2017-10

「女だらけの戦艦大和」・空中戦1 - 2014.12.03 Wed

 野村副長が結婚休暇に入って三日が過ぎた――

 

今日も呉湾にその身を浮かべる女だらけの「戦艦大和」では乗組員たちが朝から訓練に励んでいる。今日は午前中の課業が終われば午後は珍しく訓練も課業もない。それだけに午前中の各部署の訓練は過酷を極めた。

機銃群はまるで実戦さながらの模擬弾を撃ち、高角砲、主砲・副砲も同様。そして主計科烹炊所では「戦闘配食をいかに早く作るか」、をストップウォッチで計測しながら握り飯を握り竹皮に包みそれを各部署に持って行く、そこまでを訓練。そしてこの握り飯が皆の本日のお昼ご飯になる。

森脇兵曹は宮島(ここではしゃもじのこと)を振り回しながら「遅い、遅いぞ貴様ら!もっと手早く握れんのか」と怒鳴り烹炊所員たちは「はーい、手早く握りますー」と大声で返事をしながら熱い飯で手を真っ赤にしつつ懸命に握る。

そして航海科では松岡分隊長が例によって狭い防空指揮所を走り回りながら

「熱くなれよ、熱くなれ!さあいいですか、今はうそっこの敵機を見つける訓練です。さあ、どうだ来たかーっ?」

と怒鳴ってはラケットを振り回す。亀井一水が

「右三〇度、距離四〇〇。敵機多数大編隊、向かってくる」

と叫べば松岡分隊長はその頭をラケットでガツン、とぶったたいて亀井一水は「ギャッ!」と叫び声を上げる。松岡は「亀井さーん。多数、なんて抽象的な言い方は熱くないですねえ。今日は訓練、うそっこなんですからせめて『敵機百八十』、とでも言ってちょうだいよ。景気よく願いますよッ」と文句を垂れた。

亀井一水は叩かれた略帽の頭を涙目で撫でながら「おお…痛い。――解りました…ほいでも分隊長」と言った。松岡分隊長はラケットを振りながら「ん?どうしました亀井さーん」と言って、亀井は「どうかそのラケットでうちの頭を殴るんはやめてつかあさい。うちはそのラケットで殴られるたんびに頭が悪うなるような気いしてならんですけえ」と苦情を申し立てた。

すると松岡分隊長は大声で笑い、そのあと「そりゃ悪かった。でもねえ亀井さーん、亀井さんの頭ってなんだか殴って頂戴、って言ってるみたいに思えてどうにも我慢ならないのよ。それにもうあなたの頭は十分悪いですからね、もう悪くなりません。はい大丈夫」とごく普通な顔で亀井一水を傷つけるようなことをさらりと言ってのけ、亀井一水はこっそり分隊長を横目でにらんで「このアホ!」と小声で悪態ついた。その足元でうずくまるようにして伝令の仕事をする石場兵曹が気味の悪い忍び笑いをしている声が流れて来る。石場兵曹は小声で「あん人は口は悪いが腹の中はなあもない人じゃ。じゃけえ腹も立とうが気にせんことじゃ。まあ、愛情の裏っかえしじゃ思うとけばええよ」と言って亀井を慰める。

麻生分隊士は指揮所の前から後ろから走り回って見張り員たちを督戦する。「しっかり見張れ、しっかり見張れよ!」と怒鳴りながら走り回るさまはまさに実戦そのもの。

梨賀艦長は指揮所の羅針盤の前に立って伝声管に向かい「おもーかーじ!」と叫ぶ、と航海長から「おもーかーじ。面舵三五度よーそろー」と返事が来る。艦長、「もどーせ」。航海長「もどーせ」と復唱。と、石場兵曹が「左雷跡3!近い!」と叫び艦長は「取り舵いっぱい、急げー」と叫び航海長が伝声管に「取り舵いっぱい、急げ―」と怒鳴る。操舵室では操舵員長の三田村兵曹が「取り舵いっぱい、急げ」と復唱し舵輪を回す。

