2017-10

「女だらけの戦艦大和」・秘密の花園、『大和』❤2 - 2012.11.22 Thu

『大和』からの迎えのランチの中で人一倍はしゃいでいたのは誰あろう、殘間中尉と筑紫少尉であった――

 

二人は先ほどまでの船酔いもどこへやら、ランチの中で「あれがそう?」「いや違うってあっちだよ」「え~、どれなのかなあ、わかんなーい」などとまるで女学生のようにさえずってやかましい。「陣痛」を降りる際に着換えた二種軍装が陽にまぶしく映える。

さすがに袴田兵曹が殘間中尉の袖を引いて「中尉、少しうるさいですよ。お静かになさいまし」といさめた。殘間と筑紫は肩をすくめて黙ったがまたごそごそと話し始める。

黙っているということができないのだろうか、今度は写野兵曹がカメラを構えたままで「殘間中尉に筑紫少尉、さっき注意されたのにまだ分からんのですか!?『海軍きゃんきゃん』編集部の沽券にかかわります!お静かに!」とこれは怒鳴るように言った。

また、肩をすくめる二人を見てランチの漕艇員は(なんだなんだぁ?この連中には階級があるようでないのかね?下士官が士官を怒鳴るなんて、へー、珍しい~)とまるで珍獣を見るような目つきで一行を見ている。

やがて、行く手に大きな、それは大きな鉄の壁がそびえたってきた。

武田水兵長は最初ぼんやりとそれを見つめていたが急にはっとした顔になると、

「皆。あれあれ!あれがその『大和』じゃないかしら!?

と叫んで鉄の壁を指差した。『海きゃん』一行はぽかんと口を開けてその「鉄の壁」に見入っている。でかい、でかすぎる・・・

ランチは『大和』の艦首をめぐってゆく。金色の「菊花紋章」がトレーラーの日差しに照り輝いてまぶしい。

「おお。ここトレーラにまで御稜威(みいつ)はあまねく広まって・・・しかもこの超弩級戦艦はわが帝国海軍の誇りなり!」

と殘間中尉はここでやっと軍人らしい感想を述べた。そしてランチは『大和』の周りを一周して左舷に着いた。すでに大勢の『大和』乗組員が舷側に居並んで彼女たちの到着を待っている。

皆はもうため息しか出ないようでただ呆然と上を見上げている。三谷兵曹が見上げたままで「・・・高い。あの高さまでラッタルを登るの、ちょっと大変かも」

と言った。それを聞きつけた殘間中尉が一瞬ひるんだのを大和の漕艇員は見逃さなかった。ともあれ、艇を舷側につけて一同は荷物を担いでラッタルを駆け上がることになった。

一般の水兵嬢から下士官・士官たちはラッタルを駆け上がるのは慣れた話で荷物を担いで駆け上がるのだって朝飯前。だがこの『海きゃん』一行は全く艦隊勤務をしたこともない言ってみれば海軍のシロート軍人。

格好つけて駆け上がったのはいいがさっそく殘間中尉が私物のカバンを派手におっことし、カバンは哀れ海中にドボン。それだけならまだしも、焦りまくった殘間中尉が足を滑らしラッタルの上でバランスを崩しそうになった。それをあやふく押さえた!――と思った小林兵曹が殘間中尉の体重を支えきれず手すりをつかんでいた右手を離してしまい、あっという間に殘間中尉以下総員がラッタルから転げ落ち、海中に転落してしまった。

否、総員というのは正しくない。ただ一人ラッタルの上で写真を取っていた写野兵曹だけは無事で、

「うわあ、シャッターチャンス!」

と叫んでこの惨事をカメラに収める。写野兵曹は嬉しそうにシャッターを切りながら「さすが殘間中尉!ちゃ―んと見せどころを心得てるんだからねえ。『海きゃん』編集部魂を見せたね!」とひとりうなずいている。

 

しとどに濡れた二種軍装から、トレーラーの海水をぼたぼたと滴らせた殘間中尉以下が『大和』の磨きあげられた甲板に整列を完了したのはそれから30分も後のことだった。殘間中尉は迎えに出て来た梨賀艦長・野村副長・森上参謀長他参謀たちの前で、軍帽の廂からも水を滴らせて

「『海軍きゃんきゃん』取材班殘間中尉以下7名ただ今到着いたしました!本日よりしばらくの間こちらで取材をさせていただきます。よろしくお願いいたしますっ!」

と申告し、敬礼。他の連中も一斉に敬礼。

梨賀・野村・森上の『大和』の三馬鹿・・・もとい、三賢人らも返礼。梨賀艦長は、びしょびしょの皆を情けなさそうに見つめた後気を取り直して声を励まし、

「ようこそ『大和』へ!遠路はるばるお疲れ様。よい取材ができるよう、我々『大和』乗員一同も協力させてもらう。いい記事をたくさん書いてほしい。ではまずはゆっくり休んで、そのあと艦内を案内させよう」

