2017-10

「女だらけの戦艦大和」・海色の瞳3<解決編> - 2013.01.30 Wed

――外洋訓練中、通信機にしがみついていた中矢少尉はハッとして顔をあげると「敵信傍受!」と叫んでいた――

 

「なんですと、敵信ですか」

敵信傍受班の一人、三山兵曹長が自分の席から立って中矢少尉の後ろについた。岡沢中尉が傍らの水兵長に「急ぎ通信長を呼んで来い!」といい、水兵長は席を蹴って艦橋にいる山口通信長を呼びに行く。

岡沢中尉は、中矢少尉の肩に手を置くとそっと「・・・まだ来てるか?感度はどうだ?」と囁いた。中矢少尉はレシーバーに神経を集中するため眼を閉じて聞き入っていたがやがて、

「感度変わらず、どうやら艦載機のようです・・」

と言った。岡沢中尉は「艦載機か・・・どのあたりに居るかは分からんかね?」とたずねる。中矢少尉は通信機のダイアルを少しずつ動かして同調を合わせて、

「ラシガエ島の東、90マイルのあたりに差し掛かっているようです。母艦からは相当な距離離れているようですね」

と言った。彼女の耳に当てたレシーバーからは、敵艦載機同士のやり取りが聞こえている。そこへ山口通信長がやってきて

「敵信傍受だって?どのあたりだ」

と中矢少尉のもとへ。中矢少尉がラシガエ島の東90マイルのあたり、というと通信長の顔が曇った。そして、

「まずいぞ、あの方角に先ほどの零戦隊が向かっているはずだ。零戦隊は訓練だから機銃弾もそれほど積んでないはずだぞ!」

といい、通信室の一同は表情をこわばらせた。

と、中矢少尉が椅子に座りなおすと

「敵を追い払います・・・」

といい通信機の隣にいつも置いてあるべつの機械――通話機――の前に座りなおした。三山兵曹長が少尉を見た。宮沢中尉が席から立ち上がると

「何言ってんだ、貴様に何ができると言うんだ!?いい加減なことを言うな・・・そうか貴様、やっぱりスパイだな!零戦隊の行く方に敵機を導いたんだろう!この期に及んでまずいと思ったか?・・・通信長、こいつは、中矢少尉は敵のスパイです!」

とわめきだす。すると山口通信長が厳しい顔つきで、

「黙れ!貴様こそいい加減なことを言うと承知せんぞ!大事な時だ、黙っていろ」

と一喝した。それには一切構わず、中矢少尉は指先に力を込め通話機のダイアルを動かないように押さえつつレシーバーに全神経を集中している。

三山兵曹長がかたずをのんで見守る中、その時はやってきた――!

 

中矢少尉は滑らかな英語で、

「もしもし、オンリー・ワン(指揮官機)。こちらコーンウオール(母艦指揮官)。こちらコーンウオール。こちらの言うことが分かるか? 1・2・3・4・5・5・4・3・2・1」

と敵の指揮官機に話しかけた。

すると敵の指揮官機から応答が入る。

「もしもしコーンウオール。そちらが1から5まで、5から1まで数えるのを聞いた」

中矢少尉は続ける。

「もしもしオンリー・ワン。日本の艦載機が我々を攻撃している、今の任務を放棄し、直ちに帰投せよ!」

すると敵の指揮官機は、

「こちらオンリー・ワン。了解(ラジャー)!」

と何度も答え・・・そして敵艦載機の編隊は一斉に変針するとその海域から遠ざかっていったのだった。中矢中尉は敵の無線に飛び込んで敵艦交信者になり済まし、零戦隊は難を逃れることができたのだった。そして、『大和』たち外洋訓練部隊も・・・

 

「ふう・・・」

と誰かが深いため息をついた。それを合図のように山口通信長は中矢少尉の肩を掴んでゆすぶって

「中矢少尉良くやった!すばらしい、さすが中矢少尉だ。しかしいったいどうやって??」

と言った。中矢少尉は、

「私は超短波ラジオで敵の交信状況を聞いて話し方の癖などを知りました。敵の空母が艦載機を呼び出す際の符号(コールサイン)や、艦載機同士の呼び出し符号もわかりました。」

