「女だらけの戦艦大和」・新生活!

みなさんは覚えてらっしゃるだろうか。元『武蔵』乗組員で先ごろ出産をした旧姓春山・現姓三浦桃恵のことを――

 

彼女は9月に待望の第一子・女児を出産しそのあと一週間ほどの入院の後退院した。

退院の日、夫の三浦智一は仕事場の自動車を、喜木少佐の計らいで借りて乗って迎えに来た。それには、桃恵の長兄とその妻も乗っている。長兄夫妻は、桃恵の入院中数回見舞いに来てくれていた。両親のいない桃恵にとってこの長兄の妻は母親の代わりの存在である。

三人は桃恵の病室に向かった。病室ではもう百恵がすっかり退院の準備を整えて待っていた。赤ん坊――三浦継代と命名された――は桃恵が使っていたベッドの横に置かれた小さなベッドで眠っている。

部屋の戸がノックされ三人が入ってきた。

「ああ、兄さん姉さん・・・智一さん」

と、桃恵は嬉しそうに言ってベッドの端から立ち上がった。義姉・あやこが「急に立って平気なの?無理したらだめよ」と駆け寄ってそっと座らせる。その義姉に「ありがとうおねえさん、もう平気です」と笑って見せる桃恵。

智一は「では産科軍医にあいさつして退院の手続きをしてきます」と言って部屋を出た。その後ろ姿を見送って長兄・春山竹男はベビーベッドの中の継代を見た。そして満面の笑みで

「継ちゃんよ、わしが伯父さんだ。これからいろいろ教えてあげるから楽しみにしてろよ~」

と話しかける。あやこがわざと目を見開いて「あなた、変なこと教えたらだめですよ。あなたの子供じゃないんですから」と大げさな格好でたしなめた。

桃恵がその義姉のそぶりを見て思わず声を立てて笑った。

 

産科軍医が衛生兵嬢二人とともに部屋に来て、竹男たちに「もうすっかり貧血も治りましたから心配はありません。赤ちゃんも悪いところは全くありませんからご安心を。もし何か気がかりがありましたらすぐにこちらにいらしてください。それから一カ月あと検診がありますから忘れずに来てください。――退院おめでとう」といい、桃恵は軍医に深く頭を下げ

「お世話になりました。また検診の際にはよろしくお願いいたします」

とあいさつ。軍医は深くうなずくと、

「さすが、もと『武蔵』乗り組みの方だけある。お産の時も立派でしたよ。『武蔵』の誇りを忘れないで生きてください」

と言って桃恵の両手をしっかりつかんだ。はい、と言った桃恵の瞳に力がみなぎった。

産科軍医と衛生兵嬢たちに玄関まで見送って貰い、一行は帰宅の途に就いた。車中、あやこが継代をだっこして嬉しそうである。あやこたちの娘は二人いて上の子は嫁に行き、下の子は桃恵のように海軍に御奉公。あやこは継代の顔を見つめながら

「こんなに小さかったんだわね、あの子たちも・・・懐かしい感触だわ」

と独り言のように呟いている。それがわかったわけではないだろうが、あやこの腕の中で継代は笑った。そのかわいい笑いを見てあやこは一層幸せな気分になる。

またその様子を横から見る桃恵も心楽しい。

 

三浦中尉は子供が生まれた直後、今までの家から官舎に引っ越した。それまでの家は借家で手狭であったため喜木少佐が「だめよおあなた。子供を育てるのにあんな狭い暗い家じゃ。あたしが官舎を借りてあげるからそこに行きなさい。え?引越しの手伝いがいないってそんなの皆でやりゃああっという間よ」とすぐに官舎を借りてくれた上に休日返上で職場の皆とともに一日で終わらせてくれたのだった。

その話を入院中の桃恵は夫から聞かされ、「喜木少佐には感謝してもしきれませんね。職場の皆さまにもどうぞくれぐれもよろしく。・・・そのうち何かお礼をきちんとしないといけませんね」と深い感謝の意を表した。そして(私の夫はなんて周りの人に恵まれているのだろう。それは私も同じだったけど、こんな幸せって他にはない。どうか、工廠の皆さんにも『武蔵』の皆にもこの先よいことがたくさんありますように)と祈るのだった。

