2017-09

「女だらけの戦艦大和」・松岡中尉夜話1 - 2013.05.23 Thu

「女だらけの大和」には名物人間の松岡修子海軍中尉がいる。彼女は『大和』に配属されてもう二年ほどたっているがずっと前からいたような存在感を醸し出している。その彼女の様々な話――

 

松岡話 その壱。

「なあ、松岡分隊長っていつからここに居ったかいね?」

とある晩兵員居住区で言ったのは小泉兵曹である。そばで防暑服のポケットを繕っていた見張兵曹が顔をあげて「ほうじゃねえ。もうかれこれ二・三年にはなろうかねえ」と言ってまた手元に眼を落した。一所懸命に繕ってはいるがオトメチャン縫い物は不得手なようだ。石場兵曹が艦橋の当直から降りてきて

「オトメチャンそこはこうした方がええで。貸してみんか」

というと代わって縫い始める。見張兵曹は感心して石場兵曹の手つきを見ながら

「石場兵曹は繕い物が上手ですねえ。うちは縫物が下手じゃけえ恥ずかしいです。石場兵曹、今度うちに裁縫を教えてつかあさい」

と言って「願います」とつけくわえた。石場兵曹は頬を真っ赤に染めて嬉しげにニヤニヤしながら「う、うちでええんか?ほいじゃあそのうち個人的にじっくり教えてあげるけえね」という。それをさも呆れたような顔で見た谷垣兵曹は

「個人的に、いうて二人で何処ぞにこもっとったら麻生分隊士に殴られるで、貴様。ここで教えたらんかい」

と言った。石場兵曹は以前にオトメチャンを襲って麻生分隊士に殴られた思い出があるので顔を引き締めた。そしてオトメチャンを見返ると暗黒の一重まぶたも重々しく

「そうですね・・・見張トメ兵曹。明日の晩にでもここで教えてあげましょう。それでえですか?」

と四角張ったものの言い方をした。周囲の兵員が笑った。見張兵曹も笑いながら「ええですよ。石場兵曹では明日の晩からよろしく願います」と答えた。

そんなことを言って皆がたわいもない話をしているうち、入口に松岡分隊長が立っているのに谷垣兵曹が気がついた。

「あ、松岡分隊長。誰ぞにご用でありますか」

皆が一斉に分隊長を見ると松岡修子中尉はラケットを振り振り兵員居住区に入ってきた。そして大きな声で

「みんな、熱くなってるか!?尻の穴を締めろ、いいかあ、君らも今日から富士山だ―っ」

と叫んだ。そして石場兵曹が縫物をしているのに目を止めると「石場君、熱くなってますね。さあちょっと私に貸してご覧?私が縫って見せようじゃないか」と言って石場兵曹の手から防暑服を取った。石場兵曹は「分隊長、その服はうちのと違います。オトメ・・いや、見張兵曹のものであります」と言った。すると分隊長は

「ほう、特年兵君のね。特年兵君は裁縫は下手と見たが・・まあ私がやるのを見てれば絶対上手になるからね。いいか見てなさい!」

と言って針を取り上げた。見張兵曹は「特年兵」「裁縫が下手」と言われて悲しげな顔になったが次の瞬間、「わああ」と大声をあげていた。周囲で見守っていた兵員たちも「おお!」「すごい」と歓声を上げた。

なぜなら、松岡分隊長はものすごい勢いでまるでミシンのようにがっしがっしと縫い始めたからだ。石場兵曹は航海科の中でも裁縫上手で通っているのだかその彼女をして「すごいわあ。あがいに早う縫うなん、うちには出来んわ」と言わせるほどの早い縫い方である。

けどなあ、と小泉兵曹が言った、「いくら早うに縫えたいうても綺麗に縫えとらなんだら意味ないわ。なあ」。

すると松岡中尉は糸の尻を止めると小さなハサミでそこをぱちっと切って「はい出来上がり、熱くなっただろう?」というと見張兵曹の防暑服を皆の前に広げて見せた。

「おお!」「さすがじゃ」

皆がどよめく、それもそのはず元の縫い目が大きくほつれていた部分が本当のミシンで縫ったかのようにきれいに針目が通っているではないか。見張兵曹が服を受け取ってその部分をじいっと見つめている。石場兵曹も見つめていたがやがて大きくため息をついた。