といってレシーバーを取ると通話機の横に置いた。

三山兵曹長が山口通信長に、

「中矢少尉は連日連夜、ラジオに聞き入って敵の通話を勉強しておられたんです。それはもう、毎日毎晩・・・」

といいその語尾が震えて消えた。山口通信長がふっと三山兵曹長を見やれば、兵曹長は肩を震わせて泣いていた。

「どうしたね、三山兵曹長」

といぶかる通信長に、三山兵曹長は涙をグイッと腕で拭って顔をあげた。そして通信長に向かってきっぱりと、

「こがあに毎日毎日、帝国の為に努力を惜しまない中矢少尉に、あろうことかスパイ扱いしていじめるもんが居ってです。うちははあ我慢がきかんです。うちはどうされてもええです、今日はええ機会じゃけえ謝ってほしいがです」

といい、その視線を宮沢中尉と菊池中尉に向けた。

二人の中尉は急に水を向けられてひるんだ。それに、直前中矢少尉の素晴らしい機転を見せつけられ内心気まずい思いに心を支配されつつもあった。山口通信長は二人の中尉の前に立つと、静かな声で

「二人とも、中矢少尉がどういう生い立ちか、知っているだろう?」

と言った。二人の中尉は「はい」とうなずいた。通信長は続ける。

「中矢少尉は、アメリカに残ろうと思えば残れた。何も日本で大学に行かなくても良かったはずだ。だが中矢少尉はどうしても父親の生まれ育った国で勉強がしたかった。しかしいつ日本とアメリカが戦端を開くかもわからない時期に日本に来なくても良かったはずだ。

だが、中矢少尉はそれをした。なぜだと思う?考えたことがあるかね?それは、私が思うに中矢少尉にはアメリカ人としての血だけではなく日本人としての血も流れているからではないか?アメリカも、日本も中矢少尉にとってはかけがえのない<祖国>なんだ。戦争も何も関係なかったのではないかね?

もしも・・・母親がアメリカではなくドイツだったらどうだ?同盟国がもう一つの祖国なら、もっと気が楽だったろうし何かにつけいじめられることもなかったろう。しかし中矢少尉の母親はアメリカ人であることは動かしようもない事実である。これは誰のせいでもない。中矢少尉はどちらの祖国もかけがえないもの、天秤に掛けられないものと知りつつも日本人であることを選び、日本人として愛しい母親の国であり自分が生まれた国と戦うことをも選んだのだ。

その気持ちを貴様たちは少しでも思いやったことがあるのか?どんな気持ちで中矢少尉がアメリカの情報を入手していたか、もしかしたら敵の中に自分のきょうだいがいるのではないかとはらはらしていたのではないかと、考えたことはないのか?そんな気持ちを自分のものとして置き換えて考えたことがちょっとでもあるのか!それもしないでスパイだのアメリカ人だのと罵って、そのうえ体を痛めつけて愉しんでいたのか!」

最後は怒気を含んだ声ではげしい言い方となった。さらに通信長は、

「中矢少尉は至極まっとうな日本人だ。彼女ほどの愛国心と忠誠心を持った日本人で軍人を見たことがないほどだ。誰にも後ろ指など指させない。あれこれ言う奴の方が軍人として恥ずかしいのではないか?良く頭を冷やして考え直せ」

と続けた。宮沢、菊池の両中尉は唇を噛んで黙って下を向いている。他の通信科員たちも眼を伏せて黙っている。

宮沢中尉が顔をあげた。通信長が彼女の顔を見ると宮沢中尉は少し苦しげな表情で、

「私は・・・本当は中矢少尉がうらやましかったであります」

と話し始めた。通信長は黙ってその顔を見つめている。宮沢中尉はまたうつむいて、

「私も学生時代は英語が得意でした、出来たらアメリカに留学したかった。でも戦争がはじまりそうだから、日本の為に兵学校に入りました。そのことは全く後悔も何もしていません、日本人として当たり前のことをしたと思っています。でも・・・中矢少尉は、当り前だけど英語がものすごく上手くてその上言葉の微妙な機微さえ上手に表現します。私には出来ないそれがとてもうらやましくて・・・いつしかそれが憎しみに変わっていました・・・」

と話す。菊池中尉も「私も・・・うらやましかった。だから同じ思いの宮沢中尉と一緒になって中矢少尉をいじめることにしました」と言った。中矢少尉をいじめて、彼女が悲しそうな顔になったり殴って痛みをこらえる顔を見てうっぷんを晴らしていたのだ、と言った。

「・・・中矢少尉の生い立ちのことや、・・・母親やきょうだいがアメリカにいることまで気が回りませんでした。本当に、本当にすまないことをしました」

二人の中尉は泣きだした。山口通信長は深いため息をついた。ちょっとした嫉妬心がここまで人を痛めつけることができるのなら、なんと人間とは情けない生き物なのだろう。しかも<同じ日本人同士>なのに。

