山中大佐危険な夜 2〈解決編〉

リンガ泊地、その壮絶なまでの月明かりの下に停泊中の空母・瑞鶴艦内で山中大佐は呆然としてつぶやいていたーー

 

「あなたは…」

舷窓からは入るはずのない月明かりの中、彼のベッドの上に座っている誰かがそっと振り向いた。振り向いた人はだれあろう、彼の従兵としてつけられた柏原タキ水兵長であった。

彼女は昼間彼があった時とは打って変わって、妖艶な雰囲気をまとい彼を見てほほ笑んだ。その嫣然とした微笑みに、山中大佐の体がさらにぞっと寒気を増した。

「あなたは、なぜにここにいらっしゃる?」

山中大佐は痛い喉を振り絞るようにして言った。声がガラガラに枯れて痛みが増す。

すると柏原水兵長はベッドから立ち上がるとそっと彼のそばに来てその両肩にやわらかい両手を置くと彼の耳元に

「なぜって…それはあなた様がお体の具合がお悪そうだったから。こうして大事なお客さまであるあなた様を温めて差し上げるのがわたくしの務めです」

というなりその体を押し付けてきた。山中大佐は慌てて彼女を引き離そうとして

「いけません。艦内でこのようなふるまいは許されませんよ?こんなことをしてくださらなくって結構です。普通にしてくださるだけで私は十分ですから。どうかもう行ってください、でないと…このことを私は副長や艦長に申しあげねばなりませんよ!」

といさめた。のどがさらにズキンと痛んだ。咳込んだ。

すると、柏原水兵長はそっと彼から身を離すと

「そんなつれないこと…。これでもお嫌でしょうか?」

とほほ笑むといきなり来ていた防暑服を引き裂くようにした。すると、その下からなぜか真っ赤な長襦袢が現れ、山中大佐の瞳を射た。

水兵長は長襦袢の裾をちょっと開きながら

「ほら。大佐もこういうのお好きでしょう?さあ、一緒にベッドに入りましょう。わたくしが大佐を温めてお風邪を治して差し上げましょう」

というと次の瞬間、大佐に抱きつくとベッドに倒れこんだ。

大佐は、彼女の上になってしまった。水兵長は大佐の背中に両手を回して

「いいんですよ、何をなさっても。このこと、私が艦長から直々にお願いされていたことですから平気です。だから、ね?」

というと唇を彼に寄せてきた。

大佐の体はもうすっかりだるくて辛かったが、それでもやっと

「私には妻がいます、その妻を裏切るような真似私はできません。あなたとそういうことはできませんから」

といった。ハアハアと熱い息を吐いて咳込む彼に、柏原水兵長は襦袢の胸をそっと広げつつ

「いわなければ誰にもわかりませんわ。さ、どうぞ?」

と彼の片手をそっとつかむと水兵長はそれを襦袢の胸元へ入れーーその中のものをそっとつかませた。

その柔らかな感触が、熱に浮かされた山中大佐の理性を軽く奪った。大佐は息を荒げて水兵長にのしかかると長襦袢のひもを荒っぽく解きそして開いた。白い胸があらわになって、大佐は夢中でそこに顔をうずめた。水兵長は大佐を抱きしめ、そして両足を開き彼を迎え入れようとした。

とーー。

 

「この痴れ者!そこになおれ!!」

とものすごい大声が響き、ドアがけり倒された。

うわっ、とさすがに山中大佐がびっくりして背後のドアを振り返るとそこに立っていた人影が二つ。よくよく見つめるとなんとその二人は…

嫂の山中シズと、妻の次子中佐ではないか!

