2017-10

「女だらけの戦艦大和」・VACATION3 - 2010.07.04 Sun

今度は浜口大尉が「あっ」と大声をあげた――

 

皆はまた、なんだと驚いた。浜口大尉はそして一直線にあるところに向かって走ってゆく。松本兵曹長が「追うぞ」と言って皆はまた走り出す。すぐにその姿は見つかった。

浜口大尉は樹の陰に隠れるようにして立っている。

その視線の先には。

 

トレーラ島分遣隊の「憲兵」さんたちがいる。こちらに背を向けているせいか、浜口大尉が背後にいることに気がつかないらしい。

松本兵曹長が小声で、

「あれが浜口大尉の趣味なんだぜ、憲兵を見つけると殴りかかる。・・・いいか見てろよ」

という。

浜口大尉の「憲兵さん襲撃」は、ここや内地などの憲兵隊では恐怖をもって語られている。伝説化していると言っても過言ではない。浜口大尉は憲兵さんたちの間では『狂犬浜口』と恐れられている。

何故だか、浜口大尉は憲兵さんたちを見るとちょっかいを掛けずにはいられないのだそうだ。別に恨みがあるとかそういうことではないと言うのだから、本人にしてみれば「コミュニケーション」を図っているつもりなのであろう。けれど、襲われるほうとしては「自分たちは何にもしていないのになんであの人は我々を殴るんだ。理不尽だ」となる。

殴るだけでもどうかと思うが、呉では殴った挙句境川に叩きこんで凱歌を上げてしまったと言う「武勇伝」もある。

最初の頃こそ憲兵隊から海軍に苦情が来たが、なぜか「憲兵嬢たちも意外とあれを喜んでいるらしい」と間違った情報が憲兵隊に流れ、苦情を申し立てることもなくなってしまった。

困ってしまったのは当の憲兵さんたち。

もっとも『大和』は呉から離れて外地にいるほうが多いので、内地の憲兵さんはそう恐怖でもないが本当に恐怖なのはトレーラー島など外地の憲兵さんたち。『大和』が来たとか帰ってきたと言うと戦々恐々。

 

その憲兵さんたちが、数名頭を寄せ合って集まって話をしていた。

「ねえ、あの海軍のでかい艦帰ってきたんだって

「ああ、聞いた。なんでも今回はすごい大きな戦闘だったらしいね」

「・・・でさ。あの『狂犬浜口』どうしたでしょうねえ」

「なんかさ、戦死したってうわさだけど。本当だったら可哀想だけど自分たちにはちょっとほっとするな」

彼女らは、『大和』他の連合艦隊のミッドウエーでの戦闘の詳細をあまり知らないと見える。戦死者はいないと言うのに。

「あの『狂犬浜口』がいなくなれば自分たちは安心してトレーラーの町を歩けるであります」

一人の憲兵さんが言った時――

「ほう、俺が戦死か。いったい誰がそう言ったんだあ」

と、彼女らの背後から低い声がした。

憲兵嬢たちは、ギクッとして押し黙った。顔色を急速に蒼くした。そして・・・。

そっと振り向くと、一種軍装に身を包んできちんと『両足』のある――つまり幽霊ではない――あの『狂犬浜口』がそこに立っていたのだった。

憲兵嬢たちはもう口をきくこともできなかった。

視線を地面に落したまま、黙ったまま。

浜口大尉は指を鳴らしながら、

「俺が戦死してなくって、貴様らには災難だったなあ。俺が戦死したらホッと出来たのになあ。・・・嗚呼、貴様らには本当にすまないことをしたなあ」

と言った。無理に笑っている、だからこそものすごい形相である。

一人の憲兵さんが、蒼い顔をちょっとだけあげて浜口大尉に

「そ、そんなことを誰が言いましたか・・。ひ、ひどいことを・・・ねえ・・」

としどろもどろになって弁解した。

浜口大尉はそこでにっこりと笑った。憲兵嬢たちは、(このヒト、もしかしたら許してくれた!?)と思ったが、それは大きな間違いであった。

「貴様らが言うとったんじゃあ!!

雷鳴のような大声とともに、憲兵さんたちは一瞬にしてなぎ倒されていた。

可哀想に憲兵さんたちは丸太のような浜口大尉の腕で殴り倒されその場に昏倒していた。浜口大尉は相当腹が立ったらしく、

「いやしくも帝国海軍の軍人があれしきの戦闘で死ぬか!?馬鹿にしてんのか貴様らは、かかって来い。勝負だ!!

と倒れたまんまの憲兵さんを引き起こす。

さすがにやり過ぎだ、と見張兵曹が飛び出して行って「浜口大尉、もうその辺で」と割って入った。小泉兵曹や増添兵曹たちも憲兵さんたちを介抱した。

浜口大尉はものすごい顔で憲兵さんたちをにらんでいたが、

「今日はこの辺で許してやろう。だが次はねえぞ、いいかあ

と怒鳴って、「さあ飯食いに行くぞ」と皆を促した。

一人の憲兵さんが、ふらつく頭をちょっと振りながら見張兵曹に

「いや済みませんでした。助かりました」

と笑って見せた。

兵曹が心配そうに「大丈夫ですか、あれは大尉の癖と聞いていますが」と言うとその憲兵さんは「いやわかっていますよ。あの人は私たちと親しくしてるつもりだと言うこと。気にしないでください」と言って立ち上がり他の憲兵さんに「さあ、行くぞ」と声をかけて、やがて皆はその場を離れた。

 

