「女だらけの戦艦大和」・松岡中尉夜話2

松岡中尉の武勇伝?はまだ続く――

 

松岡話 その参

ある日、松岡分隊長は航海科の数名をひきつれてカッターをこぎ出した。カッターを漕ぎながら見張兵曹は「松岡分隊長、一体どこへ行きんさるんで?」と聞いてみた。松岡分隊長はカッタ―の舳先に格好つけて座り、

「いいところ、いいところですよ特年兵君。君も今日はきっといい経験が出来ていい大人になれますから頑張れよ!」

と言ってラケットをひと振りした。麻生分隊士がオールをぐうっと回して「・・じゃけえ、オトメチャンは特年兵じゃないいうんが一体いつになったらあん人にはわかるんじゃ?もしかしてわかっとっていっとるんじゃろか」とブツブツ言う。そして「分隊長、ええ所でええ経験をするんはええんですが私まで来てしもうたら困るじゃないですか」とこれは松岡分隊長へと声を張り上げた。

松岡分隊長はラケットで肩を自分の肩をトントンと軽くたたきつつ

「麻生さんは心配性だなあ~。だから主席下士官のイシバチャンを残してきたでしょうが?あの人はあれでも結構使える人材ですからね。何があってもあの暗黒の一重瞼でにらみを聞かせてガンバってくれるって。あの人は富士山を目指してますからね、薄ぼんやりしてるとイシバチャンに追い越されますよ麻生さん」

とこともなげに言い放ち麻生分隊士は軽く怒りで唸り声をあげた。松岡分隊長は「さあ」と言って立ち上がるとラケットを振り振り「さあ皆さん、もっと頑張ってこげこげもっとこげ~~!早くしないと日が暮れる・・・ってあきらめんなよ!!」と怒鳴った。が、小泉兵曹は

「いうても分隊長」

と少し不満げな声を出した。松岡は「ん?どうしたんだい『大和の突撃隊員』くん?何か大きな不安がありそうだね、不安は早いうちに解消しないとあと後に禍根を残すからね・・・なにかね、何でもこの私に聞いて熱くなってくださいよ!!」と言って小泉を見た。

『大和の突撃隊員』という自分にとっては不名誉なあだ名を言われて面食らった小泉兵曹ではあるが気を取り直し、オールを握りなおして

「いうても分隊長、カッタ―はもっと大勢で漕がな、きつうてかなわんです」

と文句を垂れた。確かに今日のカッタ―漕艇員――つまり松岡が率いて来た航海科の面々は――麻生分隊士・見張兵曹・小泉兵曹・石川水兵長・亀井一水のたった五人。しかも松岡分隊長は決してオールを持たないので大変な負担である。

亀井静一水は小声で「カッタ―訓練は海兵団でもしよりましたがこげえな少人数でしたことなんかありません。こげえな人数ではよう進みませんよ」と不満をあらわにした。すると地獄耳の松岡分隊長は手にしたラケットで亀井一水を指すと

「亀井くーん!君には闘争心てものがないのかい?どんな少人数でも必死でやれば大人数に勝るとも劣らない。いや!大勝利することだって決して夢じゃないんだ、あきらめてるなもう既に!亀井くんあとで私は君に用があるから巡検後主砲前に来なさいッ!」

と怒鳴った。麻生分隊士が「あほ。そげえなこという奴が居ってかね?あの地獄耳にはなんでも届くんじゃけえ注意せえ」と叱った。がその声は松岡分隊長の耳には届いてないらしい。

やがてカッタ―はトレーラー環礁のほぼ中間あたりに来た。

すると松岡分隊長は皆に、「では諸君。ここで褌一本になって海に飛び込め、熱くなれよ!」というなり一番先に褌一本になるとラケットを持ったままザブンと海に飛び込んだ。ここのあたりはけっこう深い。麻生分隊士はあわてて、

