2017-10

「女だらけの戦艦大和」・薫風のふるさと4<解決編> - 2012.05.09 Wed

麻生分隊士と見張兵曹は、兵曹の生みの母の墓の前に立っている。すでに桜の花は散り去って,桜葉の青がたくましい――

 

麻生と見張の二人とトメキチは、長かった内地での最後の上陸を下宿で過ごした。下宿のおばさんは「もうふーチャンたちが向こうに行ってしまう思うたら寂しいていけんねえ」と言いながら心尽くしのごちそうを出してくれる。

そのおばさんに分隊士とオトメチャンは心から感謝して、トメキチも感謝の意を伝えるかのようにおばさんにすり寄って甘える。おばさんもうれしそうにトメキチを抱き上げては外に連れて行ったり添い寝してやったりしている。

そんな嬉しそうなおばさんの姿に、強い寂しさがまとわりついていることにオトメチャンは気が付いている。

 

そんな日も今日で終わる、という日。麻生分隊士は「オトメチャン、お母さんにしばらくの暇乞いをしてこよう」と言って見張兵曹とトメキチを墓地に誘った。

「分隊士、ありがとうございます。うちの母親のこと、覚えてくださっていて」

見張兵曹はそう言って麻生分隊士に礼を言った。分隊士はいやあ、と照れ臭そうに手を横に振ってから「こうしてオトメチャンのお母さんのお墓がわかったんじゃけえ、内地に帰った時と外地に行くときはあいさつせんとうちが落ち着かんでね」と言って笑った。

見張兵曹は、下宿のおばさんからもらった花の束と線香を持って歩く。トメキチが麻生分隊士に抱っこされて、首をのばしては花や線香のにおいをかいでいる。そのトメキチに麻生分隊士は「ええか、これからオトメチャンのお母さんに会いに行くんじゃけえ、トメキチもあいさつせえよ?」と言い含めていて、見張兵曹はなんだかおかしくってくすくす笑った。

 

墓地への道は緩やかな登り坂。

やがて<見張 トヨ>の墓が見えて来た。見張兵曹はそっとその墓を指差して、「ほらトメキチ。あれがうちのお母さんのお墓じゃ」と教えてやった。

「ほう、もうすっかり青葉になってしもうたね。最初に来た時は正月じゃったか、そのあとは桜のころ。折々でええ景色になって、ここは奥津城としては本当にええとこじゃわ。・・・オトメチャンのお父さんがどれほどお母さんを大事に思うとったか、ようわかる」

麻生少尉はそう言ってしばらく瞑目した。見張兵曹はその分隊士を見てうなずいた。確かにこの墓所には父・洋二郎の、トヨへの愛情が伝わってくるものがある。

分隊士は、トメキチを腕からおろして「ほら、オトメチャンのお母さんじゃ。あいさつせえ?」と言った。トメキチは二本足で立って墓の前にそっと寄って行った。

(トメさんのお母さん・・・トメキチと言います。どうぞよろしくお願いします。僕はトメさんには前からとってもよくしてもらって、僕は幸せです。トメさんのお母さん、どうかトメさんをずっと見守ってあげてください)

トメキチはそう言って墓の前に座った。それを合図のように見張兵曹は花入れに花の束を入れ、持ってきたマッチで線香に火をつけると墓の前に置いた。

麻生少尉と見張兵曹はそっと手を合わせて祈る。トメキチは、線香の煙の流れを目で追っている。不意に、さわさわと木々の梢を鳴らして風が吹きわたった。

トメキチが顔をあげて小さく「クーン」と鳴いた。トメキチは感じていた、(ほらトメさん、今お母さんが笑ってそこにいますよ。麻生さん、お母さんが『トメをよろしく』って言ってますよ)。

麻生分隊士はふっと顔を上げて立ち上がった、そしてあたりを見回すようにして「なあ、オトメチャンよ」と言った。

見張兵曹は顔をあげて、少尉を見上げた。「分隊士、どうしたんですか?」

その兵曹に少尉は「今なあ、なんだかオトメチャンのお母さんの声がしたような気ぃしたんじゃがなあ」と言って空を見上げた。

見張兵曹も立ち上がると、あたりを見て「ほうですか・・うちもなんだか聞こえたような気がしとります。いうて、うちはお母さんの声は知らんのですが」と言って分隊士を見て微笑んだ。

