麻生分隊士逡巡する 3<解決編>

「どうじゃね、今度休暇の時この人に会うてみんか?」と麻生分隊士が言うとオトメチャンの頬は桃色に染まった――

 

しかしオトメチャンははっとしたように麻生中尉を見て

「分隊士、分隊士はうちが男の人とつきおうても何とも思わんのですか?」

とやや分隊士を責めるような口調で尋ねた。麻生分隊士は慌てて「いやいや、ほうじゃのうて」と言い訳を始めた。

「じゃけえ言うとろうが、この話は小泉兵曹の親御さんが持ってきた話じゃて。じゃけえ小泉の親御さんの顔を立てて一度会うたらええいうとんじゃ。何も、そんな、付き合えなんいうとらんで!」

そういってなぜか麻生分隊士はクルリと後ろを向いてしまった。

オトメチャンは「分隊士?」と彼女の前に回ってその顔を覗き込んだ、すると麻生分隊士はやおらオトメチャンをかき抱くと

「オトメチャンはうちのものじゃ…じゃが、いつまでもうちに縛り付けとくわけにもいかんじゃろう?オトメチャンにはオトメチャンの、女としての幸せがあろうが。――うちにはオトメチャンの幸せを奪う権利はないけえな」

と言って体を震わした。分隊士?ともう一度オトメチャンは言って分隊士の顔を見ると、

「分隊士、泣かんでつかあさい」

と言ってその背中に両手をまわして抱きしめた。ぎゅーっと思いきりの力で抱きしめた。そして分隊士の胸に頬をつけると

「うち、分隊士がだーい好きじゃ。じゃけえ男の人とは付き合いません、安心しとってつかあさい」

と言った。

分隊士はオトメチャンのきゃしゃな体を抱きしめながら

「うちはうれしい。うれしいがのう、オトメチャン。人には人らしゅう生きる権利も義務もあってじゃ。うちはオトメチャンが大好きで、ずうと一緒に居りたい。じゃが、オトメチャンにはオトメチャンの人生がある。好きな人が出来たり、想いを寄せられたりしたときうちがオトメチャンを独占しとってはオトメチャンはどうにもうごけんじゃろう?それがうちにはオトメチャンの生きる権利や義務を姥っとるように思えて仕方がないんじゃ。――ほいでもうちはオトメチャンが好きじゃ。このどうにもしようのない思いをうちはどうしたらええか、もうわからんのじゃ」

とその耳元に囁いた。

するとオトメチャンは

「うちもそれはおんなじじゃ。うちは、いつか分隊士が好きな男の人と一緒になってうちから去って行ってしまう日が来よる思うたら、もうさみしいて…。じゃが、それが分隊士の幸せなら、うちは身を引きます。うちは分隊士が幸せなんが一番幸せじゃ。分隊士が不幸ならうちも不幸。分隊士が幸せならうちも幸せ。これはもうずっと変わりませんけえ」

と言って分隊士からちょっと胸を離し、彼女の瞳をまっすぐに見つめて言った。分隊士は感激に身を浸して

「――オトメチャン…ほんなら、一度でええ。そん人と会ってみんさい。それでオトメチャンが幸せになれるんならうちも最高に幸せじゃけえ…」

麻生分隊士はもうそれ以上いうべき言葉もなくただ、オトメチャンを抱きしめるだけだった…

 

そのころ、棗大尉は露天甲板で再び花山掌航海長と会っていた。棗大尉は「麻生さん、うまいことあのおぼこちゃんに話が出来てるといいんだけど」と言って夜空を見上げた。花山掌航海長も、ハンドレールを掴んで暗い空を見上げて

