2017-10

少尉たちの無謀な挑戦 2〈解決編〉 - 2016.11.28 Mon

午前の課業が始まり、それぞれの分隊で訓練や補充その他に忙しいーー

 

そんな中、指揮官クラスを中心とした少尉嬢たちはまだ平穏に仕事をこなしている。兵隊嬢、下士官嬢たちも少尉たちの隠された思惑を知る由もなくそれぞれ忙しく働く。

そして訓練も佳境に入り始めた午前十時ごろ、機銃の北沢少尉は尿意を感じた。(あ。いけない!どうしよう…厠に行きたくなってきた。しかし港の約束を破ってはいけない!ここは我慢我慢)北沢少尉は腹をくくって我慢しようと決めた。

(もとはと言えばわたしの下士官兵への無理解がこの事態を招いたのだ。一週間がんばるぞ)

そして北沢少尉は半袴のバンドをしっかり締めなおした。そして声を励まして

「さあ、実戦同様に行くぞ!右三十度敵機!」

と叫んで指揮棒を振り上げたーー

 

そんな状態も昼食が終わるころから変化をきたしてきた。少尉嬢たちに妙に落ち着きがなくなり、下士官嬢たちは

「なんか変と違うか?三澤少尉も見崎少尉も皆そわそわしとってなあね。なんぞあるんかいな?」

とこそこそ言い始める。眼に見えるほど少尉嬢たちは落ち着きを無くしていた。

そして少尉同士顔を合わせると

「…まだ平気か?」

「ああ、何とか。でもさっき危なかったよ」

「私もだ、うっかりくしゃみをしちまって、漏れるかと思ったわ」

などと話しては「じゃ、今日もあとちっとだから頑張ろうね」と肩をたたきあって別れる。そんな光景があちこちで展開されている。

 

その日は暑かったので午睡の時間があった。

下士官兵嬢たちは当直を除いて午睡に入り、士官たちもそれぞれ午睡を取るものや当直の監視に当たるものなどに分かれる。

「寝ればちょっとは尿意を忘れられるかもしれない」

と通信科の少尉の一人は言って眠りに入ったが、午睡時間の終わりごろにひどい尿意が付き上げてきて目を覚まし

「おおう!!もういかんもういかん、厠に行きたい行きたい~~!」

と叫ぶなり、その場で激しき足踏みをし始めた。と、同室の少尉も目を覚ますなり

「やめろー!せっかく忘れてたのに~、ああ思い出しちゃったじゃないさ~!ああ私も厠に行きたいおしっこしたい~」

とベッドから降りてその場足踏みを始める。

二人の少尉嬢は、しばらくのあいだ気がふれたように「厠厠!おしっこおしっこしたいよう」と叫んで部屋中走り回っていたがスピーカーから

「午睡終わり五分前」

の副長の声が流れるころには尿意もどこへやら、二人何事もなかったような顔で部屋を出て行ったのだった。

他でもこうした風景は展開されていたがその時点では幸か不幸か下士官兵嬢たちの目に留まりはしなかったようだ。

 

 

夕食を前にした時間、「夕飯が終われば厠に行ける!」と少尉嬢たちはもう真っ青な顔で午後の課業を済ませた。

航海科の樽美酒少尉も例外ではなく、桜本兵曹は小泉兵曹をそっと呼び寄せるとその耳に

「なあ、小泉兵曹。今日は樽美酒少尉なんやちいとおかしい思わんか?」

とささやいた。

すると小泉兵曹も、桜本兵曹の肩をそっと叩くと

「ほうほう!うちも変じゃ思うとったわい。なんや…こう、もじもじしとってげんきがない。ほうかと思えば急に元気になりんさる。それの繰り返しじゃと思わんか」

というのへ桜本兵曹は大きくうなずいて

「ほうじゃ。なんか、言うてみれば行動に波がある。それはまるで」

とそこで言葉を切って小泉の顔を見た。小泉もうなずいて

「小便を我慢しとってるようじゃ」

と言って桜本兵曹は「まさにそれじゃわ。小便を我慢しんさってよ、あの顔は」と言ってから

「ほいでもなんでそんとなもの、我慢なさってかねえ?『厠に行ってくるよ』、言えばええと思うことじゃがねえ?」

と腕組みして言った。小泉兵曹も「ほうじゃねえ、それにほれ、よう見たら兵学校出の少尉さんばっかし妙な格好してもじもじしとってなねえ。どうもうちには兵学校出のえらいさんの考えることはようわからんわい」と言って、妙に内股の通信科の少尉をちらっと見て、二人は笑いあった。

 

しかし<不幸>というものは突然やってくる…

 

山口通信長は、夕食前のひと時を日野原軍医長と一緒に過ごすのが倣いで今日も医務科に軍医長を尋ねていた。

通信長は「軍医長、ちょっとええですかのう?」と言って日野原軍医長を部屋の隅へ手招いた。どうしました山口さん、という軍医長に

「今日…士官連中、特に少尉の連中の様子がおかしいと思いませんか?何やら妙に落ち着きがのうてドタバタしよります。なんぞあったんですかねえ」

とささやいた。それなら私も、と軍医長は

「感じていましたよ。それも波がある。落ち着きがないと思えばしばらくしたら落ち着きを取り戻す。かと思ったらまた…の繰り返し。これはなんだか、思い当たる状態があったような」

と言った時、外から大騒ぎの声が聞こえてきた。

一人の看護兵曹が真っ青な顔で

「軍医長、日野原軍医長来てください!大変です!!

