2017-10

麻生分隊士逡巡する 1 - 2015.06.14 Sun

小泉兵曹は休暇で実家に帰ったが一晩で逃げ去ってきた――

 

朝のうちに省線に乗って呉に帰ってきた小泉兵曹は下宿に帰ってそこの主人にあいさつをし、部屋を掃除した後「さて、行くか!」と腰を上げ出かけた先は待ちに待っていた朝日町。

ここの馴染みの料理屋で一晩いい思いをしようというわけである。意気揚々と小泉兵曹は歩き出した。

途中『大和』の仲間たちに

「ありゃ、小泉兵曹。広島に帰ったんじゃないんかね」

と声をかけられたが笑ってやり過ごした。

途中腹が減った小泉兵曹は中通りの食堂を覗いた、昼を少し過ぎていたが一段落したのか店にはそれほど客はいない。小泉兵曹は暖簾をくぐった。中から「いらっしゃいまし」と声がかけられ、兵曹はあいている席に座った。

そしてお茶を持ってきた店の女の子に「定食を願います」と注文して、ほっと一息ついてテーブルの上に乗せられた熱い湯のみを手に取った。

フーっと息をかけて冷ましてズッと茶をすすったとき、のれんがまくり上げられて『大和』機関科の松本特務少尉が入ってきた。小泉兵曹は「松本少尉!」と声をかけ立ち上がり敬礼した。

松本少尉は、まだ<少尉>と呼ばれるのに慣れていないのか、恥ずかしそうな顔で小泉兵曹に返礼してから同じテーブルの椅子を引き出して座り

「ここに居ったんか。久しぶりじゃな…貴様は広島の実家に帰ったいうて聞いとったがなんでここに居るんじゃ?」

と少し不思議そうに尋ねた。そこにもう一度店の女の子がお茶の湯呑をもってきて松本少尉の前に置いた。少尉は「定食を願います」と頼むと「どうしたんじゃね、いったい?」と重ねて尋ねた。

そこで小泉兵曹は苦笑交じりに実家での出来事を少尉に話してやった。

「――そげえなわけでうちは休暇中ずっと華道に茶道、それに早朝座禅を組まされるんが嫌で逃げてきました。それがなきゃ休暇中ずうっと広島に居るつもりでしたが、こうなった以上居られんでしょうが、じゃけえ呉に帰って、まあ思い切り遊ぼうと思いまして帰ってきました」

と言ったので松本少尉は

「まあ貴様らしいいうたら貴様らしいわ。ほいでも久しぶりの実家なんじゃけえ親御さんの顔を立ててそれくらいしたったらえかったのに。うちは、お茶やお花を習うて座禅もたしなんで落ち着いたおなごになった貴様を見たいと思うがの」

と言って笑った。小泉兵曹は

「ほうですか、じゃがうちはお花もお茶も性に合わんです。まして座禅ときた日にゃあ死んでしまいます。坊さんのお説教を聞きながら座禅なんて…はあうちにはそれこそ生き地獄です」

と言っていかにもまっぴらといった風情で頭を軽く振ったので松本少尉はなお笑った。

そこに定食が二つ運ばれてきて、二人は「いただきます」と箸を取った。

味噌汁をすすりこんでから松本少尉は

「おお~、うまいのう。フネの飯もうまいが娑婆の飯は格別じゃな」

と唸った。小泉兵曹も「まったくであります」と同意した。

そして二人はしばらく黙々と飯を食べた。

やがて食べ終えた二人は一種軍装の腹をなでながら「ああ、食うた!幸せじゃあ」と言って互いを見て笑った。

そして茶を所望した小泉兵曹は、大きな薬缶に茶を持ってきてくれた店の女の子に礼を言うと女の子は二人の湯呑になみなみと茶を注ぎ込んでくれた。ごゆっくりどうぞ、という女の子に軽く会釈して二人は熱い茶をすすった。

