「女だらけの戦艦大和」・松岡中尉夜話3

――松岡中尉はなんにでもどこにでも興味を持つ。

 

松岡話 その四

小泉兵曹と長妻兵曹、それに石場兵曹がある晩主砲前でひそひそと話しあっている。話の内容は実に品のないもので男性の品定めである。

「あの見世の○○いう男はアレがいい」だの「いやあっちの見世の××いう男の方がええぞ。うちの××をええがいにしてくれるけえねえ」だのとオトメチャンなどが聞いたら赤面して逃げ出しそうな話ばかりである。

その時ふっと石場兵曹が「なあ、」と言った。「なんね、石場さん」と言った長妻兵曹に石場兵曹は、

「ずうと前から気になっとったんじゃが、うちの松岡中尉のことじゃ。あん人はあまり上陸をしたんを見たことがないが、たまに上陸した時そういう場所に行って遊んだりするんじゃろうか?」

と言った。これは前々から皆が気になっていたことで、以前上陸した時はマツコやトメキチが一緒で大騒動になったと聞いた。その時は麻生分隊士や医務科の畑大尉が一緒だったので色気のある話はなかったようだが。

「一度でええからあん人とそういう店に行ってみたいものじゃね。分隊長がそういう遊びをするかどうか見たいと思わんか?」

石場兵曹が言うと小泉も長妻兵曹も「見たいわー。ほいでどがいにするんか見たいわ」と乗ってきた。石場兵曹は「ほいじゃあ明日にでもうちが分隊長を誘ってみようか」と言った。が小泉兵曹が「なあ、ほいでもあの人は曲がりなりにも『士官』じゃろ?士官はうちらの行くような見世には行かんのと違うか?」と言った。

石場兵曹は「うーん、ほうか・・・。うちはあの人が士官じゃ言うこと忘れとったわ」と言ったが「ほいでもいうてみるわ。もしかしたら、言うことがあるかもしれんけえね」と笑った。

 

翌日午前中の配置訓練のあと石場兵曹は小泉兵曹を手招くと、わざと松岡中尉の前で「なあ、小泉。今度の上陸の時もあそこに行くんか?ええ思いしたんじゃろう~、うちにも教えてほしいわあ」と大きな声で言った。

案の定、松岡中尉は食いついてきた。つかつかと石場と小泉のそばに寄っていくと、

「石場さーん、あなたいったいどこに連れて行って貰うつもりなんですかねえ?そこは熱くなれる場所なんですかね」

と聞いた。石場兵曹は「はっ。ええ所、としか今は言えませんが熱くなれる場所であります。それは間違いありません」としかつめらしい顔で言った。松岡中尉は今度は小泉兵曹の顔を見て「そうなの?」とお言う、それに小泉はこれまたまじめくさった顔で「はい。間違いありません、ぶち熱うなれるところであります」と答えた。すると松岡中尉は興味しんしんで、

「ねえそれじゃあ、今度君たちの上陸の時私もそこに連れて行ってくれるかねえ?是非に願いたいんだが」

と言ってラケットを天にかざす。小泉兵曹がちょっと首をかしげて「ですが分隊長。そこは我々のような下士官や兵隊士か行かん所でありますがええでしょうか」と聞いた。分隊長はさらにラケットを天に突き上げると「何を言ってるんだね小泉さん!士官だの下士官だの兵隊だのと私がいちいちそんなことに構うと思ってかい?いいんだよどこでも私は全然構わないからね。連れて行ってくれたまえ」と言った。

そこで石場兵曹は「ほいじゃあ・・・海軍記念日の翌日がうちらの上陸日ですけえその日に」と約束した。

五月二十七日は『海軍記念日』でその日は「めでたくも誇りある海軍記念日に不祥事を起こしてはならん」からとの艦長からのお達しで『大和』の皆は一日艦内で過ごした。もちろん乗組員が退屈しないように梨賀艦長・野村副長・森上参謀長らの「艦艇―ズ」によるコンサートが前甲板にて行われ、当直要員以外は前甲板でそれを観てその日は無事に済んだ・・・

 

さて翌日、上陸員は甲板上に整列して衛生科員から<待ち受け一番>をもらい上陸札を箱の中に投げ込んでランチに乗り込む。

長妻兵曹、小泉兵曹、石場兵曹も乗り込んだ。「松岡分隊長は何処へ行ったんじゃ」という小泉に石場兵曹は「あん人は先のランチじゃ。衛兵所を越した先でまっとるて言うとったで」と答えた。

