「女だらけの戦艦大和」・結婚ものがたり1~抱きしめたいほど愛してる

 桜花爛漫に咲き誇ったこの春、女だらけの帝国海軍軍艦『大和』副長、野村次子中佐の婚約が整った――

 

相手が海軍工廠技術佐官ということもあり結婚許可は一週間で下りた。山中大佐は大喜びでさっそく挙式の準備を始めていた。野村中佐が結婚準備のために上陸してくると大喜びで桟橋まで出迎え抱きかかえんばかりにして歩きだす。その様子は衛兵所の面々が身を悶えてうらやむほどである。

 

この次の中佐の上陸の日が来たら山中大佐はまず彼女を呉の町中の喫茶店に誘いそこで紅茶かコーヒーなど喫しながら

「これは私の単なるプランですが聞いていただきたいのです。挙式は…私の家でしたいのですがいかがですか?家は大人数が入れるよう昨年直しておきました。そして…、あ、いやいちいち説明するより来ていただいた方がわかりやすい。これから一緒に家に来ていただきたい!」

と話をして野村中佐を自宅へと連れて行こうと思う。挙式と披露宴を行える座敷のあるあの家、つまりは二人の愛の巣となる家を中佐に見せたかった山中大佐ではあるが実は下心もあった。

(つぐチャンを…抱きしめたい!!

以前から野村中佐を抱きしめたくて抱きしめたくてうずうずしている山中大佐であったが、自分の立場やなにかいろいろを考え合わせるとその思いをストレートに行動に移すわけにもいかない。第一、(つぐチャンに嫌われてしまったら一巻の終わりだ!)からだ。

(しかし!)、家の中のあちこちを見せ、そして二階の素晴らしい展望のベランダに彼女を連れだしてそこでロマンチックな雰囲気になればもしかしたら唇を合わせることができるかもしれない、そしてそして…!

そこまで思って山中大佐はひとりでに顔がニヤついているのに気がつき、ハッとして片手で頬を撫でてきりっとした表情を作った。

「いかん!帝国海軍の技術将校ともあろうものがこんな妄想をしてニヤニヤするとは言語道断」

と小さく声に出して己を叱ったが<妄想>という語に却って刺激され再び頬を緩ます山中大佐である。そして(ああ早くつぐチャンの上陸日にならないかなあ)とその日を一日千秋の思いで待っている大佐である。仕事の手をふっと休めて窓外をぼんやりと見つめる山中大佐の隣のデスクでは、その様子を見て気味悪げにそっと身を離す益川中佐が居る。

 

さて。その<妄想>の相手の野村副長は一泊の上陸日を明後日に控えて、各科の科長と打ち合わせの最中である。副長は集まった皆に

「このたびは私事で皆にたいへんな迷惑をかけて申し訳ありませんがどうかよろしく願います。式のあとしばらく休暇をいただくことになり本当に申し訳ないのですが…どうかよろしく」

とあいさつした。山口通信長が微笑みながら「なにをおっしゃいますか副長。めでたいことなんですから遠慮はいりませんよ、どうどうとしとられたらええんです。それに普段から副長は休みがほとんどないんですからこういう時こそゆっくりなさってつかあさい」と嬉しさのあまり広島訛りが少し出た。繁木航海長も

「そうですよ。それに私も結婚の際にはたいへんな御世話になりました。今度は私がお返しする番です。野村中佐には決してご遠慮なさいません様願います」

と言ってその場の皆は微笑み、拍手が沸いた。それに深く頭を下げて応えた副長はとても美しい。その美しい顔のまま、副長は皆と自分不在中のあれこれについて打ち合わせを始める。

その打ち合わせが終了するとき副長は

「私の今回の話、日付など詳しいことを知っているのはここにいる皆のほかには誰かいますか?」

と尋ねた。繁木航海長はちょっと考え込んだが顔を上げると

「梨賀艦長です。兵員たちは副長がご結婚らしいということまでは知っていますが日付までは知りません。当日まで黙っておきましょうか」

と言って副長はうなずき「そう願います」と言い散会した。

 

そして副長の上陸日の朝。

副長は内火艇を仕立てて桟橋へと向かう。その様子を防空指揮所の当直員の見張兵曹が見ていて、(最近副長はよう上陸なさるなあ。なんぞ御用がおありなんじゃろうか。…そういやあ前に副長はお見合いなさった言うとったが結果はどがいじゃったんかのう?)と思っている。その向こうには小泉兵曹が双眼鏡をのぞいているが見張兵曹はあえて何も言わないでおいた。(ひと様の事をあれこれ詮索したらいけんもんな。それに小泉は口が軽いけえ、言わん方がええな)と警戒してのことである。見張兵曹は(こう言うのをサイレントネイビー言うんだと聞いたが…ありゃ、ちごうたかな?)と頭をひねっているが、人のことをあれこれ他人に言いふらさないというのは信用を得るためにも大事なことである。

