2017-09

再会の時 1 - 2015.11.25 Wed

女だらけの「武蔵」は、トレーラーを出港し、内地へ向けて走り出していたーー

 

抜錨の十日ほど前医務科の秋川兵曹長は(そうだ、横須賀の春山兵曹…じゃなかった三浦さんに手紙を書こう)と思い立ってその晩、はがきに万年筆を走らせた。

旧姓・春山。現在三浦桃恵はかつて「武蔵」の医務科に所属していた兵曹であった。ひょんなことから横須賀海軍工廠の技術士官・三浦智一中尉と付き合いが始まりそして結婚、挙式のすぐ後に桃恵は出航となったがすぐにおめでたが発覚。退艦して今に至るのである。

彼女には三つになる女の子・継代(つぐよ)がいて(たぶん子育てて忙しい毎日なんだろうなあ。うらやましいといえばうらやましい)と思う秋川兵曹長である。

はがきを書き終え、秋川兵曹長は北野中尉に

「北野中尉。郵便物はありませんか?」

と尋ねた。中尉に進級したばかりの北野中尉は

「郵便?内地宛は明日の朝一〇〇〇(ひとまるまるまる。午前一〇時のこと)までに出すようにという話だったね…ええと、私のは…これだ。秋川兵曹長明日まで預かってくれるかね?」

と言って数通の封筒、はがきを差し出した。医務科分隊長の検閲済みの印がもう押してある。秋川兵曹長はそれらを手に取って、艦内郵便局用の袋に入れ込みながら

「もう検閲を済まされたんですか、早いですねえ」

と感心して言った。北野中尉はにやっと笑って「のろいことは牛の子でもする、っていうだろう?秋川さんも早いとこハンコもらっておいでなよ」といった。

そして「誰に書いたんだね?――あ!もしかして内地で婚約者が待ってるとか?いいなあ~~」と大きな声を出し、秋川兵曹長は慌てて

「違います、違いますったら!そんな人が居たらいいんですけどね、絶対違います。私がはがきを出す相手はほら、春山兵曹ですよ。今は三浦になってますが」

といった。と、北野中尉は

「おお!あの春山兵曹か!どうしてるかねえ、もうお子さんはだいぶ大きくなったころだろうねえ」

と言って懐かしそうな顔になった。春山兵曹は仕事は丁寧で物腰も穏やかな衛生兵曹だった。秋川兵曹長は

「はい、もう子供も三つになってる頃です。あいつも結婚までにはいろいろありましたから私は心配しましたが今はすっかり幸せでほっとしています」

と言ってちょっと遠い目をした。春山兵曹は幼馴染と恋仲で上陸時には一緒の部屋に住む仲であったが、いかんせん艦隊勤務の悲しさから恋人とはなかなか会うことができず、その間に恋人はほかにいい人を見つけその人と結婚することになり、春山兵曹は泣きながら部屋にあった私物を持って出てきた。そしてその途中で夫になる三浦中尉と出会ったのだ。これこそまさに運命の出会いで、二人は電撃結婚となるのだった。

あの結婚式の日の晴れ姿は忘れられない思い出になって北野・秋川両嬢の脳裏に鮮明である。秋川兵曹長は

「なかなか内地にも帰れなかったですからね、でももしかしたら今回春山に会えるかもしれませんよ?それにあいつの旦那は海軍工廠の人だから、われわれがいつ横須賀に入るかもわかるでしょう。はがきには『その日が近いから楽しみにしておけ』とだけ書いておきました」

といった。防諜の意味もあってはがきには詳しいことは書かない。その辺は三浦桃恵もわかるだろう。

「会いたいな」

北野中尉と秋川兵曹長は同時につぶやいた…。

 

それから十二日ののち、横須賀某町。

海軍工廠社宅の一角に三浦桃恵の家はある。今では技術大尉となった夫の三浦智一はこのところ大変張り切っている。

呉工廠で開発中の「特別製繊維」による航空機・艦艇の防御システム(要するに松岡修子海軍中尉のラケット兵器)の話がここ横須賀にも来て、その開発チームの一員に三浦大尉も選抜されたのだ。先だって呉へ行き、呉海軍工廠の開発チームと顔合わせもしてきた。

三浦大尉は呉からの帰宅後、妻の桃恵に

「呉ではもう、実戦配備のための実験として数名の技術士官が南方の基地へ行っているらしい。私たちも負けられませんよ!」

と言って意気軒高なところを見せた。

桃恵は

「そんな素晴らしい兵器がすべての飛行機や艦艇に施されたらもう、帝国海軍には敵がいなくなりますね。米英の降伏も時間の問題ではないですか?」

と尋ねた。そんな妻の桃恵をそっと抱き寄せて三浦大尉は

「そうですね、そうなるためにもうひと踏ん張りもふた踏ん張りも私たちはしなくてはね。でもここで気を緩めてはいけませんから、しっかりへそのあたりに力を入れてかからないといけませんよ」

といった。

そこに二人の愛娘・継代が歩いてきて「おとうしゃん」と言って三浦大尉の腕にすがった。その継代をやさしく抱き上げて大尉は

「継ちゃん。お父さんは頑張りますよ」

と継代の柔らかいほっぺに唇を当てた。キャキャ、と喜ぶ継代に大尉もうれしそうに微笑みかけ

「ああそうだ、大事なことが後になりました」

と言って継代を抱きなおして桃恵に向き直った。桃恵は「どうなさいました?」と言って夫を見つめる。大尉は

「『武蔵』がね、もう間もなく横須賀に帰ってくるらしいですよ。久しぶりの内地ですよね。ずいぶんと長い間『武蔵』は南方にいましたねえ。『武蔵』が帰ってきたら港に行ってみましょう」

