「女だらけの戦艦大和」・内地の正月、○○決戦!6

「女だらけの軍艦大和」航海科の一部でちょっとした騒動が起きていたころ、呉の町をひた走る女士官が一人――

 

花山掌航海長は自分の気に入りの家が売られてしまったのではないかという大きな不安を抱えたままで自宅を目指して走った。

(私の家、私の一番の気に入りのあの家。人手にわたっとったらどうしよう。ああもうそげえなことになったらうちはもう生きてとうない)

視界が涙でかすんだ。心のうちでそんな自分を(泣くな。海軍士官が泣いたらみっともないで。ここは踏ん張れ・・・)と叱咤激励しつつ走る。海を背にしながら花山掌航海長は坂を駆け上がる。この坂の中ほどに彼女の実家がある。

半分洋館、半分日本家屋のしゃれた造り。洋館部分のテラスで芭蕉が風に吹かれる音を聞きながら私はまた昼食を食べたい、そして日本家屋の方にある書斎でゆっくり本を読みふけりたい。庭の小さな池の金魚たちに餌をやりたい。

ああ、あんなに大好きなあの家をどうして私の親は引っ越してしまったんだ、私に何の断りもなく・・・。

息を弾ませて坂を駆け上がった花山掌航海長、自分の家の見えるところまで来た。ごくり、と喉が鳴って掌航海長はしばし立ち止まった。なんだか怖くて恐ろしくって家の前まで行けない。

でも、と掌航海長は意を決して歩を運んだ。懐かしい家がもう目の前。

掌航海長は、門の前まで来てハッと息をのんだ。

門には――「花山」の表札がかかったままであった。

(どういうことだ?表札がついている)と不審に感じたその時、隣の家から一人の女性が出てきて「あら、泰代ちゃん!」と声をかけた。掌航海長は「ああ、勝本さん・・・」と言って女性の方へ寄って行った。勝本と呼ばれた女性は、掌航海長に

「お務めご苦労様です。御帰還になられたんじゃねえ、ごゆっくり出来るんですか?」

といい掌航海長ははいとうなずいて「お久しぶりです、勝本さんもお元気そうでえかった・・・で、あのう」と言って自宅を振り返った。勝本さんは

「ああ、大事なことがあとになってしもうた。泰代ちゃん、ご両親は御引越されたんじゃわ。もう二人だけじゃけえこげえに大きな家は要らん、もうちいとこまい家に住む言うてね。ほいでこの家は泰代ちゃんに残す言うて。うちがカギをあずかっとってじゃけえ、今持ってくるね、ちいとまっとってね」

というと小走りに自分の家の玄関に走り込みやがて、鍵を手にして戻ってきた。そして

「はい、お家の鍵。御引越の日に掃除しただけじゃけえ埃が積もっとるかもしれんよ・・・なんなら箒やらはたき、貸そうかいねえ」

と言ってくれた。花山掌航海長は歓喜に震えつつ「で、では貸してつかあさい」といい勝山さんに掃除道具を借りると家の中に入って行った。

家具の無くなったがらんとした家の中は冷たさをひとしお感じる。日本家屋の方から一部屋一部屋掃除して回る。部屋ごとに思い出が交錯し花山掌航海長はそのたびに立ちつくしては思い出に浸った。

洋館部分の二階、自分が使っていた部屋に入るとそこは昔のままであった。自分の机の前に行きその上をそっと撫でた。窓を開くと暖かい日差しと一緒に新年らしい空気が流れ込んできた。涙があふれて来た――うれし涙である。

「えかったあ、うちの大事な家。もうずっとうちのものじゃ・・・絶対に離さんで」

 

花山掌航海長はそのあと家じゅうを丁寧に清めた後掃除道具を勝山さんに返し礼とともに「いったん艦に戻りますがまた休暇をもろうて来ます。その時またお会いしましょう」と言って家を後にした。来るときとはちがって足取りがとても軽い。

すっかり気が大きくなった花山掌航海長は呉の町中で「おお~、正月言うたらやっぱりこれじゃろう。買うてゆこう」とそれは大きなある物を買って『大和』に帰って来たのだった。

 

『大和』では皆が羽根つきの練習に余念がない。

花山掌航海長は「ほう、やっとるねえ。みんなあ、うちがええもんを買うてきたけえあとで飾ってやろう、がんばれや!」と大声を出して皆を激励。

長妻兵曹は羽子板を持つ手を休めると

「掌航海長じゃ・・・えらいでかい包みをもっとるが一体何を買うてきたんじゃろうねえ?ほいでずいぶん張りきっとりんさるねえ。掌航海長、トレーラーにいる時えらいしぼんどったけえ心配じゃったがもう平気みとうじゃね」

