「女だらけの戦艦大和」・大志を抱け!2

 「村上軍医長、『大和』の日野原軍医長からお手紙です」――

 

トレーラー在泊中の『武蔵』医務室の村上軍医長の元に、日野原軍医長からの手紙が届いた。村上軍医長は持ってくてくれた水兵嬢に

「ありがとう。日野原さんからか、なにかあったかな」

といいながら封を切って便箋を取り出した。便箋には几帳面な日野原軍医長の万年筆の文字が並んでいる。それを村上軍医長は読み始めた。冒頭は時候の挨拶で内地の様子が書かれていた。もう桜が咲くころだと日野原軍医長は「桜が咲いたら押し花にしてお送りいたします。お楽しみに」と記し村上軍医長は「ほう、それは楽しみですね」と便箋に向かってひとりごちた。

そのあと、日野原軍医長の筆はいきなりのように核心に入ってゆく。

 

…キリノの様子が先日のあなたからの報告でよくわかりました。あの子はやはり優秀です、これは全くの私見なのですが彼女をこのままトレーラーの一看護婦として埋もれさすのはもったいない、トレーラーと帝国の損失ではないかと思ふやうになりました。トレーラーではあの子にしてやれることは限られているでせう、ですから私はあの子を内地に呼んで内地の病院で勤務させかつ勉強させたひのです。しかしこれは私一人で出来ることでは決してなく海軍診療所や彼女の親それに一番彼女の思ひが必要です。もし、村上さんがわたしのこの思ひに少しでも御賛同の意をお持ちならば御一考いただきたひと思ひ、かうして手紙をしたためた次第です。そしてこれがキリノ一人に限らずまだ埋もれているであらうトレーラーの少年少女たちを見出す第一歩そしてその子たちの希望になればと思ひます…

 

村上軍医長は思わず「やはり、日野原さんも」とつぶやいていた。この思いは村上軍医長も感じていたことであった。

もしかしたら海軍診療所の横井所長も感じていることではないのか、と村上軍医長は思い(明日明後日にも横井大佐を訪ねてみよう、そのうえでキリノにも話をしてみたい)と決断した。

そして翌日、村上軍医長は海軍トレーラー診療所に横井軍医大佐を訪ね日野原軍医長の想いを説いた。一人日野原氏だけのおもいではなく自分の思いでもあるというところを力説した。

横井軍医大佐は静かに聞いていたが、話が終わるとその温顔にいっぱいの笑みを浮かべて

「素敵なお話です。いいお話です、これはキリノにとって最高のお話ではないかと思います。あの子は磨けば磨いた分光りますよ。この先海軍に――いやここトレーラーにも日本にも必要な人材になるかもしれません。村上さん、磨きましょうキリノを。…私はまずこの話をキリノの親にいたします、そのうえで親の了解が取れたらキリノに話します」

と言って頬を紅潮させた。紅茶と菓子を持ってきた村岡軍医大尉も

「いい話ですねえ、あの子は性質が良いから内地でも可愛がられるでしょうね。ところで日野原軍医長はあの子をどこの病院で研修させるおつもりなんでしょうね」

と言った。村上軍医長は村岡大尉に軽く礼をして紅茶を受け取ると

「その点は大丈夫です、日野原軍医長のご実家が東京で大きな病院を経営なさってらっしゃいます。看護学校も備えた大きな病院ですから心配ないです」

と言った。横井大佐は「ああ、聖蘆花病院ですね。日野原さんはそこの…」といい村上軍医長はうなずいた。

「日野原軍医長のご主人が今病院長としていらっしゃいます。御子息方もそこで医師をなさってらっしゃいますから御安泰ですね」

と村上軍医長は言って笑った。横井大佐も村岡大尉も「それはすごいなあ」と感心しきり。

 

善は急げとばかり、横井大佐は自動車を仕立ててキリノの実家へと向かった。今キリノ自身は診療所の寮で暮らしている。横井大佐の乗った自動車がキリノの家の前に停車すると周囲にいた人々が何事かと寄ってきて、その軽い騒ぎに家の中にいたキリノの父親が顔を出した。