と教えて、桃恵は

「『武蔵』が!帰ってくるんですか?」

と喜んだ。思えば『武蔵』を妊娠で退艦してから幾星霜、あの懐かしい艦の姿を忘れたことはない。時折医務科にいたころの夢を見ることさえある。懐かしい仲間の秋川兵曹、やさしい上官の北野少尉。たくさんの医務課の仲間、それに退艦の時優しい言葉をかけてくれた猪田艦長…。

懐かしい『武蔵』の人々の顔が、脳裏に次々と現れた。

「あなた。では『武蔵』が着く日がわかりましたら是非教えてくださいませね」

三浦桃恵は瞳を輝かせて夫に頼んだ。

その桃恵の両手をしっかり握って夫の智一は

「もちろんですとも。みんなで一緒に迎えに行きましょう…三人で、いや、もう四人かな」

と言って桃恵の腹部にそっと手を当てた。

桃恵のお腹には、六か月目に入る、二人目の新しい命が息づいている。

 

そしてそれから十日ののち。

帰宅した三浦大尉は迎え出た桃恵に

「いよいよ『武蔵』が明後日、横須賀に帰ってきますよ。時間は午前中としかまだわからないですが、あさっては確実ですよ!」

とやや興奮して話した。

「明後日ですか!」

桃恵も興奮して言うとかたわらの継代を抱き寄せて、そして三浦大尉はその二人をまとめて抱き寄せてうれしそうに笑ったのだったーー

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・

久々の三浦夫妻の話でした。

かつて『武蔵』に勤務していた旧姓春山、現姓三浦桃恵さん。懐かしい『武蔵』との再会が間近です。昔の仲間と会えるのも近い。

どんな再会になりますか?お楽しみに。

二人の過去話はこちらからどうぞ。haitiyoshi.blog73.fc2.com/blog-entry-398.html
haitiyoshi.blog73.fc2.com/blog-entry-399.html
(別れの情景1,2)


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
三浦一家のお話し、二年ぶりくらいかもしれません。この前はまだ継代ちゃんが初節句でしたから。
桃恵さん、きっとにいさまのご想像のような美しい人です。
かつての昭和の女優さんたち、原節子さんみたいな感じかもしれませんよ!年齢相応な落ち着いたふるまいの女性は最近いなくなりましたがこの物語の中で生きています。
いよいよ『武蔵』が横須賀に登場!桃恵のかつての仲間と会える日も近くなりました。どんな再会劇が起きるでしょうか?お楽しみに。
にいさまお忙しそうですね。忙しいのはいいことですがどうかおからだは大事になさってくださいませね。
このところ突然のように季節が前進。そのせいか、先週から今週にかけての気疲れのせいでしょうか、妙なめまい・立ちくらみに困っています。
どうぞにいさま御身大切になさってください!

ほんとうに久しぶりの三浦家の話でしたね。
町に下り、人の妻となっても常と変わらぬ桃恵さんの優しさ。こぼれんばかりの美しい人ではと妄想しています。
桃恵さん百恵さん、そして原節子さんとつながっていくのは想像しすぎでしょうか。
武蔵に会え、艦の皆さんとも会え、ほのぼのしい日ももうすぐですね。
そして第二子が。僕も良い便りを待っていますよ。
最近は読み逃げでごめんなさい。
季節がガラッと変わったようなここ数日です。くれぐれもお大事にお過ごし下さい。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
松尾和子三~~~、あのセクシーさがよかったですね~♡
懐かしい…
「再会」いい歌ですよね。あの頃の歌って歌詞に深みがあって今聞いても新鮮ですし何かこう人生経験重ねてくるとうなずけることが多いです。
旧姓春山さんの友人との再会、どうなりますかお楽しみに^^。
今日はとても寒かったですね、どうぞ御身大切になさってくださいね。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
子供は三歳までに親孝行をしてしまうのだ…と聞いたことがありますが本当にその通りではないかと思うことしきりです。
大きくなれば一人ででかくなったような顔をして!私がPCのことで尋ねると「そんなことも知らないのか?」といった顔でむっとしてやってきて操作して「これでいんだよ!」とか言ってむかつきます。
さて三浦桃恵さん、かつての仲間との再会どうなりますか?お楽しみにーー!

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは!
私が一番好きなご夫婦のお名前をお借りしました^^。
もりんさんはどんなお顔を思い浮かべて読んでくださってらっしゃるのかな~と思うと楽しくなりますね。
この二人まったくひょんなことから出会い、そして交際、夫婦になりました。幸せを絵にかいたような二人です。
時間の呼び方、『ひと・ふた』「まる」いかにもという感じで時代を感じますでしょ^^。
過去話を読んでくださってありがとうございます!
階級章は桜の色でそれぞれに専門を示しております。衛生兵は赤…血の色?でもないでしょうがどうしてかな?いつか調べてみたいです。

こんばんは。
「再会」の二文字に松尾和子さんのセクシーな歌声を思い出すワタクシ……♪逢えなくなって 初めて知った 海より深い恋ごころ…… 艦にいる彼女たちにピッタリだわ…と歌詞を見ながら思いました。
笑顔あふれる再会を期待します!

子供は3歳ぐらいまでが一番かわいいですな、それから10年以上たちますといろいろといじめられておりますよ。
久しぶりのかつての仲間との再会、どんな展開が待っているのでしょう。

こんにちは

三浦桃恵さん、智一中尉
相変わらず、ステキなネーミングです。
私は、このお二人の顔を想像しながら読みました。
幸せな構図ですね。読みながら、ほのぼの。
ひとまるまるまる  という呼び方が私も好きです。
当時を彷彿とさせます。
また過去話のところの、衛生兵の持ち物や階級章にも興味を持ちました。
こういう小物jが小説を、いっそう深くしますねえ。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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