ともあれ、野村副長は桟橋に上がり衛兵所の前に差し掛かる。衛兵所長が敬礼して出迎えるのへ返礼してふと行く手を見ればそこにはもう、山中大佐が立ってほほ笑んでいる。

野村中佐は駆け寄ると「お待たせしてしまってごめんなさい。随分お待ちになったのでは?」と言って几帳面な敬礼をした。山中大佐は嬉しそうにほほ笑みながら返礼すると

「そんなことはありませんよ。さっき来たばかりですよ…さ、行きましょうか」

と言って中佐に寄りそいその背中にそっと片手を当てるようにして、そして二人は歩きだした。

それをじっと見ていた衛兵所長、そばにやってきた兵曹にそっと「さっき来たばかりだというがあの大佐はもう一時間も前からあの場所に立っていたじゃないかねえ?」と言った。兵曹は「きっと会いたくて待ち切れなかったんでしょうね。ああ、うらやましい!私もそんなふうにして待っていてくれる男性が欲しいものですよ」と言って笑う。

衛兵所長は「そうか…それが恋の力ってものなんだねえ」と感心しきりである。

 

山中大佐は、野村中佐を一軒の喫茶店に誘った。「コーヒーがよいでしょうか、それとも紅茶を?」と山中大佐は言って、先に中佐を椅子に座らせた。そして自分も中佐の向かいに座ると彼女の瞳を見つめた。野村中佐は「では私は今日は紅茶をいただきましょう」と言って大佐を見つめた。

その瞳の輝きを見た途端、山中大佐はもうたまらなくなってしまった。(つ、つぐチャンを…抱きしめたい!!)という思いが吹きあがってきた。が、(いかんいかん、場所をわきまえよ!まだまだだ!)とその感情を抑えつえて「私は…いや私も今日は紅茶の気分です」と言って紅茶を二つ注文した。

紅茶が運ばれてくる前に山中大佐は「これは私の単なるプランですが――」と挙式と披露宴の計画を野村中佐に語りだす。そして、

「このあと私の家に行ってみて下さいませんか」

と言った。ちょうどそのとき紅茶が二つ運ばれてきた。給仕にそっと頭を下げた野村中佐は

「素敵な計画ですね。では突然おじゃまして申し訳ありませんが大佐のおうちに行かせてください」

とほほ笑んだ。山中大佐はその心のうちが狂喜乱舞したい思いでいっぱいになった。今日こそ、つぐチャンを思いっきり抱きしめたい、いや抱きしめられると嬉しくてたまらない。しかし、その心のはずみを気取られないように落ち着いて紅茶を含んだ。

早く家に行きたい大佐の思いとは裏腹に野村中佐は、『挙式には誰誰を呼びますか』とか『どなたに媒酌をお願いしますか?』とか『お料理はどこに頼みましょうか?』などと、大佐としては(あとでいい、後でいいですよそんなこと!)という話を無邪気にしている。

中佐の瞳はきらきらと輝き、幸せに満ちている。それを見つめて山中大佐は(ああ。この瞳、なんて素敵なんだろう)と感激に身を震わせている。そして…ちょっとした欲望にも。

不意に野村中佐が「あの、山中大佐?」というと真正面から大佐を見つめた。大佐はハッとして「どうしました、つぐチャン」と言った。中佐は心配そうな表情になって

「大佐はお疲れなんではないですか?なにか…こう言っては失礼ですがうわの空みたいで…」

と言ってから哀しげに眼を伏せてしまった。大佐はものすごくあわてて椅子から立ち上がると中佐の両肩をつかんで

「お疲れなんかではないですよ!大丈夫です。うわのそらに見えたら申し訳なかった、実は私は」

と言って言葉を一旦切った。中佐は大佐の目を覗き込むようにして「実は?」と尋ねる。その瞳に又そそられながらも大佐ははっきり言った。

「あなたに見とれていたのです」

とたんに、野村中佐の頬がぱっと赤く染まった――。

 

ふたりは紅茶を喫し終えた後、山中大佐の自宅へと歩き出した。すっかり暖かくなった呉の町を抜け、大佐の家のある坂を登る。途中後ろを振り返れば呉湾がきらめきながら広がっている。

野村中佐はしばし、「綺麗…」と言って言葉もない。その中佐に微笑みかけて大佐は

「私の家の二階からはもっと遠くまで湾が見通せますよ。『大和』も見えるでしょうから早く行きましょう」

と言って中佐の手を引っ張って走り出す。野村中佐は「待って…、山中大佐、痛い」と言いつつも笑いながらあとに従う。

しばらく坂道、いや山道と言ってもいい勾配を上がった先、山のてっぺん。そこに山中大佐の家はあった。ハイカラな洋館、庭も広く風が心地よく吹きつける。野村中佐は「ここが・・・大佐のおうちなんですね。素敵です」と言って家を見上げた。その横に立って、大佐は「そして、つぐチャンの家になるんですよ」というと玄関のかぎを開けドアを開いて