と言って笑った。増添兵曹も

「ああほうじゃねえ。なにを買うて来んさったんじゃろう。気になるねえ」

と言って掌航海長の後ろ姿を眼で追った。

 

掌航海長は航海長と副長にあいさつしようと、第一艦橋を訪ねた。果たして二人はそこにいて何やら話をしていた。

「花山少尉ただ今帰還いたしました」

と大きな包みを下に置いて敬礼した。「おお、」と副長と航海長が返礼し副長が

「どうたったね、家は?その様子だと首尾よく言ったみたいだけど」

と言って微笑んだ。掌航海長は思いっきり頬を横に引っ張る様な感じで笑って「はいー!」ととても大きな声を出した。戦闘中以外で掌航海長にこんなに大きな声を聞いたことがなかった片山航海長は正直驚いた。掌航海長は

「天はうちに味方しました!親は転居しましたが家を私の為に残してくれとってです。ですけえもう、家が売れたのなんの言う心配はのうなりました!もう私は嬉しいて嬉しいて・・・じゃけえうちは今日の記念にええもんを買うて来ました!見てつかあさい」

と言って買ってきた包みを海図台の上にどさりと置いた。副長は花山掌航海長の顔を見つめてから包みに目を落とし

「何買ってきたの?花山さん」

と言った。再び掌航海長の顔を見ると掌航海長は二―ッと笑ったままで包みをそっと取り始めた。航海長も副長の横でそれをじっと見つめている。

包みの中から出てきたのはそれは大きな飾り羽子板と凧である。副長はほう、と息をついて

「これはまた素敵だねえ、飾り羽子板に凧。正月らしくってちょうどいいじゃない!花山さんいいもの見つけて来たねえ、さすがですよ」

とほめた。片山航海長も「いいねえ、羽根つき大会にこれ飾ったら気分が盛り上がるんじゃない?ついでに手すきが凧をあげたらもっと盛り上がるし!いいねいいねえ~」と喜んだ。掌航海長は自分の思いつきがほめられてさらに嬉しくなった。

そしてとうとうたいへんに気分が盛り上がり、広くはない艦橋の中を「やったやった、ウッホウッホ!」とわけのわからないことを叫びながら飛びまわる。一見異様な風景だがずっとその場にいる副長と航海長には至極当たり前な流れなので一緒になって手を叩いて喜んだ。

大騒ぎしているそこに、森上参謀長が「なーに騒いでんだか」と入りかけてその<異様な光景>を見てさすがに絶句してしまった。森上参謀長は

「怖い。二年ぶりの内地の正月が連中をおかしくしてしまったようだ。梨賀が不在の時に・・・俺は一体どうしたらいいんだ」

とつぶやいてそっとそこを後にしたのだった。

 

さて前甲板。

場所を譲ってもらった航海科の連中が羽根つきの練習を始めた。オトメチャンは口の端が切れた跡が赤くはれ上がり先に練習していた内務科の岩井少尉に「どうしたんじゃね、そこ。えらい腫れとってじゃ。殴られたんか?」と心配されたがオトメチャンは笑って

「いいえ、ここはうちが双眼鏡と衝突して切れたんです。殴られたなんてことありませんけえ、御心配ありがとうございます」

と言った。それを聞いていた麻生分隊士はほっとして(ああ、えかった。ほいでも岩井少尉は観察眼が鋭いけえわかっとってかもしれんね)と思った。

石場兵曹が「麻生分隊士―。はよう練習せんともう明日は大会ですよ」と声をかける。その石場に「おーう、今やるで!」と返事してオトメチャンを誘って運用科が作った「羽根つき用コート」のそばに行き「さあオトメチャン、いくで!」と言うと二人は羽根つきを始めた。

その様子をトメキチとマツコが主砲塔の上に座って見ている。マツコはその金色の瞳でじっとオトメチャンを見つめていたが、突然衝撃の言葉を発した。

「え!ほんとに?マツコサン・・・」

それを聞いたトメキチは驚いて、マツコの顔を見つめた。マツコは深くうなずいて、あほ毛を風になびかせた――。

    (次回に続きます)

 

               ・・・・・・・・・・・・・・・

 

花山掌航海長、家が売れてなくってよかった。両親は元の家を娘の為に残し自分たちは別の家に移ったのです。掌航海長の将来を考えてのことなのでしょう。それにしても花山さん、気が大きくなってすごい買い物してきましたね。

そして第一艦橋での歓喜の舞(?)、副長に航海長までノッテしまっていいのでしょうか?森上参謀長の恐怖の表情が浮かぶようです。

 

そして。マツコの衝撃の言葉とは?緊迫の次回をお楽しみに!