麻生少尉も「ほうじゃなあ、うちもオトメチャンのお母さんの声を知らんはずじゃが、なんというたらええか、きっと心で聴いたんじゃろうな。・・・オトメチャンのお母さん、安心してつかあさい。オトメチャンはうちが守りますけえ」というと改めて墓前に手を合わせたのだった。

その分隊士を嬉しそうに見つめる見張兵曹、トメキチはその二人を見て

(お母さん安心してますよ。トメさん、麻生さんを信じてついてゆきなさいって。麻生さん、どうかトメさんをいついつまでもよろしくって。お母さんはいつもここで見守っていますよって・・・)

と言った。そのトメキチの声が聞こえたわけでもないだろうが、見張兵曹はトメキチを抱き上げると

「お母さん、また元気でここに帰ってきますけえ、見守っててくださいね」

と墓に向かって最敬礼した。麻生少尉がそれに続いた。敬礼の手を下した後も見張兵曹は名残惜しげに墓を見つめていたが、やがて踵を返して麻生少尉、トメキチとともに山を下りて行った。

 

下宿に戻った二人と一匹は艦に戻る準備をしたがトメキチはさしあたってやることがないので階下のおばさんのところで遊んでいる。

窓を開け放って呉の空気を胸一杯に吸い込んだ二人は並んで景色に見入った。

「またしばらく、お別れですね・・・こことも」

見張兵曹がぽつりと言うと麻生少尉はその肩をグイ、と抱き寄せて

「ほうじゃな。寂しいか」

と聞いた。見張兵曹は首を横に振って「寂しいことはないです。また戻れる思うてますから。ただ今回はちいとばかり長すぎましたね」と言って笑った。分隊士も「ほうよ、今回は長かったのう。その上松岡分隊長が測距儀を壊してくれてまたちいと長うなったしのう」と言い笑う。

「でも、明日からはまた気を引き締めてかからんといけませんね。はよう敵を降伏さしてここに凱旋する日を」とそこまでいった兵曹の言葉が遮られた。麻生分隊士の急な口づけが遮ったのだった。

ややして唇を離した分隊士は見張兵曹の顔を覗き込むようにして見た。見張兵曹は恥ずかしげに顔を伏せる。分隊士は、「はよう敵を撃滅してここに凱旋しような。ほいでここのおばさんや西田さん、オトメチャンのお爺さんお婆さんをアメリカにご招待じゃ。そのためにはまだまだ大変なこともあろうが・・・頑張ろうな」というとオトメチャンをぐうっと抱きしめた。抱きしめられながら「はい、頑張ります」と答えるオトメチャンである。

 

今回最後の上陸を終えた皆が「女だらけの大和」に戻ってきた。

それぞれの三日間の休暇を思い思いにすごして来た。家族と久しぶりにゆっくりできたものもいれば同期の仲間と楽しくすごしたものもいる。石場兵曹は宮島の実家に帰って兄弟と楽しくすごし、例によって「もみじまんじゅう」を大量にお土産として持って帰ってきたし、機銃の指揮官・平野少尉は髪の毛に悩む部下の増添兵曹のために更にパワーアップした毛はえ薬を買って来た。機関科の松本兵曹長は、そっと呉に呼んだかつての恩人、「新田(しんでん)のおっさん」と逢って昔話に花を咲かした。高角砲の生方中尉は両親に見合いの話を持ってこられて<嬉しげに>とまどっていたし、椿於二矢子兵曹は「今回は私は上陸しません、ここでいろいろ覚えます」と言って浜口機関長を感激させた。樽美酒少尉は、松岡中尉に付きまとわれて迷惑か、と思いきや存外楽しそうに一緒に行動していた。

森上参謀長も家族を呉に呼び寄せて数日過ごしたし、野村副長も家族が来ていたようだ。

そして・・・

「錨を揚げ!」

の号令で、大きな「大和」の錨が巻き上げられた。いよいよ出航の時である。主砲・副砲がその砲身を上下に動かし呉とのしばしの別れを惜しんでいるがごとくである。手すきの乗員は最上甲板に並んで名残を惜しんだ。