通信長は、中矢少尉を見た。そして「中矢少尉、どうするかね?きっと少尉はこの二人や今まで黙って見て見ぬふりをしていたこの連中を許しやしないだろう?」と言った。

皆の間に緊張が走った。が、中矢少尉はかぶりを振って「もういいんです」と言った。

「もういいんです、通信長。確かに宮沢中尉と菊池中尉の思うことも間違いではないかもしれません。私だって同じ立場ならもしかしたらいじめたり殴ったりしたかもしれません。他の皆はみて見ぬふりをしていたわけではないことも知っています。中には私のことを通信長に申し上げようと数名で話し合ってくれた人がいたことも私は知っています・・・そしてその子たちがひどく殴られたことも。

その子たちの痛みはとりもなおさず私の痛み。でももし、宮沢中尉と菊池中尉がもう通信科の子たちを私のことで殴らないなら皆の痛みはなくなるし、私の痛みも減るでしょう。それならいいんです。・・・どうか、私のことで皆を殴ったりするのだけはやめてください」

そう一気に中矢少尉は言うとその場に膝をついて嗚咽した。

 

その後中矢少尉と、宮沢・菊池中尉は和解した。中矢少尉も相手の本心がわかったし二人も自分たちがいかに馬鹿な行いをしてきたかを恥じた。

山口通信長は三人を抱きよせると「いいか、皆一丸となってこの戦争を戦い抜くんだ。詰まらんことで仲違いしていたら詰まらんぞ」と言って通信科全員で「お―っ!」と大声をあげたのだった。

 

オトメチャンは麻生分隊士と主砲塔の前にいる所を中矢少尉に声をかけられ、「あの時はありがとう、優しい言葉をかけられてどうしたらいいかわからなかったんです」と中矢少尉はあの晩の素っ気なさをわびた。

「ほうですか、でもよかった。あの中尉達とわかりあえたんですね」

オトメチャンはそう言って中矢少尉の瞳を見つめた。微笑む中矢少尉の青い瞳は前に見た時よりずっと明るい青い色できらめいた。

 

「中矢少尉、少尉の瞳はこのトレーラーの海の色によう似とりますね」

そうオトメチャンが言った。中矢少尉は(海の色・・・この海はパパの国の日本にもママの国のアメリカにもつながっている)と思って嬉しくなった。

そして、「オトメチャンはとてもいいこと、素晴らしいことを言いますね。私ももっと日本語も勉強しないといけないね」というと・・・・

オトメチャンの桜色のほほにそっとその唇を当てて去っていったのだった。

後に残るはポカ―ンとした顔の麻生分隊士と、「中矢少尉、えかったですねえ」と無邪気に微笑むオトメチャンであった――

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・

 

何とか和解できたようです。

ねたみそねみは誰にでもあることではありますがその根っこを深くしてはいけません。ましてやいじめたりは厳禁、人としての品格にもかかわります。

宮沢中尉と菊池中尉、これでもっと人間に磨きがかかったらいいですね。
なお、文中の敵艦載機とのやり取りは実際にあったものです(歴史群像太平洋戦史シリーズ10・連合艦隊の最後P101を参考・引用いたしました)。

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まろゆーろさんへ

まろゆーろさんおはようございます!
私もよくキーを打ち損じてコメントを入れそこなったり、こないだのように変なところで切れて送信されてしまったり…と失敗が多くなりました(-_-;)
でもほら、人間ですから失敗はありますよ。瑣末なことです、このくらい^^!
『大和』の女兵士たちはいうなれば<ハンサムウーマン>でいてほしいです。新島八重さんが、ハンサムウーマンの最初の人ですがあのくらい男らしく、それでいて繊細な女性らしい神経を持った人が好きですね。
外見ばかり飾り立てて中身はからっぽ、権利は主張するも義務は果たしたくない、そして思いやりのかけらもない女性はいやです!

ありゃりゃ。コメントがぁぁぁ、反映されていなかったぁぁぁ。きっとキーを叩き間違ったようでなんちゅう無様なことを。白魚だった指がゴボウのように太くなってひとつも良いことがありません。
まずは一件落着して良かったですね。ヤマトの人たちはみんな男前です。
今の女たちは口ばっかり達者で人への思いやりなんて微塵もないですもん。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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