「ほうね」と小泉兵曹は答え、長妻兵曹は「ああ、楽しみじゃのう。あん人がどんとな態度に出るんか。よう見といて皆に知らさんとな」とさも愉快そうに肩をゆすって笑った。

そんな三人とほかの連中を乗せたランチは軽快に海を渡ってゆく。

 

「おーい、石場さん!小泉くんに長妻くーん。『大和の突撃隊員』くんたち、ここだよー!」

衛兵所を敬礼で通り過ぎた三人に何処からかそんな恥ずかしい声が投げつけられた。石場・小泉・長妻の三人が「うわっ、何処で叫んどってかね?」と顔を真っ赤にしてあたりを見回す。他の兵や下士官たちがくすくす笑いながら通り過ぎる。

「ここですよ、ここ!みんなもっと熱くなって私を探さなきゃ、だめじゃないですか」

そんな声とともに松岡分隊長は衛兵所の門柱の後ろから顔をのぞかせた。衛兵のふりをしようとしたのか、当直の衛兵の銃剣を奪って立っている。そばで本物の衛兵嬢が中尉のラケットを持たされ困惑した顔つきで立っている。

石場兵曹は「松岡中尉、衛兵さんがこまっとるじゃないですか。あまり変なことせんでくださいよ。『大和』の恥になりますけえね」といさめた。松岡中尉はそれには全く構わず衛兵嬢に銃を返し自分のラケットを受け取ると、

「ありがとう、面白かったよ。通り過ぎるみんなが私をわからないって愉快じゃないか。君ももっと熱くなって頑張れよ。いいですか、今日から君は富士山だーっ!」

と怒鳴るように言って「じゃあ、行こうか」と歩き出した。石場兵曹たちは「待ってつかあさい、分隊長」とあわててあとを追う。しばらくずんずんと歩いた松岡中尉であったが突然立ち止まった。

「??」

とその背中を見守る三人に松岡中尉はいきなりふりかえると

「ねえ君たち。それでその熱くなれる場所っていったいどこにあるのかな?」

と聞いてきたので三人は思い切り面食らって、それでも気を取り直し「こちらです・・・分隊長、一人であちこち行ったらいけませんよ。迷子になりますけえね」と言って中尉を囲んで歩き始めた。

中尉はそれでも浮き浮きして鼻歌なんぞ歌いつつラケット振り振り歩いて行く。途中何度かそのラケットが横を歩く石場兵曹の頭を直撃し、「おお、ごめんね~!石場くんの顔は大きいから当たっちゃうんだよね~」などと大変失礼なことを言ってそれでも笑っている。

石場兵曹も笑っているようだが、暗黒の一重まぶたが重く降りてきてものすごい怖ろしい形相になっているのを小泉兵曹と長妻兵曹は見た。「石場さん、怒っとるで。見てみいあの顔、うちは怖いわ」と小泉兵曹はこっそり長妻兵曹にささやいた。長妻兵曹もこっそりうなずく。

そうこうしているうちに一行は繁華街に出た。

松岡中尉は皆を振り返り、「さあ皆さん。その熱くなれる場所はいったいどこですかね」と聞いたが長妻兵曹は「この近くではありますが・・・中尉、熱くなるんは夜でありますけえ、昼間は別のところで遊びませんか」と提案。

松岡中尉は「おお!熱くなるのは夜かね!それでは昼の間はおとなしくして英気を養わないといけないね・・・というわけでどこに行こうか」と腕を組み、「じゃあ、私の行きつけのところでいいかね」と言い皆が賛成。歩きだした。

松岡中尉の行きつけとは現地の人の経営の「トレーラー筋肉トレーニング事務」という看板を掲げた、椰子の葉を屋根にふいた小屋である。小泉兵曹は看板を見上げて

「トレーニング事務、いうて・・・事務いうたら仕事じゃねえ。どがいな仕事しとるんじゃろうね」

と考えたが、松岡中尉は「小泉君、いいところに気がついたね。事務ではなくてジムなんだ。ここのおやじさんはちょっと間違っちゃったんだよ。まあこういうのを<御愛嬌>って言うんだよ、覚えときたまえ小泉君」というと入り口に掛けられた布をめくって「こんちは~」と大声を出すとずかずかと入っていった・・・

 

四人が、否、三人がへろへろになって「トレーラー筋肉トレーニング事務」から出て来たのはそれから五時間も後のことだった。三人は松岡中尉の組んだ過酷なトレーニングをさせられていたのだった。

一人だけ松岡中尉は上機嫌で

「親父さーん。今日も熱くなれましたよ、ありがとう。また来るよ、親父さんももっともっと熱くなれよ、今日からあなたも富士山だ」

と叫んで経営者の叔父さんと笑いあって出て来た。そしてその場にへたりこんでいる石場兵曹たちを見るなり「どーしたって言うんだよ!」と怒鳴り始めた。へ?と中尉の顔を見上げる石場兵曹たちに松岡中尉は

「ダメじゃないか、こんなところでへたり込んでる場合か?ちょっと体がつらいともう駄目だ~ってへたっちゃうのか?あきらめんなってあれほど言ってるのが君たちにはまだ分かんないのか?あれくらいのことでへたってたらこの戦争には勝てないぞ!いいのか?勝てなくて?嫌だろう、だったらもっと熱くなれよ!

