「女だらけの戦艦大和」・光れパワーストーン!3<解決編>

田中・斉藤両飛曹は思わず叫んでいた――

 

渡部少尉の乗ったままの零戦の機体がものすごい光を発したのだ。そのすさまじさたるやマグネシウムを大量に焚いたようなもので二人の兵曹は思わず顔を伏せてしまったほどである。

 

渡部少尉は、懐かしいワイダ・スウハ氏に心の底からの感謝を伝えんと、彼の面影を心に描きだしていた。

…ワイダ・スウハさん。私はインド旅行中深山に迷い込んで食べ物も水も底をついて道なき道に倒れ伏していましたそこを、あなたに救われましたね。あの時あなたがあの場所を通りかからなかったら、私はきっと虎にでも食われて死んでいたことでしょう。あなたにとってどこの馬の骨かもわからぬ異邦人を手厚く介抱して下さりなおかつ、『あなたを気に入った、弟子にしてあげよう』とおっしゃって下さったあなたの御温情私渡部はあの世に行っても忘れません。

ただもうひとめだけお会いしたかったです、それだけが心残りでなりません…

 

渡部少尉の閉じた眼から一筋の涙が流れ落ちた。もうすぐ、あと数分で零戦の機体は海に突っ込むことだろう。少尉の人生に終わりが来る。

「ワイダ・スウハさん。さよなら」

そういったその時、少尉のいつも大事に懐にしまっている「パワーストーン」が鋭い光を発したのだ!青いような銀色のようなそれは形容しがたい色ではあったが光りは少尉の懐の内側から、飛行服を通して光っている。

「うわ…!これはいったい」何なんだ、と言いかけた少尉の耳に懐かしいワイダ・スウハ氏の声が響いてきた。

…ヨウコ、あなたはもう、アキラメテシマウノカ?ヨウコはわたしトノ修行のナカデアキラメナイ事をマナンダんじゃナカッタのか?…

しかし、と渡部少尉は問いかけた「この状況ではもう駄目です、どうにもなりません」と。するとワイダ・スウハ氏の声がひときわ大きく少尉の耳に響いてきた。

「アキラメルナ!その石をシンジロ!」

我に返った渡部少尉は光を発する石の入った懐部分をしっかりと片手で押さえると「あきらめるものか!我が愛機よ踏ん張れ!そしてこのまま基地まで飛べ!」と叫んだ。

すると鋭い光は今度は何とも優しげな、ふんわりとした光になって少尉の零戦を包んだ。田中兵曹が風防越しに「あれを見ろ!」と指差すのを斉藤兵曹がよくよく見れば渡部少尉の零戦はそのふんわりとした光に包まれて安定した飛行を続けているではないか。

「渡部少尉…もうちょっとです、がんばれ!」

斉藤兵曹はそう叫ぶと、渡部少尉機の左につけた。田中兵曹の零戦は少尉の機の少し上を飛んでゆく。

渡部少尉は懐を押さえたまま必死で(あきらめない、あきらめないぞ…私は責任ある立場なんだ、この程度のことで死んでたまるか!)と石に念じる。石に彼女の念が通じているのか、零戦は少尉が操作しなくても安定した飛行をつづけている。

(渡部少尉、その調子です。あと少し、あとすこし)

二人の兵曹が必死に応援をしているその前方に、少尉の打った電信を傍受した駆逐艦「遅霜」が進んでくるのが見えた。「遅霜」はこの近海で訓練中だったが渡部少尉の緊急電を受信し「近くにいるのは我々だけだ、先に救助に行こう」とやってきたのだった。

その駆逐艦の姿を田中兵曹がまず発見し

「やった、渡部少尉!駆逐艦が来ました」

と叫び、斉藤兵曹が光りの中に見える少尉に

「駆逐艦が救助に来ました、機体を不時着水することはできますか?」

と手信号で伝えた。渡部少尉は斉藤兵曹を見、そして上空を飛ぶ田中兵曹の零戦を見て穏やかに微笑んだ。まるで悟りきった修験者のような笑みだと斉藤兵曹は思った。その微笑のまま少尉はうなずくと機体が静かに降下し始めた。