さよなら日本よ、また逢う日まで・・・

そんな替え歌が乗組員の間から流れて来た。大丈夫、また来るその日までこの街は、この国はこのままで待っていてくれるだろう。

そのためにも私たちは頑張るのだ。皆の決意が漲った。

「両舷微速前進」の航海長の号令、機関室から「両舷微速前進、静かーに進みます」の復唱。『大和』はその身をトレーラー島に向けて滑らせた・・・・

 

遠くなる呉・広島を見ながら『大和のトップのトップ』ではマツコがトメキチ相手に話をしている。

「ねえ、あの梨賀とかいう偉そうで頓珍漢な女!あれって三人も子供がいたのねえ!」

衝撃的な内容にトメキチは顔をあげてマツコを見る、「おばさん、それって本当なの?」と聞くトメキチにマツコは体を膨らまして「嘘なんか言うかってのよ。アタシ昨晩ちょっと魚探しに飛んでたらあいつ桟橋にいたんだけど、家族がうんとこさ来ててさあ。しかもその中の子供三人が『お母さんお母さん』って言って艦長にしがみついてて・・・アタシちょっと泣けちゃったわよ」というとその光景を思い出したのか、そっと翼の先で涙をぬぐった。トメキチは驚きを収めながら「そうだったの・・・艦長さんに子供さんがいたの。じゃあ、艦長さん別れがつらかったね」と言った。

マツコは「そうよ、あたし子供たちが可哀そうで・・・」と絶句した。トメキチは「でもおばさん。艦長の子供さんたちだってわかってるよ、お母さんは大事な日本のお国を守るために頑張っているんだってこと」と言った。

次の瞬間マツコは大きく翼を広げてバッサバッサと羽ばたくと、ふうふうと息を荒げて「なーに言ってんのようあんた。あたしが可哀そうって言ったのはあの子たち自分のお母さんが<艦艇―ズ>とか言ってバカみたいなことしてるのを知らないってことを言ったのよ。まったく・・・いい年して子供がありながらやることぉ?梨賀も野村も森上も、あいつらあほよ!」と怒っている。

トメキチは「そうだね」と言って苦笑した。

見下ろせば防空指揮所ではもう皆が緊張を持ってそれぞれの業務に励んでいる。どの顔もきりっとして気持ちがよい。

(これでこそ、テイコクカイグンの兵隊さんたちだね)

そう思うトメキチであった。

「女だらけの大和」は、瀬戸内海を西に進み三田尻で駆逐艦・巡洋艦数隻と合流する手はずである。

艦が波を切る音が心地よく響いてくる――

 

      ・・・・・・・・・・・・・

ようやく「女だらけの大和」、トレーラーに向けて出航できました。思えば長い呉滞在でした・・・いろいろなことがありましたがその思い出を胸に、また頑張りましょう!

さて、次回は??


有賀艦長です。あだ名は「エントツ男」。ヘビースモーカーだったからとか!
艦有賀幸作艦長 


森上、じゃなかった森下信衛少将(大和艦長を務めたことがあります)。
森下信衛少将 


で、能村次郎副長の写真がないので・・・ご著書。
慟哭の海 
(画像はお借りしました)

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● COMMENT ●

matsuyama さんへ

matsuyama さんこんにちは!
このさわやかな時期の墓参もいいと思いますよね。吹きわたる風が故人への思いを、去って久しい人に届けてくれそうな気がします。
墓というものはやはり「よりどころ」として必要ではないかと思います、が、最近の都市部の墓地事情は厳しく私の実家のように「家を継ぐ男子」がいないと墓地を売らない、という業者もあると聞きなんだか情けない思いでいっぱいです。
実家のほうの墓地は宮崎にありますが「そんなところ遠すぎる、行けない」と旦那はいいます。結局一人っ子の家の祭祀というものはこうしてないがしろにされ絶えてゆくのでしょうか?
私は先祖に対して滞在を冒したくないですね・・・

タイトル

風薫るこの5月の上陸。爽やかに吹き抜ける風もお墓参りを盛り上げてくれるでしょうね。
見張兵曹のお母さんのお墓も見つかり、いいご供養ができたものと思います。
やはり今の自分の存在に感謝できるのはお墓ですよね。先祖の霊に感謝です。

オスカーさんへ

オスカーさんこんばんは!
れんげ草というと何かこう切ない恋の物語が浮かんできますね・・
今回派手な❤シーンのなかった二人ではありますが、またそのうち・・・期待していてくださいね^^。
マツコ。
彼女にもそのうちだれかいい人(いい鳥?)を、と思います。
しかしなんだか『大和の守護鳥』にようになりつつある気がしてきました・・・ガーン!