今呉市の「大和ミュージアム」にて開催中の特別企画展での『大和の艦橋』の動画を見つけました!見たいよう~~~!



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Secre

ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
ウダモさんもおばあさまのおうちに思いいれがおありですか^^、今風の家だと当時のあの雰囲気って出しにくいですよね。独特の「昔の家」の雰囲気!
でもなんて時の流れって無慈悲なのかなあと思う時ありますよね。
時の流れは大好きだったものさえはるかかなたへ押し流し、その形さえ無くしてしまう。
私も最近よく「思い出の場所」を訪ねたいと思うことがしきりにあります。祖母の家があったところ、幼稚園時代住んでた団地、小学校入学から四年生になるまで住んでた団地。いじめや母の病気などあまりい思い出のなかった小学校卒業まで住んでたマンション・・・
やはり、歳を取ったのかな^^。でもいつかそれらの場所を訪ねてきたいと思います!

KAZUさんへ

KAZUさんこんばんは!
これ実際ミュージアムの展示でやってるみたいですね。
これはこの目で見たいのですが・・・(-_-;)

こんばんは!

好きだった家って思い入れがありますよね。
私の祖母の家がそうでした。
今ではマンションが建ち、あの時の面影はひとつもありません。
時々、ふと、あの場所に行ってみたいと思う時があります。
歳をとったのでしょうか…最近やたらと祖母の家の応接間でのひとときを夢見ます。
暖炉やステンドグラス、ラマの絵、ポーの一族の本…なぜか鮮明に覚えていて、あの時の応接間のように模様替えしたいと思ったりします。
でも悲しいかな…現代風の家だと昔のようなテイストが出ないんですよねw
…って、話それましたスミマセンwww

ビデオみたいですね~^^

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます^^。
家というものは思い入れがあるとどこまでも・・・という感じですね。
それが自分の生まれた家、育った家だとしたらなおさらですよね。おばあちゃんの家でも「残しておいてほしい」というご子息の気持ちわかります。私も祖母の家に長いこといたことがありました、愛着ですよね。
花山少尉の喜びかた。まるで子供ですがそれだけ嬉しいのです、感情表現が割とストレートな女です。
そう、これが「可愛い」ということですね!!

matsuyamaさんへ

matyuyamaさんおはようございます^^
無駄に長い話になております(-_-;)…もう少しお付き合いくださいませ。
私が子供のころまでは正月というと羽根つき凧上げ、そうそれにこま回しがいわゆる「アウトドア」系の遊びでしたね。家の中ではすごろくや福笑い、かるた。
殆ど最近ではどれも見なくなりました、凧上げは場所がないですものね・・・伝統の遊びがすたれるのは本当にさみしいです。
自衛艦を見学なさったことがあるのですね、いいなあ^^。
ホントあの艦橋って狭いんですね。ですから「宇宙戦艦ヤマト」の艦橋がだだっ広いのを見るとへんな笑いがこみあげますw。
窓が小さいですから周囲の船との位置の把握は大変なことでしょうね。

良かったですね。自分の生家が変わらずに在ってくれるということの安心感は例えようもないはずですもんね。
我が家の次男は今のこの家はお父さんが好きにしてもいいけど、おばあちゃんちはそのままにしててくれと言います。何があっても手放さないでと。きっとジジババとの8年間の思い出が染みついているのでしょうね。
羽子板と凧のお土産。それを子供のように嬉々としている花山さん。喜びを体で表現するなんて純真で無垢で可愛い人ですね。

まだ続きがあるようですが、「内地の正月決戦」、ここまで一気に書き上げたようですね。正月のエネルギーが結集したのでしょうか。
羽根つき、凧揚げ、これに独楽回しが入ったら正月三大風物詩、ですね。
羽根つきは別にして、凧揚げと独楽回しは息子と一緒になって楽しんだことがありました。今はもうどこにも見かけなくなりました。環境の変化もあるでしょうが、日本の遊びが廃れて行くのは残念です。
昨年わが地元港に寄港した海上自衛隊護衛艦の艦内見学で、艦橋を見学させていただきました。画像と同じように、かなり前方しか見えないんですよね。先日釣り船と衝突したというニュースがありましたが、真下にいる小さな船は視野に入らないでしょうね。大型船を運行する船長などのご苦労が分かるような気もします。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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