 

自動車は新しい家――横須賀海軍工廠の官舎――に着いた。何件も同じような形の一軒家が並んだその一つが三人の新居である。

自動車から降りたって、三浦中尉は後部のドアを開けた。春山竹男・あやこ、そして三浦桃恵が降りたった。

継代をあやこから受け取った桃恵は、ほうっと息をついて新しい家を見つめた。そして「こんなに素晴らしい家に住めるなんて」と感嘆の声をあげた。

「さあ、入ろう」と三浦中尉が玄関のかぎを開け、引き戸を開けた。あやこが「さあ」と桃恵にいい、桃恵はうなずくと継代を抱きなおして玄関に足を踏み入れた。

後ろから三浦中尉が「お帰り、桃恵、継代。今日からここが私たちの家だよ!」と声をかけ竹男夫妻が「お帰り!」と声をかけた。

桃恵は嬉しさに涙ぐみながら

「ただ今帰りました」

と言ってまわれ右すると、三人に向かって頭を下げた。その腕の中で、継代が小さく欠伸をした。

 

その晩は、竹男夫妻は中尉から「ぜひ今夜は泊っていってください!」と言われて新居に宿泊。桃恵もうれしそうである。食事はこれまた喜木少佐が「退院祝いよ!」と横須賀の料理屋から仕出しを手配してくれて豪勢な夕食になった。そのあと、継代を風呂に入れるのはあやこが慣れた手つきでやってくれた。

「さすがおねえさん。二人のお子さんを育てた方のやり方は見事ですねえ!」と三浦中尉は感激してその様子をじっと見ている。そして「今度は私がしますからね!」ともうやる気満々である。

風呂から上がった継代は、用意してあった湯ざましをぐいぐい飲んでおしっこをした。

 

夜も更け、竹男夫妻は奥の八畳間に休み、桃恵は智一と継代とともに六畳の部屋で休む。

智一はすやすやと眠る継代を幸せそうな笑顔で飽くことなく見つめて、やがて桃恵を抱きしめた。

そして、

「お帰り、桃恵さん。あなたが入院中は私は寂しかったですよ。でもこうして、継代という大きな宝物と一緒に帰ってきてくれて、私は本当にうれしいよ・・・」

と言って抱きしめる腕に力がこもった。桃恵はたまらなく幸せな気分に胸を占領されて何ともいい難い、甘酸っぱいような気分になった。

そして中尉の胸に頬を寄せると

「ありがとうございます、あなた。こんな素敵な家に親子で住まわせていただけてとても幸せ。私は本当に」

幸せです、と言いかけた桃恵の唇に中尉のそれが重なった。二人は布団の上に倒れ込んでなお、唇を重ね合っている。

と。

継代が、泣き始めた。

二人の重なった唇が離れた。桃恵が「あ・・・」と小さく言って胸に手を当てた。中尉が「どうしました?」と心配げに問うと、桃恵は笑って

「お乳が張ってきました。赤ちゃんの泣き声を聞くとお乳が張るんですよ」

といい、そっと起き上ると継代を抱き上げた。継代はもう、乳を捜しているかのようで桃恵の胸の方に顔を向けている。

「ほら、お乳ですよ」

桃恵は中尉の視線を感じて少し恥ずかしげに寝間着の胸をはだけ、乳房をそっと出すと継代に含ませた。

継代はその小さな手の指を桃恵の乳に触れながら一心に飲む。その横に座って三浦中尉はその様子に見入っている。

桃恵は中尉を見ると、

「しばらくの間は夜なかでもこうしてお乳であなたも起こしてしまうかもしれません。一緒の部屋で平気ですか?」

と心配そうに聞いた。三浦中尉は優秀な技術士官である。家庭の事情が仕事の邪魔になってはならない。

が、三浦中尉はその妻の懸念を払しょくするように笑って言った。

「平気ですよ。私たちの子供ですもの、泣こうが喚こうがどうってことないですよ。それにそんなことも小さいうちだけだと思うとなんだか愛おしいです・・・私はそれを楽しむつもりですよ」

桃恵はそれを聞いて安心して微笑んだ。そして、無心に乳を飲む継代を見ながら

「そうですよね、私たちの子供ですものね。泣いても可愛い。一緒に楽しみましょうか」

と言った後急に真顔になると、中尉を見た。中尉が何事か?と言った顔で桃恵を見ると、桃恵はいたずらっぽい笑みを含んだ瞳で中尉を見つめ

「あなた。また敬語。ダメですよって約束しましたよね」

といい――二人はくすくすと笑いあったのだった。

 

三浦家、いよいよ始動開始――!