「分隊長ー、この辺は鱶が居ると聞いとります。危ないですけえ海に入るんはよしましょう。うちは鱶に食われるんは嫌ですけえ」

と叫んだ。が、松岡分隊長は海面に顔を出すなりラケットを振り上げて、

「麻生さーん、貴様そんな気の弱いことでどうするんだ、それでも貴様分隊士か!もっと熱くなれよ、やる前からあきらめてんじゃねえよ!来い、来いったら貴様あ!」

とすごい剣幕で怒鳴り始め、ラケットで海水をすくって皆に掛け始めた。それがあまりに大量なので分隊士は「やめてつかあさい分隊長、私が悪うございました・・・ええ、鱶なんぞ怖いもんですか。ええ怖くなんかありやせん、怖いことなんぞありませんとも!」とやけくそになって怒鳴るとパッパと防暑服を脱ぎ捨てふんどし一つになるなり「たあっ!」と気合をかけて海に飛び込んだ。水しぶきが上がり、やがて分隊長が海面に顔を出した。それを見ていた見張兵曹が「ではうちも。うちは命何ぞ惜しくないですけえ!」というなりこれも服を脱ぎ捨て海に。

そのあとを小泉、亀井、石川たちが追い三つの水柱が次々に立った。満足げな松岡分隊長は「ではみんな。私のあとについておいで。あきらめんなよ!」というと平泳ぎで泳ぎ出した。そのあとを麻生・見張・小泉・亀井・石川が単縦陣のようにくっついて泳ぐ。松岡分隊長は後ろを見返って

「おお!すばらしい、まるで聯合艦隊のようじゃないか。これこそ熱くなっている証拠ですよ、やればできるじゃないの麻生さん。・・・もしかしてあなた泳げないのかと思って心配しちゃったよ」

と言って笑った。麻生分隊士はむっとして黙って泳ぐ。山村の出身ということを馬鹿にされたと思ったらしい。興に乗った分隊長、『軍艦行進曲』をハミングしながら泳ぐ、泳ぐ泳ぐ・・・。

どのくらい泳いだか、やっと分隊長は「そろそろカッタ―に上がろうか?少し腹が減ったね」と言って皆は遠くに漂うカッターを目指して今度は抜き手を切って泳ぐ。

麻生分隊士がカッタ―をつかみ、見張兵曹から小泉兵曹、石川水兵長そして亀井一水が乗り込み、見張兵曹が麻生分隊士を引き上げた。

「はあー。たいぎい」

と皆がカッタ―の上で息をついた。麻生分隊士が「松岡分隊長、はよう上がってつかあさい」と声をかけた。分隊長はまだカッタ―から数メートルほど先を浮かんで遊んでいる。ラケットが大きく左右に振られる。

麻生分隊士が「ほんまにあん人はしょうもないお人じゃなあ」とため息をついたその時。

「分隊士、あれ!鱶と違いますか!」

見張兵曹がまだ褌姿のままで海面を指差して叫んだ。ええっと皆が見た先に・・・分隊長の足の先、十メートルほど先の海面に鱶の背びれと思しきものがいくつか向かってくる。

麻生分隊士が「松岡分隊長、足元に鱶がいます!危ないー!」と怒鳴った。しかしラケットは左右に振られるだけ・・・麻生分隊士、見張兵曹たちはかたずをのんで見守るしか出来ない・・・

いよいよ鱶の一頭が分隊長の元へ・・・「ああっ!」と皆が両手で眼をふさいだ時。

「この鱶野郎、何処の分隊だ!」

というものすごい大声が響いた。皆が驚いて眼を見開いて状況を見ると、なんと松岡分隊長が鱶に襲いかかっているではないか。分隊長は怒りに燃え、ラケットを振り回し「貴様どこの分隊だ、私の邪魔をしようなんざ千年早いッ!」と怒鳴るとラケットで鱶の顔の真ん中をぶっ叩いたのだった。それも何回も。

挙句に分隊長は鱶の首を締めあげて「貴様あ・・ふかひれスープにしてやろうじゃないか。貴様ら全員『大和』に連れて行って烹炊員に解体されるのがいいか、それともこの松岡の配下になるのがいいか。どっちか選べ!」と悪魔のような声で囁いた。