今日はもう、漁が済んで一休みしていたらしい。横井大佐の顔を見るとキリノの父親は一礼した後

「横井大佐、コンニチハ…あの、キリノがナニカしでかした?」

と心配そうに尋ねた。横井大佐はいやいや違うよ、とほほ笑みながら「今日は折り入って話があるのです。時間をいただけますか」と尋ねた。キリノの父親に依存などあるはずもなく、横井大佐は家に招じ入れられた。中ではキリノの母親が突然の大佐の訪れにあわてていたが大佐は

「どうかお構いなく、話をしたらすぐ失礼します」

と言って「大事な話だから聞いて欲しい」と母親も一緒に座らせる。緊張の面持ちの両親に、横井大佐は村上軍医長からの話を伝えた。そして

「ご両親としては大事な娘がここを離れるのはたいへんに不安で寂しいと重々承知だが、どうかキリノの将来の為に御一考願いたいのです」

と言って頭を下げた。二種軍装もりりしい横井大佐に頭を下げられキリノの両親は慌てふためいた。そしてしばらく二人は黙っていたがやがて二人は顔を見合わせてにっこりとほほ笑むと

「横井大佐。スバラシイお話わたしたちウレシイデス。キリノがそれほどまでミナサンニ思われてるなんて…。横井大佐、キリノをオネガイいたします。私達キリノノタメならさみしくない。あのこがリッパになって帰る日をココデまっています」

と言った。横井大佐は「承知して下さるのですね、ありがとう。これでキリノはもっと素晴らしい教育を受けてますます良い医療従事者になれますよ。そして日本でのことは心配しないで。日野原大佐という軍医の実家の病院でキリノを勉強させます。なにも心配いりませんからね」と言って嬉しくてたまらないと言った表情で笑う。

そして横井大佐は今度は診療所へ帰るとキリノを呼びだした。キリノは入院患者の点滴をとりかえている所だったがそれが終わると横井大佐のいる所長室へやってきた。ドアをノックし、

「キリノ参りました」

といささか緊張した声に横井大佐は「入りなさい」と優しく声をかけドアが静かに開いた。大佐はキリノを部屋に招じ入れると「座りなさい」とソファを示した。キリノは大佐が腰を下ろすのを見てからソファに掛ける。キリノは海軍診療所の白衣の上に白エプロン、首に聴診器をかけている。ナースキャップの真ん中の錨のマークがまぶしく横井大佐には見える。キリノは聴診器を首から外して手の中でまとめた。

横井大佐はそんなキリノを好もしく見つめつつ例の話を始めた。そして「この話はご両親も了解済みである、たいへん喜ばれているよ」と伝えた。キリノはその話を聴いて大変うれしそうだったがかすかに表情を曇らせ

「嬉しいです。ウレシイですが、ワタシソンナニよくしてもらってイイノデショウカ」

と言った。大佐はおおきくうなずいてから日野原軍医長の「これから続くトレーラーの少年少女を見出す第一歩としての」キリノであること、たいへん名誉な話である事を力を込めて伝えた。

 

キリノは、内地の日野原軍医長の病院に行くことを決めた。

 

『武蔵』の村上軍医長は横井大佐から報告を受けると手紙を内地への航空機に託した。「艦などでは遅すぎる。ここは飛行機だ」と自ら航空基地へ赴いて。

そして嬉しい知らせは二日ほどで呉の『大和』の日野原軍医長の元へ届いた。その知らせがどれほど日野原軍医長を狂喜させたか、村上軍医長は知る由もなかったが日野原軍医長はその場に飛びあがって喜んだ。そして東京の聖蘆花病院に電話を入れこれこれこうだと夫に話をし、夫も賛成してくれた。元より軍医長の夫も広く人材を求めたいといい考えがあったからいい人材を得た妻に感激している。

そして――日野原軍医長にはもう一つキリノへの「贈り物」をしようと思っている――

   (次回に続きます)

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・

キリノに降ってわいた良いお話!しかも誰の反対もありません。

さあキリノ内地へ。そして日野原軍医長の「贈り物」とは?次回をお楽しみに。


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Secre

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
そうです!!日野原軍医長の愛です^^。
日野原軍医長は医師としての腕も確かですが、人として人を見る眼も確かです!キリノはこの先…日野原軍医長に終生感謝し、その徳を慕うことになります。
なんだか嬉しいおほめのお言葉をありがとうございます、照れますねえ~(^_^;)。この先ももっと練磨し言葉に磨きをかけたいと思います。そういえば昨晩父の夢を見ました。えらくはっきりした夢でして、実家に私がいると父がいつものように「ただいま~」と還ってくる夢でした。「電車混んでた?」とか私が聞いて父が会社務めのころのようで…目覚めると何かむなしい夢でした。

