2017-10

参謀長はお見通し 1 - 2015.12.10 Thu

女だらけの「軍艦大和」は懐かしいトレーラー・水島にその身を浮かべているーー

 

ここに帰ってきたのは一週間ほど前になる。久しぶりのトレーラー・水島の変わりない姿に乗組員たちは喜んだ。随伴の巡洋艦・駆逐艦の乗員たちも同様に「いいねえ、この風景。第二の故郷だよね」と言い合っては青い空と海を見つめていた。

 

第一艦橋では防暑服姿の梨賀艦長と山中副長そして森上参謀長が窓の外に広がるトレーラーの明るい風景に見入っている。どんなに長い時間見つめていても決して見飽きないこの風景。

「『武蔵』とは入れ違いになってしまったね。猪田さんと話をしたかったが、また帰ってきたらゆっくり話をしたい」

と梨賀艦長が言って副長はうなずいた。そして

「なんでも『武蔵』が中心となってここで住民と海軍の合同運動会をしたと聞きました。普段恩を受けてばかりだからこの際返したい、と加東副長が申し出て実現したんだそうです。加東さんいい事思いつきましたよね」

と言って今度は森上参謀長のほうを見た。その副長の視線を受けて森上参謀長は

「私も聞いたよ。なんでも参加艦艇が金を出し合って、住民からは一銭も取らなかったんだそうだ。さすがだね、そのうえ参加賞も出して子供達には宝探しで帳面と鉛筆を渡したんだそうだ。皆大喜びだったそうだよ」

といった。梨賀艦長は

「ほう、参加賞。どんなものを?」

と聞いて、参謀長は「なんでも、シャツだそうだ。正直言ってここはまだまだ裕福ではないからね、子供たちのシャツが破れているのを見た加東さんは『シャツを贈りたい』って言って、それで参加賞にシャツを子供にも大人にも渡したらしいよ」といった。

副長がうなずいて「素晴らしいことです」といった。そして副長は

「ちょっと失礼します」

というと艦橋を出て行った。入れ違いに繁木航海長が入ってきた。そして窓外の風景を見て

「いやあいつみても美しい眺めですねえ。―いつか、戦争が終わったら…」

と言いかけてポッとほほを紅く染めて黙った。森上参謀長、にやりとして

「戦争が終わったらご主人とここでゆくりと過ごしたいんだろう?いいねえ新婚さんは~、私もあやかりたなあ」

とからかった。繁木航海長はほほを染めたまま「参謀長は何でもお見通しなんですね」と言って笑んだ。参謀長は笑って

「そうさ、私は何でもお見通しなんだよ!――そうだ、野村じゃなかった山中の旦那の大佐。彼は…ムフフ~が強いと私は見受けたぞ」

と言ってさらに笑う。繁木航海長が

「ムフフ~、って何です?山中大佐、何が強いんでしょう?お酒?いやそんなことはないと思いますが、それともかけ事?いやいやあの方はそんなことは決してなさいませんし、ほかにはなんでしょうね?う~ん、じゃんけん?私にはちょっとわからないですね」

と首を傾げ、梨賀艦長も「ハテ。なんだろうか」と首をかしげて繁木航海長と顔を見合わせた。

すると参謀長は思い切りニーっと笑い顔を作ると

「ラリキだよ、ラリキ」

と言い放って、これには艦長も航海長も「ヒエィ!」と叫んでそれこそほほを真っ赤に染めた。繁木航海長など真っ赤に染まった頬を両手で押さえて

「森上参謀長、いったいなんてことをおっしゃるんです」

と言ってうつむいてしまった。

ラリキ。海軍士官の隠語でペニスパワーを指すのだという。

森上参謀長はしれっとした顔で

「山中大佐はラリキが強そうだ!一見そんなことがなさそうな感じだがそういう人に限って床に入ればすさまじいぞきっと。そうだ今夜山中に白状させようぜ」

と言って艦長は

「そんな悪趣味な。やめろ森上」

といさめたが参謀長は

「いや俺は聞きたいね、新婚のソッチの話。あ、繁木さんもぜひ参加して教えてね~、じゃな!」

というだけ言って艦橋を出て行ってしまった。

残された艦長と航海長、ふーっとため息をついて

「参謀長、そこまでお見通ししなくっていいのに」

と言って、航海長はやれやれ今夜は難儀だな、と言って艦内帽を取ると頭をごしごし掻いた。

 