「ほうですねえ!まあ、麻生中尉のことじゃけえうまいこといっとるん違いますかのう。なんせあん二人はもう長い付き合いですけえね」

というと棗大尉を見て笑った。が

「棗大尉、どうしましたん?」

と尋ねた、棗大尉は今度は視線を真っ暗な海に落として考え込んでいる。

棗大尉は海に視線を落としたままで「なあ、花山さん。うちは気がかりがあってじゃ」と言った。花山掌航海長は艦内帽をかぶりなおして

「気ががり?気がかり言うてどんなことです?」

と尋ねる。なんだか妙に胸がざわついて気分がかすかに悪くなった。棗大尉はその場に座り込むと自分の横を指して「座れ」と掌航海長に命じた。

掌航海長は

「ほいでは、失礼いたします」

と大尉の横に座った。すると棗大尉は

「まあ楽に座れや、足痛いで。――うちも聞いた話じゃけ、間違うとってかもしらんが…あのおぼこちゃん―ー桜本兵曹は、私生児じゃ聞いたが、本当かね?」

と真面目な顔で言った。花山掌航海長はこれもまじめな顔で「その通りです、大尉」というと自分が知りうる限りのことを棗大尉に話して聞かせた、その最後に「これはほかの人間には絶対秘密で願います」と念を押して。

大尉はしっかりうなずいて

「誰にも言わん。約束じゃ。――いうか、そのことはもう艦内のほとんどが知っとるんじゃないかのう?」

と言った。そして

「まあそげえなことはどうでもええが、うちが気がかり言うたんはあのおぼこちゃんが男性に見初められて近々会う、言うことじゃ。会うんは構わん。いや、あの子にとってはええことじゃろう。じゃがな、花山さん。この先おぼこちゃんとその男の人が付き合いだしていつか結婚、言う話が出たときにおぼこちゃんの出自が問題になる時がきやせんかとうちはそれが気がかりでならんのじゃ」

と言った。その瞳は不安や心配で満ち満ちている。

花山掌航海長は大きくうなずいた。

掌航海長も口には出さなかったが、その話を聞いたときからかすかに不安感が心をかすめていたのだが(その正体は、このことだったか)と分かった。

棗大尉は

「人には動かせん事実いうもんがある。ただあのおぼこちゃんの場合、その事実はあんまりにも重すぎる。ほいでな掌航海長。たとえばその事実を相手や相手の親が知ったらどがいな?小泉兵曹の親御さんにも迷惑がかからんじゃろうか?小泉兵曹の親御さんはおぼこちゃんのことを知らんのじゃろう?まあ、知らんで話をしたんなら罪はないけえ…このまま小泉の親御さんには知らんでいてもらった方がええか…。しかし、厄介じゃのう!おぼこちゃんの責任でない分余計に厄介なわ。ああもうどうしたらええかうちにもようわからんくなってきたわ」

というと深いため息をついた。

花山掌航海長もため息一つつくと

「ほうですなあ。かというて、この話を一方的に蹴るいうんも角が立ちますけえ、やはり会わせてみんといけんですね。一番ええんは会うてみて互いにしっくりこんかったけえ付き合いは無し、いうんがええんでしょうけど」

と言って横座りから胡坐に座りなおした。

棗大尉は

「ほうよ。それかあるいは相手も相手の親もおぼこちゃんのすべてを受け入れてくれるだけの度量があればなおええ。ほしたら誰も傷つかんでええがいになる。――言うても麻生さんには気の毒なことにはなろうがね」

と言い、掌航海長は「まさに」と言ってかすかに笑った。

 

棗大尉の不安は小さくなることはない、そしてその不安を知ることなく麻生分隊士は<オトメチャンを手放したくない、しかしオトメチャンには幸せになってほしい>という相容れない思いに逡巡するのであった。

 

オトメチャンの休暇まで、あと少しである――

 

                 ・・・・・・・・・・・・

 

麻生中尉の逡巡と、棗大尉・花山掌航海長の大きな不安。不安が現実にならなければいいのですが。オトメチャンには幸せになってほしいものです。そして、麻生さんも。

ともあれオトメチャンの休暇が待たれます。

200805050920000大和俯瞰
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鍵コメさんへ

鍵コメさんおはようございます!
ありがとうございます!また一つ年を取りましたwww.
でもおっしゃるように生きて頑張っていきたいと思います^^、ありがとう!
アドレスの件失礼いたしました、後ほどお送りいたしますね!

matsuyamaさんへ

matsuyamaさんおはようございます^^。
二人の関係を問われるような事件です。麻生さんとしてはオトメチャンの真の幸せを取るのかそれとも自分の、と葛藤をする場面ですがさてどうなりますか(-_-;)。
しかしこの二人のことですから何とか乗り越えることでしょう。
好きなものは手放せないですね。人でも物でも。
麻生さんに素敵な男性、おお!これもそろそろ考えてもいい時ですね!

オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます^^。
本当に人の一生ってドラマだと思います。そしてオトメチャンはこれ以上ないくらいの…。
そしてこの先何があろうと純粋さを忘れない女性でいてほしい、オトメチャンは「やまとをみな」の代表格ですのでね^^。
さあ彼女の大人への階段、急角度なのか緩いのでしょうか?ご期待ください!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます^^
社会的弱者とでもいうべき立場ですが、オトメチャンには大きな後ろ盾がありますから精神的にはそうそうへこまない!と思います。
しかし棗大尉の心配なんですがこれはまさにその通りで事情を分からない、わかろうとしない人もきっといると思いますのでその辺が今後ネックになっていくと思います…
麻生とオトメはこの物語の看板娘ですからその辺も考慮して話を進めたいと思う昨今です^^。
そちら大雨はいかがですか?体調に変調をきたしがちなこの時期どうぞご自愛くださいませね^^。

管理人のみ閲覧できます

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これまでの二人の関係に水を差すようで、麻生分隊士も岐路に立たされているようですね。オトメちゃんの幸せを思えばこその苦悩でしょうし、思いやりの心であり、譲り合いの心でもありますよね。どちらも傷つかずに問題が解決されれば一番いいのですが。
好きなものは簡単に手放せないのが、人間の心理です。恋愛関係がそうなように、周りからどうのこうの言われると、ますます固い絆で結ばれることもあるんですよね。
ここは一つ、先輩分隊士の良き判断に願いを込めるしかないですね。願わくば麻生分隊士にも素敵な男性を紹介してあげたらどうですか。

こんばんは。人の一生ってドラマだと思いますが、オトメちゃんの人生はグランド・ロマンかも……と思いました。いつまでも夢見る少女じゃいられない!とは思いますが、駆け足ではなくゆっくり大人の階段をのぼってほしいです~!!

この時代、オトメチャンのような立場の人は弱くてつらいものがあったと聞きます。大和の仲間だから優しく見守れる事実ですが、艦外の人間にとってはと思うと棗さんの危惧同様に先が心配です。それでも天下の大和です。そしてその大和には天下一ぞろいの面々が控えています。いざとなったら万人が目を剥くような大呵々的な結末が起りそうな。
でもやっぱりオトメチャンは大和あってのオトメチャン。麻生さんあってのオトメチャンだもんなぁと思っています。これからがやるせなくないように、見張り員さん頼みますよ!!

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます!
婚外子、これに関しては今も昔も複雑なものがあって軽々に語れないものがありますね…。
オトメチャンは無欲ですし自分の手の届く範囲で満足できる子です。幸せにならなきゃいけないんですが、出自を問われた時どうなるのか心配です。
あれほどひどい目に逢って育ちながらもまっすぐに大人になったオトメチャンのその部分を買ってくれるといいんですが、その辺が今後目を離せなくなります!

こんばんは
今でこそ私生児(法律的には婚外子)にもそれ相応の身分保障がされるようになってきましたが、この時代背景を考えると、戸籍がないのも同然ですからね。
紆余曲折あったとはいえ、それらの経験および大和の皆さんによって、すてきな女性になりつつあるオトメちゃん。氏より育ちと言いますが。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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