2017-10

「女だらけの戦艦大和」・桜の押し花 - 2010.03.30 Tue

「女だらけの戦艦大和」は、日本の春を思いながらも訓練中――

 

そんなある日のこと、修理なった『間宮』が久しぶりのトレーラー島寄港である。皆は例によって熱狂して迎えたが、その『間宮』が麻生分隊士と見張兵曹には、とても懐かしい人からの便りをもたらしてくれた。

 

「オトメチャン」

と、麻生分隊士が亀井一水と交代して来た見張兵曹に声をかけた。はい?と麻生分隊士のそばに行った兵曹に、分隊士は一通の封筒を差し出して

「覚えてるよね、小渕少尉。前に分隊長兼分隊士だった人」

と言った。見張兵曹は、懐かしそうな顔になって

「ああ!小渕少尉、覚えていますとも。・・・懐かしいですね、お元気なんでしょうか」

と言った、その兵曹に分隊士は

「その小渕少尉、いや今はもう大尉だけど。お手紙だよ」

と言って封書から手紙をひっぱりだした。そして、「読んであげよう」と、言って読んでくれた。

 

小渕少尉は見張兵曹が『大和』に乗艦して来た時の航海科の分隊長兼分隊士で、ちょうど今の麻生少尉と同じ位置づけであった。

兵学校出の少尉で優秀な成績で卒業して艦隊勤務に就いた人であったがそれを鼻にかけることもなく、とても人望の厚い優しくしかし厳しさもある分隊士であった。

見張兵曹たちが『大和』に乗艦してきて、航海科に配置になった際とても喜んでくれた人で見張兵曹には忘れがたい人である。

「小さいトメちゃん」

と見張兵曹を呼んでことのほか可愛がってくれたのである。兵曹が(当時はまだ上水だった)、麻生兵曹に因縁つけられてどつかれたり蹴っ飛ばされて来た後、必ず、

「麻生も悪気があってしてるんじゃないから怨んじゃいけないよ?みんなこうやって一人前になるんだからね。でもあんまりなことされたら、私に言いなさい」

と慰めてくれたのだった。

この小渕少尉は心優しい人で行きすぎた体罰をひどく嫌った。だからあんまり麻生兵曹の体罰、しかも『小さいトメちゃん』限定の体罰をとても嫌がった。

時に、

「麻生兵曹は何故あんなに見張上水を目の敵にするのか?何か個人的に恨みがあるのか?」

と問い詰めることがあった。

そんな時、麻生兵曹は小声でしどろもどろに弁解していたが、何を言っていたのかは当時の見張上水は知らない。

 

そんな人望厚い小渕少尉であったが、見張兵曹が水兵長になるころ体調を崩した。肋膜炎になって、泣く泣く『大和』を降りることになったのだ。

泣いたのは小渕少尉だけではなかった、見張上水も泣く。小泉上水も泣く。航海科の兵たちは皆泣いていた。

しかも後任に、どうやら麻生兵曹がつく公算が大きいと聞いた兵たちの落胆は大変なものであった。

「小渕少尉、早く良くなって戻ってきてください」

見張上水や小泉上水は泣きながら小渕少尉にすがった。小渕少尉は笑って、

「大丈夫、しっかり療養して戻ってくるからそれまで麻生兵曹のいうことを聞いて頑張るように。私が戻ってきたころ君たちがどんな優秀な航海科員になってるか、楽しみにしてるからね」

と言って後ろを振り返り振り返りして退艦して行ったのだった。

 

麻生少尉が読み上げた内容によれば、肋膜炎の治療にちょっと時間はかかったものの、完治した小渕少尉は再度『大和』への乗務を希望したらしい。が。

「小渕大尉は兵学校での出来が良かったから、本当は艦に乗る予定じゃあなかったらしいんだよな。でも現場を知るのはいいことだと『大和』に来たんだってよ。でもちょうど艦を降りてきたからいいタイミングとばっかりに上が小渕大尉が治ってから軍令部に勤務にさせちゃったんだって」

と手紙を読んでわかりやすく解説してくれた。

「そうだったんですか」

と、見張兵曹はちょっとがっかりした。

と言って麻生分隊士が嫌いなわけじゃない、が、乗艦して初めて出会って優しくしてくれた人はどこまでも懐かしくいとおしい気がしてならない。

そんな見張兵曹をちょっと苦笑して見た麻生分隊士は手紙を兵曹に押し出して、

「ほらここ。読んでみろよ」

兵曹がそれを受け取って読んでみると

 

・・・小さいトメちゃんは元気でしょうか?

