「女だらけの戦艦大和」・哀愁かつら3

「髪の毛のお化けが出たっ!」という居住区からの叫びに、泣いていた増添兵曹はハッとして顔を上げた――

 

その少し前、高角砲分隊のとある班ではいわゆる「甲板整列」が行われていた。これはいわゆるシゴキで、班長のご機の悪さによって始まる。この日大変機嫌の悪かった高角砲第六班班長・野田佳子上等兵曹は巡検後、班員に「整列!」を命じた。班員は真っ青になりながら整列、(今日はいったい何なんだ?)と思いつつ。

野田兵曹は「今日私のチェストに泥鰌を入れたのは誰ですかっ!素直に言えばよし、言わねばひっぱたきますからねッ!」と怒り心頭である。

「泥鰌・・・」と班員は怪訝な表情である。野田兵曹は「そうですっ!泥鰌ですよッ!さあ、はよう名乗り出んか!」と怒鳴り出す。

「ここに泥鰌が居ったかいな?」と松原二等兵曹がつぶやく。その時、野田兵曹は「はいっ、時間切れっ!誰も名乗り出ないんだな、じゃあ皆で責任をとるがいい!そこに一列に並べ!」とついにキレて皆は仕方なく整列。

「さあ、行くぞ!」と野田兵曹が最初の水兵の尻に精神棒を構えた時。

野田兵曹と、兵曹に背を向けている水兵の間を「何か」が入りこむような形になった。

「!!」

野田兵曹は足元のそれを凝視した。それほど明るいとは言えない艦内灯の元、それは野田兵曹の前で立ち止まった。

「・・・?」

野田兵曹がさらにそれを見つめたその時、まるで髪の毛の塊のようなものの間から、ギザギザの歯のようなものがグワッと飛び出した。

「うっ、うわああ!」野田兵曹はものすごく驚いて叫びをあげて飛び退いた。皆が野田兵曹を見返ると、床に腰を抜かしている兵曹のそばを髪の毛の塊がサーっと走り抜けて行った。

「キャーーーっ!」「ば、ば、化け物じゃあ!!」

大騒ぎに陥り、甲板整列どころではなくなったのだった。

 

増添兵曹は声の元に走った。

途中、走ってくる見張兵曹に出会った。「おう、オトメチャン。どうした?」と増添兵曹は言った。見張兵曹は「ヘンな話を聞きまして。もしかしてトメキチが何かいたずらしてるんじゃないかって思って。あの子姿が見えんのです」という。

「トメキチが?」増添兵曹は言った。もし、もしもだがトメキチが私のかつらをいたずらしているとしたら・・・

「いけんで、もしもトメキチがあれをいたずらしたら・・・」といいかける増添兵曹に見張兵曹は「あれ、とは?」と聞き返した。

増添兵曹はハッとして「いや、なんでもないけえ」というと、二人は大騒ぎのただなかに入って行った。

野田兵曹と、高角砲第六班の班員は真っ青になって興奮している。他の班や分隊の連中に手を揺りまわしながら話している。

騒ぎを聞きつけた副長や、衛兵伍長・掌航海長などまでが駈けつけてきて話に加わる。

増添兵曹がそこに割って入った、「あの、そのお化けはいったいどこに行きましたか?」。見張兵曹も「もしかしたらそれはトメキチかも知れんのです!」という。

「え、トメキチがなんで?」と副長が言うのへ、増添兵曹は「実は私、上の機銃座から大事な部分かつらを落としてしもうたんです。推測ではありますがそれをトメキチが拾うていたずらしとるようなんです」といい、自分の艦内帽を取って見せた。

痛ましい前頭部、前髪のほとんどなくなった頭を皆にさらしている。増添兵曹は非常事態に陥ってもう正常な思考も出来ないのか、堂々とさらけ出す。

「・・・」

声なき声が皆の間に漏れた。その時、烹炊所のほうで「ぎゃー!」という叫び。見張兵曹は増添兵曹の袖をひっぱって、「増添兵曹、はよう。烹炊所じゃ!」と言って走り出す。皆がそれに倣って大集団が廊下を走りだした。