柴犬ケイさんへ

柴犬ケイさんこんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます。
昨日一昨日、こちらも結構な大雨と雷で参りました・・・(-_-;)・・・
モミジは雷が鳴ると家のほうに入ってきて扉の内側で寝ころんでいます、あまり怖そうではないんですよね~震えたりもしないで「何これ?」」って顔しています。ちょっとした雨では外に出たがる変な犬です(ーー;)
ご心配をありがとうございます、こんな調子のモミジです。今度モミジの写真をアップしようと思います!

ジスさんへ

ジスさんこんばんは!
こちらこそいつもありがとうございます。ジスさんもいいお休みだったようでなによりです^^、ご家族がいろんなことを語り合えるというのは当たり前なようでいて意外と出来ないものかもしれません。
貴重なお休みでしたね!時にはどこへも行かないで家でのんびりするのも本当のリフレッシュになるかも知れません。
また始まった日常をお互い頑張って過ごしましょう、次の休暇のために。
でも健康には気をつけてね!

こんにちは。
♪両手をあわせたかたわらで揺れてるれんげ草~あなたの大事な人を僕にまかせて下さい~
この歌を思い出す2人の姿でありました~想いは海風にのり各地に届くのでしょう。マツコ~アナタにも心をよせる誰かがあらわれますように(笑)

タイトル

見張り員さん  こんばんは♪
いつもありがとうございます♪
昨日と今日は関東地方は雷と豪雨に雹などで傘もさせない
ほどに突風と異常気象ですがモミジちゃん怖がっていませんか?
1歳の柴犬を飼っている方がご飯も食べず震っていたとブログで
心配されていましたのでモミジちゃんは大丈夫か心配になりました。

タイトル

こんばんは。いつもありがとうございます。
ご無沙汰しておりました。皆さんそれぞれの上陸のお話ゆっくりと楽しませて頂きました。
楽しい休暇も辛い日常があればこそってどっかで聞いたような気がしますが、やはり休暇というものは良いものですね。今年は事情がありどこにも出かけていませんが家族それぞれが思っていること語り合ったりできたのは良かったかと思います。
日常が始まりましたね。お互い頑張りましょうか。

鍵コメ様へ

鍵コメ様こんばんは!
お元気で安心しました!
娘たちもホッとしています^^。
こんな陽気だとちょっとつらいですね、早く安定するといいのですが・・・今日も雨が降りましたが大事なかったですか?
土浦にはまだ行ったことがありませんが絶対行きたいと思います。かつての青年たちの憧れの土地、私も踏みに行きたいです!
どうぞ御身大切にお過ごしくださいね。
ご無理のありませんように^^!

まろゆーろさんへ

まろゆーろさんこんばんは!
さみしさ、それが人のものであったときなど、ふれた途端に何か見てはいけないものを見てしまったような気になったりします。切なさがこみあげてしまいます。
マツコもずいぶんと優しく物分かりがよくなりました。この先ももっと人の心とか物事を見つめて本当に大きな鳥になることでしょう!
護国神社での「合祀祭」での様子、まさに御英霊が御移りになっているのがわかりますね。実体はなくとも、「気配」とでもいいますか確実にここにいらっしゃる、ということが分かる瞬間がありますね。そういう時お羽車は重みを増すのだそうです。
ご英霊に関する限り「怖い」とか「恐怖感」はないですよね。私も感じますがあえて言うなら「恐れ」ではなく「畏れ」の文字が合うような気がしています。時には慈愛のような雰囲気すら感じます。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

タイトル

さまざまな上陸でしたね。
人間の内面や、その人の家族の面影が見えたりすると私も心が揺らぎます。
やっぱり人の寂しさには触れたくないものですね。マツコさんも穏やかになって……。彼女にも感動しました。
毎年、秋季例大祭の前夜に合祀祭という招魂の夜儀を行うのですが、
まさしくザワザワと梢が揺れて、ご英霊となられた御柱がお羽車に遷るのが分かります。
篝火だけの中で執り行われる独特な雰囲気ですが不思議と怖くないのです。


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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