と部屋に飛び込んできた。何事だ、と軍医長は叫んで通信長とともに部屋を飛び出した。兵曹嬢が真っ青な顔のまま

「最上甲板に願います!」

と言って走ってゆく、そのあとを軍医長と通信長は走る。

その途中、黒多砲術長や浜口機関長、林田運用長なども加わって走ってゆく、道々林田運用長が「いったい何が起きたというんだろう?」とつぶやいたが応えるものはいなかった。

 

すでに最上甲板には多くの将兵嬢、そして佐藤副長がいて、てんでに〈下を〉指さしてわめいている。「どうしました!」と軍医長たちが駆け寄ると佐藤副長は、先ほどの看護兵曹より真っ青な顔で

「少尉たち数名が、海に飛び込んで自殺しました!」

と言って軍医長はそれこそ死ぬほどびっくりした。「じ、自殺ですかまた何で?」と叫んで下を見ると、何人かの頭が鮫よけの網の内側に浮かんでいるのが見えた。

「早く、助けてやれ!」

副長が焦って叫んだその時、カッターが漕ぎ出され浮かんでいる<頭たち>を救い上げた。見守っていた軍医長以下は

「助かったようだね。しかしまたどうしたことだ」

と安どと不安に満ちた顔つきである。

 

全身から海水を滴らせた少尉嬢が八名、梨賀艦長・佐藤副長の前に引き出されてきた。副長はまず八人の無事を確認した後

「なぜ自殺を試みたのか、不満や悩みがあったのか」

と問いただした。少尉嬢たちは慌てて「自殺じゃありません、自殺なんか致しません!」と叫んだが、彼女たちが語った真実に副長もそして艦長もあっけにとられてしまった。短い髪からぽたぽたと海水を落としながら一人の少尉嬢はバツ悪げに

「小便がもう、我慢なりませんでした。ほとんど一日厠に行かずもう漏れそうでした。私たちちょうど甲板上にいましたので漏らして恥をかくくらいなら、と海に飛び込みました。そして海の中で放尿しました」

と告白した。

「しょ、小便をほとんど一日我慢だと?また何でそんなことを」

佐藤副長は信じられないと言った顔で叫ぶように言った。そこで別のびしょぬれ少尉の一人が「実は、」と例の話を始めた。

話を聞き終えた艦長と副長は大きくため息をついてから

「その心持は素晴らしい。だがね、体を壊してしまうかもしれないとは考えなかったかな?それにそんなにそわそわした状態で訓練をしても実が入らなかったのではないか?そんなことを一週間続けたら皆海軍病院行になって居たぞ」

とこもごも言った。

梨賀艦長は

「そうだ副長、まだ艦内にこの騒ぎを知らずに厠を我慢しているものがいてはいけない。艦内放送で『厠の我慢大会は終了』と言ってやってはくれないかな」

と言って佐藤副長はうなずいて「わかりました、では」というと一番近くのマイクをつかむと

「厠を我慢している士官はすぐに厠に行くこと!我慢大会は終わった。すぐに厠に行け!」

と放送、とたんに艦内のそこここから慌てて厠に走りこむ無数の大きな足音が響き、やがて静かになって行った。

そしてこの騒ぎに加わったすべての少尉連中が前甲板に集められ、梨賀艦長から

「人に無理を強いるならまず自分たちが体験すべしという心持は素晴らしいが、体を壊しては何もならない。この経験を良い方に生かして今後も皆でしっかりやってほしい。無謀なことはしないでほしい」

と訓示を受け「わかりました」と皆しっかり敬礼で応えたのだった。

 

こうして〈少尉嬢たちの無謀な挑戦〉はあっけなく終わりを告げたのであった。

 

「はあ、そんとなことがあったんね」

食卓当番の桜本兵曹は小泉兵曹から「少尉嬢の自殺騒ぎ」の顛末を聞いてため息をついた。そして

「まあ、訓練中は我慢できんこともあろうが実戦になればそんとなことも言うとれん。何とかなるじゃろ。しかし少尉さん方も思い切ったことをしんさるねえ」

とまたも二人で笑いあったのだった。

 

今夜もトレーラーの星空の下、女だらけの『大和』ほかの艦艇は眠りにつこうとしているーー

 

             ・・・・・・・・・・・・・

遂に海に飛び込んで…。

我慢の限界ってどのくらいなのでしょうか、でも絶対真似をしないでくださいませね。本当に体によくありませんからね!

