「女だらけの戦艦大和」・秘密の花園、『大和』❤4

河村兵曹は、面倒くさくなったのか後は駆け足で案内し始める――

 

皆の顔にも早くも疲れが出始めていたのでもっけの幸いと言うべきか。ともかく河村兵曹は「『大和』に乗った奴が覚えていかなきゃ困る所だけ教える!その他は自分で勝手に覚えんさい」と言って烹炊所・兵員厠・酒保の場所だけ教えると再び陽ざしのきつい最上甲板、一番主砲の前に出た。

皆の背中にあっという間にじっとりと汗がにじむ。

河村兵曹は「うちは仕事があるけん、あとは勝手にしんさい」と言うと踵を返そうとした。そこに「待ってつかあさい、河村兵曹~」とひとりの水兵長が走ってきた。手には何か持っている。

「おお、大村水長ね。いったい何事じゃ」

河村兵曹が立ち止まって聞くと大村水長は手にしたものを兵曹に出して、

「副長が、『海きゃん』の皆さんに着けてもろうてくれいうて。これがないとどこのだれかわからんじゃろ言うてました」

と言った。見れば赤い文字で<海きやん取材班>と書かれた腕章である。河村兵曹は「ほう~、考えたねえ。ほうじゃのう、確かにこれがないとどこの誰だかようわからん。さっきみとうにぶんなぐられても気の毒じゃけえね」と言ってそれを受け取ると一行に一枚ずつ配った。

大村水長は「え?誰かぶんなぐられたんですか?誰が誰に?」と興味しんしん。河村兵曹は「まあまっとれ。・・・ほいじゃあこれをつけて、あとは勝手にしたらええよ。じゃが、やたらと入ったり写真を撮ってはいけん所もあるけえね、その辺はわきまえんさい。わからんことがあったらその辺に居る兵隊に聞いたらええ。ほいじゃ、うちはこれで」と言うと一礼して大村水長と一緒に去ってゆく。

一行がその姿をぼんやり見送っていると、去ってゆく大村水長が「グハハハハ!内田水長に!?」と大笑いし、河村兵曹が「なあ、面白いじゃろ!」という声がそのまんま伝わってきた。

武田水兵長が悔しげに「うう、人のことを話のネタにしやがって」とうめいたが、袴田兵曹は「そうは言うが・・・武田水長、我々だって同じようなもんじゃないか。おお、これで取材される側の気持ちもわかってよかったじゃない?武田、このことさっそく記事にしろ!」と半ば命令し、武田水兵長は悔しげな表情のまま、ノートを取り出し書きつけはじめる。

それを見ながら殘間中尉はふうっと息をついて額の汗を右手の甲で拭った。そして、

「武田さんがそれを書いたらさっそくどこかで取材を始めなきゃね。・・・どこからがいいだろうか」

と考える。筑紫少尉もうーん、と首をひねってから

「下のに閉鎖的なところは怖ろしげな人が多そうだから上の開放的な部分を中心に取材しませんか?下の方はここに慣れてからでいいでしょう。この艦の人たちの気性がわからないと取材も難しいですからね」

と言った。確かに、とこれには皆が激しく同意。もうさっきのようにぶんなぐられるのでは体がいくつあっても足りないというのが『海きゃん』一行の見解である。が、あの程度の鉄拳など、艦体勤務の将兵嬢たちには朝飯前のことなのだが、兵学校や海兵団での<修正>くらいしか経験のない彼女らにはすさまじい驚きのようである。

武田水長がようやっと、先程の痛い経験の要旨を書き終え「これは後できちんと書きます」と言ったところで筑紫少尉が「じゃあ、どこから取材をするか。ここでゆっくり決めようじゃないか」と言って皆は横一列に並んだ状態でしゃがむと主砲塔に寄りかかった――

と、皆の口から「ギャアア―――!」という叫びが噴出。

主砲塔の中にいた兵が何事かとあわてて飛んできた。「どうしたんじゃ!」という声に一行は涙目になりつつ「・・・熱い。ここに座って寄りかかったらものすごく熱い」と言ってその場を跳ねながら悶絶している。

その騒ぎに主砲の上等兵曹が出てきてあきれたような馬鹿にしたような表情で一行を眺めまわすと、

「あんたら見かけん顔じゃな。・・・鋼鉄の壁によっかかったらこの日差しじゃ、熱いんはあたりまえじゃ。あんたらはあれか、北辺艦隊の勤務じゃった連中か?それにしても寄りかかって休むとはどういう了見じゃ?あんたら本物の海軍軍人か?」

と説教を始めた。一行の中に中尉や少尉がいるのも気がつかないようで厳しい言葉がポンポン出てくる。そして、

「いったいあんたらはどこの分隊か?こんなええ加減な分隊員がおる分隊なんぞうちは聞いたことがないがねえ。よっぽど腑抜けた少尉か中尉が上司なんじゃろ!そいつの名前教えたらんかい!」

と言って恐ろしい顔つきで腕を組んで脅す。皆の後ろに隠れかけた殘間中尉が、「指揮官先頭でしょっ!」と袴田兵曹と小林兵曹に押し出され仕方なく、

「あの・・・私が一応そのあの・・・分隊長みたいな役目の殘間中尉なんですが」

とおずおずと声をかける。ああん!?と上等兵曹は殘間中尉を見た。襟章にはまごうかたなき中尉の階級章がついている。そしてその左の袖には『海きやん取材班』の文字が。

「ほう~」と上等兵曹が感心したように声をあげた。そして、傍らの主砲の水兵嬢をつつくと「海きゃんのか!おい、しっとるか貴様。俺聞いたんじゃがこいつら全く艦隊勤務をしたことがないんじゃと。じゃけえうちらみとうなもんとはちいと違うんじゃ」と言った。ちいと違う、という言葉に小林兵曹が小声で「あったり前だよね。そん所そこらの水兵や下士官とは知性が違う」と言って筑紫少尉は