と言って、『海きゃん』一同はまた敬礼。梨賀艦長ほかは返礼の後、普段は猫背の背をぴんと伸ばしてさっそうと甲板を去ってゆく。殘間中尉達はそれを(かっこいいなあ。やはり大戦艦の艦長とか副長になると威厳が違うね)と羨望のまなざしで見送る。

それを機銃座で見ていた長妻兵曹と増添兵曹たちが「見たか、艦長のやつずいぶんえばっとるのう。ゆうて、お客さんが来たときくらいしかえばれんもんなあ」と言って大笑いしている。

 

一行が乗艦してきた様子を防空指揮所の面々も見ていた。

まずトップのトップに鎮座のハッシー・デ・ラ・マツコが傍らのトメキチを大きなくちばしでつついて、

「ねえちょっと見てえ。あいつら何かしら。やけにびっしょりした連中じゃない?」

と囁いた。トメキチも首を伸ばして見たがよく見えない。そこで下にかけ降りて指揮所の床にたち、見張兵曹に飛びついてみた。

見張兵曹はトメキチを抱き上げると「ほら見てみ。あれいったい誰じゃろうねえ。大きな荷物をもっとるよ?さっきラッタルから転げ落ちとったが、ケガせんかったかねえ?」とその耳にささやいた。

マツコが舞い降りてきて「ふーん、変な奴らね。いったい何をしに来たのかしらねえ??」と言って翼をくちばしで撫でつけた。

そこへ松岡分隊長が入ってきて例のラケットをひと振りした。そばに立っていた麻生分隊士が「危ないねえ、このラケット。分隊長気ぃつけてください、あぶのうていけん!」と文句を言う。見張兵曹が、麻生分隊士の為にそっと場所をずれてやる。分隊士は兵曹に「すまんの」と言って微笑むと見張兵曹にぴったりとくっついた。

松岡分隊長は全く彼女たちの思いなど意に介さないでラケットを振り振り、

「麻生さん、特年兵くん!さあ喜びなさい。あの人たちはその名も高い『海軍きゃんきゃん』の取材班さんたちです。あの人たちは私がここにいるのを聞きつけてやってきてくれたんですから失礼のないよう願いますよ!私がいよいよ全海軍に知られる時が来ましたよー!」

と叫んだ。

麻生分隊士はあきれたような顔になり「また始まりよったで。・・・分隊長、あの人たちは分隊長を取材に来たんとは違う思いますがね。そがいにご自分で言うほど分隊長は有名でもない思いますがね。あんまり天狗にならん方がええ思いますが」と少しきついのではないかとオトメチャンが心配になるくらいの言い方をした。

が松岡分隊長は「麻生さーん、麻生さんは私がうらやましいんだね。よし!では私と一緒に取材を受けようじゃないか。そしたら麻生さんも有名人だよ!」と言って一人で笑って「じゃあ、私はお化粧してくるよ~」というなり走り去ってしまった。

その場に残った皆はぽかんとしたまま立っている。

マツコが

「しゅざい。しゅざいって何かしらねえ。ねえトメキチ、また何か面白いことが始まりそうね」

とウキウキした声でいい、トメキチも「そうねおばさん。僕もなんだかおもしろそうな予感がしてきたよ」と言ってその場を跳ねまわるのであった。

 

そのころ『海きゃん』一行は、副長従兵の一人に案内されてまずはぬれた体を洗うべく士官浴室に案内されていた――

(次回に続きます)

 

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・

さあ『海きゃん』御一行様が我らが大和に乗艦しました・・・が、最初っから大コケしてます。この先何事もなく上手く取材ができるのでしょうか?

ご期待下さい!
 
ラッタル。横須賀の<三笠>で上り下りしましたが結構きつかったです(^_^;)



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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんばんは!
こちらこそ御無沙汰しておりました、お風邪など召してませんか?
ラッタルを落下。私ももう7,8年前に丁度風邪で寝込んでた時トイレに行こうとして階段から見事転落、背中にすごい打撲を負いました。
一人だったので恥ずかしくはなかったですが誰も助けてくれなかったのが辛かったです泣。
駅の階段では大けがしたりしますから要注意ですね。けがしないまでもみんなの視線が集中するのはこれホント恥ずかしいですよね^^。
若いころは駅の階段ダッシュで上り下りしましたがもう駄目です。あきまへん・・・寄る年波には勝てないということでしょうか・・・タメイキ。

こんちは。しばらくご無沙汰しちゃいました。その間に第2の取材先に潜入してたんですね。
ラッタルを落下、これは怖いですね。前のめりにコケればまだ良かったのに。落ちたところが海水で良かった。
若い人たちでこうだから、年寄りには非常に危険な梯子ですね。
以前、ホームに入って来る電車をみて、走って乗り込もうとしたら、途中でコケたことがありました。周りから注目されるし、恥ずかしいったら。
もう足がいうことをきかないですね。


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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