二人は陸戦装備で陸戦バンドを締め、軍刀を下げている。そしてシズはに至っては抜き身の軍刀を勇ましく大佐に向け、

「分隊長、おなごの敵だ!いざ成敗!」

と叫んだ。すると応!と叫んだ次子中佐もすらりと軍刀を鞘から抜いた。そして

「そこになおれ!命乞いなど不要だ、今この場にて成敗する。神聖なる艦内でふしだらな関係を持つなど言語道断!」

と怒鳴る。

山中大佐は慌てまくって水兵長から飛びのいた。そして嫂と妻の前に両手をついて平伏すると

「すみませんごめんなさい‼つい出来心で…でもまだ何もしていませんから許してくださいっ!」

と平謝り。と、その手の先にドスッと軍刀の先が突き刺さり大佐が顔を上げると愛しい次ちゃんがまなじりを決してにらみつけている、そして

「『でもまだ何もしていません』ということは、するつもりだったのだな!この裏切り者め…司令、この男どうしましょう?私は許せません」

というなり泣き出した。さらに慌てる大佐、立ち上がり次ちゃんの方に手をかけようとするとシズが悪鬼の形相で

「私の妹に触るな。けがらわしい男が!」

と手を払いのけられた。大佐は半泣きになって「そんな、嫂さん」と今度はシズに向かい

「嫂様ならお判りでしょう?私がどれほど次ちゃんを愛しく思っているかを?これは何かの間違いです。私は本気でこの人を抱こうとなんぞしておりません!」

というと今までベッドの上にいた水兵長が後ろから抱きついてきた。そして彼女も泣きながら

「間違いなんかじゃありません。私この人と結婚の約束をしました」

ととんでもないことを言い出した。山中大佐はもう怒りと悲しみと、その他のわけのわからない感情がないまぜになって頭が変になりそうだった。

背中に抱きついてきた水兵長を振りほどき

「そんなこと私はしていませんったら!私は次ちゃんが昔から、そして今も未来もずっと大好きなんですから!どうか信じて、信じてください!嫂さん…次ちゃん!」

と泣きながら訴えた。しかし、次ちゃんは悲しそうな顔をして「司令…」と嫂の胸に顔を伏せて泣き出した。かわいそうに次ちゃん、と嫂は言って大佐を軽蔑したように見つめた後、二人は踵を返して出てゆこうとしている。

「待って、待ってください嫂様。待って、次ちゃん!」

大佐は後を追って次ちゃんの前に立ち、その肩を抱こうとした。そしてはっと気が付くと彼女の陸戦バンドがいつの間にか布製のものに変わっていて…さらによく見るとそれはおぶいひも。

そして彼女の背中には…小さな赤ん坊が眠っているのだった。赤ん坊、と大佐の唇が動いた瞬間――シズと次ちゃんの姿はかききえていた。

 

「次ちゃん!」

大佐は自分の大声にハッとして気が付けばそこは瑞鶴艦内の自分の部屋。そしてベッドの周りには柏原水兵長に河合副長、それに松田軍医大尉が取り囲んで心配そうに見つめている。

「わ、私は」

とくらくらする頭を振って起き上がろうとする大佐を柏原水兵長は「起きてはいけません、大変な高熱です」と抑えた。

松田軍医大尉は

「お疲れが出たのでしょう。私どもがもっと気を付けるべきでしたのに、申し訳もございません。一時間ほど前に、お部屋からうめき声がすると柏原水兵長がお部屋を見ますと、大佐がベッドから落ちておられました。水兵長が何とか大佐をベッドにお戻しし、そして我々を呼んできたのであります」

というと大佐のわきに挟んであった体温計を取り出しその目盛りを見て顔をしかめた。

河合副長がのぞき込むと目盛りは四〇度を越している。

大佐は(そうだったのか。ではあれは高熱が見せた悪夢なのだな)と悟り、何かほっとしたように息をついた。

水兵長が

「何かほしいものはございませんか?お水をいかがですか?」

と言ってくれたが大佐はとても気持ちが悪かったので、それでも優しく微笑みながら

「何もいりません…ありがとう」

というと目を閉じた。そこで三人は部屋の明かりを消して外へ出た。そしてその晩は部屋の外で柏原水兵長と医務科から一人の兵曹嬢が交代で見守ることになった。

 

山中大佐の具合はそれから一週間ほどですっかり良くなった。大佐が倒れた翌日には、翔鶴から繁木少佐がすっ飛んできて見舞った。大佐は「松岡式防御装置」の件を心配していたが繁木少佐は

「まだ始まったばかりですからどうぞお気になさらずに。それよりおからだを直すことが先決ですよ」

と言ってくれた。翔鶴の艦長からも「山中大佐は大丈夫なのだろうか」と見舞いの品が届き、大佐は感激するやら恐縮するやら。

 

そして今日、やっと元通りに体も治った大佐は、飛行甲板に出てリンガの風に吹かれていた。

(それにしても妙な夢だった。いや夢でよかった。しかし何であんな夢を見たのだろう?)