「いや、うわさには聞いとったがすごい迫力じゃったな」

長妻兵曹が小声で言った。森兵曹がグフフ、と笑って「あんなもの、序の口じゃ。今日は機嫌が良かったけん、あいつらは命拾いしたな」という。

小泉兵曹は

「序の口、って。じゃあ本気の時はもっとすげえんだな」

と言って怖そうに浜口大尉の後ろ姿を見る。松本兵曹長はその小泉兵曹や見張兵曹たちに

「でもな、浜口大尉はホントは気の優しいええ人じゃ。いつかなんぞ具合のわるうなった兵のそばに一晩つきっきりで『気合』入れとったんじゃ。そうそうできることじゃない」

と教えた。

しかし、具合が悪いのに一晩じゅう『気合』を入れ続けられた兵こそ災難だったろう。

そんなことを考えていると『レストラン』の入り口で、

「まだかあはようこんか

と怒鳴っている浜口大尉の大声が響いてきた。

皆、ぶん殴られては大変と一斉にそちらに向かって走り出す。

腹ペコ海軍さん、レストランの中に消えてゆく。

そして例によって皆はさんざん飲み食いをし、そして浜口大尉の「今日は松本兵曹長のおごりだ」という一言で終わった。

泣きそうな松本兵曹長。

 

そしてそして、皆それぞれの目的に分かれて行ったのである。

見張兵曹は、「じゃあね、また明日」と皆に手を振って別れた。小泉兵曹は、森兵曹・長妻兵曹・増添兵曹とこれから慰安所に行く。

「オトメチャンは、また分隊士と・・・かねえ。あれもそろそろ『経験』した方がよかあねえか

森兵曹が余計なおせっかいを言う。皆がクスクスと笑った。

「人の事より、急がないと待たされますよ」

小泉兵曹はみんなをせかすと、いきなり走り出した。

そのあとを、「小泉ぃ、貴様抜け駆けはご法度だぞお!!」と森兵曹たちが追う。

トレーラーに夕刻が近付いてきている――

 

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

よく、蛇蝎のごとく忌み嫌われ(ごめんなさい、憲兵さん!)、悪く言われる「憲兵さん」ですが任務に忠実なだけだったと思いますね。忠実だっただけに戦後「戦犯だ」として裁かれ、国内や外地で理不尽に亡くなって行かねばならなかった方たちも多かったと聞き及んでいます。

ここでの憲兵嬢は任務もこなしながら「浜口大尉」という恐怖とも戦わねばならないので本当に大変なことだと思います。

でも、救いがあるなら憲兵嬢たちが比較的浜口大尉を『好意的』に受け取ってくれてると言うことでしょうか。浜口大尉、感謝せえよ。

がんばれ憲兵嬢!


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● COMMENT ●

としぼーんさんへ

としぼーん様こんばんは!
いえいえ遠慮なしにどうぞ、お知り合い同士のお話いいですよ~。
ここに荒らしが来ないのは荒らし甲斐がないからかも知れませんよ(爆)。
「女だらけの大和」次は、う~~~ん。どこに出撃しましょうか???

南風海治郎 さんへ

南風海治郎 さま。
今晩は、そして当ブログにお越しいただきましてありがとうございます。
三笠公園!以前行ったことがあります、「記念艦 三笠」とその周辺だけで一日過ごせますね、いいところです。そこがスイートスポットとは、うらやましい。
海の男。かっこよさの象徴ですね!!
メンチを切る、って関西弁ですか、私はバリバリ関東は千葉育ちですがなんだかメンチの方がしっくりきてました。
「ガンつける」ww、これはよく聞きましたね(笑)。
青春時代は誰しも熱く生きるものなのですね。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!!

あれ

南風海治朗さんもいらっしゃったんですねw 俺もバリバリの浜っ子
ですよw これからも宜しく~ 見張り員さんところのサイトは平和でいいっす。なんたって荒らし来ないですからw まぁ俺の所もまだ来てませんが、いづれ来ると思いますけど、相手にせず、速攻削除します。言い争っても無駄だし、奴らは基本思考が止まっちゃってるし、議論のすり替え上手いから相手にすんのだるいですからね。一対一で面と向き合って勝負するならいつでもしてあげるのですがw
あ! ここは見張り員さんちでした^^; 失礼いたしました。
大和出撃、次はどこだろう? ダッチハーバー辺りへ出撃かな?

No title

見張りん様
当ブログにおいで頂き有り難うございました。
私も海軍大好きで三笠公園は我が家のスィートスポットです。
私は似非海人をしていましたが、海のプロは憧れです。
息子には海上保安庁を目指させよとして、海遊びをジックリ仕込む予定でもあります。
メンチをきる!ですか・・・・・関西弁ですねきっと。
神奈川育ちの寅年としてはメンタン切るとか、ガン飛ばすとか言ってました。
バイクで信号待ちしてるだけで喧嘩したり昔はアホでしたが面白かったです。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

としぼーんさんへ

こんばんは!!
そうです、航海科の一室には「小渕大尉」が送ってくれた靖国土産の「栄太郎あめ」の空き缶に輪ゴムが入っていますww。
こちらこそいつもありがとうございます!!

陸戦隊さんへ

こんばんは!
メンチとか「タイマン張る」なんて言葉がありましたが最近は死語でしょうか?
私はメンチをあのコロッケの仲間の「メンチ」と思っていて、友人に爆笑されました・・・(汗)。
私のころまでは結構みんないろんな意味で「熱かった」ですね。

No title

こんにちは 女だらけの大和艦内にも靖国の紋章が入った缶に、やはり輪ゴムが入っているのでしょうか?
毎度熱いコメント有り難うございます。  

草食系男子

見張りんさん、こんにちは。 学生の時、他校の生徒にメンチを切ったと言われ殴られ、シャレた格好で因縁をつけられ、訳の分らぬ理不尽がまかり通る時代でした。 今はまったくそんなことはありませんが、そんな時代が懐かしく思います・・・


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Author:見張り員
ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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