2017-10

「女だらけの戦艦大和」・二航戦の人々<蒼龍>5 - 2013.10.16 Wed

「女だらけの蒼龍」の柳本柳子艦長は、最初の上陸員を見送ってから自分も上陸の用意をし始めた――

 

気に入りの、昔上海で買ったトランクに少しだけだが身の回りのものを詰め込んだ。自宅に帰るが今回は三日程で帰艦するつもりである。まだ「蒼龍」にはするべきことが残っているから本格的な休暇はもう少し後。

今回はとりあえず親に顔見せに帰るのだ。

柳本艦長は、トランクの中に分厚い一冊の本を入れた。今回はこの本を丸暗記しようと思っている。
柳本艦長は昔から無茶なチャレンジをするタイプで以前には山口たもや梨賀幸子、古村啓子と言った連中と大食いに挑戦して古村啓子を大変な胃痛に追い込んだりしたことがあった。

そして何より周囲を驚愕に追い込んだのが分厚い本一冊を丸暗記しようという試みで、これは軍令部勤務の時だったが同僚の「そんなの無理でしょう、第一いつ寝るんですね?寝る時間がなくなっちゃうでしょう?」という言葉に平然と「だったら寝なきゃいいじゃん?」と言い切り、軍令部内では「柳本は寝ない女」という噂がまことしやかに広まっていったのだった。

 

そして。

もう一つが、彼女の一番の楽しみでもある<あれ>。

柳本艦長の上陸の時間になった。予定より早いが秋の日はつるべ落としに暮れ、周囲には早くも暮色が広がり始めている。

小原副長以下幹部が飛行甲板上に居並んで内火艇に乗る艦長をお見送り。柳本艦長は皆を見て、

「ではお先に三日ほど留守をしますがその間よろしく願います。副長には迷惑かけますがよろしく」

というと皆は一斉に敬礼。艦長も返礼し内火艇へと乗り込んで行く。それを見送った後小原副長は航海長に「艦長はまた<あれ>をなさるおつもりだ・・・わたしは正直してほしくないんだが」とこぼした。航海長も

「はあ、確かに危ないことだと思いますね。誰か一緒に行かせたらいいのではないかと思いますが」

と困惑した表情。その航海長に副長は「私も以前そう思って進言したんだが・・・『全く平気、何も怖いことないから平気、誰も来ないで』て言われちゃったよ」と言ってため息をついた。航海長は

「ともかくも、我々にできるのは――艦長のご無事を祈ることだけですね」

と言って天を仰いだ。

 

柳本艦長は上陸場に着くと振り返って『蒼龍』の方を見た。そして軍帽を取ると『蒼龍』に向かって大きく振った。たった三日の<上陸>ではあるが艦に残してきた将兵たちへ(まだ上陸もしていない皆には申し訳ないが、休暇まであと少し頑張ってくれ)という思いを伝えたいからだ。

それを終えると、暗くなりだした周囲を見つめて柳本艦長は「やった。この時が来た・・・ウ、ウフフフ」と気味の悪い笑いを始めていた――

 

艦長は方向を見定めるとトランクを持ち直すと「いざ、自宅へ」というと歩きだした。

 

そう。彼女は自宅までの約五〇キロの道のりを<徒歩で>帰宅しようというのだった。それこそが<あれ>、柳本艦長の一番の無謀な<あれ>である。柳本艦長は横須賀に上陸のたびに「歩いて帰る!」と宣言して横須賀から自宅のある東京まで歩くのだった。

『蒼龍』艦長拝命してからは小原副長が「艦長、危険ですよ。女の夜間の一人歩きはいけません」といさめたがどこ吹く風の艦長。

「大丈夫だって。夜目にはわたしが女だなんてわかりゃしないよ。てかこんな私を襲って何の得があります?わたし柔道八段の剣道七段の合気道九段だから・・・襲ってきた方が気の毒な結果になりそうで」

そうしれっとしている。副長はもう返す言葉もなく笑うだけ。

 

そんな柳本艦長、今回も足取り軽く歩きだした。途中、横須賀の繁華街によって腹ごしらえして英気を養う。かといって腹いっぱいは食わない。

(何事も八分目が肝心さ。腹いっぱいじゃあ途中で苦しくなっちゃうでしょう?何事も八分目が賢い女のやり方よ)

