだね?」

と言って兵曹を見た。

兵曹は恥ずかしげにうつむいて、

「そんな、あれはまぐれであります。私は学もないつまらん人間であります」

と消え入りそうな声で言った。すると松本兵曹長は兵曹の肩をドンと叩いて、

「なーに言ってんだよ、もっと自分に自信を持ったらどうだ?トメにはトメにしか出来ないものだってあるだろうが。現に見張りはトメの右に出る者はいねえってンだし?…いつかトメの書いた文章、もっと読ませてほしいもんだぜ」

と励ました。

見張兵曹はとても嬉しくなった。大きな松本兵曹長を見上げて、

「はい。なんだか力が湧いて来たであります。・・・松本兵曹長どうもありがとうございます」

と言って敬礼した。それを満足げに見ていた兵曹長は、次の瞬間兵曹を力いっぱい抱きしめた。

「ウウッ!」

とうめいた兵曹に、松本兵曹長は「トメは本当に可愛いよな。可愛いからこそ意地悪したくなる・・今まで意地悪して済まなかったね。時々こうやって抱かせてくれよな」と言ってもう一度力いっぱい抱きしめると、その腕の力をやっと緩めて、

「じゃあな、俺はこれで」

と言って去った。

見張兵曹はその後ろ姿に敬礼した。松本兵曹長は今まで本当に怖かったが最近は随分優しくなったと思う。

(私の事を、可愛いと)

見張兵曹は一瞬嬉しかったがよく考えると「お相手」がまた一人増えそうな気がして、ちょっとだけ「怖かった」のである。

 

後日、『海きゃん』編集部から見張兵曹あてに特選の賞金15円と賞状が届いた。

艦長はことのほか喜んで、賞状を『大和神社』にあげて拝礼した。賞金は「オトメチャンのものだからオトメチャンのいいように使ってね」ということに。

見張兵曹はどうしたらいいか迷ったが、麻生分隊士のおかげでこうなれたのだから、と分隊士に半分渡した。

麻生分隊士は驚いて、

「オトメチャン、いいのか!?

と言って再三確認したが兵曹の意思は固くあったので、「では・・・」と収めた。そのあと分隊士は兵曹を抱いて「お礼」をしたのは言うまでもない。

そんな二人をトメキチが嬉しそうに見ている『大和』艦内には、春のにおいが流れてきている。

日本の春は本番を迎えていた――

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

あっぱれ見張兵曹!

学のある無しではなく、感性のもんだいなのでしょうね。

でも松本兵曹長の太い腕での抱擁は、きついものがありそうで・・・私は辞退したいです。


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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

こんばんは

オトメチャンは私の中で作り上げた「理想の日本女性」です。か弱くもあり、反面勇気もあり
家庭的で慈愛に満ちた女性、なーんて実在するわけがないですが、でも理想として。
今後の彼女は一体どうなるのか、ご期待ください!!

松ちゃんさんへ

こんばんは

なんか「文豪」とか「俳人」って虚弱なイメージ、あるんですよね~。正岡子規、なんてまさにドンぴしゃ。

布団の中でエロ鼻血ww。
いったい何をかいていたのでしょうか???
・・・やっぱり、あれ!?

としぼーんさんへ

こんばんは

正式名称を「海軍きゃんきゃん」といいますww。

オトメチャンを気に入ってくださってありがとうございます!
この話ではだいたい1941年ごろから1945年にあったことをモチーフにしています。一応日米開戦後、ということにはなっていますが、まだ「大和」は本格的に出撃してはいませんようなので今後をお楽しみに!!!

ジスさんへ

こんばんは

投稿って雑誌の方はなかなか採用になりませんね、、、。
私も何度かラジオ番組とかに投稿しました。
一度「武田鉄矢」さんにはがきを読んでいただきました。

あと中学の時は地元のFM局の土曜の公開放送によく行ったものです。リクエストアワー、とかいうの。
なつかしい。

No title

オトメちゃん、優しいだけでなく文才もあったんですね。
なかなかいませんよ。今の世の中。
家庭に入ってたらきっといい奥さん、いいお母さんに
なってたでしょうね。おまけに可愛いし。
非の打ちどころのない女性ですね。

No title

見張りんさん、こんにちは。 良かったですねぇ~ 私もたまに布団の中で病に耽っている文豪である自分の姿を想像します。 ゴホン・ゴホン!と咳をしながら、ふと、口に当てた自分の手を見たら鮮血が・・・驚いて手鏡を取って見るとなんとこれがエロ鼻血だったんですね~ (泣く 

No title

海きゃん! 某雑誌を連想して笑ってしまいました!
オトメチャンのファンになりました! 締めくくりに「日本の春は本番を迎えてた」とありますが、今までの内容から察すると1941年の春かなぁって勝手に思い込んでしまいました。1941年と言うことは・・ 
この年の暮れに出撃なのか!と勝手に想像しニヤニヤニヤ(・∀・)ニヤニヤニヤしてますw

No title

おめでたいお話ですね。

なかなか投稿で入選するって難しいことだと思います。
私は投稿はしたことはありませんが、昔深夜ラジオにはがきを出してもなかなか読んでもらえず悲しい思いをしたこと・・くらいかな?


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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