「女だらけの戦艦大和」・招かれざる大佐3

艦長留守の航空戦艦「虎乃威」艦内では、今までなかったほどの解放感が満ち満ちている――

 

艦橋では「虎乃威」副長の香車中佐が大あくびをしながら

「ふあーっ、いやあいいねえ艦長不在って。そう思うでしょ、航海長も?」

と傍らの角行中佐に語りかける。すると角行航海長も満面の笑みで

「ホントですよ、正直ここだけの話ですが私どうもあの高飛車艦長は好きじゃないですね、いや嫌いですよ。どうもあの態度がね、嫌いですよ。人を思いっきり馬鹿にしくさってあの野郎!――ってこんなこと言っちゃいけませんがね。あの人自分より階級が下の人間にとても冷酷というか人とも思わない扱いでしょう?聞いた話じゃこの「虎乃威』艦長の話も自分で上に取り入ってつかんだっていうじゃないですか?ともあれあの態度じゃ、士官や下士官兵たちにも悪影響が出ないかと心配です。いざという時心が一つにならなきゃ、海軍は命取りですからねえ」

と言って最後の方はため息をつく。香車副長は

「その通りよ航海長。しかし、『大和』の皆さんには本当に気の毒だなあ、耐えて下さるだろうか」

と心配そうな顔つきで艦橋の窓の外を見つめる・・・。

 

夜が明け、『大和』の総員が「さあ今日はあのいやな大佐がてめえの艦に戻るだろう」と思っていた。

が、現実は厳しくいっこうに高飛車大佐は帰ろうとしない。「そうだねえ、一週間はここにいようかなあ」などとほざき、梨賀艦長でさえいらいらとしているのに高飛車大佐は悠々と構えて艦長室でコーヒーなんか喫している。しかも先ほどこのコーヒーを持ってきてくれた艦長従兵の見張兵曹に「なんだこの餓鬼は!おい梨賀、貴様ん所はこんな餓鬼使ってて平気なのか?帝国海軍はそれほど人材不足か?」と言い放ち、「餓鬼」という言葉に大変傷ついた見張兵曹はべそをかきながら麻生分隊士に直訴する羽目に。

それを聞いた麻生分隊士は腕を組んではあーっと大きなため息をついた。麻生少尉としても言いたいことはあるが相手が悪い。二人が困って黙りこんでいるそこに松岡分隊長が

「麻生さーん、どうしましたあ?元気ないなあ」

とやってきた。麻生分隊士がこれこれこうだ、と見張兵曹の話を聞かせると松岡分隊士は大事なラケットをガランと床に投げ出してしまった。これには麻生少尉も見張兵曹も大変驚いた。すると松岡分隊長は

「なんですって、あの高飛車野郎がそんなことを!?私の大事な部下に言うに事欠いて『餓鬼』ですと!いいですか彼女は立派な兵曹、下士官ですよ?それを餓鬼だのちびだのちっちゃいの・・・。許せませんね!」

と怒り始めた。麻生少尉はちょっと咳払いをすると

「分隊長、ちびとかこまいとは言うちゃおりませんがのう」

と口をはさんだが松岡中尉の怒りは激しく、そんなことは聞いていない。ラケットをひらいあげると、

「ふーむ・・あの人には天罰が来ますよ、きっとね。この松岡修子の部下を愚弄して無事でいたものなぞ今まで居りませんからね。・・見張兵曹、あなた耐えるんですよ。決して手や足や口を出しちゃあいけませんよ、出したもの負けですからね。いいですね」

と念を押して、見張兵曹の肩を優しくたたくと去って行った。

麻生分隊士はその後ろ姿を見て

「あん人が、オトメチャンを<特年兵>言わんかったんを始めて聞いたわ。どがいな心境の変化じゃろう?」

と首をひねった。見張兵曹も「ほんまに初めてですね。うちも驚きました」と呆然としている。ある意味二人には高飛車大佐の暴言よりも衝撃である。

松岡修子中尉は、それだけ怒っていたという証左であるが、彼女は普段はそれをあまり表に出さない。(怒ってるのをあまり前に出すのって、スマートじゃあないでしょう?熱い女は感情もスマートに出さなきゃあねえ)と思っている。
しかし今回は例外中の例外。

 