少尉は懐の石に手を当てたまま

(そう、ゆっくりと。ゆっくりと降りるんだよ。その調子、そしてふわりと海面に降りるのだよ)

と念じる。すると零戦の機体はまるで少尉の意思にコントロールされているがごとく、ゆっくりと降下を始めこれ以上ないほどの出来で海上に不時着水したのだった。

ザパア!と水しぶきをあげて海上に着水した少尉の機、すぐ駆逐艦「遅霜」が寄ってゆき艦首に信号兵がたち、手旗信号で少尉に怪我はないか、泳ぐことは可能かと尋ねた。

渡部少尉は風防を開けてその信号に怪我は無し、泳げると返信。「遅霜」は機関停止をしてうねりを立てないようにしながら舵を不時着水の零戦の至近につけた。

艦上から救命用具が投げられ、零戦から海に飛び込んだ渡部少尉は抜き手を切って十数㍍ほど泳ぐと救命具につかまった。

艦上の兵隊嬢たちはロープを引いて少尉を引き上げた。ずぶぬれの渡部少尉が「遅霜」の甲板上に上がったその時、少尉の愛機はまるで少尉に別れを告げるがごとく機首を上にして立ちあがるような格好になった。

少尉は愛機を見つめ、そして敬礼をした。愛機は少尉の敬礼を受けるとその身を静かに青い海に沈めていったのだった。

渡部少尉の目からはとめどなく涙があふれて落ちた。そして少尉はいつまでも敬礼の手を下すことができなかった――。

 

ラバウル基地では、「渡部少尉殉職か!」と悲痛な空気が流れていたが、先に田中・斉藤両飛曹が帰ってきて少尉の無事を伝えた。

基地司令以下「それはよかった!」とほっと安堵の胸をなでおろした。それから三時間ほどして渡部少尉が「遅霜」のランチで基地近くの波止場に来ていると知らせがあり、司令は喜んで自動車で迎えにやらせたのだった。

司令は「後で『遅霜』には礼に行かねばね。本当に良かったそして、その場に『遅霜』がいて良かった」と喜んだ。

 

渡部少尉は怪我もなかったので基地に帰ると司令や副官に今度のことを報告した。

司令は「整備不良ではなかったのかな?そのような感じは受けなかったのか?」などと尋ねたが渡部少尉は

「いえ。整備不良などでは断じてありませんでした。整備の彼女たちはいつものようにしっかりとしてくれましたから。かんがえられるとするならば――」

と言って黙りこんだ。

副官が「するならば?」と鸚鵡返しに尋ねた。すると少尉は

「あれのせいだと思います」

と言って外に視線をやった。遠くに薄く煙を吐く山が見える、「花吹山」(ダブルブル火山)である。

「あの降灰がエンジンに吸い込まれて悪さをしたんだと思いますよ。ですから整備兵の彼女たちには責任はありません」

少尉はそう言って微笑んだ。

司令と副官は煙を上げる火山の方を見つめて「そうか。あの灰は厄介だからな。何とか対策を講じなければいけないね」といい、渡部少尉はうなずいた。

そのあと司令の部屋を退出した少尉は、田中・斉藤両飛曹に囲まれた。二人は少尉の手を取って泣きながら

「本当に心配しました、少尉にもしものことがあったら我々は生きてはおれません」

と言って、少尉は「そんなこと言ってはいけないよ。私がどうなろうとあなたたちは行きなければね。でも私もあきらめたりはしないよ、最後の最後まで踏ん張るからね」と言って二人の肩を優しく叩いた。やがて泣きやんだ斉藤兵曹が