やはり‼️ 日野原軍医長の深い愛情でしょうか。
将来性のある輝く人材を見つけることが出来るのもその人の人格かもしれません。キリノさんも素晴らしい方と出会えた運命に感謝することでしょうね。
お父上の見送りが終わり、節目のお祭を重ねるたびに見張り員さんの文章にも磨きがかかり、凄みが出てきているように思っています。時に研ぎすまされ、時に慈愛に満ちてると。どうか尚一層のご発展をお願いします(なんかおかしな言い回しですね)

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます^^。
キリノちゃん。この先日本にやってきます、そしていろいろとたいへんなこともあるでしょうが頑張ると思います。この子はけっこうしんの強い子です。日野原軍医長の実家の「聖蘆花病院」(どこかで聞いた名前ですね~w)で今後研さんを積みます。
キリノの今後をお楽しみに^^!

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
えらい台風でございましたがオスカーさんには何事もなかったでしょうか、千葉県内も避難勧告など出た場所があったとか、心配しております。
そして嬉しいお言葉をありがとうございます。
最近になり意欲がわき始めてきました。いろいろとネタもありますしそれよりいかにきれいでわかりやすい文章を書こうか?とあれこれ考えるのがたのしいですね。きっと…父が後押ししてくれてるのかもしれません^^。
高円宮妃と典子女王殿下、いい親子なんだなあって思いますね。妃殿下はお寂しいことでしょうけれど娘を持った親の宿命ですね、きっとお幸せを心からお祈りのことでしょう。
私と娘たち…あのように素敵な母子になれるよう努力します!!
気温の乱高下がありそうですね、くれぐれも御身大切になさってくださいね^^。

見張り員さん    こんにちは♪
いつもありがとうございます♪
キリノさんは優秀な子で日野原軍医長さんがとても
いい方で実家の聖蘆花病院で勉強することになり
横井大佐が村上軍医長からの話をご両親に伝えて
許しをいただきこれからのキリノさんの成長が楽しみ
ですね。

こんにちは。
台風やってきましたね!!
お気をつけ下さいませ。
最近の見張り員さまの創作活動の意欲、そして内容が今まで以上に素晴らしくなっていると感じます。書くことが見張り員さまの支えになっているんだなぁと思って、作品の後に父上さまの姿を感じます。
話は変わりますが、高円宮さまの典子さまとお母さまの久子さまの写真を新聞で見て母と娘っていいなぁと思いました。そして見張り員さまと娘さんたちを想像しました。まだまだ大変なこともあると思いますが、どうぞおだやかでしあわせな毎日をお過ごし下さい。

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
お元気そうでほっとしております。PCって一旦おかしくなるととことんだからやんなりますね(-_-;)。うちのPCちょっと前まで画面がフラッシュして「もう駄目だね、買い替えだ」と言ったら治りやがりましたw。
折りを見てぜひまたいらして下さいませ、一日も早いPC復旧をお祈りいたします。そしてどうぞ御身大切にお過ごしくださいませ。

はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
キリノは真面目です、そして頑張り屋さんなので軍医長がたの目に止まりました。さあこの後キリノは内地でどうなるでしょうか。ご期待下さい!
今回ばかりは日野原軍医長、例のしごきは封印ですww。
聖蘆花(せいろか)病院で勤務することになるキリノに絶大なるご支援を!

お久しぶりですw

いろいろあってPCから離れておりました。
まだ調子が悪いので(PCの方が)、あまり長居できずにいますが、隙をみてちょくちょく訪問させてもらいますよ~♪
とりあえず、ご挨拶まで^^
あとで来ま~す☆彡

おじゃまします

こんにちは
頑張り屋なキリノに、素晴らしいチャンスが訪れましたね。
頑張っている姿というのは、
誰かしら見てくれているものですよね。
才能も大事かもしれませんが、
真面目に頑張っているからこそ、
こういう素晴らしい好機がめぐってくるわけで。
日野原軍医長と言えば例のしごきですが、(笑)
勤務先が、聖蘆花病院ということで、
ちょっと安心しました。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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