松岡分隊長が「今のは艦長、魚雷を当ててしまったような気がしますねえ。ガガーン、ドカーン!さあ大変。ここの皆さんは総員戦死ですね」と再びさらりと言ってのけ、聞きつけた麻生分隊士が悪鬼の形相で走り来るなり

「分隊長、なんてことを言いんさるんです!ええですか、この『大和』の艦体には魚雷を当てんための磁性塗料が塗ってあるんですからね、敵の魚雷の一つ二つ、いや三つ四つ」

というと松岡分隊長は

「五つ六つ、七つ八つ、九つ十!」

といい足し、分隊士は「ま、ま、松岡分隊長ーッ」と怒鳴って遂にその胸ぐらをつかんでしまった。そしてわなわな震えながら「松岡分隊長、あなたって人は訓練を一体なんだと…」と声まで震わした。見張兵曹が「分隊士、いけんです!」と叫んで分隊士の背中に飛びついて制した。いくらどんなに間抜けでもあほでも普通とは違う上官であろうとも、上官である。しかも兵学校出身の中尉である。一介の特務少尉の歯の立つ相手ではない。

そのへんはこの、「女だらけの」帝国海軍もそれなりにシビアである。

麻生分隊士は「グ、ググウ…」と唸って分隊長の胸ぐらをつかんだ手を離した。オトメチャンには心配やとばっちりを与えてはならない。分隊士はオトメチャンの為にグッとこらえた。

そこに「松岡中尉」と事の推移を見守っていた梨賀艦長が割って入った。オトメチャンが分隊士から離れ、分隊士がさっと場を開けると艦長は軽くうなずいて松岡分隊長の前に立った。そして

「松岡中尉、あなたは少し熱くなりすぎだね。そしてそのベクトルが間違った方向に行っていないかね?よく考えなさい。麻生少尉を茶化すようなことを言うなんぞ、分隊長として恥ずかしいと思いなさい。あなたも兵学校を恩賜組で出たのならそれに恥じない言動をなさい。これでは兵学校出の恥さらしです」

とやや厳しい語調でいさめた。

すると松岡中尉はラケットをその場に置いて腕組みをして考え込んだ。石場兵曹がそっと振りかえってそれを見て亀井一水に「ほら見い。まーたやっとる、ありゃ反省なんぞしとらんで。単なるポーズじゃわ」と囁きふたりはこっそりしのび笑う。

松岡分隊長はしばらく考え込んでいたがハッと顔を上げると麻生分隊士の両手をガシッとつかんだ。はっ!と分隊士が息をのみ、見張兵曹ほかの配置員たちも身を固くした。

そして分隊長は「麻生さーん!」と叫ぶなり今度は彼女をグッと抱きしめた。「ヒエッ」と分隊士が叫んだ。

松岡分隊長は麻生分隊士を固く抱きしめて

「申し訳ない麻生さーん!私はそんな、そんな、そんなあなたを茶化そうなんでそんなつもりじゃアなかったんです。でもほら私の性格ってこうでしょう?だからあなたにいやな思いをさせてしかも艦長にもご心配をかけてしまいました。これ全てわたくしの不徳の致すところ。そしてこれは海軍兵学校の歴史や先輩諸氏への冒涜、そして後輩諸君への恥さらしですね!というわけで私はその責任を痛感いたしましたのでここで自害いたします!」

ととんでもないことを言いだした。分隊長は麻生分隊士から優しく身体を離し、その瞳を見つめると

「麻生さん、私はあなたが好きでした。だ―い好きでしたよ。ですからあなたが特年兵君といつもくっついているのが哀しかった。私はあの世に行ってもあなたを忘れません、ずうっとずっとあなたにとりついていたいと思います」

ととても気味の悪いことを言った。麻生少尉の顔色が急速に青くなりその唇が震えると「ま、ま、まさかそがいなこと」と声が漏れた。オトメチャンも真っ青になって両手で口元を覆っている。小泉兵曹や酒井一水、石川水兵長たちが化け物でも見るような目で分隊長を見ている。