兵員用の烹炊所では、調理器具の点検中だった主計科員がパニックに陥っている。口々に「毛のお化け」「髪の塊が!」と口角泡を飛ばしている。

「一体どこに逃げたんじゃ・・・」

と口惜しそうな増添兵曹。その時副長が「いたぞ、増添兵曹こっちだあ!」と叫び皆は声のほうに。

副長が指さす方に、廊下を走ってゆく髪の毛の塊がいる。見張兵曹は「トメキチ!」と叫んでいた。一瞬髪の毛の動きが止まった。が、次の瞬間には髪の毛はその場でジャンプするとまた走ってゆく。

「増添兵曹、あれはトメキチです。トメキチ、みんなが遊んでくれとる思うてますよ」

見張兵曹は困った顔で言った。増添兵曹も困り顔で「なんとか捕まえんと、かつらがボロボロになってしまうねえ。あれはうちの命じゃけえ、なんとかせんと」と必死に走る。

事実トメキチは嬉しくてたまらなかった。今やほとんどの艦内の将兵が自分を追っかけてくれているのだ、これほどスリリングで楽しいことはない。

しかも皆自分のこの姿に大声で反応してくれると言うのがたまらない。

トメキチは髪をなびかせて走る。

艦長や参謀長の部屋の前を通る時、わざとドアを蹴ってゆく。その音に顔を出した梨賀艦長や森上参謀長の驚きの顔もトメキチには嬉しいことこの上ない。

その騒ぎは、医務科にまで届いている。(はた)睦子(むつこ)軍医大尉は艦内で起きている騒動を軍医長に話した。

日野原軍医長はそれを聞いて、畑睦子軍医大尉に「それはもしかしたらトメキチかもしれんな。髪の毛・・・かつらだろうたぶん。増添のものとしか思えないね。そうだとしてなんでトメキチがかつらを持ってるのかはわからんがね?しかし、興奮しまくったトメキチはなかなかつかまらんぞ。では、こうしようか」というと、机の前から立ち上がった。畑大尉に「ちょっと手伝ってくれるかね」と手招いた。畑大尉はそのあとにしたがう。

日野原軍医長はおもむろに手術室に行った、そして――。

 (次回に続きます)


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Zwergpinscher.Denzo-vom-Reichsgraf-zu-Herrenheim 1500X1500.jpgトメキチのイメージのワンちゃん、ミニピンです。だいたいこういう感じのワンちゃんをイメージしています、トメキチ。(画像WIKIよりお借りしました)
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Comments 4

見張り員">
見張り員  
ジスさんへ

こんばんは!
お元気そうでなによりです。
ついに出た、土壌じゃなかった泥鰌です!
なんだか総理・内閣のメンバーがしょっちゅう変わる日本もおかしなもんですよね、外国から相当変に思われていますし、不信感を買っているようです。
まともな政治をしてくれれば支持する・・・と思うのでまじめにやってほしいものですよね。
トメキチ、もう全開ドッグですww!!

2011/09/05 (Mon) 20:13 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
見張り員">
見張り員  
まろゆーろさんへ

こんばんは!
さっそく出ました~~!
野田どぜう兵曹ですww。いや~現実社会にはネタがたくさん落ちていて苦労しませんよ、ハハハ!!なんて。
大変な艦内騒動になっちゃいました、さあどう収拾しますか、お楽しみに!

2011/09/05 (Mon) 20:10 | EDIT | 見張り員さん">REPLY |   
ジス  

こんばんは。いつもありがとうございます。
泥鰌!出ましたね!!さすがタイムリーな話題の見張り員さんですね。外国人からの献金問題で、どうなっちゃうんかはわからないですが・・・海外から舐められないためにも一国の総理、きちんとお勤めしてもらいたいものです。
トメキチ、しっかりと脳内補充完了です!なかなか凛々しくてカッコイイではないですか!

2011/09/04 (Sun) 23:41 | EDIT | REPLY |   
まろゆーろ  

さっそく泥鰌が……。野田の佳子さんが……。
明日は月曜日、元気な朝を迎えられそうなくらい笑いました。
それにしてもてんやわんやの艦内が手に取れるように面白く伝わってきました!!!

2011/09/04 (Sun) 21:58 | EDIT | REPLY |   

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女だらけの「帝国海軍」、大和や武蔵、飛龍や赤城そのほかの艦艇や飛行隊・潜水艦で生きる女の子たちの日常生活を描いています。どんな毎日があるのか、ちょっと覗いてみませんか?
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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)