ふと、小泉兵曹が「あの、松本兵曹長…じゃのうて少尉」と真剣な表情で話しかけた。うん?なんじゃねと言って松本少尉は兵曹を見つめた。

兵曹は

「うち、ちいと悩みがあってです、実は――」

と例の小泉の親からの、<桜本兵曹を見初めた男性>の話を打ち明けた。松本少尉は

「ほう、オトメチャンは貴様の実家の会社の人に気に入られたんか。あの子は嫁さんにしたい海軍下士官の一等賞かもしらんな。その人は目が高いのう」

とうなずいた。小泉兵曹は「松本少尉、感心しとる場合ではないです」と言って身を乗り出した。その必死な顔に松本少尉は

「なんね、何をそげえに必死になっとるんじゃ」

と不審げに言って茶を飲む。そしてはっとしたように顔を上げて

「まさか貴様、その男性を横取りしようなんぞ思うとらんじゃろうな!オトメチャンの幸せを奪うやつはうちは許さんで!」

と厳しい目つきで小泉兵曹を見た。小泉兵曹は慌てて片手を顔の前で左右に振ると

「違います。そんなうちは人のものを取るようないやらしいことはしません。ほうでのうて、うちはその手紙が来たいうんをまだ麻生中尉に言うとらんのです…その、何というていいのかわからんのです」

と言って最後の方はしぼんだ声で言った。

松本少尉は「ああ!ほうじゃ、オトメチャンには麻生さんがおったのう!」とやや大きな声で言ってしまい、あわてて口を両手でふさいで周囲を見回した。が、店の中はまだ客は少なくしかも海軍嬢はいなかったので少尉はほっとした。

少尉はエヘンと咳払いを軽くすると

「ほうね、まだ麻生さんには言うとらんのか。じゃが早う言うた方がええで?隠しとったと思われても厄介じゃけえね。あん人はどうもオトメチャンのことになると熱うなっていけんからの。まあそれだけオトメチャンを愛しうてならんのじゃろうがな。正直それがうちらには困りもののときがあってなけえね」

と言った。小泉兵曹は

「そうでしょう?うちもそう思うてこりゃ早う麻生中尉に手紙を見せんといけん思うたんですが、うちまだ休暇が六日もあってです。じゃけ、どうしたもんかと思うて」

と言って頭を抱えた。

松本少尉は

「そうね…ほりゃあ困った。貴様その手紙を今持っとるか?持っとるならうちが今日のうちに中尉に渡してやろうか?いろいろごたごたしとって渡し損ねたらしいて、ほいで今日街で逢うたとき託されました言うて渡してやるけえ、貸せ」

と言って右手を兵曹に突き出した。はあ、それでええですかねえと口の中でもぐもぐいう小泉兵曹に松本少尉は

「いつまでもそのまんまいうわけにもいかんじゃろ?こういうことは早うに処理せんとおおごとよ?じゃけえうちがええようにしてやるけえ、貸せ」

とさらにいい、兵曹は軍装の内ポケットからその手紙を引き出して「では松本少尉、願います」と言って手渡した。

松本少尉はそれを受けとると「うむ!まかしときんさい」と言って懐にしっかりしまい込んだ。

 

それから小一時間ほどして二人は店を出た。

小泉兵曹は松本少尉に敬礼すると

「面倒を押し付けたようで心苦しいてなりませんが、どうかよろしゅう願います。もし、麻生分隊士に叱られるようなことがあったらこれは小泉の失態じゃ言うてください、願います」

と言った。松本少尉は笑って

「何言うとってかね、うちは麻生中尉に叱られるのなんぞ怖くないで?うちから小泉兵曹の気持ちもよう言って聞かせておくけえ心配しなさんな。まあ、ええ休暇を過ごしてくれんさいな」

と言った。小泉兵曹は

「ほいで?少尉はまだ休暇ではないんですか?」

と尋ねると松本は

「うちは来週じゃ、ほかの連中は待ちに待っとるけえ先に休暇を取らしたんじゃ。じゃけえうちは来週ゆくりと休暇をもらう」

と嬉しそうに言ってほほ笑んだ。小泉兵曹はその笑顔を見てついうっかり

「ほう、では休暇は岩井中尉とご一緒に過ごしんさるんですね」

と言ってしまい、少尉から「なんじゃと!余計な詮索はせんでええ」と怒鳴られる羽目に。

それでも松本少尉は

「ええ休暇をな、あまり派手に羽目外したらいけんで。男も酒も飲まれたら終いじゃけえね」

と笑って二人は左右に分かれたのだった。

 