「さあ、ようこそ我が家へ!」

と言って野村中佐を招き入れたのだった――

     (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ野村副長結婚へ!今回は長い話になりそうです(っていつものことですが)。

そして山中大佐は悶々としておりますが、副長を自宅に招いてとんでもないことをしでかさなきゃいいのですが。妄想を現実にしないよう願いたいものです。

河合奈保子「愛してます」。山中大佐の心のうち…にしてはおとめチックですな(^_^;)



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matsuyamaさんへ

matsuyamaさんこんにちは!
女だらけの『大和』幹部、また一人結婚します^^。
山中大佐、一人で浮足立っているような気がします。これでいいのか山中!?と叱咤激励したいくらいですが彼も熱くなっているのでしょう。そのベクトルを間違わねばいいのですが…
本当にけっこう披露宴では男性は気の毒なくらい引き立て役ですね。まあ女性が華やかな舞台に立てるのはこの時くらいしかもう無いですからね(-_-;)。
ご祝辞、二人とも喜んで居ります^^!

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんにちは!
山中大佐、なんだか心が逸り気味です。大丈夫なのでしょうか??でも恋する心ってこんなものですよね^^。この後どうなりますやら??
今日の東京、雨が降りまして今は止み間のようですがまた降るようです。ワンコ散歩が思いやられます(-_-;)。

野村中佐もいよいよご結婚ですね。幸せな家庭を築いてほしいですね。
挙式を前に浮き足立っているのは山中大佐の方のようにお見受けしましたが、
結婚式を取り仕切る男性の心境でもあるんでしょうか。
結婚披露宴での新郎さんは花嫁さんの引き立て役ですからね。
もっとも引き立てるためには自らが演出しなければならないんでしょうけどね。
末永くお幸せに、と祝辞を述べさせていただきます。

見張り員さん    こんにちは♪
いつもありがとうございます♪
山中大佐は野村副長のことが好きでたまらなくて新居に早
く案内したくてたまらなく副長の話にうわの空で坂道を手を
繋いで走って行き気持ちは仕事中も妄想していた通りうま
くいくといいですね。
どうなるか楽しみです。
こちらは明日から雨マークで散歩はレインコート着て行かない
といけないです。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
揺れる恋心とか一途な恋心ってやはりときめきますよね~❤思わず自分の若き頃の思い出を重ねてしまったりしてw。
恋する季節の真っ盛りはまさに人生の朱夏の時ですね!バリバリの生命の躍動を感じますね…戻りたいあの頃(-_-;)。
さあ、山中大佐どうするのでしょう?おとなしくなにもしないかそれとも狼になってしまうか!?ご期待下さいませ!!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
野村副長もいよいよ人の妻となる日がそこまで来ました!
それにしても山中大佐、急ぎ過ぎですw。男性は女性とやはり、そういう面でも違うんですよね。女は段取りが大事ですが男性はそれより…でしょうかw。
この年になるとそのどちらも愛しく感じられます。
明日は菊水隊が大津島を出撃して行った日ですね。あれから70年。私の叔父の一人がこの年この月の19日の生まれで間もなく70歳となります。叔父が生まれたその時、彼らが南方の海で「その時」を待っていたなんてなにか不思議な気さえしてきます。
明日は心から祈りをささげたいです。
気がつけばもう今年もわずかになりました。今年ばかりは本当に「気がつけば」という語がぴったり来ます。あと二月弱のことしをかみしめるように生きてゆこうと思います!
まろにい様もどうぞ御身大切になさってくださいね^^。

こんにちは。
他人の恋心をのぞいてアレコレ思うのはなんて楽しいことなのでしょうか(≧∇≦) わかる、わかるぞ! でも焦りは禁物だ!などと勝手に口から言葉がもれてしまいます~誰もいなくてよかった( ̄▽ ̄;)
次もワクワク・ドキドキの展開を期待しております~♪

おはようございます。
いよいよ華燭の典ですね。
逸る男心と、冷静に業務を引き継いでいく女性の対比が面白いです。
男心をよくご存じです(笑)
挙式披露宴の豪華な出席者やその空気感が、そしてそのあとの新居での……。
いかん。僕も逸りはじめましたよ。
美しい人々の美しい見送りの風景もなんて素敵なんだろうかといつもながら感動しています。
今日は立冬。そして明日は回天の日。
せめて「大和」のみんなには穏やかな日々であってもらいたいと願っています。
日ごとに気温が下がっていっています。どうかくれぐれも体を大事になさって下さい。
夏から季節がもう三つ巡ってきたということですね。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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