それが彼女の信条らしい。艦長は食休みを取った後、店を出て歩き出す。道はもう、慣れているから地図など見なくても歩ける。どんどん歩く柳本艦長。

 

深夜一時を回ったころ、一人歩く柳本艦長の背後に人影が近付いた。

「待て!」

とその影は艦長に声を投げつけた。細い懐中電灯の明かりが艦長の後ろ姿を照らす。忙しく歩いていた艦長は腹立たしげに顔だけ振りむけ、しかし足は止めずに

「待てん!待てと言われていちいち待つ奴が居るか、馬鹿もの!」

と一喝した。影の人は「なに!きさまあ、いったい何者だ、名を名乗らんか。何処から来てどこへ行く?言わぬとただじゃ済まぬぞ」と恫喝した。

かっとした柳本艦長は立ち止ると踵を声の主の方へ返した。トランクをズドンと大きな音をたてて地面にたたきつけるように置いた、そして両腕を組んで相手の前に立ちふさがると

「海軍大佐・柳本柳子!横須賀から東京の自宅へ帰宅の途中だ!これで気が済んだか!」

と大音声を発した。はっ、と息をのんだ相手は艦長の上半身に懐中電灯を向けた。

すると――おお、海軍の『櫻に錨』の徽章の付いた軍帽に大佐の襟章の付いた一種軍装、それを着込んで怒りに顔を紅潮させている女・・・

「も、申し訳ございませんでした!」

懐中電灯をその場に放り捨てて謝るのは警官であった。男性警官は平謝りに謝る、そして「こんな時間にお一人でお歩きになっては危ないです・・・暑の車でお送りしましょう」と言ってくれたが艦長は

「いや、気持ちはありがたいがそれではわたしの信条に反してしまうのでね。このまま歩いて行くよ、じゃあね」

と言ってさらに歩いて行く。その後ろ姿を茫然と見つめる警察官――。

 

そして艦長は東の空が白々明けるころ自宅に到着した。玄関の戸は、当然ながら閉まっている。その戸をどんどんと叩いて

「ただ今、ただ今っ!柳子が帰りましたよっ!」

と言った。ややあって奥からせわしい足音がして玄関に人影が黒く現れると電燈が中に灯り、戸が開けられた。母が「まあ、柳子さん」とあきれたように言って「さあ、早くお入りなさい。さむかったんじゃないの?」と艦長を中に招じ入れた。

柳本艦長は「平気平気、歩き通しでしたから汗だくです・・・風呂を使いたいんですが、湯は残っておりますか」と言って靴を脱ぎ、座敷へと上がる。

母はそんな艦長のあとについてきながら

「残っていますが・・・柳子さんあなたまたこんなことをして。夜中じゅう歩くなんてよくありませんよ?危ないじゃないですか。何かあったら困るのは艦の皆さまでしょう?少し自重なさい!」

と叱りつけた。

しかし艦長は

「はあ。でも私はこれをしないと帰ってきた気がしないのです。でも・・・お母様がそうおっしゃるならちょっと考えましょう。とにかく湯を使わせてくださいね。あ、お母様起こしてしまってごめんなさい、ゆっくり寝て下さい、私も湯から出たら寝かせてもらいますから」

と一気に話すと湯殿へ向かって小走りに走っていったのだった――

   (次回に続きます)

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

柳本柳子艦長の<あれ>でした。

これは実話をもとに創作しました。実際の柳本柳作艦長は、分厚い本を暗記しようとしたり自宅から横須賀までの六〇キロほどを歩いて行ったりしたとか!ご尊顔はいかめしい軍人という感じですが、なかなかお茶目?な方とお見受けしました!

