2017-10

もう一度あなたの胸に 1 - 2015.06.21 Sun

その手紙を読み終えたとき、山中副長の瞳があっという間に濡れた――

 

「山中副長、お手紙であります」

と副長のもとへ一通の手紙を持ってきたのは藤村少尉、彼女は甲板士官であり副長の忠実な部下でもある。その彼女が、副長へと手紙を持ってきた。藤村少尉は副長への私信の場合、差出人の名前を見ないようにと袱紗に包んで持ってきて、副長の前でそれを開いて渡す。

その心遣いに山中副長は大変感激している。

今日も

「ありがとう藤村少尉。いつもすまないね」

と言って手紙を受け取る。そして何気なく裏を返した副長の顔が喜びで輝いた。誰あろう、結婚したばかりのわが夫・山中新矢技術大佐からの手紙である。

藤村少尉はそれを見て(ご主人からのお手紙だな)と即座に察し、「では私はこれにて失礼いたします」というと副長の部屋を出た。

山中副長は喜びに焦りながら封を丁寧にはさみで切り、中から便箋を引っ張り出した。

はやる心はその手を震わせ、便箋を開くももどかしい。

やっと便箋を開き、懐かしい夫の文字を追った。

暫く手紙を書けなかった事への謝罪と、ここのところの忙しさが彼らしいウイットを交えて書かれていた。そして次ちゃんに会いたい、話をしたい、抱きしめたいということがかかれていて副長は頬を染めた。

(もうずいぶんと一緒に夜を過ごしていない…)

そう思うとさらに頬が赤くなり耳まで熱くなった。

もう一度便箋に目を落とし、四枚目をめくった。

副長の動きが止まった。

そこには

 

>私は今月三十一日からしばらく南方の機動部隊へ参ります。あのラケット兵器を空母の甲板に使用出来なひかと、航空廠とは別に研究を重ね、その試作を空母に施しに参ります。なぜ外地へ?といふなら、内地にいる空母の数が少なくまた小型のためです。大型の空母にそれをしなひとあまり意味がなひ、と我々は考へたからです。ですのでいつ内地に帰れるかわかりません。出かける前に一度次ちゃんに逢ひたい。逢ひたい…

 

と書かれていた。

 

副長の瞳がみるみるうるんだ。涙が盛り上がり、ポロっと落ちた。三種軍装の胸を次々に涙が走り落ちた。副長は手紙を握りしめ、「新矢さん…新矢さん。逢いたい…」とつぶやくと嗚咽を漏らし、その場にくずおれて泣き始めた。

そこに「副長いるかい?」と森上参謀長が入ってきてその様子を見てびっくり仰天した。

慌てて駆け寄って副長を抱き起し

「どうした野村!」

と、よほど驚いたのか彼女の旧姓で呼んだ。抱き起され、それでも泣きながら副長は夫からの手紙を参謀長に差し出した。差し出された便箋を参謀長は受け取り「読ませてもらうぞ」というと副長をベッドに横たわらせて自分はその横に座ると、手紙を読み始めた。

「山中…」

参謀長は手紙を読み終えると泣いている副長を見た。そして急いで手紙をデスクの上に置くと副長の肩に手をかけて

「躊躇してる暇はないぞ、早く休暇を取れ。一週間取れ!不在中は気に掛けるな、すぐ帰れ!お前は艦を降りる支度をしろ!」

と怒鳴るように言って慌てて部屋を駆けて出て行った。

 

それから間もなく、副長の部屋に梨賀艦長・黒多砲術長・繁木航海長そして森上参謀長がやって来た。副長は泣きはらしたまぶたで一行を迎えた。

梨賀艦長は

「話は参謀長から聞いたよ。今日にも自宅へ帰りなさい。休暇だ。艦長命令、山中次子中佐は本日より七日、休暇を取ること。そして―ー」

とそこまで言って一旦言葉を切り、皆は艦長に注目した。艦長は軽く咳払いすると副長をひたと見つめ

「山中新矢大佐の出発の際には、見送りにゆくこと」

と言ってやさしく微笑んだ。山中副長はびっくりしたように艦長を、そして居並んだ航海長・砲術長そして参謀長を見つめた。その唇がかすかに動くと

「みんな…」

と言って次の瞬間大粒の涙が流れ落ちた。

繁木航海長・黒多砲術長が微笑みながら副長に寄っていき、まず航海長が

「山中大佐、ご出張なんですね。工廠技術士官の出張は長いですからね、必要なものなどしっかり揃えてあげてくださいね。そうそう、私の夫も今回大佐とご一緒させていただきますのでどうぞよろしく願います」

と言い、砲術長が

「休暇中はご心配なく願います。まだまだ副長の足元にも及びませんがしっかり努めさせていただきます。どうか、ご安心なさってください」

と言って副長の両手を握った。

副長はそれぞれの顔を見つめ「ありがとう、ありがとう」と繰り返した。

 

やがて副長は泣き止むと森上参謀長に

「参謀長、ありがとうございます。参謀長が皆さんに進言してくださったんですね。でも、私だけそんな勝手していいんでしょうか…」

と言った。参謀長は笑って

「勝手じゃないだろ。これは艦長命令、副長あれからちっとも上陸しないし、それに今度は大佐の大事な出張、準備を整えるのは妻の役目だぞ、いいかしっかりやって来いよ」

と言い、副長は「はい!しっかりあい努めます」と言って皆笑いあった。

 