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

あの三浦中尉と桃恵夫妻のその後の話です。

いよいよ退院した二人は新しい家で新しい生活を始めます!最初の子供は親も慣れない、その親の動揺が子供に伝わるのか子供もなんだか不安定な気分なのか??

夜間の授乳や夜泣きに翻弄されはしましたがすぎさればいい思い出になります^^。

 

『海きゃん』取材班の続きは次回から始まります!お楽しみに。



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ウダモさんへ

ウダモさんこんばんは!
もうすっかり遠くなってしまったあの日の風景・・・でもこの腕にはあの頃の子供の重みがしっかり残っていますし鼻腔の奥には赤ん坊のあのミルクのにおいが残っていて時折蘇ります。
夫婦でこしらえた子供なんですから何でも妻任せはよくないんじゃないかと思いますね。男性は外での仕事が忙しいのは至極当然ですがそれを逃げ口上にしてほしくないなあ~と思います。
ホント、誕生日や記念日のプレゼントより夜中の授乳やおむつ替えをわかってくれた方がずっとストレスが軽減しますよね~。
「きゃんきゃん」喜んでいただけてうれしいです。続きが始まりますのでまたよろしくね~~^^。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
生まれて間もない赤ちゃん、思い浮かべると思わずほほが緩んでしまいますね^^。
赤ちゃんにお乳を与えるときのあの至福の瞬間--一生忘れられないですよね~~あのずしっとした赤ちゃん特有の重さ、時折腕によみがえりますね❤
>読む人たちみんなが家族の気持ち
そうおっしゃっていただけると書いた甲斐がありますね!
そしてこれをもし、まだ未婚の女性や男性が読まれて「将来こういう家族になりたい」と思ってくれたらいいですね^^。

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
まろにいさまご一家の26年前の優しい時間が目に見えるようです・・・
赤ん坊は日ごとに変わり、その変化が嬉しいものでした。
あの思い出は一生忘れることができませんね。
19年前の今頃、16年前の今頃は私は臨月に入るところでした。大きなおなかで仕事をしてたのが懐かしいです。
三浦一家は私の憧れであり、日本の家族がこうあってくれたらという願望でもあります。かつての日本の子育てがもたらした功の部分をもう一度見直したいですね!

おはようです☆彡

ホントに懐かしい光景^^b
夫婦の姿って、こうでなきゃと思います。
二人の子供…なんですものね。
三浦中尉のような心の広さがあれば、育児ストレスを抱える若い奥さんも少なくなると思いますねー。
優しさって、こういう事ですよね★
誕生日や結婚記念日にプレゼントしてもらうより、夜中の授乳を理解してもらう方が女にとっては有難い事だと思いますね。
きゃんきゃん読みましたよ~w
面白かったぁ^^b
ドタバタはこうでなきゃwww

懐かしい光景を思い出させて下さいました。ちょうど26年前の今頃は、長男を囲んで三浦家と同じような家族でした。
夜泣き、発熱、そして日ごとに変わる表情。毎日が初体験、毎日が穏やかでした。
いつの間にやら竹男さんの年になってしまった私であります。
それにしても三浦家の優しい空気。今どきこんな夫婦も家族も、そして周りの人たちも少なくなりましたね。
子供は親が躾け、世間様が育ててくれるようなものです。それをいうまく表している見張り員さんも立派です。
朝から気持ちの良い思いをさせて頂きました。ありがとう!!

こんばんは。継代ちゃん、かわいい!!文章を読んでいるだけでもまわりの皆さまのしあわせな空気が伝わってきます。
赤ちゃんがお乳を飲むときに大事そうに手を添えている…みたいな短歌を読みました。
スクスク大きくなって欲しいです。読む人たちみんなが家族の気持ちではないかしらん?役割はそれぞれでしょうが~私はおばあちゃん担当だったりして(笑)
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見張り員

Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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