 

昨日は映画「この世界の片隅に」を観てきました!原作を読んで予備知識を持っている方がわかりやすい部分もありましたが全体に良い映画でした。

何度か涙腺が崩壊してしまいました。

戦争を扱ったものと言えば単に「悲惨」というキーワードでくくられがちですがこの映画は戦争と同居のような日常の中でも笑いや、日々の暮らしに頭を悩ます〈当たり前〉の日常が描かれていて戦争というものを別の観点から見つめることができます。

しかしやはり戦争の残酷で無情な面は牙をむき…、この後は是非映画をご覧になっていただきたいと思うものであります。

  この世界の片隅に
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● COMMENT ●

森須もりんさんへ

森須もりんさんこんばんは
我慢が高じてこんな策を!しかしこれが一番いいかもしれないですよね。直には見られないわけだから…ってでもなんだかかっこいいんだか悪いんだか(;'∀')。
少尉たち、本当に無謀でしたw。

No title

わー、大変!
我慢はいけませーん。

それにしても苦肉の策とはこのことでしょうか。
無謀ながら、
いい案をみつけましたね。
これしかなかったのでしょうね。
お気の毒。

河内山宗俊さんへ

河内山宗俊さんこんばんは
お返事遅くなりごめんなさい!

海に飛び込む!これは最高な手段と思っておりますw。
しかし、アマゾン川のそんな人食い魚…ぞっとしますね、うっかりもらしたら大ごとですね。そういえば鮫も人の尿のにおいで寄ってくるとか聞きました(-_-;)…絶対海に行ったら漏らさないで、あるいは故意に放たないでほしいものです(◎_◎;)。

すっとこさんへ

すっとこさんこんばんは
お返事遅くなりましてごめんなさい。

おお…頭のなかがニョーで一杯にw!そうです尿意は耐えてはいけませんね。
ニョー御もそう申しておられまするw。

最近は緩くなってきたので我慢はしないようにしておりますw。

とりあえず膀胱炎になる方はいらっしゃらなかったようで。

最悪の時は海に飛び込む、その手がありましたねw
もしもここがアマゾン川ならば、人食い魚カンディルに狙ってくださいというようなものでしたが。彼らはアンモニア等に反応し、集団で穴という穴から進入し内臓を食い尽くすとか?文章にするだけでも恐ろしい事ですが。

尿意はあんまり我慢しちゃいけないんだニョー❣️

「いずれの御時にか ニョーご 更衣あまたさぶらい給いける中に・・・」

いかん 頭ん中がニョーでいっぱいだぁ。

ponch さんへ

ponchさんこんばんは
尿意を我慢するのは限度を超えるとマジで膀胱のあたりとか腎臓のあたりが変にいたくなりますね(◎_◎;)。こういう我慢は良くないですが私若いころ会社で忙しさゆえにトイレに行けずそのまま帰宅してトイレに行ったら尿がまるで紅茶のように真っ赤だったことがあり大変驚きました。

高速バス、あれにはトイレがあるから大助かりですね^^。私も以前、倉敷へ行くとき深夜高速バスに乗ったときとても安心しましたっけw。

さてオトメチャンの作画の件、ありがとうございます^^。
で、ご質問の件にお答えしますね!
普段のオトメチャンの服装ですが南方にいるときの艦内では「防暑服」という半そで半ズボン。色はカーキ色ですね。内地にいるときは三種軍装を想定しています。外出時は南方および内地の夏なら白の二種軍装、内地の冬は一種軍装、これはおなじみネイビーブルーの詰襟です。
兵曹は、陸軍なら軍曹と言ったあたりです。
ヘアスタイルですが肩の下あたりまでの長さのまっすぐな髪で一つに束ねています。

三種軍装の画像がこちらにあります、参考になれば幸いです。
http://image.search.yahoo.co.jp/search?p=%E6%B5%B7%E8%BB%8D%E4%B8%89%E7%A8%AE%E8%BB%8D%E8%A3%85&search.x=1&tid=top_ga1_sa&ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa

何だか見てると膀胱が痛くなってきそうな話ですね。
やっぱり我慢はよくないですよね(>_<)
自分も高速バスに乗ってるときに急に腹が痛くなったときは
ムチャクチャ焦りました。
高速バスにトイレあってよかったです。

作画の参考に聞いておきたいのですが、オトメチャンの普段の服装は
詰襟ですか?セーラー服ですか?
あと兵曹って陸軍でいうところの軍曹に相当するのでしょうか。
ビジュアルがわからなかったら、間宮羊羮のパッケージのような
服装におかっぱでもいいでしょうか。
詳しい服装とか髪形教えて頂けるとありがたいです(^_^)


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ごあいさつ・「女だらけの帝国海軍」へようこそ!ここでは戦艦・空母・巡洋艦駆逐艦などから航空隊・陸戦隊などの将兵はすべて女の子です。といっても萌え要素はほとんどありません。女の子ばかりの海軍ではありますがすることは男性並み。勇ましい女の子ばかりです。女の子ばかりの『軍艦大和』をお読みになって、かつての帝国海軍にも興味をもっていただければと思います。時折戦史関係の話も書きます。
尚、文章の無断転載は固くお断りいたします。
(平成二十七年四月「見張りんの大和の国は桜花爛漫」を改題しました。)

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