そして夕刻前、松本少尉はランチに乗って『大和』へ帰還した。今回は浜口機関長から頼まれた用事を鎮守府に済ませに行ったので泊まりは無し。

それでもたまに娑婆を歩けるのは心楽しく幸せなことである。

(なんじゃ今回は用事を頼まれてばっかじゃなあ)

少尉は託された手紙を入れた懐をそっと片手で押さえた。

(さて何と言うて麻生中尉に渡そうかのう?まあ、あれこれ小細工するよりスパッと渡した方がええね)

松本少尉はそう思いながら波を蹴立てるランチに揺られている。

 

「麻生中尉、今お時間をちいといただけますか?」

大和に戻って松本少尉は、二次士官室に居た麻生中尉に話しかけた。中尉は機嫌よく「おお、松本少尉。ええよ、――まさか航海科(

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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
好きで好きでたまらない、そんな人を渡せるか…なかなかできることではありませんね。私も出来ないと思います…中学時代の小さな初恋?を思い出しました。あの切ない思い…もうできない思いですがw。
恋は自己チュー。
恋する心はわがままなのです💛

大切な人を、もしかしたら人の道に沿って渡さなければならないという決断に迫られるかもしれない麻生さんのこれから。知らぬは仏のままが良いのですが、そうはいかないのが行きがかり上ですね。
もし僕が麻生さんの立場だったら……、潔くなんてできません。やっぱり大切な人はそばにいてもらいたい。相手の幸せを考えない我がままですね。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんおはようございます!
すべては麻生中尉の決断と、まだことを知らされていないオトメチャンにかかりますね。麻生がすんなりオトメチャンを離すか、そしてまだこの件に関して未見聞のオトメチャンの反応が気になりますねえ!
棗大尉ならうまくまとめてくれるかなそれともかえって混乱するでしょうか…彼女はこの事態に口を入れてくるか否かがまた気になりますが。
ご期待くださいませ!

No title

麻生さんはどういう決断をされるのでしょうか?
オトメちゃんの幸せを考えるなら身を退く。ところですが。
渦中のオトメちゃんも、見合いの斡旋については知っておりません。
ここにややこしさをさらに極める原因が。
棗さんあたりが起死回生の妙案をお持ちになってそうな気もしますが。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
小泉兵曹、本来なら自分が話をしなきゃいけないものを松本少尉にゆだねてしまいましたがその内容が内容ですから麻生さんどう出ますか…ちとこわいですねw。
雨降らなくってよかった!雨は降っちゃうとお散歩結構大変ですものね(-_-;)、こちらも大変蒸し暑く曇っていますが振りそうではないので間もなく散歩に行こうと思います^^!
いつもありがとうございます、またよろしくです^^。

見張り員さん  こんばんは♪
いつもありがとうございます♪
呉で会った松本特務少尉に小泉兵曹はお母様から
きた手紙を渡して麻生中尉にオトメちゃんのこと
が書かれた手紙を渡して欲しいとお願いして麻生
中尉がどのような反応を見せるか気になりますね。
今日は予報で雨と言っていましたが曇りで降らな
くて散歩は普通に行けて良かったです。

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
いやはや…麻生女史がこの手紙を読んだらどんな反応を示すのかたいへん怖いですね(;´Д`)。あの方はオトメチャン命ですからねえ(-_-;)…
最近「女だらけの大和」は結婚ラッシュの気配がありますからオトメチャンももしかしたらそれにあてられて、ということも無きにしも非ず!?
ウウ、どうなっちゃうんだ!ー-とやきもきしながら続きを待っていてくださいませ^^。
ギンバイカ、私も見てみました!なんと可憐なお花…しかも『祝いの花』とは!こりゃ素晴らしい!実や葉からリキュールも作られるとは、一度本物を見たいです!
ご教示ありがとうございました!

こんにちは。
麻生さんがどういう反応をするのか大変気になります……その前にちゃんと本人の手に渡るか気になりますが……予想外のアクシデントとか←期待してはいけない(^o^;)
麻生さんとオトメちゃんの関係がどうなるのか……やきもきしながら続きを待ちます!
前の記事のギンバイ、ギンバイカという綺麗な白い花があることをしりました~この花の下でいろんなカップルに語りあってほしいです(笑)


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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