その日も暮れて巡検の時刻を終え、「煙草盆出せ」の号令のあと参謀長の呼びかけで梨賀艦長の部屋に副長以下の科長が集まった。ただ日野原軍医長だけは急患があったとかで来ていない。

参謀長は

「なんだ、日野原軍医長にはぜひご意見を伺いたかったのに」

とぶつぶつ言ったが山中副長に

「仕方がないですよ、急患なんですから」

と言われて「まあ、軍医長には後日お話しするからいいや」とあっさりあきらめた。黒多砲術長が椅子に座りなおしながら

「で?今日はいったい何のお話ですか」

といった。森上参謀長は

「なんの、というほどでもないがね。―繁木航海長も山中も、ご主人がたはお元気そうかね?」

と言って繁木航海長はやや気まずそうな顔で「は、はい…」と返事をした。山中副長は

「おかげさまで。一所懸命仕事に励んでいるようです」

と答えた。すると参謀長はにっこり笑って

「副長のご主人はなかなかパワフルだと私はお見受けしたよ。きっと…強いんだろう?」

といった。副長は小首をかしげて「は?強い、と申されますと?」といった。梨賀艦長がそっと参謀長の袖を引いたが参謀長は構わず

「あれだよあれ。ラリキが強いんじゃないかって言ってるんだよ」

と言い放った。あちゃ~、と繁木航海長が頭を抱え、梨賀艦長が苦々しげな顔で横を向いた。肝心の山中副長は最初ぽかんとしていたが次の瞬間笑い出した。その場の科長たちはびっくりして副長の顔を見つめた。

皆は、副長が怒り出すと思っていたのだ。が、はずれた。今、副長は参謀長の〈ヘル談〉をあっさりかわしてほほ笑んでいる。これには当の森上参謀長がびっくりしている。

副長は微笑みながら

「参謀長のおっしゃる通りでございます。私の夫は強うございます。はい、なかなかでございます。で、参謀長。ほかに聞きたいことはございますか?」

と言って参謀長はあわてて

「いやいや…いいよいいよ、よくわかりました。はいありがとう。というわけで私はちょっと用事を思い出したからちょっと失礼。皆さんはどうぞこの後も続けてくださいな」

と言って部屋を出て行った。その背中は〈気まずい気まずい!〉と言っているのがありあり見えて、ドアが閉まって参謀長の足跡が消えた後、艦長以下は大笑いしたのだった。

繁木航海長は

「昼間参謀長がさっきの話を艦橋でしたんです。私そんなこと副長に言うのはよくないと思ってハラハラしていました…でもほっとしました」

と正直な心情を吐露して艦長もうなずいた。副長は防暑服の上着の袖をそっと引っ張りながら

「むきになって『そんな下品な話をしないでください!』っていうのは簡単ですがそれだと参謀長はまたきっとその話を持ち出すでしょう。参謀長の性格からいったら絶対やると思いましたからあえて私から話しました。そしたらほーら、参謀長毒気を抜かれちゃいました。妙な話が出たときは正面から向き合わないでこうやっていなすのも手かもしれないですね」

と言って梨賀艦長、山口通信長は

「さすが副長!心得てらっしゃる」

と喝さいした。恥ずかしそうに微笑みながら副長は膝をさすっている。

 

その夜も遅く、参謀長はふらりと甲板を歩いていた。星が降るように輝き南方に来たのだと実感していると艦首のほうに誰かが立っているのを見た。

誰だろう?と参謀長はそっと寄って行ったがふと足を止めるとその姿に見入っていた。が…そっと踵を返し艦内へと戻っていった。

 