高飛車大佐は、艦長室を出ようとして梨賀艦長に押しとどめられた。高飛車は不快な表情をあらわにして、

「なぜだ梨賀!私はお客様だぞ、なぜここに籠もれというんだ?私に『大和』をしっかり見せろ」

と怒鳴ると梨賀艦長を振り切って走り出してしまった。「待てー!高飛車―」梨賀艦長は叫びつつあとを追う。

高飛車大佐はまず、第一艦橋を目指しラッタルをすさまじい勢いで駆け上がった。途中、作戦室から中に入り第一艦橋に入った。そこには片山航海長と花山掌航海長がいて何やらひそやかに、小声で話をしていた。が、いきなり入り込んできた高飛車大佐に姿にぎょっとしてあわてて敬礼した。高飛車大佐はわざと片山航海長の肩にぶつかってから艦長席に寄って行った。航海長は大きくよろけたが花山掌航海長が抱きとめて、(すまん)と小声で言った。高飛車大佐は艦橋の窓からの景色を眺めつつ、

「暇人の たむろしてをり 井戸の(はた)

と唐突に言った。航海長も掌航海長も一瞬ぽかんとしたが、すぐにそれが川柳かなんかを気取って自分たちを非難しているのだと気がついた。自分たちの話をする姿を見て井戸端会議中と重ねたらしい。

(馬鹿にしている)と掌航海長は思った。すると航海長が、

「高飛車大佐、なかなかお上手ですな」

と言った。その顔には何とも言えない微笑が浮かんでいる。味方によっては挑むような笑みでもある。高飛車大佐はその航海長の前に立つと、

「ほう。貴様皮肉を言われとるのもわからんのか。おめでたい奴だな」

と言って嘲笑う。航海長は笑みもそのままで

「はい。嫌われてるのもわからずいつまでも居座る人と大差ないですね」

とかました。高飛車大佐の顔色が変わると、「貴様、何様のつもりだ!」と短く怒鳴ると航海長のほほに鉄拳を食らわせていた。体格のいい高飛車の鉄拳にさすがの航海長も足が舞うほどの衝撃をくらい、次の瞬間海図台の真下にその身を叩きつけていた。

「航海長、しっかり!」

とあわてて航海長を抱き起こした掌航海長に「馬鹿が」と吐き捨てるように言って、高飛車大佐はそこを出た。その後ろ姿を、火の出るようなまなざしで見つめる航海長・・・

 

そのあとも高飛車大佐は艦内の下から上まで歩きまわっては兵隊嬢を最悪な表現で罵って泣かせ、下士官嬢を憤らせ、特務士官嬢を絶望に追い込んでは悦に入っていた。泣きながら歩いていた上等水兵嬢を見た医務科の日野原軍医長、彼女を手招いて「どうしたんだね?」と聞いてみた。上水嬢はしゃくりあげながら「あの大佐に」と、先ほど言われたことを話して聞かせた。日野原軍医長は「ほう、他艦の艦長にそこまで言われる覚えはないわなあ。気にするな。そして皆に伝えておきなさい、くれぐれも激高するなとね」と言って上水を見送った。

日野原軍医長は(帝国海軍にそんな人間がいたとはねえ。どういう精神構造をしているのか知りたいものだねえ。戦争が一段落したら彼女を徹底的に調べたいものだ。調べさせてくれるかなあ~)と呑気なようで実は怖いことを考えている。

その高飛車大佐は医務科にも顔を出したが、ちょうど日野原軍医長が在室であった。軍医長は(向こうから来たぜ!飛んで火に入るなんとかだ)と大変喜んで診察室に招じ入れようとしたが高飛車大佐は、軍医長から発せられる妙な雰囲気を感じて(ここと、この軍医長は避けよう)と思ってなんだかんだと言って出て行ってしまった。

日野原軍医長は、聴診器を首から外して「ああ、残念だなあ~。なんで行っちまったんだろう?私にも罵詈雑言言ってくれたら今後の参考になるのによ?」と残念そうである。

 

その間に、最上甲板では工作科の兵曹や士官までが「あいつに一杯食わしてやろうぜ」と頭を絞り、「ああいう奴は高いところに登ってえばりたかろう」と高さ2メートル50もの朝礼台を作り、しかもその足に切れ込みを入れておいた。

「こうしとけば台に上がった瞬間にガタン、ドスンで泣きっ面じゃ。ワハハ」

若干・・・危険ではあるがそのくらい皆、腹を立てている証拠でもある。

 

そして『大和』の皆を恐怖と怒りのどん底に陥れる事件がついに、起こった。

その日の午睡のあと、甲板士官の藤村少尉と歩いていた副長はオトメチャンと行きあった。高飛車大佐の件で疲れたような表情の副長を、オトメチャンは気遣った。

「副長、昨日倒れられたと伺いましたが・・・もうよろしいのでありますか?」

そう問うオトメチャンに副長は

「ありがとう、もう平気ですよ。皆に心配をかけてしまったね・・・私も、松岡中尉ではないが熱くなりすぎてしまって。面目ない」

といい、三人は笑った。海から渡ってくる風が、オトメチャンの肩の下まで伸びた髪と副長の背中の中ほどまで伸びた髪をさらりと揺らして過ぎる。二人の、一つに結んだ髪が風に吹かれて、防暑服の背中を軽くたたくのを見た藤村少尉は(私もちょっとだけ伸ばそうかなあ)と思う。

とその時。

「貴様らあー」

というものすごい大声が三人を包んだ。ハッとした三人が、見たものは――!