いいか、わかったら立ちあがれ。・・・そうです、立ちあがったら大きな声で叫ぼう、バンブー!」

と怒鳴った。石場兵曹たちはもうやけくそで「バンブー」と叫んで腕を天に突き上げた。腕が鈍く痛む。しかし松岡中尉は上機嫌になると「そうだそうやって熱くなれば決して不可能はないぞ。というわけでさあ、みんなの行きつけの熱くなれる場所に行こうじゃないか。さ、石場さん案内してちょうだいなっと」と言ってにこにこしている。

「はいはい・・・では行きましょうか松岡中尉」

と痛む腕をさすりつつ言った石場兵曹に松岡中尉は「はい、は一回でいいんだよ石場君。お母さんに言われなかったかね?」と注意した。

「わかりました」と暗黒の一重まぶたを朝よりも重く垂らした石場兵曹は応え、皆は<熱くなれる場所>に向かって歩き出したのだった。


そんな頃、『大和』ではマツコがトメキチ相手に「マツオカがいないとつまんないわねえ~。あんた何か面白いことやってよ」と愚痴っている――

 

    (次回に続きます)

 

             ・・・・・・・・・・・・・

 

松岡中尉が絡むとどうも何事もめんどくさくなる気がしてなりません。周囲は振り回されていますが本人は全く気にしていないのが気になります。

さて、これから四人はどんなことになるのでしょうか、お楽しみに。

筋トレ。つらそうだわあ~・・・(画像お借りしました)。
筋トレ器具

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matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
ジムに通われたことがおありなんですね!
いい運動ができるみたいでいいなあと思いますが私も体がとても硬いのでストレッチは・・・遠慮いたします!
今娘が学校で習ってくるストレッチや軽い筋トレを「一緒にやろう」と言われるのですがとてもとても…無理(-_-;)。
やはり私には「ラジオ体操第一・第二」がぴったりのようです!
でも本気でやろうと思ったらトレーナーについてやらないとだめなんでしょうね・・・(^_^;)

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
おお、従弟様筋トレ器具をお買いになっていらっしゃるんですね!でも確かにあの器具はとても重いですよね(-_-;)床が抜けるのでは!?というご心配、よくわかります!
うちにも実はルームランナーがあるのですがこれがまた重い・・(-_-;)ですので私も床が心配であります!
やり出すと止まらない、というとそれは私の夜中の模様替えがそれですね。みなが迷惑でも構わないという妙な性癖があります。鬱傾向があるのか、昼間より夜のほうがエンジン快調絶好調な時が多いです(特に週末)。
従弟様、筋肉マンのようにムキムキになられた暁にはぜひお写真を・・・と思う私でしたww。

kazu さんへ

kazuさんこんばんは!
おひさしぶりです^^。
気が付いたらそんなことになっていましたw。
電子書籍ですか…考えてみようかしら??

トレーニングジムか。こちらも懐かしいですね。
もう10年以上も前になりますけど、うちのすぐ近くに公共のスポーツセンターがありました。この肥満した体を引き締めようとジムに通い始めました。
いろんなマシンを使って週1回3時間汗をかきました。フロアでは音楽に合わせて皆でストレッチ体操をしているんですが、それには加われませんでした。若い人の中に混じって中年の方も、みんなと一緒にストレッチダンスをこなしてました。自分は体が硬いのとリズム感がないもので、恥ずかしくて加わる勇気がありませんでした。
効果はそれほどなかったような気がします。やはり自己流じゃだめですね。トレーナーの指導を受けながらやらないと、挫折してしまいますよ。

ここだけの話ですが、我が家の従弟も松岡さんと同じ。
ジムには通いたくないのでと筋トレマシーンやらのあれこれを買って我が家で励んでおります。床が、床が抜けなきゃいいがと気が気ではありません。
松岡さんといい我が家の人といい、やりはじめたら止まらないのは良いことなのか迷惑千万なことなのか。見る見る筋肉隆々となっていく体を更にいじめてムキムキを目指しているようです。

お久しぶりです。
書籍8冊すばらしいですね。
電子書籍化してみてはいかがですか?
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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