鱶は恐怖にかられ、暴れて逃げようとした。周囲にいた仲間の鱶も松岡の剣幕にたじろいでいるようだ。しかも大事な仲間が人質状態、どうにもできない。

「どっちがいいかと聞いているじゃないか、返事をせんかこの鱶小僧」

いつの間にか野郎から小僧へ格下げされた鱶、その鱶をさらにしめあげ周囲を取り巻く他の鱶を怖ろしい目つきでにらむ松岡分隊長。と・・・松岡分隊長に締められている鱶が白目をむいて降参を宣言。周囲の鱶もいわしのごとくおとなしくなった。

松岡分隊長は鱶をまだ絞めたまま「貴様らこの先わが帝国海軍の人間にちょっかい出したら私がだまっていないぞ、貴様らの悪行は必ずこの松岡の地獄耳に入るようになっているからな!わかったか?わかったらわかったと言わんか!」と無茶な要求をし、ついに鱶どもは「わかりました」とうなずき、松岡中尉は鱶どもにロープをかけるとカッタ―の舳先につなぎ、

「貴様らこのカッターを『大和』まで曳航して行け。途中で妙な気を起こすと烹炊所の露と消えるぞ!」

と脅した。鱶はおとなしく従った。一部始終を目撃していた麻生分隊士以下は

「やはりあん人はちいと普通と違う。ハシビロを手なずけた時も驚いたが今回はスケールが違いすぎる、この先何を手なずけるか、うちらは怖い」

と言ったとか。

 

さて『大和』に戻る途中行き交う海軍艦艇や警備艇は珍奇な――あまりに珍奇なカッタ―に絶句した。『矢矧』の原艦長がそれをまず最初に目撃し、古村司令に知らせると古村司令は笑いながら「んな、馬鹿なこと」と言って双眼鏡をのぞいて卒倒寸前に至った。

『武蔵』でも猪田艦長と加東副長が呆然として、鱶に曳航されるカッターを見送り『大和』では梨賀艦長が「鱶嫌い。鱶大っきらい!なんで松岡中尉はあんなものと仲良くなるの?信じられない!」と半べそかき、浜口機関長は「うまそうなヒレだぜ。いつか食ってやろうじゃないか!」と舌なめずりした。

さて『大和』に到着し、松岡の魔手から解放された鱶たちは一目散に逃げ、その行方はようとして知れないという――

    (次回に続きます)

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

松岡中尉何をやらかすと思えば相手は鱶・・・。ふつうは鱶なんか怖ろしくて相手に出来ません。私は絶対いやです。ふかヒレは大好きですが。

みなさんは絶対真似をしないでください!・・・そういえば昔ハワイに行った時(真珠湾攻撃に行ったのではない)、とある水族館だったか??でサメの腹から出たものが展示されていましたが・・・恐怖でぞっとう寸前になりました。思い出したくないので書きません・・・(^_^;)

さあ次回は松岡中尉いよいよ・・・!!

鱶…てなんでこういう字なんだろう???
鱶


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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんにちは!
何でもかんでも欲得ずくで考える人間が多くなった昨今、松岡のような人間がいたらさっぱりしていいだろうなあ・・なんて思うときがありますね。でもちょっとやかましいですが(-_-;)・・・
本物の松岡修造さんもやかましい感じではありますがw、でも彼の言っていることはよく聞いていると「そうだよね」と納得する時が多々あります。今の世、あのような人が必要なのかもしれません。
小さなグループの楽しい時間。
私も若いころそんな時間があったっけ、と思い出しました。大人数で行動することが苦手な私には気の置けない数名の仲間との語らいが心楽しい時でした^^。
今日も蒸し暑いですね(-_-;)・・・そちらはいかがでしょうか。御身大切にお過ごしくださいね^^。

熱血で怖いもの知らずもここまでくると立派ですね。
一筋縄ではいかないマツコさんや獰猛な鱶まで手なずける松岡さんは実は天真爛漫で『無』の人かもしれませんね。なんだかあのテレビに出ては賑やかな松岡さん同様に憎めなくなりました。
小さなグループが南の海を存分に満喫してて、ほのぼのしいというか何ものにも代えがたいとても優しい時間が流れているのですね。見張り員さんの優しい文章から自分自身の昔の懐かしさを感じ思い出しています。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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