柳本艦長柳本さん


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます。
そう、これが<あれ>でした^^。
実際60キロの距離を歩いて・・・なんて考えつかないですが普段から鍛えている軍人さんならではでしょうか。柳本さんご自身が人とは変わったことをなさりたいタイプだったのかもしれませんがそれにしてもカッコいいです。
台風自体はここでは大した被害はなかったのが救いですが大島の惨状を見ると・・言葉もないです。次の台風が接近中ですがもう結構、要りませんという感じですね。
どうしてこうも点は意地悪をなさるのか?何かの啓示なのでしょうか、それにしても・・・。
壁紙、ちょっと古風?な感じがして使ってみました!
しばらくこれで行こうかとw。
寒いほどになりましたね、お体大切にお過ごしくださいね^^。

No title

あれが実話に基づいた根性のあれでしたか。
横須賀から60キロも歩いて帰宅する剛毅な行動は武人ならではかもしれませんね。見張り員さんの脚色も素晴らしかった。
台風の影響はありませんでしたか。また今度は27号が北上しそうなとかで弱り目に祟り目ですね。せめて伊豆大島にこれ以上の災害が起きないよう。そして救援の作業の足手まといにならないような進路であってほしいと祈っています。
壁紙が随分と様変わりしましたね。女心と秋の空に負けないようなイメチェン。素敵ですよ。風邪など引かないようにお過ごし下さいね。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
今夜は十三夜ですね。でも悲しいかなこの辺は曇っていて・・・月が見えない!!ヒ~~~ン(泣)!
柳本さんみたいな人って豪傑っぽくっていいなあ~と思いますね。
決めたらそれに向かって一直線!っていう人が好きです^^。
今は天界にて下界を見下ろしているであろう旧軍人さんたち・・・何を思っているのかしら?と時折思います。きっと私を見つけて「ああいうあほな話を平気で悦に入って書いている奴がいるから困るねえ」と嘆息されていることでしょう・・・ウウウ!

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
柳本艦長という方はこういったことをなさる方だったらしいですよ^^。
柳本さんは徒歩で、ということでしたがまあ兵学校で鍛錬されていた方だからそれなりの時間で踏破されたのだろうと思います。がしかし、すごい人です。
分厚い本のまる暗記もなさっていたとか、ものすごい精神力ですよね。私も最近夜寝床の中で本を・・と思ってもいい睡眠薬代わりになるのが関の山、とても暗記なんて・・・(^_^;)
やはりあの当時の人たちはどこか違いますね!
ご心配いただきましてありがとうございます。
台風、久々にすごいと思いました。
でも伊豆大島の惨状を見ると我が家周辺なんぞ軽い軽い。大島で救出中に亡くなったおばあさんがとても気の毒で…泣けてきました。
どうも最近台風が大型化していて怖いなあと思います、何事もないのが一番!なんですが・・・(^_^;)
ご心配いただきましてありがとうございます。

れい姉さんへ

れい姉さんこんばんは!
私はよくテンプレを変えるのですがこれはちょっと気に入っております!
そうですよね50キロを徒歩で・・・となると相当の体力を要求されますよね。普通の女の足ならそれこそ二日はかかるかも!
でもまあそこは「女だらけの海軍軍人」なので不断の鍛錬のたまものということで・・・\(^o^)/

Re:

こんばんは。やると決めたらどこまでもやる!見事な心意気、実行力でありますね!しかし、周りの人間は大変…今は天界で何を暗記しようとしているのか知りたいです。今度は空の上のお話も読んでみたい!
夕方から風も空気も冷たくなりました。無理せずお身体大切にして下さい。今夜はお月見、出来ましたか?

No title

これは実話なんですか。たいしたもんです。
42㎞のマラソンだって2時間。60㎞なら単純計算して3時間ですよね。これはスポーツ界での話。訓練してない人が走ったらこの何倍かはかかるでしょうね。
しかも分厚い本を暗記。記憶力の衰えた自分にはとてもできない芸当です。だいたい文庫本でさえ1~2ページ読んだら眠ってしまう質ですから、前ページ暗記なんて尊敬しちゃいます。
軍人さんともなると、ことに艦長ともなると人より秀でたものがないと務まらないんでしょうかね。私ら凡人にはとても考えられないことです。
いかがでした、台風。こちらではやんちゃ坊主をなだめ透かしてお引き取りいただきましたが、関東も大分荒れたようですね。被害がなかったことをお祈りします。

こんにちは(=゜ω゜)ノ

このブログデザインの文字、いいですねぇw。女だらけの戦艦大和の時代背景にもマッチしてる気がしますw。
そして、50kmを徒歩で踏破は、普通でしたら一日二日かかるレベルでは…?;;;もしや、競歩ばりに高速で歩いておられたのでしょうか;;;。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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