   (次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・

 

一晩経ったらさっさと帰ってほしいですね、こういう人!チョー迷惑さんです。しかし「虎乃威」の乗組員にまで嫌われるとはすごいお人ですね。そうはなりたくないと思います・・・嫌われる人生なんていやだ、やっぱり。

さて大声の主は・・・!?

 

「今日の一枚」

塩羊羹です。「てつのくじら」館(広島県呉市)限定の塩羊羹です、おいしいよ~~!
DSCN0861.jpg


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Secre

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
とりあえず父の手術が終わりホッとしたところです^^。まだまだ心配は尽きることありませんがゆっくりと解決するしかありませんものね。
ご心配を本当にありがとうございます^^!
高飛車みたいなやつって必ずどこかで一回は会うような気がします。
気が小さいのがそうでないのかわからないですが、いずれにしても大迷惑な人間ですね(-_-;)
さあ、「女だらけの大和」の将兵嬢たち、どう出ますかご期待を。
いろいろありがとう、オスカーさんも御身大切になさってね^^。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
全くこんな上司、社長のたぐいがいたらそれこそ地獄ですよね…(-_-;)。「虎乃威」乗組員は留守中にこうして溜飲を下げている・・・ちょっと哀れですね(・。・;
日野原さん、軍医という立場と「年齢」(「90じゃないわよ!」BY日野原軍医長)から味わい深い洞察を引き出しております!
さあ「大和」の皆の逆襲はどうなりますか・・・!
一日の夜から実家に来て2日の手術を見守り今日3日。
父は元気でした。ただ母の検査結果が良くなく絶句。
しかしこればかりはいかんともしがたい現実ですので少しでも母によいようにして行ければと思っています。
父の件へのご心配を本当にありがとうございます!!
私も頑張りたいと思います!

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
昨日父は手術を無事終えました、ありがとうございます。
今日も見舞いに行ってきましたが元気そうでした。これからリハビリに励まねばなりませんので父としては手術という一つのヤマを越えた今、もう一つのヤマを越えねばなりませんが頑張ってほしいものと思っています。
留守中家と店の事が本当に心配ですが娘たちのバイタリテイーを信じています。何とか切り抜けてくれるものと思っています。
ブログも…暇を見つけて書こうかどうしようか考えていますが何か書かないと不安に押しつぶされそうになるので少しずつ書いてゆこうと思います。
ご心配をありがとうございます、うれしく思っております^^。
matsuyama さんも御身大切になさってくださいね^^。

こんにちは。お父上の手術も終わり、今日は少しおちつかれたでしょうか?まだまだ大変・心配なことは多いと思いますが、何かあったら遠慮なく言って下さいね。
高飛車ヤロ~は現代にいたらカンペキにクレマーでモンペになること間違いなしですね。自分が傷ついたりバカにされるのはイヤなくせに他人には酷い言動…松岡サマにビシッ!!と成敗していただきたいですわ。
見張り員さまもお母さまも…お身体に気をつけて下さいね。お返事・更新は気になさらず…!

No title

知らぬは本人ばかりなり。
留守の間の虎乃威の皆さんの言いたい放題がよく分かります。
日野原さんはさすがに人生の酸いも甘いも、人の頭の構造までもよく噛み分けていますね。
しかし短気、無礼にもほどがありますね。よその艦に来てまでも高飛車で。みんなの逆襲が楽しみですが、その前にまだまだ暗雲が……。
ご実家にいらっしゃるのでしょうか。いよいよですね。
お父上の手術の無事と成功をお祈りし、見張り員さんの安堵の報告を心から待っています。
ブログの更新も無理なさいませんように。

No title

昨日のお知らせに一言コメントさせてください。
今はただただお父様の手術が成功することを祈るばかりです。
大手術になるとはいえ、奥様と娘さんが付き添ってくれるお父様は心強いと思います。とかく患者の気持ちは不安と疑問が交錯しがちですから、肉親の思いやりは投薬以上に効果があると思います。
ぜひ退院できるまで付き添ってあげてください。
留守中はお嬢さんたちが上手く賄ってくれると思います。ブログも安心できるまでお休みされたらどうでしょうか。お母様の件もあるようで大変ですけど、持ち前のパワーで乗り切ってください。ここは踏ん張りどころです。
今回の記事に関係ないコメントをしてしまい、申し訳ありません。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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