見張兵曹は、「分隊長・・・上手すぎます」と言い石場兵曹は「分隊長・・・うちは負けました」と言った。

松岡分隊長は上機嫌で見張兵曹と石場兵曹の肩を交互にたたくと「今度教えてあげよう。君も明日から富士山だ」というと「じゃあまた明日~」というとあっという間に出て行ってしまったのだった。

その翌日から石場兵曹とオトメチャンは巡検後、兵員居住区で松岡分隊長の裁縫の手ほどきを受け、二人とも半月後には松岡の半分ほどの勢いではあったがきれいに縫物が出来るようになったのだった。それを見ていた兵員たちは次々に「分隊長、うちにも教えてつかあされ」「うちにも」「いや、俺が先!」と皆で先を争って松岡裁縫塾に入門したという・・・

 

松岡話 その弐。

ハッシー・デ・ラ・マツコとトメキチは松岡中尉の良い仲間である。

最近トメキチはマツコの上に乗って飛ぶことを覚えたのだが実はこれこそ松岡中尉の発案によるものであった。

ある日、空を往く「トレーラー航空隊」の零戦の編隊を大和最上甲板から眺めて、それに「熱くなれよ!零戦くん、尻の穴を締めてあきらめんなよー!今日から君も富士山だ」とわけのわからない声援を送っていた中尉、隣に舞い降りて来たマツコと、その少し前から中尉の足元にいて空を見上げていたトメキチに視線を下ろした。じっと見つめた。

「どうしたのよ、マツオカ?」と問うたマツコに、松岡中尉はニィ~っと笑うなり、言った。

「鳥くん、君この犬くんを背中に乗せて飛んでみないか?犬くんが乗って鳥くんが飛んだらまるであの空を往く零戦くんのようだぞ、かっこいいと思わないかね?」と。

マツコは「ええ!あたしが零戦ですって?すごいすごい、ねえトメキチやってみましょうよ」と大騒ぎをしてその場を跳ねまわる。しかし、トメキチは非常に嫌そうな顔で

「僕、怖いからいやだ」

と言って尻尾を丸めておなかの下に入れてしまった。マツコはそのトメキチをその足でけっ飛ばすと「何言ってんのよう、せっかくマツオカがいい提案してくれたんじゃないの。アタシ達が目立ついい機会よ!あんたあたしの背中に乗って!でもそのくだらない爪であたしの羽を傷つけたら承知しないわよ」と言ってその金色の目でトメキチをにらんだ。

松岡中尉は「犬くん、怖がっちゃいけないよ。君は勇敢な海軍犬だよねえ。て事はだ、君はこの鳥くんとペアを組んでいずれ空の戦いにも参加出来るよう訓練しなきゃいけないってことだよ。さあ、犬くん熱くなって今日から君らは富士山だ!」と叫ぶなり、トメキチを抱き上げてマツコの背中に乗っけてしまった。

「いやだよう、怖いよう、降りたいよう」

とトメキチは泣いて叫んだがマツコは「しっかりつかまってんのよう!」というと大きく羽ばたきを始めた。トメキチは泣きながら、「マツコサン、お願いだからあんまり高く飛ばないで?慣れるまで怖いから絶対やめて?」と懇願した。マツコは羽ばたきながら「わかったわよ、最初はマツオカの背丈ぐらいでいい?」と尋ねた。トメキチはふるえつつも「うん、いいよ。でも絶対ね」と念を押した。

するとマツコはふわりと舞い上がった。そしてゆっくりと旋回し、松岡中尉の頭の上あたりを飛んだ。マツコは背中のトメキチに

「どうよあんた?これくらいから慣らしたら怖くないんじゃない?」

と聞いた。するとトメキチはしっかり目を見開いて「うん、これなら大丈夫みたい。マツコさんの背中乗りやすいから平気かも」と言った。するとマツコは「じゃあもうちょっと高く跳ぶわよ」というと松岡中尉の上を旋回しつつ上昇。

それを見ていた松岡中尉は「いいぞ鳥くん犬くん、熱くなってるな!その調子で尻の穴を締めろ」と両手をメガホンにして叫んだ。マツコはそれを聞いて喜んで「じゃあもう少し」というと防空指揮所まで上昇して行った。

そして・・・休憩時間を終えて配置に帰って来た見張兵曹とばっちり目があった。

「キャーー―ッ!」

とオトメチャンの絹を裂くような叫びに、指揮所は上を下への大騒ぎになって右舷側にいた小泉兵曹や伝令所にいた石場兵曹や谷垣兵曹、それに麻生少尉が「どうした!」と叫んで走り込んできた。

オトメチャンは真っ青になって床にへたりこみ、ガタガタ震えながら空を指差して「あ、あ、アレを見てつかあさい・・・」と言っている。一同が指の先をたどるとそこにはトメキチを背中に乗せて悠々と宙を舞うマツコがいるではないか!