艦内に入ると、向こうから日野原軍医長がやってきた。どうやら手術をしたらしい様子で参謀長は

「お疲れ様です…手術でしたか?」

と尋ねた。軍医長は「はい、いましがた終わったところですよ」と言い参謀長は「大きな手術でしたか?誰か何か大きな病気でも?」と尋ねると軍医長は笑って

「いやいや虫垂炎だったんですが、ちょっとこじらせていましてね。でももう大丈夫、すっかり取りましたから。患者は通信の三山少尉です。彼女、兵曹長から少尉に任官して張り切りすぎたようです。グアムを出るころから様子がおかしくなってきたようで、トレーラーについたら痛みでどうしようもなかったと。で、担ぎ込まれてきました。もうちょっと遅かったら後が大変でしたが、大ごとなく済みましたよ」

と言って参謀長もほっとした。

そうでしたか、と参謀長は言ってから

「あ、そうだ。日野原軍医長、私はちょっと気になることがあるんですが」

と言って軍医長の耳にその口元を寄せて先ほど甲板で見てきたことをそっと話した。日野原軍医長はうなずくと

「参謀長はお見通しだったのですね…私も少し前からそうではないかと思っていたんですが…やはりそうかもしれませんね」

と表情を引き締めて言った。

森上参謀長も

「やはり軍医長のお立場からもそう思われましたか…ではこのこと明日にでも梨賀に」

と言って二人はその晩は分かれた。

 

その晩―森上参謀長は何か気持ちが揺らいで寝付けなかった…

   (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・

トレーラーに戻ってきた我らが「女だらけの大和」。

森上参謀長のちょっと下品なお話がありましたがそれよりも、いったい参謀長は何を〈お見通し〉なのでしょうか。

緊迫の次回をお楽しみに。



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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
いつもありがとうございます^^。
なにか70年とかそれ以上前の男女のお話しとなると、おっしゃるように何かベールの向こうにあるように思えてしまいますね。
もりんさんも、お見通しなんですね^^。
物事を見通せるって、頭のいい証拠ですよ♡

こんにちは

いつも展開が、おもしろいですね。
あの時代の男女の話は、今も変わらないのでしょうが
なんとなく、ベールの向こうのように思えます。
お見通し・・・わたしも、お見通しです。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
今日は怖いくらいに風が強くってひどかったですね。うちの前の街道に植わっている欅の落ち葉が半端なかったです(;´Д`)。
まだまだ初々しさにあふれた次ちゃん。もし…子供ができていたらどんな母親になるか楽しみですね^^。参謀長(三宝町、きれいな名前ですね!)はこの先もっと何かをお見通しになるんでしょうか??ご期待くださいませ。
夜になったら急に寒くなりました、オスカーさんも御身大切になさってくださいね^^。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
そうなんです。森上さん実は次ちゃんに複雑な心を持っているんですね、さあもしこれでおめでた発覚したら…穏やかでいられるでしょうか?
ラリキの強さ。私には正直よくわかりません(;´Д`)。
一人娘さん、かわいいでしょう!姉御肌、かっこいいですね。これからの女の子はそうでなきゃだめですよ^^。先が楽しみですね♡

おはようございます。
結婚して女性としてのたくましさも身に付けたような~でもまだまだ初々しい!(笑) 参謀長、と一発変換できなくてナゼか三宝町となってしまいますが、3つの宝…子宝に期待しています。
今日は雨ですね。あたたかくしてお過ごし下さいませ。

森上さんは過去に次ちゃんを手籠め?にしかかりましたし、艦艇ーズの仲間としても次ちゃんがおめでたで大和を去るとなると複雑な思いでしょう。
ラリキですか?おいらは対して強くないので、一人娘で十分ですwもっともフカ狩り3人衆とまではいきませんが、かなり男っぽいので一人息子と呼べなくもないのですがw姉御肌ですしw


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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