「そうだそうだ。体力だけの兵隊とは違うんだよね~」と言ってこっそり笑った。

が、主砲の上等兵曹は

「あのな、ようするに艦隊勤務や陸戦部隊じゃ使うに使えん腰ぬけどもじゃけえ『海きゃん』編集部でつこうてやっとるらしいで?『海きゃん』自体は面白うてええ雑誌なのに、こんな連中がおったら編集長は大ごとじゃなあ」

というと兵とともに大爆笑した。殘間中尉以下はプライドをいたく傷つけられてさすがに悲しくなった。殘間中尉がズイッと前に出ると上等兵曹と対峙するような形になった。上等兵曹は肩をいからせて殘間中尉と正面から向き合うと、

「おお!? やるってえのか、中尉さんよ」

と言って艦内帽をあみだにかぶりなおす。武田水兵長が後ろから「やれ。やっちゃえ殘間中尉、あんなやつに負けないで」と囁く。

と。

殘間中尉はいきなりその場に土下座すると

「申し訳ありません!あなたのおっしゃる通りです、我々は使いようがないからこの仕事をしておりますっ!」

と大声を出した。へ!?と驚いた顔の主砲の上等兵曹を見て、三谷兵曹が(殘間中尉の捨て身の攻撃だな。自分を捨てて相手を持ち上げる、そこに戦術がある!これで相手は『悪かった、そこまで言わなくてもあなた方は素晴らしい仕事をしてるじゃないか』とかいうんだよね。さすが殘間中尉、伊達に何年もこの仕事をしてはいないよ)と感心していた。

が。

上等兵曹は次の瞬間顔を真っ赤にして怒りだした。土下座している殘間中尉を引き起こすと、

「あんたにはプライドってぇもんがないんか!?傷ついたような顔しよっておきながらその逆、自分を貶めて恥ずかしゅうないんか!俺が言うことが嘘なら嘘、ほんとならほんとで反撃してくるんが本物の軍人じゃろうが!帝国海軍がほこる『海軍きゃんきゃん』の取材班ならもっと誇りを持てえ!」

と怒鳴って殘間中尉をその場にたたきつけた。痛いよう、と殘間中尉は泣き声をあげたが写野兵曹は(あ~あ・・・馬鹿だなあ中尉も。あんなこと言ったら相手に余計馬鹿にされてあきれられるだけじゃないか。まったくもう)とあきれている。

上等兵曹は「もう泣くな!」と殘間中尉を立たせ「艦隊勤務があろうが無かろうが自分たちがその仕事が好きでやってるなら何を言われても動じないくらいの気構えを示せ! 妙な顔してると付け込まれるで」と言うと、少しの間考えて

「ほうじゃ、ほんならまず機銃の取材をしたらええで。機銃の指揮官に紹介したるわ」

というと一行を引っ張って機銃の平野少尉のところへと向かった。

 

「平野少尉。主砲の真坂兵曹であります!」

主砲の真坂上等兵曹は露天の三連装機銃座にいた平野少尉を見つけ駆け寄った。平野少尉は機銃座で増添兵曹と長妻兵曹とともに何やら談笑中であったが、「お!どうしたね真坂兵曹」と言って機銃座を出て来た。

真坂兵曹がこれこれこうだ、と説明すると平野少尉の顔が歓喜に輝いた。

そして「ようこそ25ミリ三連装機銃座へ!」と言うと『海きゃん』一行を増添・長妻のいる機銃座の方へ導いた――

   (次回に続きます)

 

          ・・・・・・・・・・・・・・

かわいそうな「海きゃん」取材班・・・でもくじけるな、きっといいことがあるぞ!

というわけで三連装機銃に来た一行ですが、さあどうなる!?
大和の主砲発射音というものを見つけました。
主砲の発射時の衝撃すさまじく乗員は発射を知らせるブザー音とともに退避するんだそうです。・・・でないと怖いことになるとか・・・ゾーッ!



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Secre

kazu さんへ

kazuさんこんばんは!
そうそうありました。
この時は発射時の警告ブザーが鳴らなかったとか聞こえなかったとかでいきなりの主砲発射だったそうです。
中には機銃の兵が海に吹っ飛ばされた・・・というのも聴きましたが???
でもさもありなんという感じではありますね。

はっきりとした記憶ではないのですが、
レイテの時、武蔵が、発射した主砲の音に乗員が、止めてくれと、叫んだとか?
凄いですよね。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
『大和』乗組員と「海きゃん」取材班・・・全く立場も何も違う相手ですが何とかお互いの立ち位置をわかり合ってほしい。
最近は同じ組織の中でも立場が違うととてつもない反目をしあったりしてどうしようもないことが起きたりしています。
どうやってそれを乗り越えるかが課題ですね・・・
『大和』の連中と「海きゃん」の連中がお互いをわかりあえるのでしょうか?
完全ではなくとも分かってほしいですが・・・
続きをご期待ください^^。

取材する人の気持ちが克明に伝わってきました。もしかしたら僕だって淺間中尉のようにするかもしれません。取り成しも相手によりけりで逆に怒らせてしまいましたね。
現場で死と隣り合わせで戦っている人、文章でそれを伝えなきゃならない人。立場がまったく違いますが、本来であればそんな世の中であってはならないはず。でもいまだに戦場があり、そこを取材する人もいるのが現状ですね。
見張り員さんの今回の海ちゃん登場は何ごとによらず世の中には対局するものがたくさんあることを気付かせてもらっているように思いました。
しかし、海きゃんの皆さんももう少し勉強せねば混乱と騒動と諍いの元凶になったりして。
プロフィール

見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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