そう思っては苦笑する。そして夢を反芻していたが

(そうだ、次ちゃんはあの時赤ん坊を背負っていたが…もしかして、もしかするのだろうか?)

と大佐は胸がときめいた。今は遠く離れている二人、しかし心はどこにいても繋がっている。以心伝心ということがあるなら、

(きっとそうだ。きっと次ちゃんには…私の子供ができているのだ!だからあの夢は私に、心引き締めて行けという暗示なのかもしれないな)

と確信した。

 

と、大佐のそばを通りかかった兵曹嬢たちが大佐に敬礼、それに返礼してほほ笑む大佐の耳に彼女たちの話し声と笑い声が聞こえてきた。

「知ってる?〈リンガ〉ってさ~土地の言葉で〈女のあそこ〉って意味なんだってさ!ギャハハ!聯合艦隊数万の将兵は女のあそこの中で訓練してるんだね、グハハハ!」

 

…山中大佐、ややげっそりしながら

(そうか。それは知らなかったが、だからそんな夢を見たのだろうか?そんなあんまりな!)

と思い、

「早くこの任務(

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sukunahikona さんへ

sukunahikona さんこんばんは!
なんと、インドにおいてはリンガは男性の…なのですね(;´Д`)、ヒャー!
据え膳食わぬは…、やはり男の恥。
ガンガン食って全弾命中させよと言っておきましょうw。

No title

リンガとはインドにて男の一物
据え膳くわぬは男の恥と、父上様、母上様から教わっておりました。
撃ちしてやまん!全弾命中であります!!

ponch さんへ

ponch さんこんばんは!
コメントをありがとうございます^^。
そうなんです…いわゆるハニートラップのようなものでした(;´Д`)。
男は馬鹿だとはよく言われますがこうしてみれば女も相当です。
お互い様だと思いますねw。

No title

山中大佐はお預け食ったかと思ったので一瞬同情したのですが、ハニトラだったんですか。
やっぱり男はバカだったという話でしょうか。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
ハニートラップという言葉を思い出しました(;´Д`)。これにかかって大ごとになる人もいるようですがほどほどにせえや!と言いたくもなりますねw。
山中大佐はその点はよかったですが。
そしてそして次ちゃんには赤ちゃんができているのでしょうか?命のときめき、ここでも???
どうぞこれからをご期待ください!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
〉『男はみんなアホ』
そんなものですかねえw。まあ新さんはその辺はしっかりしていますから、やけどしないですんだようですが、宗俊さんはガバット行きますか?w。
もしも、次ちゃん副長がおめでただとしたら次はだれが副長に?心配事が増えました。くその上を行くパッキンが来てもそれはそれで大変だし…(;´Д`)、どうなりますか今後を見守ってやってくださいね^^。

おはようございます。
ああ、よかった! とんでもないことにならなくてホッとしました。でもどこかでこの誘惑の甘い罠にかかってしまう殿方もいるのでしょうねぇ……。新しい命の芽生え、ドキドキワクワクしながら期待しております!

リンガ泊地のお約束。まあね後輩の女性の説によれば「男はみんなアホ」だそうですからw身持ちの堅い新さんですからこの程度で済んだのでしょう。雑食なおいらでしたら、がばっと一気にw
夢のお告げですとおめでたらしいですが、となると大和の次期副長はどなた?次ちゃんが多少柔らかくなったとはいえパッキンなおかげで、一癖も二癖もあるクルーをまとめていたのですから、相当な人物でないとつとまらないでしょうし。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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