そして副長は急きょその晩休暇を取るため上陸と相成った。副長は「科長たち、急な話で迷惑じゃないでしょうか」とためらったが森上参謀長はその肩をぱーんとたたいて

「大丈夫だよ、いつでもお前の休暇に対応できるようにしてあるんだから気にしないで行け」

と励ました。

副長は「――ありがとうございます。これで心置きなくしばしの別れを出来ます」というともう一度参謀長に

「森上大佐、ありがとうございます」

と頭を下げて内火艇に乗り込むため甲板に上がる。そのあとを参謀長もついてゆく。

 

見送る人は梨賀艦長、そして各科長たち。皆(よかった、やっと副長が休暇を取ってくれる)とほっとしながら舷梯を降りてゆく副長を見送った。

 

内火艇は暗くなった海を、上陸桟橋目指して走ってゆく。

(待っていてください、あなた。私今からあなたのもとへ行きます。待っていてください!)

山中次子中佐ははじけるような心で行く手を見つめている――

   (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

山中大佐の突然の外地出張、そして副長は急きょ休暇を取って自宅へ帰ることになりました。

さあ、無事二人は逢えるのでしょうか。次回をご期待ください!

200811142012000大和のタオル1
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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは^^。
南方へ行ってしまう夫。それがいつまでになるかわからないのが尚更中佐の心を乱します。夫の大佐も妻と遠く離れる寂しさには耐え難いものがあります…。
私がこの物語を書くとき、特に風景を描くときに脳裏にその風景が鮮明に浮かびます。それをそのまま文章にします。空の青さ、雲の白さ、海を渡る風の匂いなどなど感じながら書いています。
実際の副長職は大変忙しく、本物の『大和』が沖縄に向けて出港する際乗り組みの皆は今生の別れに上陸し別れを惜しみましたが副長の能村次郎さんは艦長に上陸して休養を取ってもらうため自分は上陸をしなかったそうです。また自分が艦に残ることで若い人が上陸できるよう計らったと言います。
そんな話も聞いていましたのでこの物語の副長さんにはゆっくりしてもらおうと思いました^^。

切ないですね。これが夫の任務とはいえ、内地でいつも待っていてくれているからこそ寂しさも半分ですが、南方へ赴くとなると寂しさや心配が胸をつぶすのも当然ですね。
暗くなった海を内火艇が走る。それを見送る人たち。ドラマの崇高なワンシーン のようです。見張り員さんならではの美しい表現に自分もそこに立っているような思いがしています。
〉皆(よかった、やっと副長が休暇を取ってくれる)とほっとしながら舷梯を降りてゆく副長を見送った。
「やっと休暇を取ってくれた」。この思いが大和の人たちの優しさですね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
おお~~なつかしや小柳さんの恋のゆっきわか~れ~~♪あの頃の歌結構いい歌が多かったですよね^^。
そしてそして山中夫妻、この時とばかりに燃え上がれガンダム=!絶倫の誉れ高いw、山中大佐ですから今度はご懐妊的中かもしれませんぞw。この辺ぜひご期待くださいませ💛
サザエオニ!
なんかすごいとんでもない妖怪でしたね!!これはうっかりさわちゃいけない!男性は下心を広げすぎると大変なことになちゃいますねw。女でよかった(;^ω^)
ありがとうございます、19日誕生日でしたw。子供の頃父親が会社の近くで美味しいケーキ(大きな丸いケーキ)を買ってきてくれ、母親が私の好物を作ってくれたのを懐かしく思い出しました。
お互い健康には気を付けて過ごしましょうね^^!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは!
そうなんですよ、普段こういう感情をあらわさない次ちゃんですから、森上さんもびっくりしたわけです。
相当驚いたと思います(-_-;)。
命令されないと休暇を取らない次ちゃんですが、こうなったらゆっくり休暇を楽しんでもらいたい所ですがまたどうせあれこれ働いちゃうんでしょうね、家の中でもw。それでこそ次ちゃんかもしれませんが…
『大和』も腰を上げてトレーラーに帰る時が近そうです!

こんにちは。
ナゼか小柳ルミ子の『恋の雪別れ』がうかんでしまいました……この歌は悲しい結果でしたが……ふたりには燃えあがる毎夜を過ごしていただきたいです~赤ちゃんが出来たら嬉しいなぁ、などと思ったり。
あ、サザエの妖怪、サザエオニ! 検索しました。おおっ!と思いましたわ(笑) そして遅れてしまいましたが、お誕生日おめでとうございました! ステキな1年になりますように…お身体に気をつけてお過ごし下さいませ。

突然の手紙で

今までこらえていた感情が一気に吹き出した次子さん。しかし森上さんもさぞかし驚かれたようで。
その昔は想い人?でしたから、森上さんの動揺ぶりは半端なかったのではないのでしょうか、パッキンの次子さんが人目をはばからず泣き崩れるなんて、まずそうそうあることではないし。
艦長命令でもないと次子さんは休みませんし、それでもまだ休むのに躊躇しているぐらいの生真面目さですから。さすがに大和の真面目部門?の総帥。
短い期間ですが、しん兄さんと久しぶりの日々を過ごしてほしいものです。もちろん精一杯甘えてもらいたいところなのですが、やっぱりお支度の準備とかに真面目に取り組んでそうですね。
そろそろ大和も外地にいくころですので、そちらでもいっしょに過ごせるとなおよいのですが。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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