風のうわさにトメちゃんの姉妹にずいぶんエライ目にあわされたと聞きましたが。

でも、何があっても麻生君がいるから大丈夫だよね。麻生君、小さいトメちゃんが『大和』に乗って来た時からもうあの子に夢中だったものね。

だから逆にあんなにトメちゃんにいじわるしたんでしょう?

トメちゃん、可愛いものねえ!ライバルが多いんじゃないのかなあ、がんばれ麻生君。

でもあの小さいトメちゃんももう今頃は一人前の『大和』乗組員になったことでしょうね。いつかその姿を見にゆきたいと思うのです・・・

 

と書かれていた。

「分隊士・・・」

と思わず麻生少尉の顔を見るとなんだかちょっとばつが悪げである。変な笑いを浮かべながら、

「まあ、そんなことだよ。小渕大尉も頑張っておられるから、俺たちも頑張らんとな」

と言った。

「はい。いつか小渕大尉にお会いした時、恥ずかしくないような海軍軍人になります」

と見張兵曹は誓った。

「それで、な」

と麻生少尉は手のひらに入るくらいの小さな封筒をそっと見張兵曹に差し出した。

「小渕大尉が特別に俺と、オトメチャンにって」

見張兵曹はそれを受け取って中を見た。和紙に挟まれたのは、桜の押し花。

麻生少尉が嬉しそうに、

「これな、大尉がきれいな桜を拾って押し花にしてくれたんだよ。あのな、『靖国神社』の桜だぞ」

と言った。

兵曹も思わず笑みを浮かべて、

「わあ、靖国の。私はまだ行ったことがありませんので嬉しいです。分隊士、小渕大尉にお手紙を書くときは、私からもよろしくと書いておいてくださいね」

と言って、押し花の入った封筒を手帳に挟んで大事に懐に入れた。

 

見張兵曹の脳裏に、桜花爛漫な靖国神社の社頭に立って参拝する、懐かしい小渕大尉の姿が浮かんだ。

――が、兵曹は靖国に行ったことがないので神社の風景はあくまで想像ではあるが。

 

その晩当直が明けた兵曹を、麻生分隊士はまたもや待ち構えていて「オトメチャン、小渕大尉のほうがいいとか言わないでくれよ」と抱きしめたのであった。

まあいくら小渕大尉のほうがいいとしても、もう軍令部のエライさんの仲間入りをしてる人に一介の下士官がどうこう出来はしないのだが。

そんなことを心配するくらい、麻生分隊士のオトメチャンに対する愛は深い――そういうことなのだと兵曹は嬉しく思うのであった――。

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

優しい上司の思い出はその人が移動や退職した後もずっと残るものです。

でも、いやな上司の思い出もちょっとだけ残りますが、時が経てばどちらも結局「いい思いで」になるのですよね。


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● COMMENT ●

ジスさんへ

おはようございます!

このところの寒さで桜もちょっと花びらを開くのをためらってるみたいですが、今日あたりからまた咲き始めますね。

桜の下をぶらりぶらり歩くのは心楽しいものがあります。

ジスさんにとってこの春が穏やかで心休まるものでありますように。

NoTitle

こんにちは。いよいよ桜の季節ですね。

名古屋ではやや足踏みながら着実に咲いていきます。
今日も散歩をしてきました。徐々に春が近づいて欲しいものです。

Re: NoTitle

こんばんは

やはりそうですか、寒さがたたっていますね(泣)。

押し花、今年は作ってみませんか?

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

matsuyama さんへ

こんばんは

職場を離れた後の自分を覚えてくれてるかなって、やっぱり気になりますね。すっかり忘れられていたら、それはちょっとやっぱりさみしいですし、かといっていつまでも覚えてられるのもなんでしょうか、、、。
複雑ですよね、、、。

チハタンさんへ

麻生分隊士のライバルがだんだん増えてゆくような気がしますねww。

あとどのくらいで乳が出るかなあ?頑張らせますよ。


昨日今日と、東京も寒いです。桜があれから一向に開きません(泣)、寒い、、、。

NoTitle

自分も数年前職場を引退したけど、残った同僚、後輩に自分の存在が残っているのだろうか。もう「あなたどこの人」と忘れられてはいないだろうか、などと気を病みますね。
一度職場を離れてしまえば気遣いしなくて済むんですけど、少し寂しい気もありますね。

NoTitle

麻生分隊士もライバル多くて大変
それでも乳が出るまで吸い続けるのか
桜の変わりに六花が舞う毎日です・・・さむ


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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