「それにしても少尉、あの光は一体何だったのでありますか」

と不審そうに尋ねると少尉はああ!と笑ってから「これだよ」と懐に手を入れて守り袋を引きだした。そして中からあの石を摘まんで出した。

斉藤兵曹は「ああ!やっぱりこれのおかげだったんですね、すごいなあ少尉。やっぱりこの石は本物なんですよ」と感激し、田中兵曹は

「ほう、やはり少尉は大したお方ですね。そのようなものをいただけるなんか、やたらの人間じゃありえませんよ。御人徳ですね」

と感慨深げである。

 

渡部少尉は二人と別れた後石を大事に手のひらで包み込みながら滑走路の端を歩いた。愛機を失った悲しみが胸に迫ったが命を長らえた喜びもひしひしと感じ始めている。

少尉ははるかインドの方角と思しき空を見つめると(ワイダ・ハウスさん。ありがとう、あなたのおかげで私は助かりました。あなたのお教え、これからも忘れないで生きてゆきます。――あきらめない!これですね)と思って石を握りしめた。

石がその思いに反応したかのようにかすかに青い光を放っていた――。

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

渡部少尉、無事還ることが出来ました。これもインドの修験者のくれた石のおかげですね。そして何事もあきらめないという意思も助けてくれたようです。でも「あきらめるな」なんてまるで松岡修子海軍中尉のような修験者ではありませんか!?

 

「ラバウル航空隊」(軍歌)です。



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はづちさんへ

はづちさんこんばんは!
よく、不時着水して愛機を失った航空将兵のお話を読んだりするんですがその嘆きはけっこう深いんですよね。生きるの死ぬももろともの仲なんですね。特に零戦搭乗員の想いは深いような気がします。
渡部少尉、命があってこそですからこの先また良い相棒に出会えるでしょう^^。
蒸し暑い日が続きます、はづちさんも御身大切になさってくださいね。

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは、続けてのコメントをありがとうございます^^!
こんなパワーストーンがあったらいいなあと思いますよね、自分の危機を救ってくれる石。でもこれなんか『天空の城ラピュタ』みたいな気もしないでもない(-_-;)。
しかし命があってよかったよかった^^、命あっての航空兵!

おじゃまします

こんにちは
渡部少尉、無事に帰り着くことができて、良かったです。
愛機が沈んでしまったのは残念ですし、
渡部少尉もそれについて心を痛めているでしょうけれど、
命があってこそ、ですからね。
いやはや、無事で良かった、良かった。
見張り員さんも、ご自愛くださいね。

見張り員さん     こんにちは♪
いつもありがとうございます♪
渡辺少尉の飛行機がワイダ・スウハさんにいただいた青いパワーストン
が光ってゼロ戦を優しく包み込んで渡部少尉を助けに駆逐艦が来てくれ
て不時着して遅霜」は機関停止をしてうねりを立てないようにしながら舵
を不時着水の零戦の至近につけて無事に助けられてよかったです。
インドで修験者のワイダスウハさんにいただいた不思議な石のパワーは
素晴らしいですね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんにちは!
ハラハラものでしたが無事に帰還出来ました!そうですね、アメ嬢が見たら別の意味で大ごとだったでしょうw。
「あきらめない」というのは大事なことだと思います、『あきらめがよい』というのも一つの選択肢ではありますがなんでも艦でもあきらめちゃいかん!
ぎりぎりまで踏ん張るのも生き方だと思います。
父が要介護4に認定されこれからが正念場となります。いつまで続くのか、まだ始まったばかりですから何とも言えませんがこれに関してはあまり頑張りすぎないよう適度にひと様の手を借りたいと思っています^^。
いつもありがとうございます、オスカーさんも御身大切にお過ごしくださいね。

こんばんは。
石が砕けることなくよかったです!! 光に包まれた機体を米兵が見たら「未確認飛行物体」として本国に慌てて報告したかもしれないですね(笑)
あきらめない!という気持ちの根底にあるのはそれまでの彼女のがんばりだと思います。見張り員さまもたくさん言葉には出来ない辛い想いに押し潰されそうになることが何度もやってくるかと思いますが、まわりにはたくさんの人がいますので、頼ることもして下さいね。
お身体に気をつけて下さい。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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