「わああ!」「ハシビロ、危ないけえ降りんか!」「トメキチしっかりつかまっとれ、おい誰か下に行ってトメキチを受け止めんか!」・・・

しかしマツコはそんな一同を眺めまわし、トメキチですら喜びの声をあげてやがて松岡中尉の待つ甲板に降りたのだった。

松岡中尉は両手を広げて二人を迎え「やったじゃないか犬くん!君が鳥くんを信頼した結果だよこれは。だから言っただろう、何事もあきらめんな!いいか、あきらめたらだめだそこで終わりだ!さあ、これで君たちも明日から富士山だ、大きな日本の誇りとなるんだ!尻の穴をしっかり締めて頑張れよ、バンブー!」と大声で叫んだ。

そこに、指揮所から皆が降りて来た。見張兵曹など泣きながらである。松岡中尉はトメキチとマツコを後ろに従えて「おや特年兵君は何を泣いているのかな?帝国海軍軍人のはしくれの特年兵ともあろうものがべそべそ泣くなどみっともない!もっとしゃんとしろよ!」と説教を始めようとした。

が、麻生分隊士が皆をかき分けて出て来ると

「分隊長、あなた何をこの二匹にさせたんですか!おかげで皆、特に見張兵曹は大変驚いてこのありさまです・・・どういうことか説明してください!きちんと納得いく説明聞くまでうちはあなたを許しませんけえね!」

と怒鳴った。怒りで汗が全身から噴き出した。そんな分隊士をじっと見つめた松岡中尉は一歩前に出た。とたんに皆は一歩飛び退いた。松岡中尉はニ―ッと笑うと

「麻生さんも熱くなっていていいですね、その調子です。いいですか私はねこの二人に零戦のように熱くかっこよく勇ましく生きてほしいのです。だから鳥くんに、犬くんを乗せて飛んでみたらかっこいいよと教えたんですよ。そしたらこの賢い鳥くんと犬くんはそれをやってのけたんですよ。これが熱くなってあきらめないってことじゃないか!?ええ!?もうあきらめてんだろう麻生さんもみんなも!もっとこの日たりを見習いなさい。君たちだってやれば空を飛べるぞ、あきらめんなよ!」

と叫ぶなり「行くぞ鳥くん犬くん、ここでぼーっとしててもなーんの意味もないよねえ」と言ってマツコとトメキチと一緒にどこかへ走り去ってしまったのだった。

その場に取り残された麻生分隊士以下はその後ろ姿を眼で追いつつ、

「わからん。どうにもうちにはあの人がわからん・・・」

と呪文のように呟いていた――

(次回に続きます)

 

            ・・・・・・・・・・・・・・

 

不可解?な松岡修子ワールド、まずは小手調べです。恐るべき松岡分隊長の素顔が次回また、解明されます。どうぞ皆様、気付け薬を持って読みにいらしてくださいませ!!

 

裁縫箱(画像お借りしました)。海軍兵は自分でほころびを繕ったのでした・・・えらいぞ!
裁縫箱


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● COMMENT ●

まろゆーろさんへ

まろゆーろさん今晩は!
松岡分隊長と言えば暑苦しくやかましい・・・という概念を覆すこの特技!!意外と大和撫子なのか???謎は深まりますw。
マツコとトメキチという相棒もえて、マツオカ絶好調です!
麻生、石場、谷垣、小泉・・・みんな顔が思い浮かぶ名前ですね^^。
今日は暑かったですね(-_-;)大分では35度を記録したところがあったとラジオで聞き「げっ!」と驚きました。
にいさまも御身大切になさってくださいね。
いつもご心配をありがとうございます、なんとかやっとります^^。

No title

やかましくてせっかちで厚かましいだけかと思っていた松岡修子さん、すごい才能をお持ちだったのですね。
日頃、隠していることをこうやって急場で披露すると更に価値が上がりますね。取り柄……、でしょうか。
でもやっぱりお騒がせのマツオカ。面目躍如の無茶ぶりですがマツコやトメキチとのトリオもまたほのぼのしいです。
下界では自民党のお偉い先生方と同名のお歴々が右往左往ですか。穏やかですね。
体調は如何ですか。暑くなりましたが無理しちゃいけんよ。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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