梨賀艦長が

「松岡中尉、私は何も自害せよとは言っていないじゃないか。そんなことをされたら困る!私はあなたのそのよくわけのわからない言動をやめなさいと言っただけで死になさいなんてひとっことも言ってはいない!第一、こんなところで自害なんかされた日にはたいへん迷惑だ、片付けるほうの身になりなさい!」

とたいへん不機嫌な表情で松岡中尉に言い放った。

すると、松岡中尉はにや~~と気味の悪い笑顔を浮かべた。その場の皆が――艦長も――一歩身を引いた。松岡中尉は床に置かれたラケットをひらいあげると

「そうでしょうそうでしょう。艦長が可愛い部下に死ねなんて言うはずがないでしょう?私もわかっていましたよ、解っていて私は艦長を試しました。そう…艦長の、私に対する愛がいかほどかタコほどか。そして今よくわかりました。私は艦長に愛されています。――というわけで麻生さんと私は添い遂げられません。わたしは艦長に愛されてしまったのですから。ごめんね麻生さん、あなたは特年兵君と添い遂げてちょうだいな。――ところで艦長、先程のご発言の中で『ここで自害されたら迷惑だ』というお言葉がありましたがその真意について私はお伺いしたいんですが――」

と艦長を指揮所の壁に追い詰めて問い詰める。

麻生分隊士が

「いったい何なんじゃ…うちはもう、ようわからん」

と頭を抱え、見張兵曹は「ほいでも分隊長に愛されんでえかったですね」といい、小泉兵曹たちは「そんなんどうでもええわ。それより訓練、どうなったんじゃ?」と文句を垂れ、下から繁木航海長と花山掌航海長が

「なにがあったんです?突然おかしな話が伝声管から聞こえてくるわ訓練は途絶えるわ…艦長まで一緒になって松岡中尉と遊んでいらしては困ります!」

と怒って艦長は面目もない。そんな中で松岡中尉だけが一人、ラケットの頭部分を床に突いて艦の前方を睥睨して「――あきらめんなよ。熱くなって突き進め」とひとりごちている。

 

その上空を数羽の大きな鳥が舞っている。

訓練は終了し、副長代行の黒多砲術長が艦内マイクで訓練の終了を告げた。そして烹炊所員が訓練を兼ねて必死で握ったにぎりめしが竹皮に包まれてそれぞれに配られていった。

そんななか、トメキチは「やっと訓練終わったみたいね。ねえ、マツコサン。お昼御飯がすんだらニャマトと防空指揮所に行ってみない?」とマツコに声をかけた。

マツコはニャマトをあやしていたが「そうね!今日は天気もいいしあったかいから指揮所で日向ぼっこしたらいいわね。じゃ、早いとこ昼飯食っちまおう」と言ってトメキチに

「マツコサン、ニャマトが真似するからそういう悪い言葉使っちゃだめよ」

といさめられた。マツコはその金色の瞳を狼狽したように泳がせたが気を取り直して、背中に下げた袋の中のニャマトに

「ご飯を頂きましょうね…さ、岩井少尉のところに行くわよ」

とごく丁寧に言って走り出した。トメキチは笑いながらそのあとを後足で走って追う。

 

そしてこの後誰もがあんな大ごとが起きるとは思ってもいなかったのだ――

        (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・

 

またもやしっちゃかめっちゃかの松岡中尉に翻弄された航海科の皆と艦長でした。繁木航海長と花山掌航海長もいい迷惑です。

マツコとトメキチ、ニャマトの面倒をよく見ているみたいですね。

しかし!いったいどんな大ごとが起きるのでしょうか、次回をお楽しみに!


