麻生分隊士逡巡する 2

麻生分隊士は動揺しながら小泉兵曹宛の手紙を封筒から引き出した――

 

そこに「おお、麻生中尉に松本少尉。なにしよん?」と花山掌航海長が入ってきて、松本少尉は「しー!静かに願います」と唇に人差し指を当てた。花山掌航海長は「おお、そりゃ失礼」と言いながら二人のそばの椅子を引き出すと座って、「どうしたんじゃね?」とそっと松本少尉に聞いた。

松本少尉は小さな声でだいたいを話してやった。すると花山掌航海長は

「ほりゃあおおごとじゃ。麻生中尉にとっては最悪の事態じゃわ」

とつぶやいた。

掌航海長と松本少尉はそっと、麻生中尉を見た…彼女は静かに手紙を読んでいるが、かすかにその手が震えているのを二人は見てしまい(うわ、まずいで。こりゃあえらい低気圧じゃ)と逃げる準備として軽く腰を上げる。

やがて手紙を読み終えた麻生中尉は、はあーっと大きなため息をついてその便箋を封筒に戻した。花山掌航海長はいつ麻生分隊士の怒りが爆発するかとハラハラしながら逃げる準備を整える。しばらくの間、沈黙が続いた。麻生中尉は顔を両手で覆って何かを考えているようだ。

松本少尉は、怒りが爆発する前にと小泉兵曹の<言い訳>を麻生中尉に伝えた。

「――じゃけえ小泉兵曹は麻生分隊士に大変申し訳ないことをしてしもうた、もっと早うにお見せするべきじゃッたんに、言うてえらい後悔しとりました」

そういって松本少尉は麻生中尉を見つめた。

麻生中尉はテーブルの上に置いた封筒の上にそっと片手を置くと

「なあ。花山さんに松本少尉」

と言って二人を見た。

「なんじゃね麻生さん」と花山掌航海長が言うと、麻生中尉は

「この手紙を読んでうちはちいと考えた…。うちはオトメチャンが大好きじゃ。本当に大好きじゃ、じゃけえ男になんぞ触れさえとうないと思うとった。いや、思うとる。じゃが…ほんまにそれでええんじゃろうか?うちが、うちにオトメチャンを縛り付けてもしかしたらオトメチャンは不幸なんじゃなかろうか。ほいで…うちは一応その、男をこの体で知っとる。知っとるいうことはある意味人としては普通で幸せなことじゃないか思う。が、オトメチャンは男を知らん。知らんで女であるうちとくっついとるんは人として妙じゃなかろうか。

――じゃが、じゃがな。うちはオトメチャンを離しとうない!離しとうないんじゃ…ほいでもあの子には人並みに幸せになってもらいたい。うちは、うちはいったいどうしたらええんじゃ!」

と最後の方は叫ぶように言った。

その瞳は濡れて、頬を光るものが流れている。麻生中尉は顔を伏せて泣いている。

花山掌航海長そして松本少尉はびっくりして麻生中尉を見つめた。二人は、てっきり麻生中尉は「こげえな話、ゆるせん!お断りじゃ」と怒り出し暴れだすと思っていた。が、大きく外れた。しかも全く予期せぬ方向へと。

「麻生中尉…」

と二人はしばし言葉をなくしていた。ややあって麻生分隊士は「あ、ほうじゃ」と顔を上げた、そして

「小泉兵曹はオトメチャンにこの話をしとらんのじゃろうな。ほんならうちはオトメチャンにその話をせんならんが…何と言うて話をしたらええんじゃろうなあ。オトメチャンのことじゃけえなんじゃかんじゃ言うて断るかもしらん。断ってもええんじゃがそれは逢ってからの話じゃ。あわんで断ったら小泉の立場も悪うなろうし第一小泉兵曹の親御さんや、オトメチャンを見初めてくれたいうお相手にも悪いけえね。はあうちはどうしたらええか」

というと再び泣き始めた。

花山掌航海長と松本少尉はいよいよ困ってしまって顔を見合わせてしまう。

と、そこに

「あら~。誰かしらそんなところで恋に悩んでるのは」

と声がして、松本少尉がそちらを見ればあの棗主計特務大尉が入口に立ってこちらを見ていつもの不敵な笑みを浮かべている。三種軍装の軍袴の腰のバンドにはオトメチャンが<殺人そろばん>と呼んだ長い特注そろばんを手挟んでいる。

棗大尉は泣いている麻生中尉のそばによるとその肩に手を置いた、花山掌航海長がその手で中尉をやさしくなでて慰めるのだろうと思いきや、棗大尉はいったん置いた手をふいっと上に挙げるなり、次の瞬間腰からあのそろばんを引き抜くなり目にもとまらぬ速さで麻生中尉の頭を薙ぎ払っていた。

ガリッ!と大きな音がするのと麻生中尉が叫ぶのは同時だった。

「イッターい!」

麻生中尉は飛び上がって叫び、次いで「なにしよんね!いきなり」と叫んだが相手が<超>古株の特務大尉と見るや慌てて

「失礼いたしました棗大尉…あの、うちはその」

と言って慌てて頬を流れる涙を手の甲で拭う。そんな中尉に棗大尉は

「お話はさっきすっかり聞かせてもろうたわ。――麻生さんあなたの口からあのおぼこちゃんにきちんとおっしゃい!聞けばあのおぼこちゃんはあなたのオンナなんでしょう?だったらきちんとお話ししんさい。――でね麻生さん、あなたがいくらあのおぼこちゃんが好きでも…結婚なんかできないんですからね?あなただってそのうちいい(

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Comments 6

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見張り員  
まろゆーろさんへ

まろゆーろさん 続けてのコメントをありがとうございます!!
まさに、『愛に道理なし』ですね。ちぢに乱れるころを抱えてそれでも彼女の幸せを考えねばならない麻生さんはちょっと気の毒ですね。棗大尉がこの先どうアドバイスしていくかも見どころですが、以前に彼女がつぶやいたオトメチャンに関しての予言めいた言葉…その辺もちょっと覚えておいてくださいませね^^。
私は東京言葉と甲州弁が混ざっておりますww!私は方言が好きなので、方言の豊かな人がうらやましいですよ^^。

2015/06/17 (Wed) 21:01 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
まろゆーろ  

愛って道理ではないんですよね。
麻生さんの乱れる心のうちが痛いほど分かるし、棗さんの言葉もほとんど的を射ているし。それでも一度会ってみたらどうかと勧める麻生さんの心。つらい。
やっぱり僕には麻生さんのような態度は出来ないなぁ。それが人の道から外れている愛であっても。
人の道から外れざるを得なかった生き方をしている愛の十字架。重いものですね。今回はこの縁談がなかったことになるようにと祈っています。
天候が無茶苦茶不順です。どうかくれぐれもご自愛下さいね。
そういえば見張り員さんも棗さん同様に東京言葉なのでしょうね。地方の人間には憧れのひとつです。

2015/06/17 (Wed) 20:42 | EDIT | REPLY |   
見張り員">
見張り員  
河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます!
松岡・棗…これ以上艦内に長尺餅が増えないよう祈るばかりですw。
さすがの麻生さんもこの経験豊富なおばさんには「無理!」なようですね。どこの世界でもおばさんはツヨイです。
オトメチャン、この先どうなるのか?女の幸せを掴むのかそれとも??大変気になりますね、何せ稀代のおぼこですから。
棗大尉が何かアドバイスをくれるかな、期待しましょう!

2015/06/17 (Wed) 08:34 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
オスカーさんへ

オスカーさんおはようございます^^。
小学生時代そろばんをローラースケートのようにして先生に思い切りひっぱたかれた子がいましたっけ(-_-;)…
棗さんこのそろばんに何の意味があるのでしょうね、わかりません(;´Д`)。
ほう!棗とはそんな重要な果物の一員だったのですね!うーん…するとキッと彼女も何か重要な部分を…ありえない…??ともあれ彼女の今後に期待しましょうか(;^ω^)。
オトメチャン、いよいよ「女」として花開くのか?そして麻生さんは?気になる今後をご期待くださいませ^^。
気温は低めながら蒸しますね、どうぞ御身大切にお過ごしくださいませね^^。

2015/06/17 (Wed) 08:31 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
河内山宗俊  
麻生さんの心中お察しいたします

おはようございます。
長尺の得物といえば松岡さんなのですが、棗さんもそうでしたね。
麻生さんも棗さんには勝てないようです。
オトメちゃんは永遠の乙女であってほしい気もしますが、
オールドミスになってしまうのもかわいそうですし。
棗さん、あなたの並外れた経験にかかってます。というところですね

2015/06/17 (Wed) 07:49 | EDIT | REPLY |   
オスカー  

こんばんは。
棗さん、ソロバンは大事にして下さい(笑) 古代中国では、桃、李、杏、棗、栗を五果と呼び、重要な果物としてきたそうです~棗さんの経験も貴重で重要……かな( ̄▽ ̄;)
オトメちゃんが本当の恋に目覚める時が来たのかな~ドキドキします! さぁ麻生さんはこれからどうするのかしら? 気になって仕方ありません!

2015/06/16 (Tue) 23:04 | EDIT | REPLY |   

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(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)