関連記事

● COMMENT ●

ウダモさんへ

ウダモさんこんにちは!
お返事遅くなってごめんなさい!
愛情の裏返し、聞きませんね!死語?と化した言葉、それも人情に関する言葉が多すぎますよね。
人権を振り回す団体や人には要注意です、何事も行き過ぎればいい事ないですもん。だから最近犯罪者だって擁護されてしまう世の中になりましたしね、犯罪者が大きな顔して生きて被害者が中傷されて小さくなって生きるというおかしな図式さえあって腹立たしい。
子供のころからきちんと叱られないと思わぬことになりますからね…(-_-;)。
マツコとトメキチの運命やいかに!
胸の鼓動を高鳴らせつつ次回をお楽しみに^^。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんにちは!
お返事遅くなってごめんなさい。
松岡分隊長はいつも何かしでかすようでハラハラいたします(-_-;)。たいがいのトラブルは彼女が引っ張ってくるような気さえしていますねw。さあ、マツコトメキチ今回は無事でしょうか?
そちらは寒そうですね、今日7日は練馬で氷点下の気温だったとかでとても寒く暖房がなかなか効きません(泣)。
ケイさん、どうぞお風邪など召しません様お過ごしくださいませね。

こんにちは!

そういや愛情の裏返しって、最近聞かないですよね。
いきすぎた人権擁護のせいでしょうか、怒られない子や怒れない大人が増えてきたような。。。
マツコとトメキチは間違いなくまきこまれます!w。。。と予想しながら、次号楽しみにしてます♪

No title

見張り員さん    こんばんは♪
いつもありがとうございます♪
大和で松岡分隊長さんが何かやりそうで
目が離せませんね。
トラブルにマツコにトメキチにニャマトも巻
き込まれないか心配ですね。
明日はこちらは雪が降る予報で今日は一日
雨が本降りでした。
明日も冷え込みが厳しいそうですので 風邪
などひかれませんように気をつけてください。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
山中・能村の新夫婦の物語は一段落…と思ったらまた何か大騒動の気配が!
いったいどんな事が起きるやら、気になりますね~(-_-;)。
どうぞ続きをお楽しみに❤
今日も寒い一日でしたしかも、午後から雨と来ました(-_-;)。にい様も御身大切にお過ごしくださいね^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
松岡から麻生へ壁ドン…おお、考えると寒気がしますねww!さあ、また出ました松岡ワールド。しかし今度の花氏の中心は松岡じゃなさそうですぞ!?
というわけで続きをお楽しみに^^。
今日も寒かったですね、どうぞ御身大切にお過ごしくださいね❤

No title

さて素敵だった若夫婦の話も、無事契りまで終って大和のドンチャン騒ぎの始まり。楽しみです。やっぱりこうでなきゃ安心してこの12月を過ごせません。
向寒の折柄、ぜひとも御身お大事に。

こんばんは。
麻生さんが松岡さまに「壁ドン」されるのかとドキドキしてしまいました(笑) 相変わらずですなぁ~! 艶っぽい話もいいですがこのいつもの松岡さまの暑苦しい感じも『大和』らしくていいですね。続きをまた楽しみにしています♪


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haitiyoshi.blog73.fc2.com/tb.php/1959-42dfe7b8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

「女だらけの戦艦大和」・空中戦2 «  | BLOG TOP |  » 「女だらけの戦艦大和」・空中戦1

プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

最新記事

最新コメント

フリーエリア

無料アクセス解析
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
Web小説 ブログランキングへ
小説家志望 ブログランキングへ ブログランキングならblogram
夢占い 夢ココロ占い (キーワードをスペース区切りで入力してください。)

カテゴリ

未分類 (21)
大和 (486)
武蔵 (66)
大和と武蔵 (41)
海軍航空隊 (28)
麻生分隊士 (3)
オトメチャン (39)
連合艦隊・帝国海軍 (155)
ふたり (69)
駆逐艦 (10)
ハワイ (8)
帝国陸海軍 (23)
私の日常 (112)
家族 (22)
潜水艦 (3)
海軍きゃんきゃん (24)
トメキチとマツコ (2)
ものがたり (8)
妄想 (5)
北辺艦隊 (1)
想い (14)
ショートストーリー (4)
アラカルト (0)
エトセトラ (5)
海軍工廠の人々 (5)
戦友 (10)

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2ブログランキング

FC2 Blog Ranking

FC2Blog Ranking

最新トラックバック

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

RSSリンクの表示

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード